【Vol.270】寄稿 インディ君活用法 

連載:FIWAインディくん活用法

龍谷大学経済学部教授
竹中 正治氏


投資シミュレーションソフト「FIWA®インディくん」の活用法
その5 各種インデックス間のリスク分散効果(応用編) 

Mr. Takenaka
竹中 正治氏

プロトタイプ版(無償)、本格版(年間利用料11,000円(税込))
https://fiwa.or.jp/simulation/(←インディくんのサイト)

前回の課題の回答
FIWA®インディくんの活用法5回目の解説です。まず前回最後に出した課題の結果を掲載しておきます。
前回は過去20年間の各株価指数とその合成ポートフォリオのリスク・リターンの散布図をお見せしました。同じことを過去10年でやるとどうなるかを課題にしました。以下が結果です。

全体の関係性にあまり大きな変化はありません。米国株と日本株で構成される合成ポートフォリオの描く分布曲線(青色)が最も左上に位置しており、世界株価指数(赤色)より相対的に良い位置にいる点は変わりません。ただし、日米株価指数間のリスク分散によるリスク低減効果は過去20年の場合より弱くなっています。それは分布曲線の左に凸の形状が弱くなり、直線に近づいていることから分かります。また日本株価指数のリターンが10%台に向上しています。
さらにインドと中国の株価指数で構成される合成ポートフォリオ(緑色)は、やはり左に凸の有効フロンティアを形成していますが、全体的にリスクが低下し、位置が左に移動しています。これはなぜかと言うと、過去20年では2008年のリーマンショックを挟んだ時期を含むからです。この時のインドや中国を中心にした新興国の株価(円換算)の変動性が非常に高かったのですが、過去10年ではその変動性の高い時期が抜けた結果、全体的にリスクが低下しています。

takenaka

以上で主要な株価指数に連動する定額積立投資を長期で行うと、どの程度のリスクとリターンを想定すればよいか、おおよそのめどが付いたと思います。

ただし米国の株価指数の成績(円建て)については、過去20年(16%)、あるいは10年(18%)のリターンは出来過ぎであり、次の10年~20年は同じ水準のリターンを期待しない方がよいと思います。この点については、インディくんでは使えないもっと長期のデータで、1950年まで遡って20年毎の円換算リターン(最初の20年間は1970年1月、660ケース)を検証したところ、年率リターンの中央値は8.6%でした。

660ケースのうち42.3%がリターン7~10%の幅に分布します。直近の2024年12月末を終期とする20年間のリターンは16.8%、投資累積額に対する時価資産総額の倍率は6.35倍と過去最高ですが、660ケースのうち、リターンがこの最高水準の16~17%に分布するケースはわずか1.2%でしかありません。こうしたリターンには超長期では平均値に回帰するという強い傾向が見られます。

この点については次の論考で分析・解説しましたので、気になる人はご参照ください。(参考論考:「新NISA開始から1年、『米国株価指数1強』はいつまで続くか」2025年1月、ダイヤモンド・オンライン)

将来シミュレーション

それではインディくんの「2.複数の株価指数の過去データに基づく定額積立投資のケース」はここまでにして、「3.積立投資による将来の資産シミュレーション」に移りたいと思います。

今自分は40歳で65歳まで働くとしましょう。毎月いくら程度の定額積立投資が可能でしょうか。それを仮に5万円、年間60万円とします。さらに40歳の時点で投資に回せる余裕資金が100万円あり、これを一括で投資するとします。想定する期待リターンは8%、リスクは16%としましょう。話を単純にするための預貯金や国債などほぼ無リスクと想定できる資産について今は考慮には入れません。以上は画面上で次のような入力になります。

後は「計算する」を押せば、以下の通り満65歳時の資産価値の確率分布とグラフが得られます。

リスクのある資産の将来の資産価値は確率分布として予想されるわけで、インディくんはモンテカルロ・シミュレーション法と呼ばれる金融・投資の世界で代表的なモデルを使用してシミュレーションしています。想定して入力するリターンが高くなると将来の資産価値が大きくなることは誰でもわかるでしょう。入力するリスクが高くなると、上下の分布の幅が広がります。

リスク16%では、25年後の資産価値の中央値(分布の上下からのちょうど50%目の値)は4550万円になります。累積投資額は1600万円(=5万円×12×25+100万円)ですから、累積投資額の2.84倍になります。分布の上から10%目というラッキーな場合は、資産価値9806万円で累積投資額の6.13倍にもなります。

株価大反落でも継続するからこそ得られる高リターン

もっとも想定した25年間という長期では「***ショック」と呼ばれるような経済・金融の危機や不安定な局面も起こり、株価が大反落することも当然あるでしょう。過去25年間振り返っただけでも、2000年代初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、そして2020年春の新型コロナショックなど、内外の株価指数が高値から3割~5割も大反落した局面がありました。しかしそうした株価が大反落した局面でも買い続けることで、長期では高いリターンが実現されるわけです。

例えば下から10%目のアンラッキーな場合では2261万円で、累積投資元本の1.41倍であり、25年間も費やした投資のリターンとしては冴えない結果です。しかしこれは上記のような「***ショック」にたまたま遭遇してしまう場合だと言えるでしょう。そういう時、そこで投資を止めるのではなく、さらに2~4年ほど継続すればリターンの平均への回帰が起こり、リターンの回復が起こることを長期の市場の歴史が語っているわけです。

さて、このシミュレーション結果を元に老後の生活設計をどう考えるか?それは次回に回します。

(次号に続く)

(次号に続く)