【Vol.278】今月のひとこと

瞑想と資産運用
私は昔から人間の心の世界には強い興味を持っていました。中学時代は催眠術や動く禅と言われる太極拳にも凝ったものです。瞑想に出会ったのは1991年でした。最初は神道系の瞑想道場で基礎を教えてもらいました。出羽三山での修行に毎年参加したり、断食道場で修行をさせてもらったりしました。それぞれ私にとっては非常に貴重な体験でした。
1992年、それまで勤めた証券会社を退職し、米系の年金運用会社に転職しました。やる気満々だったのですが、相場はバブル崩壊直後の非常に苦しい時でした。それでも転職先の運用方法は非常に合理的で多くを学び、土曜、日曜もなく出社して働いたものです。まさにモーレツ社員だったのでしょう。
しかし、私の中で、少しずつ本当にこれでいいのかという疑問も湧いてきました。逆に本当に年金運用という生活者の将来の生活を支える仕事を考えれば、もう少し心に余裕がなければいけないのではないかという思いが強くなってきました。がむしゃらに働くのではなく、もっとゆったりとした、心に余裕をもった視野が必要なのではないかという思いが強くなってきたのです。
「心と体を共に健康にしてこそ、本当に生活者のためになる運用ができるようになるのではないだろうか」、米国駐在中に出会った素晴らしいファンドマネジャーやアナリストたちの仕事ぶりや言動を思い出すにつれ、「無理なく仕事をしながら豊かで幸せな人生を送る」という仕事ぶりへのあこがれが強くなりました。
1996年、ある書店でたまたま手にして開いたページにまさに私に対するメッセージが書かれていました。超越瞑想(Transcendental Meditation)、略して「TM」という瞑想法を現代によみがえらせたマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの著書『聖なる意識の目ざめ』という本でした。そこには非常に明確に、「内側の精神性と外側の物質的人生を統合した200%の人生を送ることができる」のだと書かれていたのです。そして、瞑想は誰でも簡単にできる「意識を扱うテクニック」であり、決して神秘的な、宗教的なものではないとも明言されていました。「これだ!」と感じて1996年末にTMの思想と技法を正式に学びました。それ以来、瞑想は毎日の生活の大きな糧になっています。
瞑想は心の時間軸、空間軸での広がりをもたらす効果があります。意識の時空を広げると言ってよいでしょう。それは徐々に私が求めていた投資スタイルにも影響を及ぼすようになってきました。つまり、幅広い投資対象を長期で投資をする。短期の売った・買ったの投機ではなく、分散して長期投資をする。こうして瞑想に導かれるように生活者の資産運用の手法にたどり着きました。2005年には15年お世話になった外資系運用会社を退職し、生活者のための投資教育会社を起業しました。
たどり着いた投資手法は驚くほど単純で簡単なものでした。全世界の株式を保有するインデックス型の投資信託を積立投資する。それを退職するまでひたすら継続するということです。勝つか負けるか分からない株価という数字に賭けるのではなく、世界中の企業が生み出す価値の増殖に参加するというものです。
たどり着いてみると、まさにこれらは理論的に正しく実証的にも効果があるものであり、しかも誰でも簡単にできるDIY資産運用であるという確信を得ることができました。ただし、瞑想と同じで即効性の効果を得られるものではありません。時に10年、20年、あるいは30年という長い期間続けて初めて効果が実感できるものです。ですから瞑想で時間軸を伸ばす長期投資と、空間軸を広げて全世界の株式に分散投資するのが合体することで「将来の自分を今の自分が支える」資産運用が可能になるのです。私の証券人生は55年になりますが、私にとって瞑想は生き方と資産運用という車の両輪のように私を支えてくれたのだと思っています。



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