【Vol.249】FIWA認定会員 投稿コーナー

特別支援教育と一般的な教育との違い

NPO法人お金で学ぶさんすう®
代表理事 住山 志津枝 CFP, FIWA®

*FIWAは金融商品の販売を行わないアドバイザーに与えられる称号です


プロフィール

Ms sumiyama

障がいのある弟のいる「きょうだい」であり、障がいのある子の母親。
弟の浪費に悩む母を見て、障害の特性に合わせたお金の使い方や管理の教育を幼少期から行う必要があると思い、ファイナンシャル・プランナー資格を取得。
京都市教育委員会「京都学びの街生き方探究館」で7年間、特別支援教育を中心としたお金の指導経験を積んだ後に独立。
現在、特別支援学校・学級など、公教育と連携したお金の教育カリキュラム構築や普及活動のほか、認定講師育成も行っている。
教員研修、児童生徒向けのお金の授業や、福祉施設等の本人向け講座、支援員研修などの実施実績が多数あるほか、表彰、新聞等のメディア出演、専門誌の連載、論文発表などの実績もある。


私はFIWA®会員として「生活者」である障がいのある子どもたちのお金の教育活動を行っています。最近は一般の子どもたち向けにお金の教育を行う方から、障害のある子への対応についてご質問をいただく機会が増えています。FIWA通信インベストライフ2023年4月号【Vol.244】 https://fiwa.or.jp/investlife/archives/6067 でも、高校生向けのお金の学習で「銀行」をテーマにした場合、特別支援教育と一般的な教育とでどのような違いがあるのかを紹介しました。今回は特別な支援が必要な子どもたちの大まかな特性やその対応を事例で紹介します。

【事例1】「想像」が苦手なAさん(小5/自閉症スペクトラム/療育B(知的障害))

Aさんは事前のアセスメントで保護者より「学校の買い物学習で自分の財布からお金を払うことができる」と聞いていました。ところが当法人の学習教室でAさんは模擬貨幣を投げて遊ぶ、学習を嫌がって泣くなど学習に取り組もうとせず、「本当に買い物ができるの?」と疑問を抱くほどです。「楽しんでもらおう」と、ゲームを取り入れるなどの工夫をしますが効果はありません。何度か学習を実施しても変化が見られないため、ある日思い切ってAさんを直接スーパーに連れて行きました。するとAさんは慣れた様子で商品をカゴに入れ、レジで代金もスムーズに支払うことができました。

なぜ、Aさんはスーパーで買い物ができるのに、教室では学習に取り組もうとしなかったのでしょう?理由は、本物の現金、実際の場所ならば理解できるけれど、教室内の疑似体験が難しかったからです。特別支援の子どもたちは「想像」や「抽象概念」の理解が苦手な傾向があります。Aさんは物事を正確に見極める力に優れており、どんなにそっくりでも模擬貨幣と本物の現金は「全く異なるもの」と認識するのです。その上、スーパーとは似ても似つかない教室内で、買い物をするというのはあり得ない設定にパニックを起こして泣き出したのです。

一般的な金融教育では、模擬貨幣の使用やゲームで楽しく学ぶことで学習促進の効果があるかもしれませんが、特別支援教育の世界ではゲームを通じて学んでほしい趣旨が伝わらなかったり、疑似体験という場所や環境そのものが負担になる、あるいは「実社会にも通じる」との意図がくみ取れず、学習を活かせないことがあります。

【Aさんの事例から読み解く特別支援教育の特徴】

特別支援の子どもたちは「想像」や「抽象概念」を理解しづらい特性ゆえに、金融教育で重要な「needs(必要なもの)」、「wants(欲しいもの、楽しみな物)」の学習が困難なことがよくあります。理由はこの判断基準も「概念」であり、目に見えないからです。

高校生向けの家計管理学習でneeds、wantsを教えた時、「ゲームは絶対必要!!」と言って聞かない生徒がいました。私が「朝、昼、晩のごはんを全く食べなかったら死んじゃうよ?ゲームもできないよ?」と言っても、生徒は「ゲームが無いと、ごはんも食べられない」と言います。実際、特別支援の世界では命に危険を及ぼす可能性があるぐらいに、飲まず食わずでゲームに没頭してしまうこともあるので注意しなければなりません。

【まとめ】

このように、「想像」や「抽象概念」の理解の困難さは、お金の学習にも影響を及ぼします。もちろん人は一人ひとり異なるので、全員がこのような状態というわけではありませんが、「話が通じにくい」、「接し方が分からない」と思われたときには、話の内容を具体的にしたり、現場に出向いてリアルな体験ができる学習に切り替えるとよいでしょう。一人でも多くの子どもたちが正しいお金との付き合い方を身につける機会が増えれば幸いです。