【Vol.256】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目指して〜国際協力NGOが教育活動に取り組み始めた理由〜を目指して」

特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス
創設者・理事 鬼丸 昌也氏
レポーター:赤堀 薫里

鬼丸 昌也氏(おにまる まさや) プロフィール

認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事。大学4年生の時に、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。同年10月、大学在学中に「全ての生命が安心して生活できる社会の実現」を目的に、「テラ・ルネッサンス」設立。同団体では、カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立に必要な支援を実施している。また、地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演を、これまでに約22万人もの人々に届けた。遠い国の話を身近に感じさせ、ひとり一人に未来をつくる力があると訴えかける講演に共感が広がっている。2022年には、約150のNGOが加盟する、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任。「対話」と「連帯」による社会変革を目指す。

Onimaruさん

【著書】 
『ぼくは13 歳 職業、兵士』 合同出版 2005年
『こうして僕は世界を変えるために一歩を踏み出した』 こう書房 2008年
『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』 扶桑社 2014年
『平和をつくるを仕事にする』 筑摩書房 2018年

【主な講演先】
人事院、総務省、茨城県庁、長野県庁、沖縄県庁、熊本県庁、佐賀県庁、新潟県庁、熊本市役所、松本市役所などの官庁、TBSテレビ、オムロン㈱、西日本旅客鉄道㈱、日本IBM㈱、リンガーハット㈱、㈱京都新聞社、伊那食品工業㈱、川越胃腸病院、(独法)国際協力機構、日本郵政グループ労働組合、倫理研究所、モラロジー研究所、立正佼成会、松緑神道大和山、創価学会、各地の青年会議所、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、小・中・高等学校、大学、NPO など多数

【特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス】 理事長:吉田真衣
『すべての生命が安心して生活できる社会の実現』を目的に、2001年に鬼丸昌也によって設立。現在では、カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵の社会復帰支援を実施。また、日本国内では、平和教育(学校や企業向けの研修)や、岩手県大槌町を中心に、被災者支援活動を展開しています。国連経済社会理事会特殊協議資格NGO。

主な受賞歴:「地球倫理推進賞」(社団法人倫理研究所) 、「地球市民賞」(独立行政法人 国際交流基金)、、「社会貢献者表彰」(公益財団法人 社会貢献支援財団)、「企業価値認定」(一般社団法人企業価値協会)、第4回ジャパンSDGsアワード副本部長(外務大臣)賞 など。

【連絡先】
京都市下京区五条高倉角堺町21番地 jimukinoueda bldg. 403号室 
認定NPO法人テラ・ルネッサンス
TEL&FAX: 075-741-8786 
公式ウェブサイト https://www.terra-r.jp/ 
Facebook https://www.facebook.com/masaya.onimaru


テラ・ルネッサンスは2021年に創業20周年を迎えました。あらためて20年を迎えた時に、「私たちは自分たちが何を目指す」、そして「何をする団体なのか」ということを考えてみました。テラ・ルネッサンスが掲げているビジョンは、世界平和の実現、すべての生命が安心して生活できる社会を実現することです。

そのためにミッション、「何をすべきか」ということを掲げています。それは次世代に対する責任を啓発して、未来の子どもたちの生活をも視野に入れた生活をそれぞれの人たちが実践することによって人類共通の理想、世界平和を実現するかなり大それた大きなミッションです。それを掲げて今24年、私たちは活動を続けています。

このビジョンを追求し、このミッションを遂行するために我々は、「今何をすべきか、何が足りないのか」を考え直してみたとき、2つのことにチャレンジしようと決めました。1つが本格的な国際NGOに進化するということです。そしてもう1つが平和の担い手を育むということでした。

私たちはグローバルイシューを扱っています。そして、日本にも100、200ともつかない、グローバルイシュー(国際的な地球規模課題)の解決に貢献する団体はたくさんあります。でもほとんどの団体が日本国内で資金を集め、日本国内で人を採用し、海外で支援をするというスタイルを取っています。そもそも地球規模課題に取り組んでいるわけですから、日本以外の方々に応援されても然るべきですし、日本以外の方々を積極的に採用して共に活動するという在り方が必要だと考えたのです。

その一つの経緯として我々は急激な円安でかなり経営がダメージを受けました。日本円だけでテラ・ルネッサンスの収入の95%ぐらいを円で調達しています。皆さんから頂いた資金を現地に送るときはドルベースで送るため、円安になればなるほど目減りする状況でした。我々の経営の安定を図るためにも、さまざまな国で資金調達、つまり寄付を獲得していくことはとても大事なことです。さらにたくさんの国の方々に支持をいただけるような団体になるということも、日本のNGO業界、日本の国際協力業界を進化させるために必要であり、そういうモデルを作らなければいけないのではないかと考えました。しかし参考になる団体はほとんどなかったため、自分たちでやってみようと考えました。

私たちの理念に共感する団体を各国に作ります。それは支援をする現場ではなくて、寄付を募ったり、人を採用したり、そこでの講演や啓発活動、平和教育を行う対象となる国に法人つまり団体を作り、その団体とネットワークを世界中に張り巡らせて世界平和を多くの国の人々と成し遂げていく。それをテラ・ルネッサンス・インターナショナル構想と呼び、現在推進しています。

もう一つは、平和の担い手を育むことこそ世界平和の実現につながると考え、新たに教育事業に進出しました。それがグローバル人材育成事業です。僕の尊敬する一人の指導者にネルソン・マンデラという方がいらっしゃいます。アパルトヘイトの中で長年にわたり投獄され、その後南アフリカ共和国の大統領になって民族融和と国の発展に貢献した偉大な指導者です。ネルソン・マンデラは当初は暴力革命を遂行していたのですが、長い収監生活の中でさまざまな施策を経た上で「教育は、世界を変えるために使うことができる最強の武器である。教育こそが世界を変えていくんだ」と言います。

テラ・ルネッサンスはその言葉を受けて、私たちは本当に世界平和を実現していくために、もちろん、今紛争で苦しんでいる方々を支援することもすごく大事だし、これも広げていきたいと思い、今一生懸命やっています。と同時に、世界平和を本気で実現するには長い年月がかかる。私が亡くなった先かもしれないし、生きている間かもしれない。それすらも分からない。だからこそ平和を育む人、平和を作る人を今から育み続けることが、本当に地上に世界平和をもたらすために大事なことだと思いました。

例えば、東アジアは今、緊張状態にあります。緊張状態が緩和された時に初めて、日本と韓国、日本と北朝鮮、日本と中国、中国と台湾同士の交流を推進したり平和の構築を行うような人材を育てればいいかというわけではなく、緊張状態にある今だからこそ、私たちも台湾に拠点を構えている理由があります。日台であったり日韓であったり、理想をいえば日中であったり、そういったさまざまな国の子どもや若者たちに平和の大切さを伝えていき、国を越えて平和を作っていく気概を育んでいくことが、将来の緊張緩和後の国と国との関係の再建や、平和を作っていくために必要だと思ったのです。

講演では、テラ・ルネッサンス創業の経緯から、活動全体の説明。また現在事務所がある佐賀の東明館高校と提携して行っているグローバル人材規制事業の大変興味深い取り組みについての紹介。最後に「誰かのための利他に基づく友情の網の目を、東シナ海に、日本海に、世界全体に広げていくことこそが、私たちの考えるすべての生命が安心して生活できる社会を実現することにつながると思っています。」と熱い思いを語ってくださいました。

(文責 FIWA®)

Free Discussion

参加者|テンプルトン卿の話とテラ・ルネッサンスさんのお話をお聞きして思ったことは、意識の広がりみたいなものが、結局は幸せにつながっているのではないかということです。世の中のためということを自分のこととして考えられること、それが利他の心ということなのかなと。その逆の反面教師として「三だけ主義」という言葉があります。「今だけ」「金だけ」「自分だけ」ですね。結局それが今、世の中にはびこっていて、ちょっと世の中、変な方向に行ってしまっているんじゃないかという気がしました。

鬼丸|「SDGsの推進のためにどうしたらいいんですか?」と上場企業の役員の方からご相談いただき、オンラインで面談する機会が時々あります。その会社のウェブサイトを見て時々げんなりすることがあります。役員全員男性とか。「三だけ主義」はまさにその通りで、SDGsのSのサスティナブルとは、将来世代の子供たちも安心して暮らせるために今自分たちはどう変わるか。だから、我々が求めているSDGsは包摂性と同時にイノベーション、イノベーティブです。未来に視点を持ったときに、初めてその「三だけ主義」を乗り越えることができるんじゃないかな、というようなことを今お聞きしながら思いました。

岡本|小さい時は、気持ち、考え方、視野、時間軸、空間軸そういうものが自由です。それがだんだん狭められて、何か一つの型にはめられてしまっている気がします。それはやはり、教育制度というか受験制度の問題が大きいと思います。金銭教育も「最初からこの株を買っていると儲かるよ!」みたいなね。正解を求める。「10年前にディズニーを買っていたら、今こんなに儲かっているんだよ」という話ではなくて、もう少し本質的な子供たちの心の広がり、時間や空間の広がりが実現できるような教え方をお金を通してやってもらう。

 あるいは寄付ということで鬼丸さんがやっているような、今の自分だけじゃなくて世の中にはこんな困っている人たちもいるんだということを知ってもらう。それに対して自分は何ができるのか。さっき、SDGsいう言葉が出てきたけれど、そういう言葉ができることによってすごく矮小化されるというか、SDGsという言葉だけで「それでいいんだ」と、バッチをつけていれば赤い羽根をつけていたのと一緒で、「私こんなにいい人なんです!」みたいなことではなくて、もっと、広がりの持った気持ちが必要でしょう。やはり、いろいろな意味で受験や、テストの点数などに縛られている子供たちはかわいそうです。鬼丸さんのところでいろいろな意識を大きく広げてもらえるような活動があるというのは救いだなと思います。でもまだまだ少ない。もっと本当にたくさんやってもらいたいと思います。

鬼丸|テラ・ルネッサンスの提携先が東明館学園だったのは良かったと思っています。東明館の改革がすべて成功しているわけではなくて、未だに改革の途上であることは間違いない。例えばいくつかあって、校則に関してはいつでも生徒が自由に変えられます。ただし、条件が二つあります。一つはみんなで話し合うこと。もう一つは全会一致じゃなきゃ駄目です。だからこれは我が儘ではない。変えたいと思っても、それに反対する別の価値観が必ずコミュニティの中にあるので、その場合どうしようか。要は対話をベースにした学校改革の取り組みをしていて、対話のスペシャリスト、ファシリテーターが学校法人の理事にいます。生徒たちや教職員に対話の作法について教えます。対話、ダイアログはすごく大事だと思います。

 テラ・ルネッサンスの再建の過程においてもそうでした。一つの答えを上から押し付けるのではなくて、話し合いを重ねてそれぞれの気づきを得ながら合意点を探っていく。すると出された解に対して納得度が高く、その後のモチベーションが全然違うわけです。このダイアログ、対話というのは、これからの社会、組織開発、人材開発においても、国と国の環境を修復するにおいても、これは決して絵空事や青臭い事ではなく、すごく優れた大事な技術だと思います。

特に日本人は対話が苦手。議論も苦手ですけど、それより対話の方が苦手です。沈黙を恐れることを僕もします。誰かが回答を示してくれるはずだという教育を僕も受けてきましたから、ファシリテーターが回答を示してくれると期待をしてしまう。それに沿った発言をしなければいけないとか。

そうではなくて、今の高校生たちを見ていると本当に自由に発言するけれど、ちゃんと合意を取るときは、しっかり合意を取ろうと自然発生的にその対話の熟練度を上げていきます。そういった高校生たちの試行錯誤を見ていて、こちらの方が本当に勉強になります。ちょっと余談ですが、生成AI チャットGPTを使ったり、チャットGPT を使ってイラストや絵や論文の下準備をしていく作業や、ノートは一切使わずに全部Googleスライドに打ち込んですぐアウトプットできる姿を見ると、この人たちが本当に全人格的に成長したらとんでもないなと。こういった教育をあまねく、もし日本の子どもたちに提供することができたら、もしかすると実はもっと素晴らしい社会になるのではないのかという希望が一本見えています。だからワクワクしているという感じがします。

岡本|そういう高校生ぐらいの生き生きした精神がずっと続いてくれることを願いますね。社会に入ってなんかおじさん達と一緒になっているうちにだんだん変わってきて、忖度社会の中での住人になってしまうと、これまたあんまり面白くないですね。

鬼丸|そうですね。大人も変わらなきゃいけないですね。

岡本|大人が変わらなきゃいけないです。子どもが大きくなれば大人になります。私が前にいた外資系の企業は、もちろん大人ばかりの集団でした。でも会議はすごく活発だし、会議で何か議題について話したとき、沈黙は禁断じゃなくてSilence is consent(沈黙は同意)と言って、発言しないということは、これに同意したということだといつも言われていました。そういう意味では日本のビジネスにとってまずいなと思ったら、何か必ず言わなければというのはすごく思いました。

また同時に議論の仕方は非常に上手い。最終的な目的というのは「企業として成功していこう。お客様のためになることをしていこう」というのがあって、そのためにどのようにお互いが協力し合っていくのがいいかという最適化のプロセスなのです。けれど日本の場合は議論というと、勝った負けたみたいな話になり、「あの野郎、俺の言うことにたてつきやがって」みたいな話で終わってしまう。その辺がちょっと子供っぽいところがあると思う。何でも単純な思考回路というのが、〇か×かで、こっちはいいけどこっちはダメ、その中間はないんだ、みたいなね。それはちょっと寂しさを感じますよね。

鬼丸|その辺りのコミュニケーションの作法を、私たち大人もそうですし子供たちも含めて身に付けていく必要性があると思っています。例えば私たちが東明館高校でする授業の一環で、リーダーシップ養成講座というのがあって、その中でコミュニケーションについても少し話をします。

僕らが考えるコミュニケーションとは3つあります。会話と議論と対話です。会話というのは親しみを持つために言葉を交わすこと。議論は決定を下すことだから、決定を下さないものは議論ではない。議論しなきゃいけないときも必ずある。対話は何かというと、対話に参画をしている者の中にそれぞれに気づきが訪れること。深い気づきが訪れること。この3つをちゃんと場面に応じて使い分ける力を身に付けることこそが役職とは全く違って、人生を生きるリーダーとして大事だよねという話をよくしています。

若者たちも試行錯誤しながら、今どのコミュニケーションをしたらいいのかということをちゃんとわきまえるようになっていく。国会を見ていても、議論でも対話でもなんでもない、ただの言い合いになっています。大人の社会になったとしてもできるようになれば、かつ、そういう人がこの社会の中で増えていけば、少し変化をしていくのではないかと考えます。

岡本|今日はありがとうございました。

(文責 FIWA)