【Vol.256】FIWAマンスリー・セミナーより(講演2)

The Templeton Touch 読み解く

講演 FIWA会長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

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前回お話したキャピタルは、経営力や組織力の強靭さというものを非常に印象強く持ちました。しかし、今回のジョン・テンプルトンさんの話は、むしろテンプルトンさん個人の人生哲学や投資手法に非常に大きな重点があるように思います。

テンプルトンさんは1912年に生まれ、2008年95歳で亡くなられています。エール大学に入学、卒業してからイギリスのオックスフォード大学に留学をして、法学修士号を取得しました。

卒業した後、7ヶ月かけて極東アジアからインド、中近東、日本と、世界各地を歩いて回りました。ちょうどその頃にヨーロッパで戦争が始まりだしていた。そこで、これから経済が良くなるということを確信します。

1929年の大暴落以降、経済が非常に悪い状態が続いていました。しかし、1930年代も後半になってくると少しずつ回復の兆しが見えてきます。卒業してアメリカに戻り、ブローカーに就職しますが辞めて、転職をします。そして1ドル以下である104銘柄を全部買い、それをずっと持ち続けます。その結果、4年間で相当大きく儲かった。その資金も使って投資顧問会社を買い取り、資産運用ビジネスを始めます。この1ドル以下の超低位株銘柄の買出動は非常に有名です。

60年代には、日本株投資を他のどこよりも早くスタートして大成功します。その後、彼が有名になったのは70年代末「株式の死と言われていた」アメリカマーケットがこれから4倍になるという予測をして、それがかなり実現した時です。また、2000年に入ると韓国、中国に注目して、2005年に世界の金融市場がカオス的な状況になる予言をします。そして実際ITバブルが崩壊して、その後、いくつものグローバルなクライシス金融危機が発生しました。その時、彼は「とにかく債券を買いなさい」ということを強く言います。要するに、金融危機が勃発すれば金利はどんどん下がっていくはずだから債券のパフォーマンスは非常に良くなるに違いない。それも当たりだったわけです。

彼の大きな投資戦略の変更は人生で数回でした。常に売ったり買ったりして儲けようというわけではなく、非常に大きな経済世界の流れの中で数回にわたって大きな賭けをして大きく儲けたというのが彼のアプローチです。

テンプルトンは、子供の頃から非常に自立心が強かったようです。自分を信じている。自分に対して自信を持っている。その中でリスクテイクに注意深かった。起業家精神は非常に旺盛ですが、リスクに対しては敏感である。また、人々に仕える奉仕の心が昔から強かった。そして多様性を重要視する意識がグローバルだった。イギリスの大学に行った後、世界を旅行しますがそこで目を開いたのでしょう。

割安ということを非常に重視していたバーゲンハンティングへの心構え。これは株だけではなく、車、洋服、家とあらゆることにバーゲンハンティングを心がけていた。価値と比べて割安なものを買うということを常に考えていたわけです。

また、社会、法律、規則、政治体制に強い興味を持っていた。柔軟な思考です。フレキシブルである。固定観念に囚われない。時間もとにかく無駄にすることがなかった。時間を良い事のために、本当に投資に役立つために使うことに徹底していた。日頃のストレスから解放される時間。精神の果実というのは忍耐力であり、その時間を必ず持つようにしていた。さまざまな国に友達がたくさんいた。忍耐する力が非常に強かった。

株式投資でも株価が上昇するまでじっと待っている。外部からコントロールされるのではなくて自分の心の内側から自分の行動をコントロールすることを大事にしていた。ポジティブ思考、否定的な思考というのは毒薬である。複雑なプロセスで行動を決めても、最後は本当に大切な要素にそれを消化していく。つまり、単純でなければいけない。

すべての人にできることを極限まで尽くして、あとは直感力に任せる。誰でもできることだけど、それをずっと長く続けることは必ずしも誰でもできるわけではない。そこにやはり、時間の価値と言いますか、すごく大きな力の源泉があったと彼は言っています。

彼の有名な言葉に「投資でもっともコストの高くなる言葉は『今度は違う(This time is different)』だ」というのがあります。基本的に広く長期的な視野で見て、誰が考えても割安だが、誰も興味を示さないような株式を長期で保有する。みんなが気づくのを待っている。株価の動きは気にしない。そして人生の中で大きな投資の機会というのは数回ぐらいでしょう。

もちろんこれはテンプルトンさんだからできるのであって、ほとんどの運用者、言うまでもなく、個人投資家はそうそう簡単にはいかないのが現実です。そこでとりあえず平均点にしておきましょうというのがインデックスファンド。世の中にはこのようなアプローチで非常に高いパフォーマンスを上げた人もいました。彼はただ単に投資の技術だけではなくて、その精神性を非常に重んじた投資をしてきたということが指摘できると思います。また、テンプルトン基金を設けて世界中のあらゆる宗教の発展に貢献した人を検証しました。これは彼の死後、今日まで続いています。第1回の受賞者はマザー・テレサでした。

講演では、「テンプルトン22の金言集」、「バーゲンハンティングの教え」、「成功のための3つの直感的要素」について大変興味深い解説をしてくださいました。