【Vol.249】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

資産運用の不都合な真実~投資のコストとアドバイザーの役割~

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

我々生活者が投資をするには関係先として、金融商品を売る販売会社、証券会社などがあります。投資信託の場合、投信の運用会社に加え、さらに投資先の企業があります。そのすべてのレベルで費用が掛かっています。それが我々の持っている退職後のための資金の流出につながっているという事実。これを知っておくべきだと思います。

Okamoto 20238a

世の中は生活者で出来ています。組織は、世の中の願いを実現するために生活者が組成しているものです。その生活者は消費者であり、企業での働き手であり、資本の出し手でもあります。生活者が企業を設立して、生産された財やサービスの買い手である消費者になると同時にさまざまな企業など組織で働いて、いろいろな形で資本の出し手になります。生活者、仲介者、企業。私有財産に基づく資本主義においては、世の中のお金は究極的にはすべて生活者が提供したものです。そのお金を企業が活用して、世の中に付加価値を創造している。その付加価値が投資リターンとして生活者に還元される。それが生活者のリタイア後の生活を支える。ただ、この生活者と投資先の企業の間には10数人の仲介人、業者が存在します。

問題は、世界の企業が生み出している付加価値から投資家が受け取る投資リターンは、明らかに付加価値の方が多いわけです。ここに流出があるからです。これをバンガードの創業者であるジョン・ボーグルさんは、『波乱の時代の幸福論』という素晴らしい本で説明しています。「金融市場から生まれるグロス(名目)リターンから金融システムに掛かるコストを差し引いたものが、投資家が実際に得るネット、実質リターンである。投資家は投資という巨額のコストが掛かる食物連鎖の底辺に置かれて食い物にされている。』と言っています。

投資のリターンは、生活者が資金の出し手、企業が生み出している付加価値が投資リターンの源泉ですが、そこに多くの数の人たちが群がっています。もちろん投信会社や、販売会社、証券会社は言うに及ばず、マスコミだって投資本や雑誌を大量に売りたいのです。投資先の企業もそうです。企業が儲けて経営者が高額の報酬を得たい。国も税金を徴収してそれが無駄遣いになれば大きな流出です。いろいろなところでみんながこの一枚のピザを取り合っている。投資家はその中で一切れを配当金と値上り益という投資リターンとしてもらっているという事実があるわけです。

販売会社のレベルでみてみます。投資信託法ができたのが1951年。当初は証券会社が運用も販売も行っていましたが、1959年に運用部門が投資信託会社から分離されます。その後、投信会社は販売もやっていましたが、販売会社を販社として分けました。しかし、実際には証券会社が転籍という形でほとんどすべての人材を派遣していた。クローズドなソサエティーの中で運用会社も販売会社もみんな大手銀行や証券会社等の金融機関の傘下としてつながっていました。

これに大きな一石を投じたのが1999年に発売された、さわかみ投信です。販売会社を一切使わないで、運用会社が直接販売する、直販というスタイルが始まりました。そういう意味では直販の会社もいろいろな転機を迎えていると思いますし、まだまだ改善される点はあると思います。

やはり投資家は、最終的には販社や投信会社のすべてのコストを負担しています。ボーグルさんも「運用会社は複雑すぎる仕組みの商品を売って、何億円もの手数料を稼ぐが、顧客である投資家に対しては、投資家がシンプルで低コストの商品を購入していたら得られたはずの金額の3分の1にも満たないリターンしか届けなかった。」と言っています。

クリス・シーアさんの「金融システム批判・序説より」という本の中では、『ファンドの運用に要する隠れた諸コストは、我々が実際に知らされている金額の2~3倍にのぼった。我々が諸手数料は年率1.5%と聞かされた場合、実際には3%であるかもしれず、年金資産の運用から生じるリターンの3分の2はコストとして消えてしまう。』と言っています。

一般に生活者が係わるプロと言われる人は金融機関の営業担当者です。彼ら、彼女らはお金の問題を解決するアドバイザーではありません。その人たちはセールス、営業担当者です。アドバイザーではない。これは不都合な真実です。

プロと思われている人でも相場の先行きは分からない。ホンモノのプロは分らないということを知っている、だから、短期的な相場見通しや有望銘柄を語る人は本当のプロではないと言えます。

『相場はこうなります』ということをプロは絶対言いません。相場は分らない、ということを知らない人でも「当る」ことはあります。でもそれは幸運、ラックで、技術、スキルではない。ではどうしたらいいのか。リターンはコントロールできない。コントロールできるのはリスクであり、配分資産であり、コストです。

富を増やそうと思ったら、資金の流出(コスト)を本当に必要なものだけに限る。しかし、一般の生活者の方がそれを調べるのは難しい。そこにホンモノのアドバイザーの役割があります、販売に係わらないで相談者のライフプランを一緒に考え、それに沿ったマネープラン、投資プランを策定してそれを実践して行く際の伴走者として寄り添う。純粋にそのような仕事をするアドバイザーが日本にはほとんどいない。米英などではすでにアドバイザーと販売員は厳密に分けられているのに日本はそうなっていない。これはインベストメント・チェーンに係わる利益相反という不都合な真実が内在するからでしょう。

講演では、販売会社のチェックポイントや証券売買に関するさまざまなコスト、運用会社のチェックポイント、ショートターミズムの蔓延への危惧、投資家の資金はどこへ流れていくのかについてわかりやすく説明。資産運用に関して存在が不可欠であるアドバイザーの役割を解説いただきました。

資産運用立国、資産所得倍増プラン、投資教育などが叫ばれていますが本当に必要なのは、生活者が投資に際して払う無駄な資金流出を最小化し、利益相反のない形で人生の伴走者となるホンモノのアドバイザーです。特定非営利活動法人「みんなのお金のアドバイザー協会~FIWA®」はまさにそのようなアドバイザーを育成し、認定し、支援していくことを目的として活動をしています。