【Vol.238】FIWAマンスリー・セミナー講演より

バークシャー・ハサウェイ年次株主総会に出席して

講演:びとうファイナンシャルサービス代表取締役
公認投資助言者(RIA)尾藤 峰男氏
レポーター:赤堀 薫里

Bito Mineo

今年もバークシャー・ハサウェイの株主総会に参加された尾藤峰男さんに株主総会の様子について話していただきました。50年近く開催されているバークシャー・ハサウェイの株主総会の詳細な内容や、ウォーレン・バフェットの考え方、生き方についての紹介いただき、想像を凌駕する複利パワーをバフェットの資産を例に具体的な数値で確認させていただきました。

バークシャー・ハサウェイの株主総会は1965年から始まりました。バフェットは、米国の中西部にある州の一番北東にあるネブラスカ州オマハで、毎年株主総会をやっています。私は2010年から株主総会に出席していますが、一貫して会場は同じ場所で開催しています。

バークシャー・ハサウェイの本社は、Kiewit Plazaというビルに入っています。従業員は39万人います。時価総額数千億ドルの会社だから、このビル全部がバークシャー・ハサウェイかと当然思いますが、実は3年くらい前までは、この1フロアだけをバークシャー・ハサウェイの本社が借りていました。2~3年前にもう1フロアを借りたと遠慮がちに言っていました。

バークシャー・ハサウェイの傘下企業は100社以上あり、全社員は40万人近くいます。このヘッドクォーターにはバフェットを含めて25人が駐在しています。そのうち女性は16人と非常に小ぢんまりとした感じになっています。こちらには60年近くオフィスを置いています。

バフェットの自宅から車で5分の距離にオフィスがあります。往復10分で通勤できる。一般のビジネスマンは1時間半かけて車で通勤することを考えると、大幅な時間の短縮です。有効な時間の使い方ができるとバフェットは楽しそうに言っていました。1日換算で1時間20分の節約になる。時間の価値は、それを60年続けると何年分の節約になると、本人が計算して話をしていました。非常に役に立つ言葉だなと思いました。

バフェットの一日の過ごし方について、バフェットは『私はオフィスで本や、主要紙を読むことにほとんどの時間を使っている。自分の執務室で読書をしているのが好きだ。それが私にとってかけかえのない時間だ』と言っています。そのようにすることで、多くのビジネスマンがするような衝動的な意思決定をしないようにしていると言っています。当たり前のように聞こえますが、非常に大事なことだと感じました。

バフェットは株主を身内のように思っています。特に個人株主に対して仲間意識が強いことを感じます。アナリスト説明会は行いません。株主平等を徹底していまして、特定の株主に会うことはありません。

バフェット・マンガー

総会はマンガーとバフェットの二人が取り仕切りますが、とにかくこの二人から学ぶことが非常に多いのです。マンガーは98歳ですが、とても98歳に見えない。80代前半のような受け答えです。バフェットは91歳。二人合わせて190歳近いということで笑っていました。

株主総会のイベントスケジュールは、7時に開場して会社紹介のエキシビションと即売会を行い、その次にコーポレートビデオの上映会が1時間です。会場限定のユーモアとウィットに富んだビデオでした。

それからの株主とのQ&A、前半と後半各1時間のセッションです。バフェットとマンガーが当意即妙に、事前にどういう質問があるかは、まったく知らされておらず、その場で答えます。会場からの株主の質問と、あとはキャスターが全世界から集めた質問をバフェットとマンガンに投げかけるというかたちで進みます。このQ&Aは、有名なものです。

バフェットの話で私が最も伝えたいことは、『複利』の効果です。人間の感覚として感じにくいところですが、運用の最も大事なところは複利です。バフェットの資産ですが、バフェットは11歳の時に投資を始めました。14歳の時にすでに5000ドル。80年後の91歳の現在は918億ドル。実はその間、寄付をしていますので、本当は1200~1500億ドルくらいあったことになります。

11歳から投資をして53歳時点で資産は6億2000万ドルになっていました。91歳の時には918憶ドル。53歳以降で今の資産の99.3%が作られたということです。バフェットは一番複利の効果を体現しているとみていいでしょう。

バークシャーの株価パフォーマンスは、1965年から2021年までを見た場合、1993年までの前半の利回りは28%。非常に驚異的な利回りです。100%を超えているような年もありました。1965年以来、前半で1318倍です。それが後半の94年以降の利回りは、半分の14%ですが、複利のパワーで株価はウナギ登り。21年末の株価は運用開始以来、33600倍になっています。つまり、利回りは半分になっても、94年以降で33600倍の96%が後半に作られているのです。これからも複利のパワーが非常に大事なことでがわかります。日本の企業はそういう感覚が非常に少ないと感じます。

複利はあらゆるところに複利のパワーが効くということで、人間自身、姿形は変わりませんが、中身は年を取るほど加速的に向上しています。こういう意識を持って日常を過ごせば大変良い効果を表すのではないかと常日頃感じております。

講演では、3年ぶりにリアルで開催されたバークシャー・ハサウェイの株主総会について、臨場感たっぷりにご紹介いただきました。また、株主総会の中で有名なバフェットとマンガーのQ&Aの大変興味深い発言をご紹介いただきました。

フリーディスカッショ

参加者|今日は岡本さんも尾藤さんもアメリカ・パワーのお話だったと思います。本当にここから10年もアメリカの企業や市場は強いのだろうか。3~4年くらい前まででは考えられなかったS&P500に投資をする人や、アメリカ株に投資をする人が日本でブームのように増えてきたと思います。一般的にはいい変化が起きていると思いますが、余計なお世話かもしれませんが、すごくうぶな若い資産形成層が入りYouTubeの動画を見て『アメリカ株に投資をしておけば間違いがない!』という感じで入ってきた人が、もしかしたら初めて痛い目をみるのかもしれないなという気がします。パウエルさんなんかも難しいところに差し掛かっていると思いますし、過去10年とは違うような難しいところにアメリカ市場といえども差し掛かっているのではないのかという気がします。お二人の見方を改めてお聞きできればと思います。

尾藤|昨年までのアメリカ市場の好調、あるいはミーム株が脚光を浴びたということで、日本の若い人たちがアメリカ市場に向いているとか、あるいはS&P500、ナスダック市場、そういうところにいっているということは、流れとしてあるわけです。これを今のインフレ、金利上げ、今年に入ってからのマーケットの下落、そういうところと合わせると、これからどうなるの?というような疑問が時間軸に合致してくるわけです。

一方でロングタームの視点から見た場合、投資という面からいっても半年、1年といった時間軸での投資パフォーマンスが良いということではなく、長い目で臨んだらいいでしょう。その時間軸の問題だと私は思えます。そういう意味でいうと、バフェットは長期投資です。バフェットがよく言っている言葉に、『Never bet against America』があります。

独立戦争以来、あるいは米国証券史などを見た場合にアメリカの栄光はこれから先もあるという見方がいいだろう。アメリカの市場が一時的に下がって心配になっていますが、そういう意味では日本の若い人も大いに投資を続けるべきです。ただしその条件は長期投資です。5年、10年、20年の長期投資です。20年持ち続けるということが、当たり前のこととみたら、非常にいい結果をもたらすのではないのかと私は思います。

岡本|確かにちょっとブーム的なところがあることは事実ですね。私の知り合いの若いお兄ちゃんがつみたてNISAを始めました。最初は世界株を2万円ずつ投資していましたが、2~3か月後にさらに2万円追加してS&P500を購入したというわけです。私は彼に言いました。『2万円で世界株を買っているわけだからそのうち1万円はアメリカにいっているんだよ。またさらに2万円追加したということは、3万円をアメリカに投資をしている。つまりトータル4万円のうち3万円はアメリカ株を買っているんだぞ』と。すると彼は驚きました。つまりそういう発想ではなかったわけです。やっぱりS&P500が上がっているから買ったという部分から抜け切れていないんだなということは感じました。つまりポートフォリオという発想がない。

結局大事なことは、『アメリカがいいか?』とか『日本がいいのか?』ということではない。アメリカを買うのではなくて、アメリカの企業を買っているのです。日本を買うのであれば日本の企業を買う。日本株が停滞しているということは、日本企業が停滞している。要するに国を買っているわけではないです。企業が生み出す付加価値を買っているわけです。そういう意味でいうと、アメリカ企業は世界を圧巻している。強さというのはずっと残っていくだろうと思います。

ただ一つ言えることは、今までの10年、ないしは20年と比べて舞台(場)が変わったということです。これまでのような継続的な金融緩和というステージから、もう少し正常な形に変化しつつあると思います。一時的には締め付け気味になることは当然あると思います。やっぱり変わっていく中で生き延びる企業がどこなのか、それが視点になる。それはもしかすると、アメリカの企業が非常に多いのかもしれませんし、ひょっとしたらロシアが復活するかもしれない。いろいろあるかもしれません。

そう考えると「どこが良さそう」というベットを賭けるより私はとにかく全世界をまとめて買っておくというのが対処法だと思います。どこの国が上がってくれてもどこの企業が良くなってくれてもそれが入っている。そのかわり一発で当てるよりはリターンが少ないけど。その分安全度も高い、そんな風に思っています。

参加者|今まではバフェットのエピソードや名言は本やSNSで断片的に知っているだけで、実際にそうなのかな?と思っていました。しかし実際に参加された総会の話とかを聞くと、個人投資家目線で長期投資の心構えがしっかりお話されていてとても参考になりました。

岡本|やはり『価値を生むものを買う』ということがとても印象的でしたよね。だからビットコインに否定的なのも、要するに通貨というものは交換価値であって、それ自体が価値を生み出しているものではないということですよね。お金が何か生産設備に交換されることによって価値が生まれるのであって、お金そのものではない。やっぱりそれ自体が価値を生み出すものを買うべきなんだということです。

尾藤|不動産収入や農場とかね、特にバフェットは例にあげますけど、バフェット自身は実際に農場を買いました。例えばトウモロコシがここ何年間でいくらとれるか、それが何年の間でどれくらいの収入になるか。そうする本来の不動産価格がいくらぐらいなのか。今の価値と市場価格を見た場合に市場価格は安いというようなことで、農場の本質的価値を評価して、それで不動産投資をする。その場合の投資判断は、それが今いくらの価値になるのかというようなことを判断して買う。

ビットコインや金もそうですけど、将来いくらになりますか。金もきれいでいいんですけど、将来そこから何か卵を生みますかというとないですね。ビットコインもそうですけど。だからバフェットは金に投資をしたことがありません。ビットコインも何も価値を生まないということですね。

私も投資判断をする場合は将来の利益の現在価値、これが価値だとみて、投資をしています。そうすれば間違いのない判断指標なのです。あまりけがをしない。投資というのは回復不可能な損だってすることがありますからね。間違いのない手法というものがあればそれにくっついて、途中で変えることなく、やることが、やるべき正しい方法でやることが人生間違わないというふうに私は考えています。

原田|バークシャー・ハサウェイのポートフォリオを見ますと、アップルを40%保有されていて、バンクオブアメリカが10%。トップ10までで80%持っていると思います。特に上位2銘柄、アップルが4割ということで、圧倒的な集中投資になっています。長期投資を重視して分散ということはあまり考えず、よいものを長期で持つという考え方ですよね。おそらくアップルについては、チャーリー・マンガーの成長投資からバフェットさんは学んだと言っているということが書かれていました。そんなような感じがしています。集中投資というリスクをあまり考えないんですね。

尾藤|よく出てくる質問です。運用マネージャー、投資ポートフォリオ理論からいうと、リバランスを当然言ってくるわけです。おっしゃる通りバフェットは、リバランスは全くしていません。よく言葉にする表現が、マイケルジョーダンがチームですごい貢献をしている。ただ彼の比重は非常に高くなってしまう。リスク回避だというので彼を試合に出さない。あるいは彼をトレードする、というのは非合理でしょう。そのリバランスするというのは、好成績を上げているアップルが大きくなりすぎてしまったから売るというのは、マイケルジョーダンが強すぎるから切るというのと同じだと言っています。なるほどなと。私も投資理論を習っているものですが、うん、うん、と聞いていますね。

岡本|確固たる投資哲学を持ちそれに沿った投資方針を続けることの大切さが良く分かります。尾藤さん、今日はありがとうございました。