【Vol.238】今月のひとこと

今月のひとこと
岡本和久20220623

最近はSDGsという言葉を耳にする機会が増えていますが、それにつれて投資方針としてESGということが言われることも増えています。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)という言葉の略で、銘柄を選択する際に単に財務数値だけではなくこれら三つの要素も判断に加えようという考え方です。つまり、投資が単なる金儲けの手段から、企業を通じて世の中を良くしつつ、自分の資産も形成しようということです。もっとも最近では投信など販売促進のためにESGをうたっているのかなと思うケースなども増えてきていますが・・・。

私は決してESGが「株価」を評価する材料だとは考えていません。まさに「企業」を評価するものなのです。今から40年ぐらい前、80年代の初め頃でした。日本の証券会社のニューヨーク支店で証券アナリストの仕事をしていた私のもとに、アメリカの年金運用担当者から電話がありました。日本の銘柄も20~30銘柄持っている大きな年金基金でした。話を聞くと、保有する日本企業の中で南アフリカでビジネスをしている会社を調べてほしいと言うのです。理由を聞くと、南アフリカでビジネスをしている企業はポートフォリオから外したいと言うのです。

その頃、南アフリカは人種差別政策、アパルトヘイト政策をとっていました。そのような非人道的な企業は年金基金として保有すべきではないという理由だったのです。別に株価がどうこうということではなくて、倫理的に問題がある企業を保有することは将来の年金受益者のためにならない。忠実義務を遵守する観点からも、そのような銘柄は外すべきだと決めたというのです。当時、ESGなどという言葉もほとんど知られていなかった時代です。私は大変驚いたのを覚えています。

その頃、私はアメリカの証券アナリストの資格、CFAの受験勉強を一生懸命していました。この試験では企業分析をするときに「利益の質」を重視していました。要するに企業の収益が「まっとう」なものなのかどうか、不正行為による利益や倫理的に問題のある行動による利益が含まれていないかどうか、そこに焦点を当てるべきだという考え方です。

本当に社会のためになる良いことをして利益を得ている企業こそ利益の質の高い企業であるということなのです。資産運用という行動が投資家、受益者のために良いことであるというのは当たり前ですが、同時に投資先企業が良い世の中づくりに貢献をしていることこそ重要であるという視点があったことに気づかされた出来事でした。アメリカの年金などではすでに80年代初頭からそのような意識での運用がされていたのですね。

会社とは一体何なのでしょう。株式会社は三つの要素で出来上がっています。まず第1に消費者です。企業にとってのお客様です。世の中に存在するすべての株式会社の活動は世の中に存在するすべての生活者のためにあると言っていいでしょう。生活者は自分たちのために良い生活環境を作ってくれる企業の生み出す財やサービスに対して代金を支払っているのです。

次に必要なのが、その企業に働く人たちです。この働く人たちの中には企業の役員も従業員もアルバイトの人もすべて含まれています。ですから総体としてみれば企業で働く人たちは未就労者を除き生活者全体なのです。

そして最後に、株式会社が成り立つために必要なのが資金です。このお金は誰が出しているかといえば、株主であり、債券や銀行などお金を貸してくれている人たちです。銀行経由の融資であってもその原資は煎じ詰めれば全て生活者のものです。企業間の持ち合いでも企業はやはり生活者によって成り立っているのです。

 このように考えると株式会社は消費者と従業員と資本の出し手という三者によって構成されていて、その三者全体が生活者であるということが分かると思います。要するに企業というのは生活者が自分たち、世の中の人々が快適にしあわせに暮らせるために構成しているものなのです。その意味で生活者こそ本当に企業のCEO(Consumer=消費者、Employee=従業員、Owner=資本の出し手)なのです。

それでは生活者、つまり世の中の CEOにとって良い社会とは一体何なのでしょう。 近江商人は三方よし、売り手よし、買い手よし、世間よしをモットーとしていました。それになぞらえて私は生活者のビジョンに相当するものは、「命よし、未来よし、地球よし」だと思っています。

「命よし」は人間の命だけではありません。あらゆる生命体がその生まれてきた意義を全うできるような社会を意味します。「未来よし」は今の生活が良くなるだけではなく、平和で豊かな社会が未来永劫に続いて行くと言うこと、そして「地球よし」は我々が住まわせてもらっているこの地球という舞台が健全な形で維持されるということです。

私は生活者が総体として「こんな世界にしたい」という望みを実現するために組成しているのが株式会社だと考えます。そしてその目的に合致した行動をとる企業こそ質の高い利益の会社であると思います。ESGという言葉がキャッチフレーズ化しているところが気になりますが、それ自体は悪いことではありません。ESGは単なる投資のキャッチフレーズでもセールストークでもありません。生活者がより良い世界を創りたいと考え生み出した株式会社制度を健全な正しい方向に修正するうえで極めて重要なものなのです。(今月のインベストライフのアーカイブではまさにESGの先駆者、河口眞理子さんと私の対談が掲載されていますので是非、お読みください)

特定非営利活動法人「みんなのお金のアドバイザー協会〜FIWA」

FIWA®からのお知らせ・セミナー予定

FIWA®マンスリー・セミナー #206

開催形式: On Line
開催日時 : 11月20日(日) 12:30~15:30
講演・講師: 岡本 和久 「お金の歴史」
青山大学院大学客員教授、ニッセイアセットマネジメント投資工学開発センター長
吉野 貴晶氏 「『ダウの犬』戦略などを検証する(仮題)」
備考: お申込みは開催日の三週間前より以下のサイトにて承ります
https://happymoney.stores.jp/


第58回 FIWAサムライズ勉強会

開催形式: 教室受講(東京)とZoomによるハイブリッド開催
開催日: 11月24日(木) 19:00~20:45
講演 : 人生100年時代の老後生活設計の新理論「WPP」とは
講師: 谷内 陽一氏 第一生命保険株式会社 団体年金事業部 副部長
社会保険労務士、証券アナリスト(CMA)
備考 主催: NPO法人みんなのお金のアドバイザー協会
お申込先: https://somerise.net/2022/10/08/1528/


FIWA®マンスリー・セミナー #207

開催形式 : On Line
開催日時: 12月18日(日) 12:30~15:30
講演・講師: 岡本 和久 「計量分析ツール活用法」
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン会長 山口 勝業氏「金融考古学(financial archaeology)」
備考: お申込みは開催日の三週間前より以下のサイトにて承ります
https://happymoney.stores.jp/


FIWA®マンスリー・セミナー #208

開催形式: On Line
開催日時: 2023年1月15日(日) 12:30~15:30
講演・講師: 岡本 和久 「2023年、私の行動目標」
ブーケドフルーレット 馬渕 治好氏 「2023 どうなる世界の経済・金融市場」
備考 お申込みは開催日の三週間前より以下のサイトにて承ります
https://happymoney.stores.jp