【Vol.238】FIWAマンスリー・セミナー講演より

ウォール街の歴史:アメリカ証券市場史

講演 岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久

アメリカは、現在、世界の資本市場の中心であり、日本にも非常に大きな影響があります。また、証券制度や投資の手法は世界の基準の一つになっています。そこで歴史が長くデータも豊富に整備されているウォール街の歴史、アメリカの証券市場史のお話をします。

レーガン大統領が登場してレーガノミクスが始まります。強いアメリカにはいろいろなスキャンダルはありましたが、とにかく力により平和を実現するという戦略によってソ連に対抗しようとしました。一緒になってやっていたのが、サッチャー首相、中曽根さん、ドイツのコールさんなどでした。彼らが中心になり資本主義の活性化を徹底的にやりました。

ただアメリカの産業も苦しい。1892年に設立したGEも苦しい状態でした。ウェルチが登場してGEを立て直したように、苦しんだアメリカ国家の中で非常に優れた経営者が立て直しを始めます。それと同時に新しい企業が出始めてきます。1968年にインテル、マイクロソフトが1975年、1976年にアップル、そして、シスコシステムズが1980年と、新興企業がどんどん出てきます。

グローバル化という新しいパラダイムの中で、どのように自分たちはアメリカをもっと強い国にしていくのか。従来、閉ざされていた世界の中で覇権を誇っていたアメリカ、ヨーロッパに加え、グローバル化によってアジアが台頭しました。最初は4匹のタイガー(韓国、台湾、シンガポール、香港)、それからBRICs。その中でも、中国では1976年に毛沢東が亡くなって鄧小平が登場します。そして中国そのものも大きく変わっていきます。株式市場も2000年にかけて非常に順調に上がっていきます。

20世紀の終りにかけてバブル状態にあった株式市場ですが、ITバブルが崩壊することになります。エンロンやワールドコムといったITバブルをけん引していた企業が破綻をしていきます。さらにサブプライムローンが起きます。強欲資本主義の問題が表面化したわけです。

かつてアメリカの資金調達市場、新規発行市場は伝統と格式によって守られていました。モルガン・スタンレーのような親分(リード・マネジャー)がいてそれが全部仕切っていた。それがメリル・リンチに代表されるような販売力の強い新しい勢力に取って代わられつつあった。伝統が崩されはじめた。一方、規制の緩やかなユーロ市場がものすごく成長しました。これに対してSECももう少し緩めないといけないということになり、『先に発行しますよ』という登録だけしておき、あとはタイミングをみながら発行していくことが可能になってきました。

それによってM&Aがしやすくなってきた。それが投機的な動きとなり、強欲資本主義者や乗っ取り屋の舞踏会といわれました。同じように日本からもアメリカ企業の資産買収がたくさん起こりました。紳士的にシンジケート団を募って行う伝統的な金融業務がなくなり、専門技術や販売力で事業を行う金融機関が成長する。金融のスーパーマーケット化です。行き過ぎた例としてドレクセルのマイケル・ミルケンの問題が発覚しました。

そしてブラックマンデーが1987年に発生します。これはなぜ起こったのかは未だにはっきりしませんが、要するにコンピュータを使ったシステム取引で売りが売りを呼ぶような展開を生み出してしまったというのが真相のようです。

2000年にかけて、ドットコムバブル。結局かなり大きなバブルの崩壊があって、そのために金融を世界的に緩和しなくてはいけない。それが次に不動産投機を呼び、そのバブルがはじける。また大変だということで金融をさらに緩める。その繰り返し。これがずっと続いてリーマン・ブラザーズの倒産を引き起こします。証券市場に関連して不正行為がどんどん明るみに出てくるようになりました。特に不動産がらみのサブプライムローンの問題などが深刻化しました。

70年代から80年代くらいにかけて、いろいろな新しい企業がたくさん生まれてきました。経済的にはあまり楽しい時期ではなかったけど、マイクロソフトが創業して、アップルが生まれ、インターネットが商業利用されるようになり、それからアマゾンが生まれました。グーグルが創業して、フェイスブックが創業しました。一方でエンロンやワールドコムが潰れた。

私が生まれた1946年終戦直後の経済がボロボロだった時代に、日本で二つの企業が創業しています。それらがホンダとソニーです。このような企業が60年代、70年代、日本の成長をけん引する企業になっていった。そのようにアメリカの経済も非常に大きな問題を抱えている時に、新しい企業が生まれ、それが次の時代をけん引する大きな力になっていく。そういう意味で私はすごく教えられることがあると思います。

フェイスブックや、ウィンドウズ95、グーグルができた頃に、日本ではバブルが崩壊して、山一証券などが破綻する。そんな時代でしたが、そんな時にアメリカでは次の時代を担う企業が生まれてきたということです。

アメリカで起こった事は日本で大体10~15年後に起こります。アメリカで起こったこれらの変化は合理的であり、かつ世の中のためになる限り、日本でも起こってくるでしょう。

長い歴史を見ると非常に多くの事がわかります。未来の事はわからない。また歴史は同じ事が繰り返されるわけではない。しかし、歴史から学ぶことはできる。そういう意味で、資産運用についても歴史というのは、とても大事なのではないのかと思います。

講演では、アメリカの国の成り立ちから、産業構造の変化や時代背景も踏まえ、アメリカの証券市場の長い歴史を解説いただきました。