【Vol.233】しあわせ持ちへのロードマップ PART3:DIY資産活用

講演 岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久

今回はDIY資産活用、ご長寿リスクの視点からの資産活用というお話です。寿命の不確実性こそ非市場リスクであり、マーケットでこのリスクをヘッジすることはできません。資産活用期に顕在化する運用上のリスクも踏まえ、さまざまな対処法を提示してくださいました。

若いうちに多めの支出をしたいが、将来の不安も最小化したい。このバランスをどうとるか。将来の支払いの現在価値の合計が変わらないなら、パターンの変形は可能であるということが言えると思います。

人生の中でプライオリティーはだんだん変化していきます。働く、仕事をするということは、『お金』『楽しみ』『社会貢献』が合体したものです。就業中はなんといってもお金の占める部分が非常に大きいわけです。ポスト定年後もプレリタイアメント時代には働く時代があります。これは『お金』『楽しみ』『社会貢献』の重要度が1/3ずつです。そして、ポストリタイアメントになると、ほとんど『楽しみ』と『社会貢献』です。だんだん人生の中でプライオリティーが変わっていきます。

まずは退職を迎えたらどうすればいいのか。退職まで「75文字の資産運用」で全世界の株式インデックスファンドを毎月積立てていく。退職を迎えた時点で、退職金が出たら、退職金の全額を公社債、債券型の投信を購入する。就業中に積み立ててきたのはグローバル株式インデックスファンド一本ですから、これで株式と債券のバランスをとります。両者の間に大きな差があったときは、ほぼ半分ずつになるように調整する。

退職金がない人の場合は、退職金は給料の中に含まれているという考え方をして、毎月の投資金額を少し多めにして世界株のインデックスファンドと同時に債券型のファンドも積立てていくようにする。要するに出来上がりのところで、だいたい株と債券が半分くらいになっていくようにする。

今までにあるいろいろな退職後資産の取り崩し方をご紹介されました。まず4%ルールの検証。これは、ベンゲルが1949年に発表したモデルです。リタイアした時点の総資産額の4%にインフレを調整しながらずっと毎年引き出していくとだいたい大丈夫という理論です。長期的にみればマーケットも上がっていくし、スタート地点の残高の4%を固定して、インフレを調整して引き出していくという方法です。要するにこれは相場は安定的に上昇するという前提のアプローチだと言えると思います。

これに関連して、リタイア後の資産活用のときに顕在化してくる非常に大きな運用上のリスクは、リターン・シークエンス・リスクがあります。マーケットがどのように動くかということが大きな影響を及ぼすのです。例えば、退職後の非常に早い時期には退職後のための資産額も大きい。そのときに相場が大幅安になってしまう。そうすると失う金額が大きいので状況は苦しくなります。リタイア後ずっと時間が経って、残りが少なくなっている時に大幅安があっても金額的にはダメージが限定されます。

定額引き出しの場合。最初にドンと下がってしまうと非常に大きなインパクトを受けます。元手がなくなってしまう時期が早く来ます。その点で定額の引き出しはいろいろな問題があります。一方で1割ずつ、定率で引き出した場合はどうなるのか。最初はインパクトが大きいですが、残高が減ってくると引き出す額も少なくなってくる。最終的にはキャッチアップします。安定性という面では、定率か定額か考えると定率がいい。

ただ問題は定率でやっていくと、最後の方では資産残高が減ってきています。10%といっても、ものすごく少ない金額しか引き出すことができません。一部の方は、定率でやってきて、金額が下がってきたとことで定額に変えるべきだと推奨している方もいます。

バートン・M・ウェアリングのARVA (Annually Recalculated Virtual Annuity)の紹介をしていただきました。毎年再計算されるバーチャルなアニュイティです。バーチャルというのは保険会社の個人年金を買わずにリスキーポートフォリオを保有しつつアニュイティの考え方に基づくメリットを受けル方法です。前期末にある金融資産で終身年金を買った場合いくら出せるのか。その金額を今のこの時点で引き出す。翌年株式を保有しているので、当然資産は変わります。その新しい資産残高で終身年金を買ったとしたら、次の1年でいくら引き出せるのか。それをまた引き出していく。それを自分でやっていく。そんなに難しい計算ではないけれど、アドバイザーの人が助けるという意味では有意義だと思います。

この手法は私は非常に優れていると思います。ただ、ちょっと難しい。そこで私が考えたSimplified ARVA-岡本方式はARVAの簡便方式です。私が前提として考えているのが、基本的に運用収益はない。その時点の時価を単純にいえば、自分の想定する余命で割って、それを株式ポートフォリオから引き出して使っていく。当然マーケットによって金額は変動していきますが、それは受け入れなければならない。

講演では、最初に竹中ポートフォリオ・ツールの活用法やリスクを理解するためのツールであるモンテカルロ・シミュレーションの説明と限界についての解説、そしてツールを介してマーケットと対話することの重要性をお話いただきました。