【Vol.233】米国FPカンファレンス、事務所訪問を通じて学んだ 最近10年間の米国アドバイスビジネスの変化

講演:MONEY LIFE PLANNING
小屋 洋一氏
レポーター:赤堀 薫里

米国FPカンファレンス、事務所訪問を通じて学んだ
最近10年間の米国アドバイスビジネスの変化

小屋洋一
小屋洋一氏

2009年からほぼ毎年10年近く実際に米国へ行き、FPのカンファレンスやFP事務所を定期的に訪問して、ビジネスに活かしていこうと視察をしてきました。その経験で感じたここ10年間の米国アドバイスビジネスの変化をお話いただきました。

今のアメリカのRIA(Registered Investment Adviser)のビジネスの流れを見てみます。契約形態としては、個人の方がアドバイザーにアドバイス報酬を支払いますが、お金の流れとしては、カストディアンと呼ばれる証券仲介機能を持った金融機関があります。

お客さんはカストディアンにお金を預けるため、アドバイザーにお金を預けているわけではありません。例えば、カストディアンに1億円お金を預けた場合、アドバイザーが、ほぼ一任勘定でお客さんの代わりに金融商品のセレクトや受発注を行っている。日本でいうよりファンドマネージャー的です。クライアントさんが、カストディアンにお金を入れて、アドバイスの契約をいただければ一任で金融商品のセレクトや売買をやっておきますよという流れが顕著です。

アドバイスの報酬も、個人とアドバイザーの間に結ばれている報酬の契約に基づいて、カストディアンの方からアドバイザーの会社に、標準的なものとして1%ぐらいが報酬になることが多いようです。四半期ごとにカストディアンに預けている残高の0.25%ぐらいがアドバイザーの会社に振り込まれます。カストディアンのお客さんの財布の中からアドバイザリー報酬が支払われる流れに今はなっています。

90年代にスタートしたばかりの頃は仕組みが整っていなかったので、個人のお客さんから直接報酬を振り込んでもらうという流れでした。それが、だんだん金融リテール業界全体が仕組み化されて、今はこんな感じになっています。

アドバイザーは、ソフトウエアを上手に活用しています。運用会社も基本的にはアドバイザーがお客さんの代わりに商品をセレクトしますから、プロであるアドバイザー目線で良い商品だと認められないとなかなか売れません。運用会社もアドバイザーやクライアントにとって良い商品を作っていかないと、そもそも売れないため、全体が個人のお客さんに良いアドバイスを、良い商品を作っていくという流れができているのではないのかと感じています。全体的には、クライアントにどうメリットを与えるのかという方向に業界全体が動いている感じがします。

一方で日本は、アメリカの25年遅れだなと感じています。今も金融機関が個人に商品販売、セールスという形で関わることが多いので、基本的には商品販売をしている。もちろん巧拙は金融機関や営業担当者によって分かれると思います。販売手数料並びに運用ものであれば信託報酬、保険であれば販売手数料みたいなもので金融機関は収益を得ている。

保険会社や運用会社は、クライアントのために良い商品を作るというところも出てきていますが、それよりも金融機関や販売員が個人の方に売ってくれる商品を作る。『手数料が高い方が売ってくれるのではないのか』みたいなところがあります。どちらかというと、運用会社、保険会社は、販売員を見ながら商品開発をしているのではと思うところが多々あります。これが今の日本の現状だと思います。

アメリカのアドバイザーの事務所にかなり共通していることは、大体がリタイアメントした人が主要ターゲットだということです。リタイアしたクライアントという事務所がほとんどで、50歳以下の若い顧客はほとんどないようです。資産形成期のアドバイスをしているアドバイザーは、昔は少なかった。今はアドバイザー自体が若い人たちです。

20代、30代の人に割合人気な職種のようです。20代30代のアドバイザーの人は、同じような年代の20代30代の資産形成期の人たちを対象にしている人が増えています。しかし、昔は主にリタイアしている人を相手にしているケースが多かった。アメリカであれば、ある程度お金を持ってリタイアしたら、ファイナンシャルプランナーなりアドバイザーを使って、運用をお願いしながらリタイアメントしていくことが、ある程度普通の行動になっています。

強く思ったことは、アメリカ人は一般的に金融リテラシーが高いとか、学校教育でお金の話を学んでいるということは、必ずしも本当ではないということです。一般の個人の人で、お金や株などに詳しい人はあまりいませんし、日本と大して変わらないなと思います。

ただ一方で、数千万円単位のお金でリタイアしたらアドバイザーのアドバイスをもらいながらやっていくというアドバイスサービスを使うという面でのリテラシーが高いのです。アメリカは、『アドバイザーを使う方がいい』という考え方が常識として受け入れられています。そこが、アドバイザービジネスが流行っているのか流行っていないのかという部分で、日本はまだまだ差が大きいのではないのかなと感じます。1994年から最初はブローカーをやっていたけれど、1995年のタリーレポートの前後ぐらいからアドバイスのビジネスに変わっていきました。

講演では、日米の金融リテールビジネスのあり方を、過去の変遷から現状に至るまで時代背景を踏まえ、日米を比較してわかりやすく解説いただきました。また、2009年から10年にわたり米国カンファレンス、事務所訪問を通じて感じた最近10年間の米国のビジネス変化や今後の見通しについても説明いただきました。

フリー・ディスカッション

(敬称略)

岡本|ニューヨークのマーケットは65年から80年代の初めぐらいまで、700ドル1000ドルの間を行ったり来たりと横ばいが長かった。年金もインデックス運用が少しずつ実験的に行われていましたが、幅広く使われ始めてきたのは、州法が改正になった80年代の初めからです。個人も株式や投信信託に投資をするということが、80年代の初めくらいまではあまりなかった。非常に株式の比率が低かったということを聞いたことがあります。マーケットが良くなってきて規制が緩和され、金融商品がどんどん生まれてきた。それが拍車をかけて今日のような姿になったのだと思います。金融のことをそれほど詳しく学校で教えてくれているということはないけれど、彼らのテキストを見ると、『こういう商品はリスクが高いですよ。こういう商品は安全ですよ』とリスクピラミッドが書いてあります。また、一般的にお金の話が家庭のなかに浸透しているように思います。これは教会やコミュニティでの寄付などが盛んであることとも関係あるかも知れません。

私がサンフランシスコでタクシーに乗った時に、タクシーの運転手が中近東から来ている移民の方でした。私が投資教育家であることがわかるとこんなことを質問されました。『自分は学校へ行けなかったけれど、娘だけは大学へやりたい。タクシーの運転手だけではお金がないので、投資をしたいと思っているが、投資のことをどこで学ぶことができるのか?』と言われたので、バンガードのサイトを教えてあげました。そういう時に「投資」というアイデアが頭に浮かんでくることがすごいと思います。日本であれば、まずは「お金を貯める」ということに頭が固まってしまうと思います。そういう意味では、お金は非常に身近な存在になっていると思います。その辺が日本とアメリカとではちょっと違うのかなと思いました。

竹中|1995年にタリーレポートが出て、『残高ベースの方が合理的だ』という話を聴いて思い出しました。日本も90年代に入りバブルが崩壊しました。私の記憶ではN證券の社長が『これからは売買手数料ベースのノルマ、業績ではなくて、残高ベースで我々もやるぞ』といった途端に収益が落ちて、1年かそこらで方針を転換したということを記憶しています。きっとその頃、N證券の社長がやろうとしたことはタリーレポートを受けてのことだったんだなと推察されます。でもそれがN證券では定着しないですぐに売買手数料へ移ってしまったのだと思いました。

日本でも8兆円まできたというラップ口座。今、日本の証券会社がやっているラップ口座の実態と、アメリカでやっているラップ口座の実態に違いはありますか?

小屋|私の認識では日本の証券会社が積極的に販売しているラップ口座やアカウントは、手数料がバカ高いですね。たぶんランニングで年間2.5~3%の間だと思います。

アメリカはアドバイザーを使うのか使わないのかは別にしても、アドバイザー報酬が1%で、ETFで組むと1.1~1.2%ぐらいになります。多分ランニングのコストは1%代前半というのが、普通の個人の投資家が払っているコストではないのかと思います。そういう意味では2倍以上コストに開きがあります。日本の場合、ラップといって普通にポートフォリオを組んだ場合、日本の債券や株式が入ってしまうケースが多いので、そこでまたリターンが出にくいというところがあります。投資家さんに高いコストの割にはあまり増えていないなという実感を与えてしまっていると感じます。

竹中|ランニングコストで2%台の後半ですか?それでは増えそうにない感じですね。

小屋|そのかわり販売手数料は取っていないでしょうし、回転売買させる必要性はなくなっている。どれくらい回転するかにもよりますが。ただ2%以上取られると、パフォーマンスが出ない人が多いのではないのかなとは思います。

岡本|確かにコミッションベースよりは残高ベースの方がいいですけど、果たして『残高ベースでどんな場合もいいのか?』ということはすごく疑問です。『今は株を買わない方いいですよ』とアドバイスすべきお客様もいるかもしれない。それはそれで貴重なアドバイスだと思います。もうちょっと幅広い意味でフィーをもらってもいいと思います。残高というとあくまでも商売とつながる。それと人生を通じてどういうアドバイスをしていくのかは、次元が違うような気がします。本当のアドバイスというものは20年、30年続けていく関係になっていくのではないのかと思います。

小屋|岡本さんのおっしゃる通りなのかなと思います。逆に言うとアメリカは残高報酬がスタンダードになってきています。でも残高報酬ではフィデューシャリーではないのではないか、というのが一番最先端の議論というか、チャレンジとして出てきている環境です。これが5年、10年後、ある程度、支持されてきた時、報酬がシフトしていくということがあり得ると思います。

今は、みんな残高報酬がスタンダードになっています。そういう報酬感覚とそれに見合うコスト感覚で運用しているので、ドラスティックに変えると、経営に響くところが多いと思います。さっきのN証券の話も一緒で、ドラスティックに業界全体が一気に変わるということは難しいのではないでしょうか。ちょっとずつチャレンジする会社が出てきて、それがマーケットや個客に支持されてきた時、変わらざるを得ない感じになるのではないのかと思います。

岡本|本当をいうと業界が苦しいから顧客のために良いことができないということは変な話ですよね。それは生活者と業界が断絶されて、そこには非常に大きな力の格差があるので、なかなか生活者のために良いことであっても実現しないという事実があります。そこでアドバイザーが間に入ることによって、もう少し生活者の味方になって、はっきりしたことを業界に対して話すことができると思います。

参加者|私は資産形成層です。質問はアドバイザーを特に利用できない日本の資産形成層の人たちへのご意見を頂ければと思います。1%の手数料を払ってでも、ある意味リターンが見込めるという金融資産5000万円以上の人たちであれば、『1%払ってもいいかな?』というのはすごくわかります。逆にそこまで到達していない人に対して、人を介するアドバイスというのは、アメリカですら難しいのかな?というのが今日感じたところです。

今、ロボアドバイザーとかYouTubeもこの10年で劇的に増えました。資産形成層に対して情報をビジネスとして成立させる場合は、日本の場合アメリカと違って、期待リターンが正直低いので、どうしていけばいいのかご意見をお聞きしたいです。

小屋|いろいろな要因があります。うちもターゲットは富裕層をターゲットにしないと商売が大変ですが、資産が300万円、500万円の資産形成層であっても断ることはしません。そういうお客さんもいらっしゃいます。うちのサービスは1%しかもらっていませんので、お金があってもなくても変わらないわけです。ただ僕も14年目になりますが、お金がない人ほど、サービスにお金を払いたがらないというのが顕著だなと思っています。当社からお断りをすることはありませんが、結局、当社の有料のサービスを使って、結果的に評価が高いのは富裕層です。

お金がない人ほど当社の評価をあまりしてくれないなというのが、14年やっている実感です。やはりお金の使い方が下手なんじゃないのか。モノの価値をあまり判断できないのではないのか。僕からするとお金が貯まりにくい考え方をしているなと感じます。アメリカでもお金がない人たちの方が、無料相談や証券ブローカー、保険ブローカーの人たちに行くし、そこで商品を買わされてしまう。結果的にお金が貯まらない循環になってしまっていると感じます。

参加者|特に日本はサービスがタダというか、付いてくるものだという気持ちが強いと思います。

岡本|そこに悪循環があります。サービスは無料だという誤った考え方がある。生活者はなかなかアドバイスにお金を払いたがらない。アドバイザーもアドバイスだけでは生活が成り立たない。そこで商品を売らなければいけない。でも商品を売るということは、それはアドバイスではなくてセールストークになっていくわけです。セールストークになってくると、今度はアドバイスの価値が無くなってきます。だから生活者はそんなものに金は払いたくはない、それがぐるぐる回っているような気がします。やはり本格的なアドバイスがきちんとできる人が増えていくということがすごく大事だと思います。

販売員の仕事は、もっと重要なものとしてあるはずです。証券の世界において、いい証券マンというものが見えてこない。『騙されるのではないか。あの人たちは気を付けないといけない人たち』と多くの生活者が最初から思ってしまっている。これからはプロのしっかりとした営業マンが出てくることがすごく大事なことではないのかと思います。それによっていいアドバイザーと大したことのないアドバイザー、そしていいセールスと大したことのないセールスとはっきり分かれてくると思います。今日はどうもありがとうございました。