【Vol.253】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

「ウォール街のランダムウォーカー」を読み解く(4)

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

バートン・マルキールの『ウォール街のランダムウォーカー』を読み解いています。この本が出て50周年です。全部で4部の構成ですが、5回にわたって、1回につき1部ずつお話をしていきたいと思っています(最後の一回は「兜町の歩き方」)。


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「ウォール街のランダムウォーカー」を読み解くシリーズ、第4回目ということで、財産の健康管理のための10カ条についてお話をしたいと思います。

一番目は、元本を蓄える。もちろんある程度の銀行預金です。これは当然必要です。ただ一般的に日本の生活者は現金を貯めすぎている傾向があると思います。1ヶ月分の給料に相当する金額が急に必要になる可能性は、実際はほとんどありません。それを考えると、1ヶ月分くらい現金をとっていればいいのかなという気がします。これは個人の選好の問題があるので何とも言えません。最悪、これは好ましいことではないですけど将来のための投資資金の一部を解約して現金化する選択肢もあります。それぐらい重要なことであれば資金を何とかすることができる。一般的にいえば、元本に相当する預金が多すぎて、本来もう少し積極的にやるべき投資にあまりお金が行かないという問題があります。

二番目は現金と保険で万一に備える。これは非常に難しいところでしょう。保険は基本的にオプションです。例えば、1,000円の株が500円に下がっても800円のプットオプションを買っておけば、損失は小さくてすみます。また、1,000円の株を買おうと思っているうちに1,500円に上がってしまった。でも1,200円のコールオプションを買っていたならば、1,200円で買うことができます。つまり、自分にとって何か都合の悪い事が起こっても、オプションを買っておけばダメージは回避したり縮小したりすることができる。

保険とはそういうものです。例えば、事故に遭って長期に仕事ができなくなるとか、家が火事で燃えてしまう。働き手が急に亡くなってしまい生活が困窮する等いろいろありますが、そういう不慮の事故に対して、備えとして、保険を持っていることはある程度必要だと思います。

しかし、いわゆる資産を形成するという目的で買うというのはほとんど意味が無い。資産形成とはあくまでも別の目的のものだと考えるべきです。資産形成の方は、私がいう「75文字の資産形成」を着実に自分でやったほうが、安いコストで安定したポートフォリオが作れると思います。保険は何でもかんでも入ればいいというわけではなくて、本当に必要なものをよく絞り込んで、掛け捨ての保険等をきちんと買った方がいいのです。

三番目が現預金でもインフレ・ヘッジ。これからのキーワードでは、まさに購買力ということになります。お金のモノを買う力が購買力です。インフレは、お金の持っている購買力を減少していきます。デフレは増やしていきます。その意味では、今まで購買力をあまり考える必要がなかった。でも長い歴史を見ると、デフレの時期よりインフレの時期の方がずっと長いのです。なぜなら人類は常に自分たちの生産能力以上のモノを欲しがる。だから生活に必要なモノの希少性が常にあるため、どうしても値段が上がりがちになる。そういうことがあるのではないのかなと考えています。生産能力以上のモノが欲しいということです。

四番目は節税対策と年金制度の活用。ここで大切なのは税金もコストだということです。コストである税金がいかに有効に使われているのかというのが大事なポイントです。ですから非課税制度も活用できるものはどんどん活用しないと損だということ。

五番目が運用目的をはっきりさせる。これも当然必要ですね。アドバイザーは、きちんと投資方針書を相談者と一緒に作って、それに基づいてずっと人生の伴走者としてアドバイスを続けていく。走る人はそれに基づいて行動を取る。それが正しいやり方だと思います。

六番目はマイホームの活用が入っています。アメリカでは、独身の時は小さいアパートを借りますが、結婚すると少し大きいアパートに移り、子供が生まれるとさらに少し大きいアパートに移る。でもだんだん子供が大きくなると、大き過ぎる家を小さくしていきます。売却をして小さい家に買い換えることを繰り返すことによって資金を調達していく。そういう目的がアメリカの住宅だとありますが、日本の場合は、むしろずっと住むというケースの方が多いのではないのかなと思います。マルキールはその辺を考えていると思います。私は不動産を投資の対象にするというのは、あまり賛成ではないです。不動産を保有するよりもREITの方が投資対象としては魅力があると思います。FIWA®の積立インディくんのデータを見ますと、2005年~2023年まで日本株のリターンは8.4%。リスクは16.8%。日本REITの指数はリターンが6.64%、リスクは18.9%。だからリスクはREITの方が高くて、リターンはREITの方が低い環境になってきています。ただ、日本株とREITの間の相関係数を見ますと、だいたい0.4とか0.5ぐらいです。そういう意味では分散の効果は確かにあるといえると思います。不動産投資が好きだという方はREITをポートフォリオに入れておく意味はあると思いますが、まあ、入れなくてもいいでしょう。

講演では財産の健康管理のための10カ条と、インフレと金融資産のリターンについて説明。また、投資家のライフサイクルと投資戦略。マルキールが提唱しているウォール街に打ち勝つための3つのアプローチを解説くださいました。