【Vol.252】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

本来の投資を考えよう!

長期投資家
澤上 篤人氏
レポーター:赤堀 薫里

Mr. Sawakami

澤上 篤人氏 プロフィール

1947年、愛知県名古屋市生まれ。1969年に愛知県立大学卒業後、松下電器貿易(現パナソニック)を経てスイス・キャピタルインターナショナル、山一證券のファンドアドバイザー等を務める。80年から96年までピクテ銀行日本代表や同社日本法人の代表取締役等を務める、1996年にさわかみ投資顧問株式会社を設立。1999年には日本初の独立系投資信託会社であるさわかみ投信株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在は取締役会長。販売会社を介さない直販にこだわり、長期投資の志を共にできるファンド仲間と一緒に「より良い世の中づくり」を目指す。2009年には、長期投資の先に広がる「かっこ好くお金をつかう先に広がる世界」を世に示すべく、その実践モデルを次々と形にしていこうと、2009年さわかみ一般財団法人設立。その後、一部の活動を専門的に携わるべく、2014年にさわかみオペラ芸術振興財団、2015年に公益財団法人お金をまわそう基金 を設立。現在、3つの財団の代表理事を務める。2017年2月27日、オペラ文化の啓蒙活動を通じてのイタリア共和国への貢献が評価され、駐日イタリア大使公邸にて、イタリア共和国セルジョ・マッタレッラ大統領の名の下、ドメニコ・ジョルジ駐日イタリア大使から、イタリア星勲章コンメンダトーレが授与された。


我々は個人の資産形成をお手伝いしています。その立場からお話をします。最近ESGやSDGsとかいろいろ問題が出ていますよね。自分は52年、世界で運用しています。機関投資家はみんな雇われファンドマネージャーです。彼らは成績を出さなくてはいけない。とにかく膨れ上がったマーケットの中で、株を買え!債券を買え!成績を上げろと、運用者たちは成績を上げることが目的となります。どんな運用でも、成績を出せばいい。マネーゲーム。無機質な数字を追いかけるだけの運用になっていきます。中身は関係ない。

その流れの中でインデックスが出てきてしまった。部分最適の追求を世界の運用者はみんなやってきました。全体最適がおろそかになってきてしまった。その流れで出てきたのがESGと10年くらい前のSRIです。社会的責任投資をしようとか、環境や社会、企業統治に意識した企業にちゃんと投資をしよう。

そもそもその考えが間違いです。投資というものは、将来社会を創っていくためにお金に働いてもらう。当然のことながらどんな社会にしたいのか、夢、思い、意思が働いて当たり前です。それが成績を出すために投資をしている。そうなるからESGとかを企業に求めるわけです。もし投資家一人一人が将来に向けて自分の意思や考え、思い、夢をちゃんと持っているのであれば、自分が主体的に行動する流れの中で、自ずとまともな企業に投資をしていく。

社会的におかしい企業に投資はしない。そういうことは自分でやっていく。結果として変な会社は淘汰されていきます。買われない。良い会社は買われます。企業にESGを求めることがおかしい。本来ならば投資家の責任の問題です。

投資とはお金を運用する以上、将来に向けて自分の意思を働かせないといけません。世界で40年間の運用を無機質に成績や数字を追いかけていく中で、部分最適を忘れてしまっている。環境の意識もなくなってしまっている。笑っちゃうのがESGといって、ロシアがウクライナに侵攻した途端にESGの流れにブレーキをかけて、石油が大事になっているでしょ。本当に浅はかな流れです。これが昔からの現実です。

昔は運用者が社会や将来に対して責任を持っていた。これがいつの間にか運用することが仕事になってしまった。ジョン・ボーグルが書いた本があったでしょ。どこでアメリカの資本主義は狂ってしまったのか。彼が言っているのは、エージェント主義、代理人主義。自分のお金は自分で運用するほかない。自分のお金で事業を起こす。銀行だって自分のお金を自分でリスクをとって社会のために事業を展開する。銀行経営をする。これが事業家であり、バンカーの本来の姿です。

企業経営者はみんな雇われになってしまっている。銀行も雇われ。そうなると、儲けにいっちゃう。いろいろなものが全部重なってしまっているというのが今です。これからどうなるのかはさっぱりわからん。でも何が起ころうと実体経済はある。人々の生活はなくならない。企業活動はある。まともな株式投資。もちろん債券投資も今はこんな調子ではわからないけど、いずれいつか金利が上がってきて、インフレが落ち着いてきたら債券投資もあり得るだろう。でも今はどうなるかわからない状態です。

そういう流れの中で、インデックスファンド。これは1971年~1973年ごろに、インデックス運用の原型みたいなものが出てきました。我々運用の現場では、なんか変なものが出てきたなと。そんな流れの中でジョン・ボーグルがバンガード500を出しましたが、あまり認識は高まらなかった。ところが82年8月くらいからアメリカの株価が上がりだして、それを支えたのが年金の買いです。年金マネーが一気に膨れ上がりましたので、アナリストやファンドマネージャーが足らない。そこで、コンピューターに運用してもらおう、インデックス、これはいいと一気にインデックスが膨れ上がり今日に至っています。

当然、株価も株式も大きく伸びたから、何を買ってもよかったわけです。でも我々アクティブ運用からしてみると、インデックスは、しょせんインデックスです。やっぱり玉石混交になります。ESGとかいろいろ考えたときに、我々は絶対買わないような企業も全部込み込み。そんなものに投資をして成績出して、お客さんへの責任を果たせるのか。それは我々ではあり得ない。我々は、資産形成のお手伝いをしながら良い社会を創っていく。もっと素敵な社会を子供たちのために残していくための大きな投資、運用の本来の目的に沿ったものをやっていくことが責任だからです。

ここにきて、いずれ自分は金融マーケットが大きく暴落すると思っています。インフレはきていて、金利は上昇していると結構多くの企業は金利コストの上昇に耐えられなくなってきます。利益の質です。ちゃんと経営していて利益を出している企業。それは金利が上がろうと困らない。耐えられる。ところがゼロ金利。マネーの大量供給に甘えてのほほんとしていた企業はいっぱいあります。若い企業も含めて、そういう企業は結構きつくなり、脱落するのではないですかね。

そうなった企業もインデックスは込み込みだから。自分の個人的な判断だけど、この先インデックスは10年くらい冬の時代に入るのではないのかと思っています。石ころみたいな企業がいなくなるまでは、足を引っ張る。そういうことをこれから読み込む必要があると思います。

講演では、実態経済の潤滑油である金融について、過去に遡り、繰返し起こる過剰流動性の背景と共に今後の課題について解説くださいました。

(文責 FIWA®)

Free Discussion

岡本|証券市場は面白いところです。正解が一つしかないわけではない。人によって全部違う。ところが多くの人がたった一つの正解を求めようとしてしまう。要するに投資の目的、投資家がどういう状況でどういうことを思っているのか、それによって違う。正解は全部違う。それは証券市場の面白さだと思います。

流動性の話が面白いなと思いました。いろいろ金融危機が発生して、その度に流動性を増やさないといけない。「グローバルなクライシスが起こると大変だ」とお金をどんどん出して緩和をする。ただ緩和したお金が設備投資に回って、生産力が高まっていくということになれば、おカネそのものが働いているわけです。それがただ単に、株を買う、不動産を買うとなると値段が上がっているだけの話なので、別に買った不動産の価値が上がっているわけではない。値段は上がっているけど価値は上がっていない。それはそのツケだと思いますよね。国の債務ばかり増えていくし、国民に対するケアも十分にできなくなってくると、すごく不満感がそれぞれの国の中で起こってきます。特にこのような情報化、ネットの社会の中では、そういうものが国境を越えてつながりやすくなっていきます。知らない間に複雑な環境になってきてしまいます。ちょっとこれからどうなっていくのかわからないですね。

澤上|いろいろなところで、行き詰っていますよね。「無理ではないの?」という。そうなればなるほど、我々個人投資家の出番ですよね。経済がなくなるわけではないです。みんなが生活しているわけですから。我々の生活を支える企業活動はなくならない。大きくなった金融経済、そちらはなくなります。実態経済に対して、新たに再認識をすることが起こります。我々の出番です。金融経済の方は大変な思いをするだけです。右往左往する。

参加者|私の周りの多くの同僚が「とにかくNISAとか資産形成をやったほうがいいのではないのか?」という空気は確かに高まっているとすごく感じます。でも、実際、商品をという人はなかなか少ない。追い風が吹いているときに独立系の澤上さんたちは、大多数のマジョリティーの初心者の人たちに、どのように情報発信をしていくのか。逆に来たい人たちに来てほしいというスタンスなのか。

澤上|それは我々の長期的な戦略です。さわかみファンドは地味に営業をやっていて、24年間で4.6%で回っていますよ。運用の中身は実態経済の中で地味な会社ばかりです。GAFAとかは入っていない。実体経済から一歩も離れない運用をしているわけです。その中で金融がガタガタに崩れていくときに、買ったものが売られていく。

うちもある程度下がるかもしれないけれど、無茶苦茶売られることはないよね。だってもともと買われていない銘柄がほとんどだから。そんなに負けない。他は大きく下がる。そのときに初めて、「なんで他の所は大きく下がるのに、さわかみは浮いているの?」と。浮いているのは「本物の投資だ!長期投資だ!」と、見てもらわないとわからない。違いを見てもらって一気に印象が変わります。金融機関はみんな広告とかに踊らされています。うちと、一般の企業との違いがわからない。暴落したときに初めてわかります。これを待っています。どうなるかは誰にもわからんし、「長期投資とは何なの?」安ければ買っとくしかないんだよね。でも金融機関はきらびやかに見せてしまう。普通の人はそっちに引っ張られてしまう。だから我々はマーケティングを一切やる気はない。結果がすべてだから。せいぜい「見てて!」というぐらいしかない。でも24年の実績があるからな。

岡本|やっぱり投資家それぞれのニーズがあるし、いろいろな正解がある中でね、私たちはある層のある人たちのある投資目的のために商品を提供する。それがさわかみ投信かもしれないし、グローバル投信かもしれない。いろいろなものがあると思う。それを明確にして、それを貫くことですよね。それが一番重要だと思います。

澤上|それが本当の独立系ね。

岡本|スタイルドリフトが一番まずい。

参加者|私自身が60歳近くとそこそこの年齢になってきて、年齢的に長期目的の投資としてインデックスファンドとかさわかみさんのところのアクティブファンドをやろうかなと思っているところです。10年で70歳、20年で80歳。長期保有をしていて「私の場合どうなるのかな?」とそこだけ疑問に思っています。

澤上|これは投資の本質なの。預貯金と投資の違い。預貯金は丸投げ無責任。銀行にお金を預けて、「元本安全にしてください」、「利子ちょうだい。その先は何をしてもいいですよ」、丸投げです。あなたのお金も俺のお金も大事なお金です。お金に働いてもらう。将来を作っていくことになる。増やすことが目的ではなく、お金に働いてもらうのが目的であるべき。将来、こんな世の中にしてもらいたいな。こんな世の中を子どもたちに残していきたいなと思う、意思を持ってお金に働いてもらう。

その過程でリターンが戻ってくるというわけ。だんだん積み上がっていく。お金を増やすことが目的ではなくて、お金に働いてもらう。そうすると、あなたが60でも70でも80でも、死ぬまでお金に働いてもらえばいいわけ。その過程で自分の資産形成も進んでいるという考えが健全な考え。儲け、リターンばかりにいってしまっているわけ。

参加者|そういうイメージが強かったので、投資と投機の違いもよくわかっていませんでした。

澤上|自分が80まで生きたときにボロボロの社会に住みたくないよね。

参加者|未来のことを考えて、自分自身だけではなくて、将来の子どもたちや孫たちの未来のために「できることはないかな?」と思って。

澤上|それが投資です。だから、あなたの夢や思いがあっていいわけ。こうしたいとか。意思を働かせている。だからお金にずっと働いてもらうわけ。その途中で資産が増えていけばいいじゃない。このぐらいの考えが大事。儲けや成績といったら人生寂しいだろう。

参加者|そうなったら人生寂しいですね。ありがとうございます。

岡本|人類が発生してから、今日までずっとみんな少しでも安全に豊かな生活をしたいなと思い続けています。いろいろな形態を経て現在はそれを実現しているのが企業です。企業のお金は最終的にはすべての人々が出しているお金です。そのお金を活用して企業が収益を上げています。まず資産を保有します。そして、その資産を活用して収益を上げる。その収益の一部を配当金として投資家に支払います。

残りの部分は企業の中に内部留保として留めておいて、それをまた活用しながら、前よりもより大きい利益を出そうとする。それがずっと続いています。多分これから株式会社という制度がなくなれば別だけど、そうなったときは別の形になっているのかもしれない。いずれにしてもそれはずっと続いていく限り、企業が生み出している付加価値というものが、最終的には投資の源泉としてくるということです。

たいして興味もなければ、勉強もしない膨大な人数の人たちがいます。そういう人たちは、「わからなければ全世界の株式会社をまとめて買っておきなさい。そういう会社が我々の生活が良くなるために働いてくれているんだよ」ということで、まず第1歩をそこで踏み出しなさい。全部持っていれば新しい会社もそこに加わってきます。例えば、インドがすごく成長すればインドの比率がインデックスファンドでも自然に増えていきます。それも一つ。

また澤上さんのように、眼力の問題があると思います。澤上さんという人、もしくはさわかみ投信という会社の一つの思想に基づいてそれに則った企業を選んで投資をしていく。それに共感した人たちがそれを買う。それも投資の中の重要な一つだと思います。

何がいいとか何がだめだとかそういうことではなくて、自分が求めているものを考えてみて、それに合ったものを選ぶということだと思います。でも何もしないというのはまずいのではないでしょうか。それが本人の決定であれば、そうしてもらえばいいでしょう。

ただやはり、今もらっている給料を今全部使っていると、必ず将来困ります。お金をとっておかないといけない。でもたくさんとっておくと今の生活が苦しくなってしまう。といって何もしないと将来の生活が苦しくなってしまう。それであれば今の生活の中である程度生活水準を維持しつつ、将来のためにいかに増やしていくのか。その増やしていく手段としてもいろいろあります。投資というものが実は我々の人生の中で非常に重要な側面であるということを多くの人に知ってもらいたいなと思います。大変有益なお話をありがとうございました。

(文責 FIWA)