【Vol.249】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演1)

近時の相続関連法関連の改正ポイント&終のデザインを4つのマトリクスで考える

講演 
Consulting Office桑瀬
桑瀬登起子(司法書士/FP/宅建士)
レポーター 赤堀 薫里

桑瀬 登起子氏プロフィール

Kuwase san

一般会社(広告関係)勤務後、海外渡航(フランス)。帰国後、勘違いから全く異分野の法律系に転身。司法書士資格を取得し2006年から当該業務に従事。
専門職後見人の経験も踏まえ、終活と呼ばれる人生の最後の準備を、より主体的に自分でデザインする「終(つい)のデザイン」と捉えなおし、顧客と“ともに”検討するスタイルで、贈与・遺言、相続の支援業務を、日本国内及び日仏間の国際相続を含めて展開中。
法律面+おカネの観点から「終(つい)のデザイン」のサポートも実施中。

【仕事のモットー】
「ご縁」を大事に、第一に。
地道にコツコツと専門的な知識を深め、独創的に活かし、顧客のしあわせを一緒に探求する。

【執筆等】
「終(つい)のデザインのススメ~己の最後を決めるための日本における相続・遺言の基礎知識」とのタイトルで、在仏日本人会会報Journal Japon(隔月発行)に2014年以降執筆連載中。
「ケースブック渉外相続登記の実務」(2020.5民事法研究会発行)のフランス人の相続部分を執筆担当。


『相続』の大事な点が変更になっていることをご存知ですか?人生100年時代。2019年くらいから民法、相続法関係が改正になっています。ただ、相続といっても亡くなってからの話です。でもその前に考えることや、やることはたくさんあります。主体的に自分事として終のデザインをしていくということをどうすればいいのか。それが講演者である私の問題定義です。

人生100年時代でもまだまだ皆さん何か対策しようということにはなっていません。それは資産形成やお金の話も一緒です。お金の話と死ぬ話はしたくない話だと思います。でもまさにそここそしなくてはいけないのではないのか。それが私たちのやることではないのかと思っています。

相続に関する法律の改正や民法の改正に絞って見てみます。

『配偶者居住権の新設』『遺言制度に関する見直し』『遺産分割等に関する見直し』『遺言執行者権限等の明確化』『遺留分制度に関する見直し』『相続登記の義務化』『相続した土地の放棄制度がスタートします』と、結構あります。

2020年4月からスタートの『配偶者居住権』は、まだあまり普及していませんが、実務的には、ぼちぼち使われ始めています。フランスの制度を参考に作られました。夫婦がいて、大体、日本の場合、不動産はお父さん名義です。お父さんが先に亡くなってしまうと、お母さんが一人になってしまう。子供がいなく、ご主人の兄弟相続になってしまうと、その時にあまりお金がなくてお家だけだと追い出されてしまうということが頻発していました。

それを何とかできないのか。日本の場合、所有権は一つですが、それを配偶者のみに対して設定できる、住めるだけの権利を作りました。

これを作ったのはいいのですが、フランスの制度は、もっと年金化できる制度で、それを第3者に売買できます。しかし、日本の制度はそのようにできていない。なかなかマーケットに乗りにくいのではないのか。この制度に対してほぼ検討が終わった時から注目をしていました。税務的には多少優遇があり、この居住権を設定することで、相続税が多少下がるので、それを進める税理士の先生方がいます。しかし、これを実際に設定した場合、何かの拍子で入院、病気、脳梗塞とかになってしまい施設に入り、意思表示ができないということになった場合、この配偶者居住権を換金することは、結構ハードルが高い。今後、これがどのようになっていくのか、注目していかなくてはいけない。あまりうまくいかないと多分制度は多少変わっていくと個人的に思っています。

暦年贈与の税制も年明け改正。毎年110万円ずつ贈与できるという仕組みがあります。110万円以下だと税金が掛からない。これは改正で、相続の財産に上乗せされてしまうと決まってスタートします。相続税は取れるところからどんどん取っていこうというのが、国の方針だという感じではあります。

手始めに、遺言の必要性がアップという予感がします。まず所有者不明の土地が九州ほどの土地の面積だという事実。また高齢化の進展。登録義務がなく放置された土地が増加、北海道ほどの面積規模になるかも。これに対して、相続登記を義務化したら何とかなるだろうと来年から始まります。相続登記を義務化したからといっても、相続人が皆で話し合って遺産分割協議ができるとは限らないです。やはり、持っている人がちゃんと決めなくてはいけないのではないのか。そこで大相続時代のニュ―スタンダードということで、ちゃんと遺言で決めるのがいろいろな意味でいいのではないのか。手続きの簡便化もありますし、争続にならないためにもそうしたらどうでしょうか。

全体を見てもらい、俯瞰して考えましょう。後見制度についても検討しておき、お子さんが統合失調症や、ニート等で心配されている方もいっぱいいます。その場合、早めに手を打っておきましょう。ただ、いろいろな事をやっていても全てがどうにかなるわけではありません。家族信託も、家族内で誰かに預けておくということはできますが、やはり想定外が起こります。

遺言もそうですが、「完璧な対策はない!」と心得ることがいいでしょう。どんなに費用とお金を掛けても人生100年時代なので、想定外は起こります。あまり深刻になりすぎず、俯瞰的に検討して備えることがいいと思います。お金の話や相続の話をフランクに話せるという周りの環境も大切です。話をすることで、他の人が知っている専門家が良かったとか、自分は分からないけれど、この人であれば、こういう人を知っているかもしれないということがあります。そういう意味でも関係ない人といっぱいつながっていることが一番大事なのではないのかなというのが、相続に関わっている専門家としての私個人の意見です。

講演では、『相続』に関する法律改正点について、遺言作成にあたっての心得や、遺言作成時のキーワードの説明。最後に終のデザインの方法を4つのマトリクスを使いわかりやすく解説いただきました。


フリーディスカッション

参加者|子供のいない叔父叔母の遺言書を作るところから弁護士に入ってもらい、ずっとサポートしてもらいました。去年両方亡くなりました。家族信託は会計士さんから提案を受けました。でもよくメリットが分からない。私は投資信託をずっとやってきたので、投資信託の信託財産管理という、割とかっちりとしたスキームは分かりますが、家族信託はそこからものすごく違うものなので、信託という言葉に安心を感じてしまう割には意味が分からずメリットがわからないままです。どうしても家族信託が必要な場合はどんなケースがあり得ますか?

桑瀬|正直、メリットが何か私も分かりません。デメリットは、後見は公的機関が監督しますが、公的機関が関わらない。誰かがきちっと監督するという機関がないというのは、あまり安全ではないと思います。多分普通の投資信託は、金融庁が監督しますよね。家族信託は家族ですから。今そこに商売のネタとして、公的な監督がないから、税理士さんの一部や弁護士さん等が外部からサポートすることが重要だ。顧問みたいにフィーを取る、『相談が必要なんだよ』ということを言っている、という話です。ただ、2代、3代にわたって承継したいということは遺言ではできません。例えば一回目の受益者を自分にしておいて、自分が死んだら奥さん、奥さんが死んだら子どもということは、遺言ではできません。奥さんにあげて、子供にあげるという順番であげたいときは、どうしても家族信託が有効だと思います。ただ、税務のメリットは何もありません。その指定がかっちりできることが家族信託の最大のメリットだと思います。それ以外はそんなにメリットあるのかな?というのが正直なところです。

参加者|すごく納得がいきました。相談を受けていたお子さんはダウン症で、その次にどうやってつなげていくのかというとき、つまり世代を超える場合に案として出てきました。何となく続きそうなイメージもあるけれど、でも不安。だから出てくるんですね。

桑瀬|2代の承継ができないので、それができるというのが最大のメリットですかね。契約者には入れなくてもいいです。例えば、ダウン症の方が契約当事者になる必要はないので。贈与だと、どうしてもあげる、もらうという意思表示が必要になります。でもそれはいらなくて、受益者設定をしておけば、自動でお母さんが亡くなれば次はダウン症の子、ダウン症の子が亡くなれば、お姉さんや誰か、のように順々にできます。

参加者|ありがとうございます。

参加者|地方にいると、皆さん今だとYouTubeで情報を得て、それに基づいて新NISAをやってみたいというケースが多いです。その中でそもそも運用をやった方がいいのか、やらない方がいいのかということを言っている人が多く、その辺りをどのように説明すればいいのかということをお伺いしたいです。

岡本|それはすごく重要ですよね。なぜやるのかということを知らないと。やっぱりやらなくてはだめなんだということに対して確信を持っていないと、やろうとしても後はゲームみたいな感覚や投機になってしまいます。

結局、今もらっている給料は、今の生活費と退職後の生活費の両方なわけです。でも今もらっている給料の半分で生活をして残りの半分を退職後に使おうとすると、生涯貧乏で暮らさなくてはいけなくなってしまう。といって今、全部使ってしまったら退職した後が、ものすごく悲惨なことになってしまう。ということで、72の法則を思い出してください。仮に2%で36年運用した場合、資産は倍になります。今、100給料をもらっているのであれば、そのうちの30を2%で36年回す。30歳の人が66歳になる。そうすると30が60になる。それに退職金や年金、若干働くということを乗せていくと、生涯だいたい70ぐらいで生活をしていくことができる。大ざっぱに言えばそういう話です。

だから、お金の一部を少しずつでも増やしていかないといけないのです。それは何も売ったり買ったりして、今日はいくら儲かった、明日は損した。という話ではなくて、私の場合は、グローバルな株式インデックスファンドでコストの安いものをずっと積み立てて相場が上がろうが下がろうがやめないでずっと続けるということしかないと思っています。売ったり買ったりして、毎回当て続けることはできない。個別銘柄で好きな銘柄を持つということはいいことですが、それは別のものとして考えてやるべきだと思います。大事なことは、コアになる部分で生活を支えるようにする。YouTubeのみんなのお金のチャンネルでDIY資産運用講座を、月に一回ずつ出しています。その第1回でその辺の詳しい説明をしています。見てください。

参加者|家族信託はかなり法律的によく分かったプロと、税務的にすごくよく分かっている契約ではないと心配です。家族信託専門の弁護士さんや税理士さんに聞くと、FPさんがかなり参入していて、契約書を見ると、法律的にやばいとか、税理士さんの専門家に聞くと、この家族信託の契約書だと税務的に後でトラブルが起きるという契約がかなりあると。そんな話も聞きます。桑瀬さんのような法の専門家や、税理士さんのよう税務の専門家がやっている分にはいいのですが、大体資産の1%くらいの報酬が取れることが多いので、1億円あれば100万円と、そこそこ報酬が取れます。FPさんにもよりますが、この人あんまり分かっていないなという人が、いっぱい家族信託の契約を取っています。将来トラブルになるのではないのかと心配していますが、そんなリスクはないでしょうか。

桑瀬|私はまあまあ家族信託に詳しい方です。それでも業務で顧問弁護士をつけていますが、そこの弁護士事務所の中に、家族信託に詳しい弁護士の先生がいるので、按分を作ったときは必ずドラフトを見てもらい、必ず公証役場で作成するということをマストにしています。公認会計士上がりの税理士で、すごく家族信託に詳しい先生に危ないと思うところは事前に相談をしています。そんなことをしている人は多分少ないでしょう。恐らくいろいろな判例はぼちぼち出ています。とある都内の公証人の先生と話をしていて、『家族信託を私はまんますすめられないですよね』と話をしたところ、公証人の先生も、『遺言があるのに、1億を持っていたら1億全部家族信託に入れる必要はないんですよね 』と。3,000万円くらい入れておき、追加信託をできるようにしておけばいいところを、1億全部入れてしまうということは、おそらく、1%の報酬が取れるからだと思います。中身を見たらボロボロものとか、ちゃんとした受託者口座を作っていないだとか、いろいろあります。不動産の登記を登記留保しているものもあります。それはフィデューシャリー・デューティーの問題もあります。そのうちいろいろなところで裁判ができるようになってくると思う、と私の顧問弁護士のトップは言っていました(笑)そういうレベルですね。私も大きな話がきても、必ず「そんなにしなくてもいいんじゃないですか?」という話をしています。

岡本|今日もありがとうございました。