【Vol.248】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

リーダーシップとビジョン

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

OkamotoKT

いわゆる証券分析という話は、『PBR、PER、利回り、ROE、売上のマージンがどうだ』『回転率がどうだ』と数量的な部分が多い。しかし、重要な部分は、一番根っこの部分にあるその企業が、どういう企業なのか、どういう体質の企業なのかを知ることだと思います。その中で重要なことはビジョンがあって、それに基づくリーダーシップが大事だと考えています。

組織があります。その一番元になるビジョンがある。そのビジョンの基にあるのは、「なんのために存在しているのか」というミッション。そこにバリュー。企業としての価値観。変わらないものがあるということ。これは企業を分析する上でも非常に重要な部分です。

これは個人にも当てはまると思います。ビジョンというのはどういう人間になりたいのか。どういう人生を送りたいのかというのがあって、それに向かって進んでいく。そこで道を誤らないように、ずっと指導していくのが価値観というか倫理観というリーダーです。そして部下は今の自分。今の自分があっちに行ったり、こっちに行ったりと、つい楽な方に行きたがる。「いやいや、そうではないんだよ」と別の自分が指導しながら最終的にビジョンに向かっていくことだと思います。もちろん人間より企業の方がずっと命は長いわけです。長い歴史、風雪に耐え続ける価値観、ミッション、ビジョン、そして組織が非常に重要であるということが、個人にとっても企業にとっても重要なポイントです。

もう一つ重要なことは、企業とは、組織とは何かということです。組織というのは、世の中の願いを実現するために生活者が組成しているものです。要は生活者がすべてです。企業があって、その企業が作り出したものを買うのが消費者です。消費者がいないと企業は成り立ちません。また、企業の中で働いている人も生活者です。働く人がいないと企業は成り立ちません。そして最後に事業をやっていくうえではお金が必要です。資本を出してくれる人が必要です。銀行から借りる。株式で資金を調達する。債券を発行する。いろいろな調達の方法がありますが、最終的には個人のお金です。銀行から借りたといっても、銀行のもとになる預金も個人の現金です。法人の預金もあるかもしれないけれど、その法人も個人が株主として所有している存在なわけです。つまり組織はすべて生活者が関わって、生活者が生活者のために組成しています。生活者全体が望むようなものにしていく。そのために存在しています。

組織には二種類あります。一つはオーケストラ型組織。これは従来の日本の組織です。指揮者がいます。これは最高責任者。この指揮者の指示に基づいて、各楽器を持っている人たちが演奏をしていく。つまり組織にはリーダーがいて、その下に取締役や部長、課長がいて、ずらっと並んでいる。リーダーが言ったことが、上意下達でだんだん下に降りていく。これは現代の競争社会の中で成功するのが非常に難しい組織だと思います。リーダーが企業にいる人たち全員の知識を集約して決定がなされていればいいけれど、実際にはリーダーの判断が占める比率は非常に大きくなってしまっている。下にいる人は、『リーダーが言っているからそれでいい!』となります。いろいろ不祥事が起こっても、そういうところに問題があるのではないのかと思います。

もう一つは、このリーダーが世界に通用するような本当にすごい人なのかというと、必ずしもそうとも言えない人がたくさんいます。やはり、集団としての智恵が活かされていかない限り、今の世の中ではなかなか勝ち抜いていけないのではないでしょうか。伝統的な日本のリーダーのイメージは組織の頂点に立つ特別のカリスマ的な人物である。すごい人なんだと。その人についていけば、人々を連れて約束の地に導いてくれる。責任と役割をリーダーが持っている。

これからの本当に必要なリーダーシップとは、ジャズコンボ型の組織です。全員が一緒になって音楽を作っていきます。どういう音楽にしたいのかという基本的な理念は共有しています。例えば、大まかなコード進行はみんなで事前に打合せして決めているわけです。それぞれの楽器をそれぞれの担当者がその枠の中で自由に演奏する。そして全体として目的とする良い音楽を作っていく。それぞれが技量や才能を発揮しながら最終的な目標に向かって進んでいく。これがジャズコンボ型組織です。

ピラミッド型やオーケストラ型とは、かなり大きな違いがあります。いろいろな人がたくさんいて、みんながお互いに関わり合いを持っている。それぞれの人や自分が向かっていく方向。会社のビジョンに向かって自分がどのように行動をとっていくべきなのかを理解して、そこに向かって進んでいく。それがいい組織であるということです。 講演はリーダーシップ・モデルの比較をしながら究極のリーダーシップについて解説いただきました。また、最後に日本のリーダーシップが十分に機能しているのか疑問を呈していました。