【Vol.247】FIWA認定会員 投稿コーナー

身近な生活困窮:住宅ローン

寄稿:志甫 真由美 CFP, FIWA®

*FIWAは金融商品の販売を行わないアドバイザーに与えられる称号です


プロフィール

志甫さん

地方銀行に13年勤務。銀行員時代の最後の4年間は、融資業務に携わり、 家族の笑顔のために建てた住宅のローン返済の重荷から家族が崩壊する場面を度々目にしてきた。お金を借りる前に家計管理を学ぶことの大切さを実感し、2012年にファイナンシャル・プランナーとして独立。現在は、行政機関との協働で生活困窮者相談の他、一般の方を対象とした資産運用相談まで、様々な職種の方々(弁護士・司法書士・行政書士・不動産会社など)と連携しながら、幅広く家計管理のアドバイスを行っている。福島県在住 中学生の母。

【身近な生活困窮:住宅ローン】

 子供が生まれ家族のために、家を建てようと考えている方も多いと思います。ハウジングメーカーや金融機関では、「若いうちであれば大きなお金を借りることができますよ。」「今のうちに家を建てれば、老後は安心ですよ。」と言葉巧みに声をかけてきます。本当にそうでしょうか。

 平成27年4月に生活困窮者自立支援制度が成立してから、日々の生活に困っている方が行政で家計相談可能な状況が整ってきています。「生活困窮」なんて自分に関係ないと思っていませんか?今回は、住宅ローンをきっかけに生活困窮となりご相談となった事例をご紹介していきます。

≪ 事 例 ≫

収入が支出を上回り、カードローンの借り入れを繰り返すことで日々をしのいでいる。1日中、お金の工面を考えて生活しており、食事もままならない。

■4人世帯 月収入合計 40万円  貯蓄なし
家族収入・内容
月収25万円(第二の職場)
月収15万円
大学生(別居・生活費はアルバイト代と奨学金)
社会人(別居・奨学金返済あり)
4人世帯 月収入合計 40万円  貯蓄なし
■4人世帯 月支出合計 52万円
項    目金 額
住宅ローン12万円(年金利2.375%・延滞のため優遇金利解除)
教育ローン3万円
自動車ローン3万円
カードローン10万円(5社)
仕送り5万円(大学生)
通信費3万円(3人分)
水道光熱費3~5万円(冬季 月5万円)
食費・日用品8万円(2人分 予想)
ガソリン代2万円
保険 1万円(自動車保険含む)
4人世帯 月支出合計 52万円

■債務合計 2,000万円(住宅ローン・教育ローン・自動車ローン・カードローン)

住宅ローンの返済期間は35年という常識から、返済期間40~50年という長期返済の商品も出てきており、生涯かけてローン返済のために働くという状況を生み出しています。住宅は、15~20年程でリフォームが必要となってきます。お風呂が壊れ修理できないなど、住宅として機能していないご自宅の住宅ローンを返済しているというご相談も多く見受けられます。

住宅ローンを借りる前に、未来の生活費・教育費・自動車費用・住宅修繕費なども併せて検討していくことで借りすぎを防ぐことができます。金融機関から「借入できるお金」が、「返済可能なお金」ではありません。身の丈にあった住宅取得を目指しましょう。

【住宅取得と教育費】

住宅取得で陥りがちなことが、教育費を「公立」で考えることです。お子さんが私立高校・私立大学に入学した途端、家計が回らなくなり、教育ローンだけでは足りずカードローンにも手を付けることとなります。親御さんによっては、「早期退職の退職金」をお子さんの進学費用に充てたという方も少なくありません。

「早期退職」後の再就職の給料は、現在の3分の1以下となることも多く、借入返済がままならなくなります。また、自分のお子さんの年齢とさほど変わらない20代上司の下で働くことを想定しておくことも重要です。「大丈夫だろうと甘くみていた。」「こんなはずじゃなかった。」と資金不足だけでなく体調も崩されていきます。「子供の教育費をどうにかしなければ。」という一時の感情に流されないためにも、ライフプランをたてることお勧めいたします。

今や、教育費は大学費用・仕送りだけではありません。海外留学費用も検討してください。未来の教育費のために現在の習い事の見直しも必要かもしれません。ご家庭によっては「我が家の夢は、住宅取得!子供の教育費はかけない!」と決めることも素敵だと思います。周りに流されないことが大切ではないでしょうか。

【住宅取得後の生活困窮への対応】

「住宅ローンの返済が精一杯で貯蓄ができません。」「毎月、貯蓄をしようと考えていますが、冠婚葬祭が度々あり貯蓄ができません。」というご家庭は、住宅ローンを借りすぎています。住宅ローン返済時期に貯蓄が難しい場合、車の買い替え時に車ローンを、お子さんが進学する際は教育ローンを…とドンドン借入金が膨れ上がっていきます。そうなる前に、金融機関に早めに相談し「住宅ローン返済条件変更」を行っていくことも一つの手です。

*条件変更(例)いずれも審査あり。

  •  『毎月返済額の減額』1年間返済額を減少させる。
    (注意点)減額期間終了後、返済額が増額となります。
  • 『返済期間の延長』 返済期間35年を40年に延長し、毎月返済額を減少させる。
    (注意点)返済利息を含んだ総返済額は、増額となります。

【物価上昇と住宅ローン繰り上げ返済】

物価上昇に伴い家計が圧迫されているご家庭も多いのではないでしょうか。住宅ローンの見直しの中で「住宅ローン繰り上げ返済」という考え方も出てきますが、行動を起こす前にしっかり検討いただきたいところです。

  • 住宅ローン繰り上げ返済 → 貯蓄減少(住宅ローン残高減少)

所得倍増がままならない今、手元資金確保が最優先です。一度、減少した貯蓄を増やすには時間が必要となります。今後の生活費などと照らし合わせて検討していきましょう。

【債務整理って怖いもの?】

債務整理は、「戸籍に登録される」「銀行口座が作れなくなる」などの誤解がある方には時間をかけて説明し、しがらみ(連帯保証人あり)で債務整理を選択したくない方には、他に方法がないかを公的保障制度なども織り込みながら一緒に考えていきます。住宅を残したいお気持ちの強い方には、住宅ローンを返済しつつ、他のローンを減額するという方法(審査あり)もありますので、あきらめずにご相談ください。最終的には、弁護士や司法書士にお願いすることとなりますが、「敷居が高い」「専門用語(自己破産・任意整理・個人再生など)がわからない」などをサポートしています。

解決方法は、家計によりさまざまです。一人で悩まず、相談してください。借金地獄から抜け出し、余裕を持った生活を送ることができるようアドバイスしています。収入・支出・借入・運用のバランスを整え、心豊かな未来を応援していきます。