【Vol.246】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

ある外資系資産運用会社の経営とビジネス戦略~個人的体験談~

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

ある外資系資産運用会社の経営とビジネス戦略~個人的体験談~

OkamotoKT

今日のお話は2つあります。ひとつはアメリカでインデックス運用がどのように誕生してどのように成長したのかその過程。その推進役になったのがBGIという会社です。2番目は、その会社で私がどんな体験をしたのか、ビジネス戦略や経営戦略、人事政策についてのお話です。

BGIという会社の母体はウェルズ・ファーゴ銀行という銀行で、ウェルズさんとファーゴさんの二人が1852年、カリフォルニアのサンフランシスコに設立しました。郵便、輸送、金融事業をはじめ、のちにアメリカンエクスプレスも創業しています。カリフォルニアという気候の豊かな所でさまざまなイノベーションを行い、その延長線上でインデックス運用が始まりました。

インデックスファンドというと、バンガードが第一号だと思われがちですが、バンガードのインデックスファンドは正確には個人投資家向けのミューチュアルファンドとしての第一号です。インデックス運用そのものはウェルズ・ファーゴが1971年に初めて行いました。

背景として50年くらいからポートフォリオ理論が進化し、そのコンセプトの中でマーケットポートフォリオというコンセプトが出てきます。これは要するに株式や債券、あらゆる投資対象を一つの投資対象と考えたときに、それがどういう位置づけになるのかという研究が始まったのです。

でも、そのような指数は実際にはないわけです。そこで規模も大きく、流動性も豊かな株式市場をマーケットポートフォリオの代わりにしようというところから株式インデックスに連動するような運用、いわゆるパッシブ運用のコンセプトが出てきました。60年代になると、運用なきポートフォリオという論文までが出てきています。しかし、それが実現するためには1971年までかかりました。

Capital Ideas

「証券投資の思想革命」は大変素晴らしい本です。この第12章に「星座」という章があり、そこにウェルズ・ファーゴ・インベストメント・アドバイザーズの開発の過程が、非常に細かく書いてあります。

1970年にカバンの会社として有名なサムソナイトの年金の担当者が最新の投資理論に興味を持ちます。そこで学会ともつながりの深かったウェルズ・ファーゴ銀行にアプローチをしてきます。

何でも新しいことを始めるのは大変で、このときも苦労の連続でしたが、ともかく始めてのインデックス運用です。この当時はベンチマークにニューヨーク取引所指数が使われました。この指数は全銘柄を等金額で保有するというものでした。IBMやGMのような大企業も小さなベンチャー企業も全部等金額で買う。

しかもシステムトレードもなかった時代でしたので、一枚ずつ全部伝票を書いて、箱に入れてトレーダーのところに運んでいました。この箱は靴を買う時に店が入れてくれる箱だったので、シューズボックストレードと呼ばれていたそうでした。

全銘柄等金額の困難から、時価総額加重のS&P500をベンチマークにするのがいいだろうということになりました。このように一つずつ問題を解決しながら実際に進んでいきます。初のインデックス運用を開始したすぐ後にオイルショックが起こります。株式市場は暴落します。

市場全体が暴落しているのであれば個別銘柄を選んで売買をするアクティブがいいと思われがちでしたが、実際に結果を見ると、インデックスのほうが成績は良かった。アクティブは下がっているマーケットの中で少しでもいいパフォーマンスを上げようと頻繁に売買をする。競争もある。コストも高い。

結局パフォーマンスはインデックスにほとんど勝てていなかったということが分かってきました。そういう中で、チャールズ・エリスの「敗者のゲーム論」、ウィリアム・シャープの「アクティブ投資の算術論」など、いろいろな考え方が紹介されるようになりました。

もう一つ大きな問題点として、「インデックス運用は運用者の忠実義務違反になるのではないのか。持っている銘柄は良い銘柄も悪い銘柄も一定の基準で全部持つ。これは年金基金の資産に、あまり好ましくない会社まで入っていることになる。運用者が良い銘柄を選ぶという義務を果たしていない。忠実義務違反になるのではないのか」ということを、当局が言い始めました。

これも非常に大きな問題でした。しかし、学会からのサポートもあり「いかにインデックスが最終的に投資家のために良いのか」ということが広まっていきました。このようにいろいろな課題を少しずつ乗り越えていったのです。

年金の運用は、州法によって規制されていました。1980年代に入って、州法が次々に改正されて、インデックス運用が忠実義務に沿った運用であり、かつ受託者にも年金の受給者にもコスト削減によって、非常に大きなメリットがあるということが認知されるようになり、本格的な年金運用革命が起こります。

講演では、BGIを例にとり、運用革命を可能にした変革の説明、インデックス運用の進化についてと、顧客層と運用形態の変化の解説。後半では、外資系資産運用会社に転職して体験した、日本とは全く異なる経営手法やビジネス戦略について大変興味深いお話をしてくださいました。