【Vol.246】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

鎌倉投信の未来像を語る~意志あるお金のつながりから生まれる社会創発への挑戦~

講演:鎌田 恭幸氏
レポーター:赤堀 薫里

鎌田 恭幸氏 プロフィール

Kamata

鎌倉投信株式会社 代表取締役社長
島根県大田市生まれ。大学卒業後、日系・外資系信託銀行を通じて35年にわたり資産運用業務に携わる。

2008年11月 鎌倉投信(株)設立し、代表取締役社長として経営全体を統括。独自の視点で「いい会社」に投資し、その発展・成長を応援することを通じて「投資家の資産形成と社会の持続的発展の実現」を目指している。

2010年3月、主として上場企業の株式を投資対象とした公募型の投資信託「結い2101」の運用・販売(直販のみ)を開始。2021年3月、これからの社会を創発する可能性秘めたスタートアップを支援する有限責任投資事業組合「創発の莟」(私募)の運用・販売を開始。両ファンドを通じて、社員数人のスタートアップから上場企業まで、幅広いステージの会社を応援できる資産運用業務を展開している。

(書籍・メディア紹介等)

「日本で一番投資したい会社」鎌田恭幸著(アチーブメント出版)
「21世紀をつくる人を幸せにする会社」共著(ディスカヴァー21)
2011年8月テレビ東京系列「ガイアの夜明け」等


鎌倉投信では経営理念を「志」という言い方をします。「3つの和」を育む運用会社でありたいという考えを持っています。お金や投資は、いろいろなものにつながっていく、良くも悪くも非常に便利なものです。金融が本来担うべき、お金の循環を通じてよりよい社会がつながっていく金融の在り方を目指していこうと考えています。金融が大きな力を持って経済社会を動かしていくというよりも、経済社会を豊かにする水脈のような立場でより良いものをつないでいく。結果として社会も個人のお客様を豊かに反映していく。これは、私たちが目指している理想像です。

そういう観点で実現したいことは、お客様の経済的な豊かさは、運用会社として、一つの経済の機能的な役割になります。同時にいい会社の発展成長を応援することで、社会の持続性を高めながらその実感を多くのお客さまとともに、感じ合う、喜びを分かち合うところまで取り組んでいこうとしています。そこは、通常の運用会社さんが、銀行、証券会社を販路として使うこととは一線を画して、私たちはお客様との対話を大事にしたいという思いで、直販を継続しています。それによってお客様とのつながりと、投資先とのつながり、さらにはお客様と投資先とのつながりも丁寧に育んでいこうとしている会社です。

投資の哲学が、投資は『まごころ』であり金融は『まごころ』の循環であるということを謳っています。投資方針は、事業性と社会性を兼ね備える『いい会社』に投資をする。極めて当たり前のことです。いい会社をしっかり見定めていくということと、お金を丁寧に、心を込めて預かっていく、循環させていく。そのような哲学を持っています。

どういう視点でいい会社に投資をするのか。13年前ですと『いい会社』というと『何それ?』と割と抽象的な言葉ではあるのと同時に、会社が持つ社会性みたいなものを前面に打ち出すごく一部のSRIファンドがありました。少なくとも10年前は、今のようにESG、SDGsと当たり前にいわれるような世界ではありませんでした。そういう中で、いい会社とはどのような会社なのか、私たちなりに十数年積み上げてきて、整備したコンセプトになります。

社会を豊かにする。特に日本は、今、社会課題を抱えている国です。本業を通じて本当に社会に貢献しようと努力している会社が一つ目の価値基準。二つ目の価値基準は個性です。何をしようとしている会社なのかという、個性が立っている会社なのかどうか。最後は持続性です。会社が存続することによって、その事業の価値が増大していくので、続ける力がなくてはならない。

特にここ5年見ても、コロナや、ロシアのウクライナ侵攻があったり、物価が上昇して金利が上がり始めてきたりとか、大きな社会変化、経済変化が起きています。その中においても組織が、環境変化に順応して持続的に成長し続けるのかどうかが重要なポイントです。もちろん財務的な視点も大事になります。

それと、個性価値を測る尺度として、人・共生・匠という3つの評価軸を持っています。人を活かせる会社、循環型社会を創る会社、独自の技術サービスを持っている会社という視点です。いわゆるESG投資と比較されることがありますが、鎌倉投信は以前から、会社は社会的価値を生み出すものだという話をしています。

ESGと、大きく異なる点が二つあります。ひとつは、一般的なESG投資にみられるような、200、300の評価項目で網羅的な評価を私たちは行いません。ペーパーテストでオールAを取るから優等生、ではないということです。ペーパーテストでオールAを取る会社よりも、実技で非常に優れたものを持っているかどうかという観点です。自分は何ができる会社であり、人なのかを重視したい。

もう一つは、徹底した現場主義で、現場調査を何度も何度もやります。一回投資をしたら売却しない。リバランス、リスク管理は行いますが、基本的には持ち切りでやります。本当にいい会社なのかを、現地にお邪魔して、社員さんや社長さんに会います。場合によっては取引先やお客様に話を聞いて、本当に実態として良さを確信持って投資をしていく。この2点が大きな違いだと思います。

経済情勢、社会情勢で良い時もあれば悪い時もある。その中でいかに、プラスに変えていく力があるのかどうか。それが個性であり持続性になります。これが、お客様のリターンの源泉であるということです。

鎌倉投信そのものは小さな運用会社ですが、関わる人たちがたくさんいます。個人の投資家もそうですが、投資先の企業、大企業、スタートアップ、都市圏、地域、アカデミア。これを鎌倉投信の商品やサービスを通じてつなげていくことによって、社会価値を多くの人と共に作っていくことに挑戦できたらいいなと思っております。

講演では、創業のいきさつや、創業にかける熱い想いをお話いただきました。また後半では、「社会創発」をテーマとしたスタートアップに投資をする「創発の莟」設立の背景や、創業13年を振り返り、今後の未来像を語っていただきました。

(文責 FIWA)

フリー・ディスカッション

岡本|規模を目標にするわけではないでしょうけど、こういうファンドを多くの人に知ってもらい、そのファンドに参加することで、株主として世の中に対しての当事者意識が少しでも生まれてくれたらいいなと思います。厳選された企業を見つけるために、最初に注目する要素はどんなところにありますか?

鎌田|トップダウン的な目線とボトムアップ的な目線とありますが、いろいろな会社を探すときに、まず私たちが 意識するところは、「社会価値をどこで生み出すのか?」という点です。通常の運用の場合、例えば、産業分野が一つの着眼点になります。これからどのような産業分野が伸びていくのかとか。例えば、自動車という産業分野の中でどこの株価が安いのか相対比較をするのかもしれません。

しかし私たちは業種という区分ではなくて、社会課題という領域を10幾つか見ています。そういうところで「特長がある会社がないのかな?」という目線が一つです。ボトムアップのところでは、それぞれの会社がやろうとしている経営理念や、ビジョン、ミッションがあると思います。コアバリューが何なのか。会社の理念に沿った会社の強さはどこなのかということは、外さずに見に行きます。優先順位はあると思いますが、会社が何をやろうとしていて、それをやるための強さはどこにあるのか?というところが大事なポイントになると思います。

岡本|企業理念は、ビジョン、コアバリューの部分。それが一番重要な部分であって、それが長い歴史の中で、どのように生かされてきているのか。例えば、明治維新や戦後のように大きな変動があったときにコアバリューを守りながらどのように企業が対応したのかが大事だと思います。

鎌田|おっしゃるとおりです。経営理念に紐づいたコアバリュー。自分たちが何をやろうとしている会社なのかというのがないと、変化に対応できません。もう一つあるのは、大きな経済情勢があったときに、耐久力、粘りの源泉になるのが理念だと思います。存在目的がはっきりしていると足腰が強いというのは一つ。もう一つは、自分たちの会社の商品、サービスの提供価値が何かということが、今問われていると思います。例えば、トヨタ自動車では、数年前に豊田章夫さんが、「自分たちは、もはや車を作る会社ではない」と言いました。単に移動手段としての車をつくる会社から、車を通じて社会にどんな価値を提供していくのかを考えるモビリティーカンパニーにならなくてはいけない。つまり価値提供の概念を変えていくわけです。今、日本は単なるモノ、サービスは広く行き渡っているわけです。金融機関もそうですが、自分たちの商品、サービスを通じて実際に何を提供しようとしているのか、その広がりや、解釈の幅がすごく変わってきていると思います。

そういう意味で、改めて自分たちの経営理念や存在目的を問い直されているのが、今の状況なのではないかと思います。

岡本|BGI(バークレイズ・グローバル・インベスターズ、現ブラックロック)でも、昔はインデックス運用という会社だったのが、だんだん資産運用の素材提供会社に変わってきている。年金基金向けだったのが、個人向けに変わってきている。やっていることは同じでも概念が変わってきている。スポーツシューズの会社がファッションカンパニーになったりと、いろいろな例があると思います。コアの部分は変わらないすごくいいものがあって、それを活かしながら時代の変化にどう対応していくのか。その重要な部分が企業にとって最も重要ですね。

参加者|私が鎌倉投信の積立を始めたのは10年くらい前だと思います。きっかけは、2013年に夫が退職しまして、退職金が入ってきて、いろいろ勉強しようかな?と思っているころに鎌倉投信との出会いがあって、少しずつ積立をやっています。私の世代だとほとんど退職しているので、夫婦ともども退職金と年金で運用をしている方が多いのですが、ほとんどの方は退職金を普通預金に置いてそれを取り崩しています。もう少し投資とかの話が欲しいなと思い、岡本さんにも講演に来てもらったりしていますが、やはり投資は悪いことをしているという考えが岩盤のように硬いですね(笑)。岩盤のように投資は悪いことだと思っている理由はどうでしょうか。

岡本|面白いのは、アメリカは今、個人の金融資産の中で株式の比率が50%くらいだと言われています。日本は、10%以下とよく言われます。それでは1982年当時のアメリカ個人の株式及び株式関連がどれくらいだったのか。10%前後です。今の日本と同じくらいです。1982年から40年くらいたって、今の状態のようになりました。

一般国民の金融リテラシーの問題もありますが、企業が変わってきています。私は日本人が株式投資をあまりやらないのは、企業に魅力がないからだと単純に思っています。本当に企業が、株主が出しているお金に責任感を持ってきちんとしたことをやって収益を上げてくれるのであれば、ほっといても増えていくと思います。それがないとは言いませんが、それが非常に大きな理由ではないかと思います。無理やり「貯蓄から投資へ」と言っても、結局投資への行き先がアメリカへ行ってしまうという話になってしまいます。一番大事なことは「貯蓄から投資へ」ということは、企業に対してこそ言う言葉です。企業も、上げた利益を貯蓄にしないで投資へ回してくれと。それが進むことによって、個人も「貯蓄から投資へ」という動きになっていくのではないでしょうか。

鎌田|日本の東証の市場改革は非常に中途半端なものになっています。アメリカのS&P指数がどうしてあれだけ上がるのかというと、確かに企業の努力もあるし、入れ替えも結構あります。しかし、忘れてはいけないのは、海外の市場区分は、ダメな会社は落としていくということです。

日本みたいにPBR1倍割れが半分もある。つまり成長しない会社が市場に残っているとお客様のお金も増えないわけです。そういう面で投資の魅力を高める源泉は企業の成長意欲だし、数字を目的化することは本末転倒になりますが、社会をいかに豊かにするとか、経済をどのように活性化にするのか、その原動力となる企業そのものの成長意欲のないところを市場に上げてしまうと、なかなか投資家も満足できないので、海外に流れていってしまう。それは本質的なところだと思います。

参加者|企業を選ぶときに価値や経営理念の判断をすることは非常に難しい。ほとんどの企業が社会の貢献のためにやっていると言います。本当かどうかは直接会って話して、その人が感じ取るようにしないと、なかなか判断しにくいと思います。企業を見る面では、それだけではないと思います。底流的な数値の価値判断も加味して判断しなくてはいけない。また、価値があることをみんなが気づかない時に買っているから、バークシャーは資産が増えています。それだけ見ずに、底流的な判断を含めてどのように考えているのかということをお聞きしたいです。

鎌田|底流面でいうと、財務的な数字に表れるキャッシュを生みだす力。稼いでいく力は一面ですごく重要です。いわゆるキャッシュポイントがどこにあるのか、マーケットと同時にそれを生み出す仕組み、社内における強さがどこにあるのかを探っていきます。今の時点の強みももちろんあります。環境の変化の中で、それを生み出し続けられることができるだけの企業風土があるのか見なくてはならない。

数字は見ますが、どちらかというと、その数字の裏側にある、数字を生み出す力がどこにあるのかという視点が強いと思います。経営理念を見るのも結局は数字につながっていく世界です。そこにぶれがないことを確認することが一つ。株価という数字の捉え方は、株価が高すぎると投資のタイミングをずらすということはあります。買いたいけれど、今は買えないよね。

投資信託の良さでいうと、満期がないので急いで買わなくてもいい。それとお金が基本的に入ってくるので、投資のタイミングを分散させることができる。個人で買う場合は単位株を一度で買わなくてはいけないと思いますが、投資信託はある程度ロットがありますので、一度に買うのではなくて、時間分散ができます。そういう観点でのリスクコントロールがしやすいというのは、集合ファンドの良さでしょう。

うちの会社の投資先は全部公開しているので、結いの投資先を見て個人投資家が自分でポートフォリオを作る方もいらっしゃいました。おそらく結果は全然違うと思います。それは投資の継続性とキャッシュの流入の頻度に応じて投資タイミングを分散化できるとか、投資先を70社くらい上手く組み合わせることができるという観点からいうと、同じ投資先であっても、個別株投資との結果は、タイミング等で結果は変わってきます。その辺りはファンドの方がやりやすさはあるのかなと思います。

岡本|今日もありがとうございました。これからもみんなのためになる良い投信を育ててください。

(文責 FIWA)