【Vol.246】FIWA認定会員 投稿コーナー

5月12日開催 第63回FIWA®サムライズスペシャル 「顧客本位ってなんだ」ご報告 その1

寄稿:FIWA®副理事長 岩城 みずほ

*FIWAは金融商品の販売を行わないアドバイザーに与えられる称号です


岩城みずほ

 2011年12月にスタートしたサムライズ勉強会は、初めて東京以外の地、京都QUESTION(京都市中京区)で、第63回FIWA®サムライズスペシャル「顧客本位ってなんだ」を開催しました。

今回ご登壇くださったのは、1部のご講演は共同通信社 編集委員の橋本卓典さん。橋本さんには引き続き2部のパネルにもご登壇いただきました。2部パネルは、京都信用金庫の伴龍太さん、株式会社北國銀行・株式会社FDアドバイザリーの福田雅之さん、FIWA®からは高橋忠寛と岩城みずほ、パネルのコーディネーターは日本経済新聞社 編集委員の田村正之さんです。

著書「捨てられる銀行」がシリーズ累計30万部超のベストセラーとなった共同通信社編集委員 橋本卓典氏のご講演は、緻密な取材に基づき、北國銀行、京都信用金庫がそれぞれ歩んできた変革の道を、臨場感たっぷりの大変面白いお話でした。

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パネルは「顧客本位ってなんだ」というテーマで、さらに両行の取り組みなどを伺いました。岸田内閣の「資産所得倍増プラン」の背景になりましたが、日米の家計資産には、今や大きな差が生じています。日本の金融機関はこの20年何をしてきたのかという思いがありますが、顧客本位の金融機関やアドバイザーが増えることで、きっと10年後に違った世界が見えているだろうと期待が持てる議論になったと思います。この会の開催趣旨についての私の思いは最後に記していますので、ぜひ最後までお読みください。なお、非常に面白い内容となりました今回のスペシャルセミナーを、ぜひアーカイブ動画でご覧ください。FIWA®オンライショップでお買い求めいただけます。

https://happymoney.stores.jp/items/642a319fdba437002b781a4a

当日は、ハイブリッド開催だったのですが、会場には、関西・四国在住のFIWA®のメンバーやアドバイザーリーボードの龍谷大学教授 竹中正治先生はじめ、東京からもたくさんの方がご参加くださいました。ちなみに受付はFIWA®理事の石津史子さん、総合司会はFIWA®の小屋洋一さん、写真撮影はI-OWAスタッフの赤堀薫さんです。みなさまありがとうございました。

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(1)いただいた感想、私の思い

「FIWA®の活動を知り感銘を受けました」

「独立系アドバイザーとして心から胸を張って仕事をしたいと思いました」

「アドバイス・フィーだけで食べていくのは難しいと半ば諦めていたけれど、コンサルティング・フィーだけでやってきたいという気持ちを思い出しました」

「FP資格は商品販売のツールではなく、お客様の人生を豊かにするためにあるんですよね」

今回のセミナー終了後に複数の方々からさまざまなご感想をいただきました。5月12日に開催した「第63回FIWA®サムライズスペシャル 顧客本位ってなんだ」は、大変有意義な内容でした。改めまして関係者の皆様には心より感謝申し上げます。

一方、個人的にはやや大きな話になってしまったのかもしれないと思っています。独立系アドバイザーの存在意義や顧客本位のあり方について、もっと掘り下げた議論ができればよかったと少し後悔しています。そこで、わざわざご連絡をくださった方々のお気持ちに背中を押されたこともあり、私の思いを書かせていただきます。

(2)「『アドバイス』と『販売』の明確な分離の必要性」についてさらなる議論を

私がもっと議論したかった点は2点あります。一つは「『アドバイス』と『販売』の明確な分離の必要性」についてです。

これはいつも申し上げているように、どちらが良い悪いではなく、販売者には「販売のプロ」としての仕事があり、マネープランの相談に乗ってアドバイスをする人は「アドバイスのプロ」としての仕事があります。「販売者」と「アドバイザー」は別の職業で、ともに職業倫理を持ってもっぱらに顧客のために働くプロフェッショナルであるべきであるということが前提です。

しかし、これに対し頂くご意見は、「自分はIFA(金融商品仲介業)だが、一点の曇りもなく顧客本位で仕事をしている。特に初心者が資産形成に一歩を踏み出そうとするとき、自分たちの役割は大きい。顧客の資産を増やすためのアドバイスに相応の対価をもらっているのだから問題はないのではないか。今の日本はアドバイス(情報)にお金を払うという考えの人は少なく、ビジネスとして成り立たせるためには金融商品仲介による手数料の存在はむしろ不可欠なのではないか」というものです。

「IFA」と一括りにされていますが、顧客本位で真摯に取り組まれている方がたくさんいるのはもちろん承知しています。残念ながら一部のそうではない人の所為でご苦労されていることも。

でもだからこそ、明確に「販売者」と「アドバイザー」は分離する必要があると思うのです。金融商品の購入を希望する人は、顧客本位の信頼できるIFAに相談するといいでしょう。資産所得を増やすためにもっとも最善で合理的な商品を勧めてくれると思います。でも、「販売」には構造的な利益相反が生じています。ウォーレン・バフェットさんの有名な名言に「散髪が必要かどうか床屋に聞いてはいけない」の通りです。髪を切るべきかどうか悩んでいる人に、「切らない方がいい」という床屋さんはいないでしょう。だからこそ、顧客が相談する相手の立ち位置を正しく認識し、自分が求める相手を見つけられることが大切だと思うのです。自分が必要なのは「アドバイス」なのか、「金融商品の購入」なのかを選択できることが大切です。そのためには顧客自身もある程度のマネーリテラシーが必要だと思います。

「販売」と「アドバイス」の明確な分離の必要性がここにあるのだと私は思っています。

アドバイザーは、金融商品は販売せず、有料のコンサルテーションのみを行うこと(Fee Only)、アドバイスの内容がUnrestricted and unbiased(無制限で公平)であることを徹底すべきです。これについてもっと議論を深めたかったと思います。

(3)アドバイスに求められることってなんだ

もう一つは、「顧客が求めるアドバイザーとはどういうものか」についてです。これは、アドバイザーの持続可能なビジネスモデルという話にもなってくるのではないかと思います。

金融商品の販売をしないでアドバイザーとして相談業務をしている方、これから顧客本位のアドバイザーとして活躍していきたい方、金融機関等を定年退職後にこれまでの経験や知識を生かしてアドバイザーとして活躍したい方なども多いと思いますので、「顧客本位のアドバイザーがビジネスとしてやっていけるのか」という議論はいつか深掘りしたいテーマです。

金融庁の「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」(2021年6月30日)で、

「あなたの立場に立ってアドバイスし、さまざまな手続きをサポートしてくれる人がいたら、リスク性金融商品を購入したいと思うか」というアンケートに対し、20歳代で5割、30歳代で4割、全体平均では25%程度が「購入したいと思う」と回答しています。

この結果からもわかるように、消費者の知識不足を補完し、信頼できる顧客本位のアドバイザーは求められています。将来的に、知識、経験、職業倫理を有し、高いレベルでのコンサルテーションを提供できるアドバイザーは今後さらに必要とされると思います。そのために、アドバイザーは「より高度な専門的知識を有する必要」があります。

私は、「顧客本位」の目的は、「国民の長期的な資産形成を支援すること」にある。そのためには、「もっぱら顧客のために仕事をするアドバイザー」が、顧客のライフプラン・キャリアプランに沿った「価値のあるアドバイス」を提供することだと考えますし、一方、顧客も、その価値を理解し、適切なアドバイス・フィーを支払う。こうした両者の直接的関係で「独立した顧客本位のアドバイザー」という職業が確立し、国民が資産所得を増やしていくことにつながると思います。

たとえ資産残高から差し引かれるわずか1%の手数料でも、長期投資を続ける場合、最終的な資産残高に大きな差が生じます。仮に毎月3万円ずつ、期待リターン5%で30年間積立投資をした場合、最終積立額は約2,497万円になりますが、コストが1%掛かった場合は約2,082万円です。

資産運用に際し、相談者の資金が必要以上に流出をしないで済むようにしてあげることはアドバイザーの大きな使命だと思います。現行のつみたてNISAは24年から拡充され、iDeCoも法改正が進んでいます。低コストで運用できる制度は整い始めているのですから、これらを使って合理的に資産形成できるように後押ししてあげることが私たちアドバイザーの役目だと思います。

私はアドバイザーとして仕事を始めてようやく14年目ですが、「あの時、岩城さんに相談してずっと積立投資を続けてきてよかった」と仰ってくださり、「今度はリタイアメントプランの相談に乗ってください」と再び来てくださるお客様が増えてきたことで、アドバイザー冥利に尽きると嬉しく感じています。私もまだまだ勉強していかなければならないことはたくさんありますが、これがアドバイザーの仕事なのではないかと感じています。

資産運用はようやく日常になっていく、そうなりつつある今、ますます顧客本位のアドバイザーは必要になってきます。アドバイス・フィーオンリーであることは、「国民が資産所得を増やしていくこと」にとって大きな意義があると思うのです。ひいては、アドバイスでしっかりお金を頂くためには、アドバイスの質を高めていくことが重要です。

(4)5・12イベントへかけた思い

パネルの冒頭ではもっと赤裸々に述べさせていただいたのですが、なぜこのセミナーを企画したのかについて記します。一言で言えば、それは、もっと本気で「顧客本位の業務運営」について考えませんかと呼びかけたかったからです。

FIWA®は2019年12月創設以来、顧客本位の重要性を訴え続けてきました。消費者・生活者のみなさんに、顧客本位でないアドバイスやセールスが自分たちの資産形成にどれほどマイナスになるのかを知ってほしいと言い続けています。私たちのミッションは2つです。

◉真に相談者に忠実で独立したアドバイザーを育成する

◉お金に対する正しい知識を生活者に提供する投資教育を行う

私はあるきっかけがあり、2017年「捨てられる銀行2非産運用」で「世の中の役に立たずして何の金融か」と声を上げた共同通信の橋本卓典さんを尋ねました。すると、「顧客本位を標榜し実行している金融機関がある」と北國銀行、京都信金をご紹介いただき、早速ご訪問しました。両行にご協力いただき、業界を変えていきたいと思ったのです。もちろんこれはスタートに過ぎません。

繰り返しになりますが、顧客本位の目的は「国民の長期的な資産形成を支援すること」です。生活者が「顧客本位」を十分理解することで、「顧客本位のビジネスモデルを構築できない金融機関は生き残れなくなる」と思います。国民に信用されなくなるからです。私は、「顧客本位の金融機関やアドバイザー」が行っていることを、国民や企業が知り、評価されてますます成長していくことが重要だと考えます。逆に言えば、顧客のためにならないビジネスモデルは生き残れなくなると思います。「金融」は世の中の役に立つためにあるのですから。このような思いで、顧客本位についてしっかり議論を深めていきたいと思い、今回のセミナーを開催しました。たくさんの皆様にご参加いただき、また、たくさんの皆様にご協力いただき心から感謝しております。引き続き私たちFIWA®をどうぞよろしくお願い申し上げます。