【Vol.257】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

「個人投資家が個別株に投資する意義はあるか?」

つばめ投資顧問代表社員
栫井 駿介氏 氏
レポーター:赤堀 薫里

栫井 駿介 プロフィール

Kakoi

1986年鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業、 大前研一氏主宰のBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立し個人投資家の長期投資を支援する「つばめ投資顧問」を設立。
つばめ投資顧問の有料会員約800名、YouTube登録者数約12万人。
著書『年率10%を達成する!プロの「株」勉強法』ほか。


今日のテーマである、「個人投資家が個別株に投資する意義」について、普段、私がつばめ投資顧問の中で個人投資家の皆さんにアドバイスをしていますが、そこで得られた考え方を、私の観点でお話できればと思っております。

岡本さんのメルマガの中で個人投資家を4つのタイプに分けるというお話がありました。1つが富裕層、一族のような形で大きな資産を持っていらっしゃる方。2つ目は湧き金タイプと称されていましたが、退職金や相続、宝くじなどにより、まとまったお金が入った方。3つ目はマネーマニアタイプ、楽しみながら投資の知識やスキルを磨いていく個人投資家。4つ目は、生活重視タイプ。投資に興味はないが、リタイア後の将来については不安がある人。このような4つのパターンで分離されていました。

私が相手にしている皆様は、おそらくこのマネーマニアタイプの方が非常に多いのではないかと考えています。本来であれば生活重視タイプの方は一番人口も多く、こちらの方々にアドバイスをしていくことが重要であると分かりながら、このマネーマニアタイプにお話しする、株のことについて教えることはどういうことなんだろうと、その意義を深く考えるようになりました。

私が2016年に立ち上げたつばめ投資顧問という会社は、個人投資家に長期投資のアドバイスをする投資顧問です。主にオンラインで投資に興味のある方を募り、特に個別の日本株に関するディスカッションの推奨を行います。その推奨した銘柄に関するディスカッションや、投資に関するディスカッションを行う中で、そもそも長期投資をどうやっていったらいいのか教えながら、みんなでも考え一緒に成長していきましょう!というコミュニティを運営しています。

その話の中でも必ずあるテーマですが、一番言われることは「インデックスでいいんじゃないか」という話です。「結局、プロがいくら頑張ってアクティブ運用してもインデックスにかなわないじゃないか。平均するとやっぱり負けているよね」という話があります。プロのファンドマネージャーですらそうなのに、まして個人投資家がわざわざ個別株を選んでうまくいくとは思えない、というのが一つの考え方なのかもしれない。機関投資家に勝つのは難しく、リスクが非常に高いのであれば、インデックスでいいんじゃないか、ということです。

一方で、自分がいかに幸せな投資を行うかということは大事です。自ら考えて、そして学習して自分が納得できるスタイルを身につける、というのが自分の欲求からして当然のことだと思います。そして、それで自分のスタイルを確立した先には、やがては周囲の人々に知識や経験をシェアしてお金について話したり学んだりする機会が増えていくだろうと考えています。

そこから先には、株主であったり、資本主義社会の一員として長期的な視点に立った見方を伝え、より良い社会の実現に貢献する。株主として自分が投資している先にいろんなことを言うというのはもちろんなんのすが、資本主義社会の一員としてというところも非常に大事だと思っています。

例えばよくニュースであるのは、GPIFが株が下がった時に国民の年金がいくら減りましたみたいな話をします。しかし株が上がった時にいくら儲かりましたという話は全然ありません。どういうわけか日本では株が儲かる話はしません。でもそれはアンフェアだと思いますし、逆に投資家が世の中、日本に増えてくれば、そういったネガティブな話ってなんか違うよね、ということになるんじゃないかと思います。

実際に正しい長期投資、いい企業が価値を生み出すという投資のスタイルで投資する人が増えれば、それぞれの資産も増えます。例えばアメリカ式とも言うかもしれませんが、目先の四半期の利益を追うだけに集中してしまうと、ちょっと変な方向に行ってしまうと思います。それが長期的な価値を形成する、つくり出すという意味での株主資本主義社会であれば、かなり社会、人々の捉え方という観点でいい方向に流れていく。要するに、世論が変わるということになるのではないかと思っています。

そのために結局、肝になるのが、マネーマニアタイプをいかに育てるか、マネーマニアタイプの方が核となって投資を日本中に広げていけたらなと考えています。

講演では最後に「マネーマニアタイプの方が周りの方に少しでも投資の話ができる状況というのを作り上げたい。そうなれるように、私も頑張っていきますし、FIWA®ももちろんそうですが皆さんと一緒に盛りあげていきたいです!」と熱い思いを語ってくださいました。

(文責 FIWA®)

Free Discussion

岡本|私はインデックス信奉者と思われがちですが、実はそうでもありありません。生活重視型というか、それほど投資のことも知りたくもないし、時間も取りたくない。ただ、老後のことが心配だからちゃんと手を打っておきたいという人たちが膨大な数います。そういう人たちに少し支えになるものを教えてあげたらいいかなと思ってインデックスでの運用を中心に話しています。

私自身はアクティブ運用をやっていたのは15年ぐらい、それからインデックス中心の年金運用が15年でした。「とにかく全世界の株を買っておきなさい。」それは何が上がってもそれが入っているのだからいいじゃないの、というようなところに今は至り、その話をずっとしています。

アクティブの面白さ、大変さは私自身、実際かなりよくわかっていると思います。だから、その難しさを教えていくことは、すごく大事なことなのでしょう。ただ栫井さんが言うように投資のリターンとは幸福感も含めて考えていく。それは非常に正しいと思います。またそれをきっかけにして経済のことを学ぶ、社会のことを学ぶ、国際関係を学ぶ、自分の人生のことも少し考えるようになる。動機を持って投資をするということは、アクティブであれ、インデックスであれ、すごく有益だと思います。

もう一つは日本の現状を考えると、「今はインデックスばかりだから」という言い方をみんなよくしていますが、それはインデックスが多すぎるのではなくて、アクティブが少なすぎるのです。本当に深い分析による価値評価に基づいたアクティブのマネージャーがほとんどいない。だから、みんなインデックスになってしまっている。

逆に言うと、それは市場の効率性にダメージを与えて、正しい価格付けにならなくなってしまっている。やはり、アクティブが正しい価値判断をして、そういう取引を増やしていくことによって、インデックス運用というのも有効な働きをすることができるようになる。それは日本のアクティブのだらしなさだと思いますよ。インデックスが増えるということは、それだけミスプライシングが増えてきている、割安株や割高株が増えているわけです。つまりいいアクティブでやれば儲かる分野が結構あるのだろうと思います。そこを栫井さんのクラスでみんなが探し出すようなことをやってみたらすごく面白いと思いますね。とてもいい試みだと思います。

岩城|弊社にご相談に来られる方で対面証券に口座を持っていらっしゃる方、あるいは外資にお勤めの方でRSU(譲渡制限付株式ユニット)などでストックが積み上がってきている方、保有資産全体の中の個別株が1社あるいは数社の個別株が非常に多いというお客さんからご相談を受けることがあります。リタイアメントプランを考えたときに十分に分散されていないということと、例えばベータ値などで測ったときに非常にリスクが高いということが問題だと思います。やはりリタイアメントに向けてシンプル化していくということが大きな課題になります。例えばコアサテライト戦略のようなもので、コアでETFなどを持ちながらサテライトの部分で個別株を残すということにした場合、どのくらいのコアに対して何割くらいサテライト部分として個別株を持つというような考え方をされているか、栫井さんと岡本さんにお伺いしたいなと思います。

栫井|これはあくまで私の考え方ですが、割合ではないと思っています。要は莫大な資産がある中でいくらたくさん資産があっても使い切れるお金は人生で限られています。確実に使うお金は、よりディフェンシブなもの、それこそコアのところに入れる。あるいはキャッシュで持っておくという形で、まず、人生設計と常にイーブンになると思っています。そこを押さえる上で、あとは好きなものに、当然何でも適当ではありませんが、自分がいいと思うものに入れればいいのではないか、金額ではなくて実額で考えましょうという話を常にしています。そういう意味では、やはり外資で移すための方は、おそらくかなり積み上がっているので、一部だけ必要な額だけ移しましょう、でいいのではないかなと私は考えます。

岩城|あまり分散という観点ではアドバイスされないという感じですか?

栫井|そうですね。例えば、相続まで持っていく、次世代につなぐということまで考えているのであれば、その辺は考える必要があるかもしれないですが、一代ということを考えたら、墓場まで持って行けないという観点ではあまり割合では考えないということですね。

岡本|その人の投資に対する習熟度にもよりますよね。あまり知らない人だったらコアだけでサテライトは忘れていいですよ。その中で何かやってみたいというのであれば、全体の5%とか最低単位で一口、二口買ってみたらどうですかという、その程度のことだと思います。ただかなりある業界ついて非常によく知っているとか、思い入れのある会社がある、あるいは先代から相続で受け取った株があるというような特殊要因がある場合は、それはそれで考えたらいいと思います。だけど、基本的にはリタイア後のためということであればコアだけで私はいいと思います。あまり比率で何%だったらいい、何%だったら悪いという正解を求めることは、ちょっと違うと思います。それはもう相手次第ですよね

岩城|そうなんですよ。岡本さんがおっしゃるようにたいてい対面証券の方は、おそらく勧められたまま買っているような感じで、ちゃんとした理解をして買っているわけではないんですよ。そこが多分、栫井さんのところのお客さんとは違うと思います。

岡本|対面が全部悪いとは言いませんが、対面証券で勧められたものを買ってしまい、それが積み上がったポートフォリオが不適切なものであるならば、不適切であると教えることもアドバイザーの非常に大きな仕事の一つだと思います。それは人生を通じて増やしていかなければいけない資産がムダな使われかたをしている、流出していることになるので、ちゃんと指導することはこれからアドバイザーにとって本当に大事だと思います。

一つ、栫井さんにお伺いしたい質問は、最近盛んにPBR一倍割れを解消すると言われますね。何だかすごく違和感があります。PBR一倍を解消することが大事なのではなくて、ROEを向上することが大事なのであって、それによってPERのバリュエーションも改善して結果としてPBRが上がる、というのが本来あるべき姿です。しかし、PBRを上げましょう!それでは、株価を上げればいいんですね、と自社株を買い、増配する。それで数値だけ上げてみて本当に意味あるのかなと思いますが、どう思いますか?

栫井|今でもやはり市場が近視眼的なのか、今、確かに上がるのがPBR一倍割れで還元を強化したところが、半導体を除けば一番上がりますよね。

その辺はやはり市場が近視眼的だなと思います。ただ、このような動きは続かないですよね。私たちはすでにROEが高い企業に注目するのが長期的には一番望ましいと思っています。多くの企業がそうなるといいなとは思いますが、まだまだ道半ば、1合目みたいな、そんなところですかね。

岡本|要するにPBR一倍割ればかりというのは国際的にも恥だから、これを解消しろ、だから株価を上げろということになると、単に割高株が増えていくだけみたいな感じがします。やはり元になる収益率が高くなっていき、結果としてPBRが高くなるというのが一番いいことなんですよね。それは本当におっしゃる通りだと思います。今日もありがとうございました。

(文責 FIWA)