【Vol.229】FIWA®マンスリー・セミナー講演より 築地本願寺の経営改革 ~ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング~

講演: 安永 雄彦氏 レポーター: 赤堀 薫里

安永 雄彦氏

もともとお寺は人生を通じての伴走者でした。いろいろな社会経済環境の変化によって、今はお墓の管理者であり、葬儀の主催者といったように立場が限定的に落とし込められてしまいました。この状況を「人生を通じての伴走者」の地位に戻そう。いろいろなことを相談してもいいコミュニティーの中心に戻そうということが、私が今やろうとしている築地本願寺の経営改革の大きな方向性です。

私自身、自分の人生経営と企業経営は基本同じだと思っています。自分の人生の目的は何か。目標は何か。戦略、戦術、どんなノウハウ、スキルがいるのか。それを達成するために、PDCAを常にまわす。やはり振り返りが大事です。あれもこれもはできないので、優先順位を決めて、最優先事項に時間を投入する。そうこうしているうちに、志も生きがいも高まっていくのかなと思っています。

今後に向けて、不確実で不安定な時代はずっと続きますが、ものすごいスピードで起こっている環境の変化にどうやって適応していくのか。これはお寺だけではなく一般の企業も一緒です。今までやってきたことをこれからもそのままやっていれば何とかなるという時代は既に終わっています。

800年続いてきた宗教教団も何もしなければ潰れるでしょう。ですからこの時代新しい環境の中であるべき姿の見直しをしてどのようにやっていくのか。中心になる課題は新しい顧客である門信徒の創造とイノベーションしかないだろう。今までの『上から目線で何とかなる、困ったら寄付を頼めばよい』みたいなものを捨てて、門徒目線。つまり顧客目線でニーズを先取りしていくというような寺院経営に変えていかないといけない。

強いモノが生き残るのではなく、環境変化に対応したモノが生き残るというダーウィンの法則がお寺の業界でも全く適応できます。変化できないものは滅んでいくべきだろうというように考えています。「また行きたいお寺を目指して」が、スローガンです。これからも「ひらけ!!築地本願寺」を続けていき、より開かれた築地本願寺になるために、いろいろな事業をやっていきます。

自分が変えられないことや、どうしようもないことを悩み続けないことがいいのではないのかと思います。不安や人間関係の問題は嫌なものですが、不運は必要な出会いであって、そこから何か学ぶために出会っているんだと考えれば意味がある。ある程度、自分で変えられないこと、それについては文句を言わないで受け入れる。これが良い人生を送る秘訣なのではないのかと思っています。

富や幸せ。特に幸せはどうしたら幸せになるのか。一般の現代人はお金持ちになったら幸せになると仮説を持っていますけど、物質的な願望を満たすことではない。お金がないと困りますが、お金だけでは幸せにはなれない。何を欲しがり手に入れるかではなく、全く別の心の充足である人間としての価値観が大事なのです。仏教では世の中に「苦しみ」が存在すると考えます。ブッタはその「苦しみ」を減らし、人生の満足感を高める努力を説いています。これが仏教の根本です。(抜苦与楽)そういった意味では一般的な思想だと言えます。

人生いろいろありますけれど、人生はある程度、予測可能ではないかと思っています。人間の未来は今どんな努力をすれば果実を得ることができるのか、みなさんよく知っていますよね。そういった意味では自分たちの未来は現在が源になっている。これは積立の法則と全く同じです。今の自分の能力、体力、時間を何に積立て投資をしていくのかによって、将来、未来は変わっていきます。究極的には今やるべきことを十二分に今やるしかないだろうということです。また、将来予測不可能な不確実性には、あらゆる事を想定して準備しておくことで対応するしかない。年金の問題も全く同じです。自分が100まで生きたとしてもなんとかなる準備をしていくしかないだろうと思っています。

最後にコロナの時代にこころ豊かに生きる5つの条件を簡単にお話しします。

  • 第一の大前提は、自分の人生を主体的に生きると決断する。人生は思うようにならないと諦める。人生は苦なんですよ。
  • 二番目は、承認欲求を否定し、ありのままの自分を受け入れる。自らのダークサイドを理解して受け入れる。
  • 三番目は、神仏や先祖、両親、ご縁のある他者に常に感謝しよう。これはなんか宗教っぽいですね。
  • 四番目は、過去のデータは役に立たないので積極的に挑戦して失敗する。そこから学んでいこう。
  • 最後(五番目)が、『一日一生』で毎日を楽しく生ききる。あと5年しか生きられない人だったら、今の生き方をするだろうか、ということを常に自分に問い続けながら生きていく。

昨日までは当たり前だったことが、今日は当たり前ではなくなるということが現実です。私たちは大自然の前では、全く無力であることを認める。だったら、いつかやりたいとか、そのうちといった事は今やる。これが大きなミッションです。

講演では自己紹介から始まり、どうしてお坊さんになったのか、浄土真宗との関わり、人生後半で僧侶になった理由。また、宗教法人は株式会社と経営の方法は全く同じはずであり、大きな社会経済環境の変化の中で築地本願寺がどのように生き残ろうと経営改革をしてきたのかその変遷と寺院再生への提言。最後に、ここに紹介したコロナの時代、先行き不透明な時代に心豊かに自分の人生を生きていくための心に響く五つの条件についてお話しいただきました。