【Vol.228】FIWA マンスリー・セミナー講演 株価指数研究所~2016 年からの軌跡~

講演: 明治大学商学部教授 三和 裕美子氏
レポーター: 赤堀 薫里

FIWA マンスリー・セミナー講演 株価指数研究所~2016 年からの軌跡~

株価指数研究所の設立趣旨をご報告します。日本には日経平均というよく知られている指数がありますが、これは 1960 年の 4 月の株価の基準値で計算され、日経 225 銘柄を対象にされています。TOPIXは1969 年からの計算となっています。戦前、株価データを生かした株価指数がないという状況です。アメリカでは遡って、シカゴの CRSPが研究しています。

日本には一貫した指数がないのはおかしいと岡本さんからお話を聴いて、私も確かにその通りだと思いました。必要だし非常に面白い、明治大学でやってみようかなと思い 2016 年にこの研究所を設立しました。当時、平山賢一さんが短期清算取引 38 銘柄の戦前期の株価指数を作っていらっしゃったので、それに倣えばデータさえ集めればできるのではないのかと思いました。板谷さん、山口さんにもアドバイザーとして参加していただき、岡本さんが創立者、私が株価指数研究所の代表として登録させていただいています。太田達也君は現在中心となって、この株価指数研究所のデータ収集、指数作成にあたってくれています。たくさんの方のご協力を経てここまできました。

活動内容としては、戦前期、昭和前期。平山さんが行っている短期の清算取引の長期バージョンです。長期清算取引のところの株価データを中心にやっていくということで、データ収集を 2016 年 2017 年と行いました。2018 年度は、昭和期の中でだいたい集まったところで、既存の指数とどう接続をしていったらいいのかについて検討しました。株価だけでは権利落ちの月が特定できないので、株価を集めたら各企業の営業報告書を探して、そこから配当落ち、株価分割、増資の月の特定をしていくという作業を行っていきました。これは思ったより大変な作業でした。株価データのない企業や、営業報告書がない企業もありました。また、営業報告書のフォーマットがバラバラということで、配当をいつ落ちたことにするのか非常に悩ましいところでした。

昭和期、大正期と遡ればさかのぼるほど数は少なくなってきますが、データがない中で最後 2 年間、太田君が非常に頑張ってくれました。現在 1942~1945 年の株価のデータがありません。今まで使っていた資料がないので新聞から収集して、ほぼ収集し終わっています。TOPIX との接続も見えてきました。戦後の配当込みは取引所ではかなり最近からしかやっていないので、その分私たちで配当込み TOPIX を戦後から作っていかなくてはならない状況です。データ収集のリソースは『株界二十年 』『東株五十年史』をベースにしてデータ収集を行っています。増資配当修正、権利落ちの日の特定。細かい作業を経て今に至っています。

データ収集以外の活動として、研究会を行いました。9 月 8 日、日経新聞の経済教室に記事を書かせていただきました。この記事では、コーポレートガバナンス改革の一枠として書いてくれということでした。今、岸田首相が「新しい資本主義」といっているように、株主価値極大化経営ではなくて、マルチ・ステークホルダー経営へというのが一般的な世界的な流れです。その中で多くの日本の経営者の中には『そらみたことか、株主価値ではなくて、マルチ・ステークホルダーなんだ。従業員やその他のステークホルダーを大切にということ、日本的なことが見直されつつあるんだ』というようなことをおっしゃる方もいらっしゃいます。

その議論は、日本の一面しかみていません。日本の従業員や会社の共同体、メインバンク制、終身雇用は戦後の話です。戦前は、株主のリターンが非常に高かったということを、日経の経済教室の記事でも少し述べました。つまりこの大正期、昭和前期、明治期のトータルリターンを米国と比べると、非常に高いことを示しています。実は日本は戦前期も含めて、株主の方を見て対応しているという話をしました。日経新聞のガバナンスに詳しい記者が、『先生、これ、さらっと書いていますが、めちゃくちゃすごいことですよね』と感心してくださり『是非プレスリリースしてください』とおっしゃっていました。当初、株価指数研究所は『昔の株価を集めて何になる』と研究者も思っているところを、いざ集めてみると、『実は米国よりもリターンが高かった、もちろんリスクも高いですけど』ということを示すと評価が変わってきます。

そのうち『TOPIX と繋げられるようになったところでプレスリリースします』と宣言しています。最後に、当研究所の活動は、全て岡本さんのご寄付で支えられています。この場を借りて深くお礼を申し上げます。現時点では 1942 年までですが、統一的な指数ができたことはすごいことです。これまで作業に携わってくれていた学生さん、全ての方々に感謝申し上げます。TOPIX への接続までに不足データの収集と、配当込指数の修正も作っていく必要があるので、もう少し頑張る必要があります。完成すれば日本で、世界でも誰もやっていないことを我々が成し遂げるということですので、引き続きご支援賜りたいと思います。よろしくお願い申し上げます。