【Vol.228】FIWAマンスリー・セミナーより 株価指数研究所の研究成果

講演: 明治大学大学院博士後期課程在籍
明治大学株価指数研究所研究員 太田 達也氏
レポーター: 赤堀 薫里

株価指数研究所の現時点での研究成果について報告致します。日本においておなじみの株価指数といえば日経平均や TOPIX があげられます。日経平均や TOPIX はそれぞれ戦後になってから算出が始まり、現在まで継続して計測されています。しかし、日本の株式市場の歴史は 1878 年から始まり現在まで約 140 年という歴史をもっているにも関わらず、戦前期から現在に至るまで一気通貫した株価指数の算出が行われていないというのが現状です。この一気通貫した株価指数を算出することが株価指数研究所の主要な目的の一つになっています。

株価指数の役割とは、従来では株式市場の趨勢を観察して景気状況を判断するための先行指数としての役割があります。それに加えてパッシブファンドの投資近似目標や、デリバティブとして投資対象としての役割もあります。近年では株式投資成果を評価するためのベンチマークとしての役割も存在しています。投資成果を評価するのであれば、株式譲渡により発生するキャピタルゲインないしはロスだけではなく、中長期的な株式保有に伴うインカムゲインを考慮に入れる必要があります。実際に近年では配当込み TOPIX と呼ばれるような、配当込みの株価指数が算出されています。

日経平均や TOPIX の算出期間は、戦前期が含まれていません。実際に戦前期を対象とした株価指数が算出されてこなかったわけではありませんが、算出主体や対象市場、対象期間がそれぞれ異なり、そのほとんどが配当込みではありませんでした。この中で唯一配当込みの指数を算出しているのが平山賢一さんの指数のみとなっています。そのこともあり、株価指数研究所で作成した株価指数は、平山先生の研究を参考にしています。

戦前期を対象にした株価指数は二つの問題点が存在しています。一つ目は配当の再投資効果が未反映であった。この理由としては、戦前期において株式売買を行う市場参加者の多くは個人投資家であり、その取引形態が投機的であった。そして中長期的な株式保有に伴う配当の再投資効果を反映する意義が薄かった。このようなことがあり、配当の再投資効果が未反映であったと思われます。

二点目は戦前期に特有な金融制度が未反映であったことがあげられます。戦前期の株式市場には、株式分割払込制度や株主割当額面発行増資といった、当時、特有な金融制度が存在していました。これらは株価の変動に大きな影響を及ぼすファクターであった一方で、株価指数に反映されていませんでした。

戦前期を対象とした株価指数算出の意義としてこれらの問題を克服することで、中長期的な視座のもと戦前期の投資家の株式投資パフォーマンスを明らかにすることができます。そして株式投資のトータルリターンを明らかにすることで、日本における長期的株式リスクプレミアムの算出に必要となる基礎的なデータを提供することができるとともに、ファイナンス研究所における長期資産配分決定に多くのインプリケーションを与えることができます。

次に戦前期の株式市場を見ていきます。まずは戦前期における払込資本金、つまり株式による資金調達はどうだったのか見ていきます。1902~1940 年の主要企業の資金調達の構成比は、株式によるものが 47~70%程度。借入金によるものが 1.6~9.6%と推移しています。つまり戦前期における企業の資金調達は、銀行借入れ資金調達を主とした戦後期に比べ、株式市場からの直接金融に依存していました。

続いて株式取引所シェアについて見ていきます。日本の株式取引所は 1878 年に東京と大阪の二つから株式取引が始まりました。その後、横浜、神戸、京都、名古屋で株式取引所が設立されていきます。株式取引所の数は、増減を繰返しながらも、1900 年以降は 10 前後の取引所件数に安定していきます。戦前期においては日本の株式取引所の数は、現在に比べて非常に多くありました。

一方で多数の株式取引所が存在していたにも関わらず、株式取引所の収入額は、東京株式取引所と大阪株式取引所のシェアを見てみると、東京株式取引所が 1922 年に一度だけ大阪株式取引所に首位を譲った以外は、一貫して全国の株式取引所の中では最大の収入額を上げ続けており、収入シェアのほとんどが東京、大阪株式取引所が占めていました。これに従いまして、株価指数の算出するにつけても東京株式取引所に上場されている銘柄を追うことで、当時の株式取引所の株式市場の実態を充分に把握することができるのかなと思います。

講演では戦前期の株式市場がどのようなものだったのか、いくつかの側面からご説明いただきました。また株価指数の算出プロセスとその方法を説明されたのちに、本題である戦前期の株価指数算出と日米比較の分析の解説をされ、最後に今後の課題をご提示くださいました。