【Vol.228】FIWAマンスリー・セミナー講演より 日本株式市場全史

講演: 岡本 和久
レポーター: 赤堀 薫里

日本では、世界に先駆けて堂島に米会所ができ、幕府公認の会所となりました。ただ基本的にヘッジと投機を目的としたものでした。株式投資が資金調達の場ではなかったということが、いまだに緒を引き、値段を見て売買する。またはヘッジの目的、そういったものが根強く市場の中にあるような気がします。

ペリーさんが日本にやってきて日本が開国をして明治維新になりました。産業にはライフサイクルがあるといいますが、国にもライフサイクルがあります。私は日本の戦前期も大きく 4つぐらいに分けられると思います。1890 年に帝国議会が開かれます。ちょっと前に東京株式取引が開設され、日銀もできました。日本という国の形が整ってきたその辺りまでが第一ラウンド。パイオニアリング期ですね。

戦前期の株価指数動向
戦前期の株価指数動向

次は日清、日露戦争、第一次世界大戦あたりまでが成長期でしょう。そして第一次世界大戦が終わり、反動恐慌がありました。そこから昭和の始まりぐらいまでが成熟期。昭和に入ってからはどんどん統制経済の色合いが強くなっていきます。戦争に向けて、大陸に向かって、東南アジアに向かって、アメリカに向かってという戦争が広まっていきます。ある意味衰退期にあったのだろうと思います。

まずは明治維新の国としてのビジョンは「西洋に学びつつ西洋から日本を守る」、これにつきます。その時のミッションは富国強兵、殖産興業、社会・生活を変革する。旧制度を廃止して新制度を導入する。この富国強兵、殖産興業、社会・生活変革のすべてにお金が必要です。旧幕府の金庫はお金が底をついています。その資金をどこから持ってくるのか、それが非常に大きな課題でした。今、改革という言葉が盛んに取りざたされますが、比較にならないすごい改革です。

まず士族の解体。30 万とか 50 万人とかいろいろな説はあります。幕府の下で禄をもらっていた人たちは、幕府がなくなり、大量失業者が発生しました。その時どうしたのか。秩禄公債や金禄公債という手段が打たれました。いろいろな新制度がどんどん出てきました。

産業面では資金をどうやって調達するのかは、これも非常に大きな課題でした。外国から借りてくることがひとつ。鉄道建設では外債発行に大きな依存をしました。幕末維新にかけて西洋を視察した渋沢栄一が、合本組織という名前をつけて会社組織を作る。民間からお金を集める考えかたです。福沢諭吉先生も欧米を視察しました。会社制度を学び、自分の弟子である早矢仕有的さんに、文房具を売る会社を作ったらどうだといいます。それが今の丸善です。

最初は外債発行と政府のなけなしのお金で鉄道を作ります。陸運ですね。海運の方は政府がやろうとしましたがうまくいかず三菱会社に払い下げをします。これが三菱財閥のコアになっていきます。徐々に輸送以外のインフラである富岡製糸所などの輸出産業や兵庫造船所ができてきます。
これらも最終的には徐々に民間に払い下げられます。いわば政府がベンチャーキャピタリストのような役割だったのです。

民間の中の資本蓄積がだんだん増えてくることでそこに払い下げる。その辺は実にうまくやっているなと思います。その後、民間企業が勃興するようになります。電力・セメントなど現在も必要なものばかりです。興味深いのは日本郵船の設立は皇室がお金を出して作りました。

鍵になるのは金融です。1871 年。新価条例が発表されます。1 ドル=1 円=一両=1.5gの金と、円を基準にする外貨との交換レートも決まりました。そして国立銀行条例ができます。国立銀行には発券機能がありました。しかし金本位制をベースにしていたので金を兌換用に持たねばならない。最初にできたのが後にみずほ銀行となる第一国立銀行です。しかし、実際にはハードルが高かったため 4 行しかできませんでした。

1876 年に銀行条例の改正が行われます。銀行紙幣の金兌換を廃止して、そのリザーブを国の発行した債券である国債で代替できるという規定になりました。これによって、一挙に銀行がたくさんできます。1889 年までに全部で 153 行があっという間にできました。ほとんどの銀行は資本金の 8割を公債で払い込みました。それをもとに貨幣が発行されます。その後、東京株式取引所ができます。

どんどん貨幣が増えたためインフレになります。そこで松方正義さん、大蔵卿が紙幣の整理を行います。健全通貨主義を打ち出しインフレを抑え込む。日銀ができて発券は日銀のみが行うと決めて、お金の制度が整っていきました。

講演では、金融制度の確立と産業革命の推進、取引所設立の大きな目的になった秩禄公債と金禄公債について、また株式取引所制度の歴史、日清、日露戦争の経済への影響や、第一次世界大戦バブルとその崩壊。問題山積の株式市場についての説明。関東大震災、モラトリアム、金融恐慌、昭和恐慌、昭和期の株式市場関連の出来事について解説いただきました。最後はスライドショーで戦後編を勉強しました。