【Vol.241】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

お金にまつわる過去・現在・未来

講演 岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久20220623

お金は国家が発行して永遠に変わらないものだと我々思っていますが、長い歴史で考えると、それはお互いの信用、人間関係の中で生まれてきているものです。今のようなお金という制度は100年ほどの産物であり、これから何十年もかけて変わっていくということは十分にあり得ます。

お金と通貨制度は非常に大きな変化を生みながらやってきました。お金によって、時間が価値を持つようになってきた。最初、ユダヤ教以外は基本的に西洋では利子を取ることは背徳行為だった。しかし現実には利子は古代から存在していた。お金がどんどんたまっていくメディチ家がサポーターになって、ルネッサンスが起こり芸術活動を支えていった。それから宗教改革が起き、宗教で今まで絶対変わってはいけないというものが徐々に変わっていくようになった。

そしてカトリックの改革、ベネディクト14世が『時には価値がある』ということを表明します。誰かがお金をもって家を買って、その家に誰かを住まわせて、家賃を取るのと、金利を取るのとはいったいどう違うのか、同じではないのか。だから、金利を取るというのはそんなに悪いことではない。時には価値がある。時間でお金を稼いでいくことは別に背徳行為ではない。

また空間移動で価値をもつ。大航海時代があって、東インド会社がオランダや英国に設立されます。株式会社と株式取引所もできて、そしてチューリップを始めとするバブルが起こります。要するに場所を移動することによってモノの価値が増える。時間を移動することによって価値をもつ。つまり、現代でいうアービトラージです。この二つでお金は増大していきます。お金は時間と空間のもたらす価値を加えることで増やすことができる。しかし、「余りものに値なし」と言われるように、余ってしまって皆が持っているものは値段が下がる。安くなる。

国や中央銀行が貨幣を発行しているのはそれほど昔からではないのです。国の信用で貨幣を発行しているということは、金(きん)の代わりのものとして貨幣が流通していたけれど、それは国の信用ではなくて金の信用です。国そのものが発行体としての信用で貨幣を発行しているというのはそんなに昔からではない。一番厳密に言えば、ニクソンショック以降、ようやく金の呪縛から離れました。

国の信用が現在の貨幣の裏付けになっている。今のお金はそうです。通貨が大量に発行されるために、一通貨単位あたりの国家の信用は薄まっていく。通貨が一国の信用を基に発行されている以上、発行している通貨が増えるほど、その通貨一単位あたりの信用は希薄化する。だから円もこれだけ出してしまって、さらに増えそうということになると価値が下がってしまう。

株式も、調達した資金で設備投資をして生産力が上がっていくのであれば、調達した資金に対するリターンを払うことができます。だけど調達した資金で、例えば値上り益狙いで土地を買うとか株を買う、ただそれだけで終わってしまうと結局それは生産性に結びつかないで、株式の価値が下がってしまうことと同じです。

情報の共有化が信用の基礎になっている。みんなが「これは安心なものだよね」というのが信用の基礎になってきます。一人ひとりの信用が書き換えられることができない形で人々に共有される。これがブロックチェーンのこれからの使われ方になってくると思います。個人が提供できるものは、相手に感謝されること。世の中に喜んでもらえることが、やっぱり個人としての信用になっていく。昔の物々交換のように、個人がそれぞれの信用に基づいて通貨を発行できる時代が来るのかもしれない。そういうことがもしかしたらあるかもしれない。

情報がみんなに共有されて、一人ひとりの信用が書き換えることのできないかたちで、人々に共有されるということになれば、一人ひとりの借用証書が、もっと多く幅広く流通していくことが、もしかしたらあるかもしれない。暗号資産がありますが、これもそういう流れの中の一貫です。ビットコインなど、いろいろ事件が起こっています。今の形はまだまだ不完全です。これから何十年、数十年くらいかかるかもしれませんが、そのような時代になったときに、暗号通貨と呼ばれているかわかりませんが、通貨というものはそういうものに変わっていくのかもしれません。

講演では、ヨーロッパ、イスラム、アジア、日本におけるお金の誕生から、日本の近世・近代・現代に至るまでのお金の変遷の解説と、今後の通貨制度の可能性についてお話しいただきました。