【Vol.241】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

米国での伝統的投資戦略を日本市場検証する~ダウの犬を中心に~

講演:青山学院大学客員教授・統計数理研究所客員教授
ニッセイアセットマネジメント投資工学開発センター長
 吉野 貴晶氏
レポーター:赤堀 薫里

吉野 貴晶氏プロフィール

Yoshino Takaaki

博士(システムズ・マネジメント)。
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得した後、ニッセイアセットマネジメントに入社。大学共同利用機関法人 統計数理研究所のリスク解析戦略研究センターで客員教授を兼任。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(MBAコース)で客員教授。経営戦略、企業評価とポートフォリオマネジメントの授業の教鞭も取る。代表的な著書に代表的な著書に『No.1アナリストがプロに教えている株の講義』(東洋経済新報社、2017年)、『サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門』 (新潮新書、2006年) 。


アメリカの伝統的な投資戦略を日本市場で検証した場合、どれくらい有効性があるのか。それぞれの長所や注意点を捉え、最終的に個人の特質を考えたうえで、どういった戦略を使ったらいいのか、そのヒントをお話します。

ダウの犬投資法は、オヒギンズ・アセット・マネジメントの運用最高責任者であるオヒギンズさんが【BEATING THE DOW】という本の中で提案した、配当利回りを使った非常にシンプルな戦略です。

毎年年末に、ニューヨークダウ30銘柄の中で配当利回りの高い上位10銘柄を選別する。その10銘柄に等金額の投資を行い1年間動かさない。翌年の年末に、もう一度この30銘柄の中で配当利回りの高い銘柄上位10銘柄にリバランスする戦略です。配当利回り上位10銘柄に等金額投資をするという非常に簡単な手法が、ダウの犬という戦略です。

今回、日本市場に応用した場合を検証しますが、その前に配当利回りの確認をしてみます。配当利回りとは、一株当たりの予想配当金を株価で割るという非常にシンプルな指標です。この配当利回りの計算で、どの予想配当金を使えばいいのか、悩ましいところです。これがいいかどうかは別として、通常使うのは会社側が公表する配当計画、あるいはそれをベースにした会社四季報や会社情報の今期予想を使うのが一般的に使われるものかなと考えられます。来期を使うケースもありますが、配当はどうしても会社側の配当政策も絡んでくるので、あまり長期的な予想を使っていくと難しいでしょう。一般的には今期予想を使うのが多いのかなと考えています。

日本市場で適応する場合、ニューヨークダウに変わるものとして、TOPIXのコア30。今を代表する30銘柄といった意味で、ある程度ニューヨークダウに相当する日本市場の30銘柄として使えるのではないのか。日本市場で適応する場合には、同じようにコア30に該当する銘柄の配当利回りの上位10銘柄を毎年リバランス、1年間ホールドするという形の検証をしてみました。

コア30の中で、配当利回りの高い上位10銘柄に等金額投資したものを2007年からずっとリバランスしてつなげてきたものが、2020年の年末に312%。ここで注目すべきことは、非常にシンプルな戦略ですが、TOPIX配当込みが169%の上昇に対して、かなりパフォーマンスが高い。ダウの犬は、コア30の中の配当利回りが高い上位10銘柄に絞った投資ですが、これ以外の20銘柄に同じように毎年リバランスすると、トピックス配当込みに対してかなりパフォーマンスが劣後しています。本当にシンプルな配当利回りの高い銘柄を1年間ホールドして毎年年末にリバランスするという戦略が非常に効果的だと言えると思います。

もう一つ考えてみたことは、5銘柄でリバランスをして、等金額投資をやってみました。すると5銘柄の方が、よりパフォーマンスが高かった。10銘柄ですと、それなりに等金額投資でも必要な資金が増えてしまいます。リスクがある程度高くなるかもしれませんが、逆にもっと少ない資金で、銘柄数を減らして5銘柄でやっても、長期投資の観点でみれば、非常にパフォーマンスが良いため、5銘柄でもいいのではないのかと考えられます。

配当利回りが高い銘柄を選んで買えばいいと言われますが、そんなに簡単な戦略ではありません。やはり株価が下がってしまうという問題があります。インカムゲインを狙ってキャピタルゲインが下がり、トータルで収益が悪くなってしまう。やはり高配当利回り銘柄を選ぶ際には、株価自体が下がらない、下がりにくいというところを選んでいく必要があります。そういった意味で、日本を代表するコア30企業にユニバースを絞ることで、ある程度、大型株で業績も安定し、リスクも限定できているのではないのかと思います。

実は、高配当利回り銘柄投資の留意点は、株価の行方に注目していかないといけない。当たり前のことですが、配当が減らないかチェックする。将来、減配、無配になるとインカムゲインの受け取りも厳しくなる。結局、株価の行方と配当が将来どうなるのか、この二つをチェックしていかないといけない。そうなってくると、どうしても業績的面でチェックをする。業績の安定性、企業の株主還元に対するスタンス、この二つがポイントになってきます。

講演では、バリュー系の戦略であるFスコア。またバリューだけでなくグロース性も扱いながらのバリュー投資戦略であるマジックフォーミュラ戦略の説明。企業のライフサイクルを使った投資法について解説。最後にそれぞれの戦略の長所と注意点をお話しいただきました。(文責 FIWA)


岡本|二つほどお聞きしたいのは、2007~2021年の期間、金利が低下していく時代ですよね。配当をベースにした戦略というのが相対的に金利低下局面において非常に有利に働いたというようなことがあったのか、なかったのか。もう一つは5銘柄。犬五匹の方がいいというのはよくわかりましたが、これ、5銘柄にすることによって10銘柄と比べてリスク水準がどれくらい高くなってくるのかということですよね。特に近年のところを見ると、5銘柄の方がリスクは高いような気がします。この辺のところはどうでしょうか。

吉野|実際に計算は紹介していなくて申し訳ないのですが、おっしゃるとおり5銘柄だとリスクは高いです。その分やられる年もありますので、5年ぐらい保有していかないと、という感じになっています。金利が低下していく中で、意外とグロース株優位になってきているので、18~20年ですね。その間は厳しい戦略になっていたかなと。米国金利の話になりますが、2021年からは比較的金融緩和からの金利が上がってくる戦略なので、非常に良くなってきています。そういうマーケットの環境は受けてしまう戦略にはなります。

参加者|Fスコア戦略、低PBR戦略のところで、この戦略で日本と米国、もしくは日本とそれ以外で有効性の違いがあるのか、ないのか、など考えています。というのは銀行、金融は除いていますけど、圧倒的に日本市場では、銀行を除いてもPBRが1倍割れ銘柄が多いですよね。日本の場合、長年低PBR放置銘柄みたいなものが多くて、低PBRから戻ってこない企業が多すぎる難しさがあるのではないのかと思ったんですけど、それでもこれは日本でも有効でしょうか?

吉野|そうですね。低PBRだけだと、近年は横ばいになっていますが、Fスコアで見ると、それぞれのチェックをしているので、低PBRで放置されている銘柄を探るのではなくて、低PBRから復活する銘柄を探していこうという戦略です。レバレッジ改善とか、回転率の変化などの、変化をとっていこうという戦略になるので、そういう意味では日本市場では効果が高いものになるのではないのかと思います。

岩城|成長期にある企業というのは、配当性向が高いとは言えない企業が多いと思います。言い換えてみれば、配当より投資に向ける。成長に向けると思うんですね。アメリカなんかも最近は、配当をあまり払わないという企業が増えてきたということで、このダウの犬戦略はすごく面白いと思いますが、実際は企業として魅力的なんだろうかと思いますが、どうなんですかね?

吉野|日本の企業の問題は、成長する企業は内部留保を増やして再投資をします。資本コストというか、ROEでいうと8%だとか。ROAベースでいうと全資産に対して利益を稼ぐことが4%や5%。そういうところを目安にした場合、自分の企業のROEやROAを下げる事業には、少なくとも投資すべきではない。特にアメリカは株主の追求が大きいので、そういう事業には投資をしないことが基本です。ROE、ROAが下がってくる事業は売却しようということを積極的にしようという発想がまず一つ。

日本はまだまだリテラシーがあまり高くないので、そういうのがなかなか見られない中で、近年は配当を払って、分母の資本を増やさずROEを下げないようにする動きが高まり、「配当を払いましょう!」という流れになっています。そういう意味で、今、日本では配当利回りという投資は、注目すべき時期にあるのかなと思います。ここ最近、コロナ禍で企業自体がキャッシュを持っていなかったことによって、ビジネスが厳しくなってしまったことがあったため、破綻するという話を考えるとキャッシュで持っていなくてはいけないのではないのかという議論も逆に出てきています。無駄なキャッシュを会社が持っていること自体が、事業に生かしていない、本来出すべきではないという議論も本当はありますが、足元はそこに対する逆風があります。

もう少しファイナンスの議論でいうと、キャッシュを持っている企業は、米国ではグロース・オプションという議論があります。ビジネスとしてすごく何か良いビジネスが出てきたときに、すぐにそれに投下できるようなキャッシュを持っているということは、ある種、グロース企業は許される文化もあります。それをグロース・オプションと、ファイナンスでは言われています。そういうのも別途あり、日本ほどキャッシュを持ちすぎだとか、配当を出さないといけないという話よりは、複雑になっているのかな、というのが現状です。

それがコロナ禍もあったので、岩城さんが言っているような現状になってしまっているのかと思います。特に日本は、従業員に対して給料を払わないという議論が出てしまっているので、株主重視という話にいったん流れましたが、逆に人的資本、従業員を大切にすべきとか、ESGやサステナビリティを重視する方に、お金を使う必要があるのではないのかという話があり、ちょっと、複雑になっている現状の中で、ダウの犬というのが非常にシンプルだけど有効なのかなというところだと思います。

岡本|基本はROEで稼いだ利益は、もちろん配当として払う部分と、再投資に回す部分とあるけれど、再投資に回すと言っても、ほとんど銀行預金で0パーセント金利で積み上がってきてしまっている。それは多分、東北の震災のころからスタートしていると思います。あのころ、私は経済同友会の集まりで、結構キャッシュをたくさん持っている大企業のトップがいたので、「なんでこんなにキャッシュを持っているのですか?」と聞くと、やっぱり「万一のために持っている」と言っていました。

結局、万一のために備えていることを、ずっと備えっぱなしでコロナリスクを抱えてしまったわけですよね。コロナが来てしまったから、また万一のために備えている。万一ばかりで使っているところがない。だから使わないでキャッシュを少し増やすことはいいけれど、それをビジネスの強化というか、違う分野や違う地域に投資をしていって増やしておいたことによってコロナ禍も生き延びることができるのだと。ただキャッシュを持っていればセーフなんだというわけではない。

そういう意味ではグロース・オプションに対して、サバイバル・オプションという幻想に囚われているみたいな感じがします。そこはもう少し日本の企業は考えてほしいですね。今日は有益なお話をありがとうございました。(文責 FIWA)