【Vol.241】FIWA認定会員 投稿コーナー

内田英子(CFP,FIWA*)さんのブログより「適切なつみたて投資の家計への組み入れ」

寄稿:FIWA®協認定正会員 内田 英子
CFP、FP1級、消費生活アドバイザー

*FIWAは金融商品の販売を行わないアドバイザーに与えられる称号です

自己紹介

Uchida Eiko

FIWA認定会員の方の投稿をご紹介するコーナーです。
今回は全五回のうち四回目の内田英子さん、松山で活躍しているホンモノのアドバイザーです。

FPオフィス幸せ家族ラボ代表。
証券会社、保険ショップ勤務を経て、独立。
かつての専業主婦経験も活かしながら、子育て世帯を中心に家計の総合医として暮らしの健康を維持するあらゆる選択のアドバイスを金融機関から完全に独立した立場で行っている。

HP:https://fplabo-happyfamily.com/
Instagram:https://www.instagram.com/eiko_fp/


こんにちは。FIWA®正会員の内田英子です。
前回のコラムに引き続き、私がお引き受けした家計相談の現場において、つみたて投資に適した制度を活用した事例をご紹介します。今回の事例で利用したしくみは一般NISAです。

一般NISAは厳密に申し上げればつみたて投資に適したしくみでありませんが、資産形成においては、できるなら活用していきたい制度です。皆様の資産形成やそのアドバイスにお役立ていただけましたら幸いです。

◆ご相談者データ

Cさん(52歳・会社員)、妻(51歳・パート勤務)、長女(24歳)、長男(22歳)
※現在は夫婦二人暮らし

◆ご相談内容

子どもが独立し、老後のことが気になってきた。保険の加入内容について見てほしい。現在していないが、ふるさと納税や資産運用についても教えてほしい。

◆ご相談時のCさん夫婦の希望と将来の見解

  • 住宅:一戸建てを保有。住宅ローンは7年ほど前に完済。現在は固定資産税と火災・地震保険料の負担のみ。
  • 働き方:夫婦とも今後の職に不安はない。
  • 生活:家計管理は妻が担っており貯蓄を確保している。
  • 現状の家計についての不安はないが、子どもの教育費が予想より掛かり、老後資金を思うように準備できていないことに不安を感じている。
  • 税金負担が重いことも不満に思っている。
  • 老後:できる限り働き続けたい。
  • 退職後はできる限りゆとりをもって過ごしたい。
  • 老後生活においては、できれば違う土地に移住して、旅行などの楽しみも積極的にもちたい。 

◆Cさんの家計データ

  • 年間収支  約300万円
  • 年間世帯収入計 1,400万円
    • 夫 年収(給与収入・額面)1,100万円
    • 妻 年収(給与収入・額面)300万円
    • 夫は65歳退職だが55歳以降給与は減額、60歳以降は更なる減額を見込む。退職金は1,000万円。
  • 金融資産計 約1,900万円
    • 金融資産計 約1,900万円
    • 預貯金 約1,550万円
    • 保険(積立型※変額保険を含む)約180万円
    • 株式(持ち株会※現在は積立なし)約170万円

【1】現状のままでは88歳で資産が尽きる見込み

大黒柱であるCさんのもと、夫婦共働きのCさんご夫婦。お子様の教育に熱心で、これまでの教育費は高い水準でしたがご夫婦で協力のもと乗り切ってきました。将来については何となく大丈夫だろうとの考えをお持ちですが、税金負担が重く、ご自身の希望されるペースで資産形成ができていないことに焦りを感じています。退職まであと10年あまり。時間も限られてくる中で、有効な一手を探るためライフプラン・シミュレーションを実施、今後の家計の課題を検証しました。

ライフプラン・シミュレーションの結果、お二人が健康にリタイアを迎えられた場合は65歳時点で4,000万円程度の資産が見込まれました。しかし年金収入はご夫婦お二人あわせても手取り月25万円程度。2度の減収の壁を乗り越えても、現在の家計のままでは、資産は88歳頃に尽きることが予測されました。収入が減ったら支出も減らす。当たり前のようですが、危機感を持ち最悪の事態に陥る前にこれを実際に実行できる方は多くないと感じます。孫への援助や住宅の修繕費、介護資金など、これまではなくとも老後に新たに登場する支出もあります。今後の年金生活を見据えた、家計管理方法と支出を減らす意識を持つ大切さを改めてお伝えしました。

また、加入している保険は、死亡保障では1,300万円ほど。そのうち1,000万円の保障は60歳時点で終了します。妻も働いていて、遺族厚生年金があると言っても受け取れる年金額には天井があります。Cさん万が一の際の生活費を現状の8割とすれば、年金だけでは半分程度しかまかなえないことが予想されます。万が一の際、老後の妻1人の年金生活を想定すると、現状の家計のままでは厳しいものになるだろうことが推測されました。

ただし、足りないからと言って保険に加入して保障を増やすとその分保険料負担は増加します。そこで、保険加入のアプローチから始めるのではなく、支出の見直しや資産形成プランの見直しを含めた多角的な対策を検証していくこととしました。

【2】まずは支出の見直しで未来の自分への仕送りを増やす

まずは、年金受給を始める65歳以降に、今よりも月3万円、年間36万円減らし、自動車を1台に減らすことを組み込みシミュレーションしました。その結果、万が一の必要保障額は3,000万円程度減らせることが見込まれ、かつ保障の積み増しが必要な期間も今後数年に限定できそうだということが推測されました。また、お二人が健康にリタイアを迎えられた場合も、資産寿命を維持できそうだということがわかりました。とはいえ、支出の見直しはすぐに実行できるわけではありません。まずは今からの支出の見直しをできる範囲で一緒にしていくことで、未来へのご自身への仕送りを増やし、万が一にも強い家計をこつこつとつくっていくこととしました。

【3】資産運用で物価上昇にも強い家計へ

支出の見直しで万が一にも強い家計をつくるといっても、限度があります。例えば今後の物価上昇の可能性。生命保険金は定額ですし、預貯金も低金利です。年金額も変化しますから、今の時点で足りるからと言って、物価上昇時には必ずしも十分な金額が確保できるとは言えません。そこで、今後の物価上昇と取り崩し期に備え、資産運用をご提案しました。

ご提案したプランは以下の通りです。

****************
一般NISAを想定し、毎年最大200万円ずつ5年間分散して買付け
利回りは年3%を想定。分散投資を行う。
運用期間は最低10年、65歳以降の取り崩しを想定
****************

つみたてNISAやiDeCoも選択肢にありましたが、Cさんご夫婦にはまとまった資金があること、希望されるリタイアまで10年あまりであること、リタイア後のお二人の暮らしのご希望、といったことを踏まえると、少額のつみたて投資は適当ではないと思われました。そこで一般NISAを使った分散投資をご提案しました。

ただし、一般NISAはつみたてNISAやiDeCoと比較すると、制度を活かすには金融商品の選別力がより求められると考えています。非課税期間は原則5年であり、投資対象は広く、ロールオーバーできる※と言ってもNISA口座内でのリバランスやスイッチングができないためです。個別銘柄の見極めができる投資上級者の方であれば、活用に特段難はないのでしょうが、Cさんにはご自身による運用経験はありません。

そこで、バランス型投資信託を利用した一般NISAの活用を見込み、必要な基礎知識のレクチャーから始めることとしました。投資金額は当初最大年200万円と提示しましたが、あくまで投資に充てられる範囲であり、ご自身のリスク許容度を超えるようであれば、すべてを投資に充てる必要はありません。また下落相場に備えるなら、控えておく資金も必要でしょう。Cさんの場合はリスク許容度が低めでしたので、投資額を下げてNISAの枠内で投資に踏み出せるサポートを実施しました。

※2024年の改正後、新NISAにおいて非課税保有期間は無期限となりロールオーバーはできなくなります。

【4】まとめ

一般NISAを利用した事例をご紹介しました。投資を使った資産形成を盛り立てる現在の風潮に、自分も早くやらなければ将来お金に困ったことになるのではと不安を感じる方は少なくないように思います。Cさんご夫婦も同様に、現在の家計は順調ながらも昨今の風潮に影響を受け、将来への不安を募らせていました。

Cさんは、ご相談後このような感想を伝えてくださいました。

「今の生活を俯瞰し、今後の生活の見通しを立てることで、今できることがわかった。また家計管理の目標が明らかになったことで、投資についての不安も少なくなった。」

資産運用において大切なこととして、しばしば長期・分散や、余裕資金を充てることが挙げられます。

しかし、本当に運用に充てられる余裕資金の枠の範囲なのか、長期の運用期間中も維持できるのか。生活者の方がそもそもの資金活用について安心して悩み、見極められる場所は少ないと感じています。ご自身で運用の技術をお持ちであったり、良質な金融商品に良いタイミングで出会うことができたりすれば、余裕資金の枠を超えてしまっていて不意の大きな取り崩しを経ても、期待する利回りを実現できるのかもしれません。しかし、技術はすぐには身につきませんし多くの金融商品がある今、良質な金融商品を見極めていくことは易しいことではないと感じます。投資をギャンブルにしないために。今後も家計の総合医として投資への第一歩を踏み出すサポートを続けていきたいと考えています。

(文責 FIWA®)