【Vol.252】FIWA認定新会員 投稿コーナー

つばめ投資顧問の目指すこと

寄稿:つばめ投資顧問合同会社 代表社員 栫井 駿介 FIWA®
*FIWAは金融商品の販売を行わないアドバイザーに与えられる称号です


栫井駿介 プロフィール

Kakoi san

1986年、鹿児島県生まれ。
県立鶴丸高校卒業後、「経営者になりたい」と考え東京大学経済学部経営学科進学。大学では陸上部に所属して長距離走に取り組む中、部活との両立が可能だった野村総研出身の新井富雄先生が主宰する「コーポレート・ファイナンス」のゼミにたどり着き、金融の道へ。大手証券会社に就職し、株式プライマリー業務を担当。2016年に独立し、個人投資家へ長期投資のアドバイスを行う「つばめ投資顧問」を設立。2019年、本格的にYouTubeを開始し、チャンネル登録者11.5万人(2023年12月時点)。大前研一氏が主宰する豪BOND-BBT MBA修了。著書に『年率10%を達成する!プロの「株」勉強法』ほか。

つばめ投資顧問を立ち上げたきっかけ

私は小学生のころから「社長になりたい」という漠然とした夢がありました。その流れで自然と経済学部へ進学するのですが、学ぶ中で感じていたのが、企業を分析することの楽しさです。創業者の思いがあって始まり、さまざまな困難を経ながらビジネスモデルを確立して、世の中に価値を提供していく。そして、企業が成長していくために不可欠なのが、資本主義における「株式会社」の仕組みだということに、強い興味を抱くようになりました。

大学のゼミで学んだのは、マッキンゼーの「企業価値評価(Valuation)」です。将来キャッシュフローを予測し、現在価値に割り戻す「DCF法」こそが、企業を評価する方法だと、徹底的に教え込まれました。実際にDCF法で企業を評価してみて気付くのが、企業の価値にとって重要なのは「永続成長率」であるということです。もっと言えば、永続成長率の高さ以上に、その継続期間が鍵です。実務では企業の継続期間は「永遠」を仮定して計算しますが、実際に永続する企業はそうそうありません。しかし、本当に社会から求められている企業は永く続いていくものです。

もともと投資にはさほど興味がなかったのですが、証券会社に就職したこともあり投資に関係する本を読んでいると、私が学んできた企業価値評価の手法で投資を行っているのが、ウォーレン・バフェットだということに気が付きました。しかし、世の中の大半の人は企業のことをろくに見ようともせず、株価の変動ばかりを見て投資しています。証券会社の顧客である個人投資家になるとそれがさらに顕著でした。

バフェットのような投資をすれば、多くの人がきっとうまく投資できるのに―そう考えて、バフェット流の投資を個人投資家に広めるべく、ろくに投資経験もないまま投資助言会社「つばめ投資顧問」を立ち上げました。自分の好きな企業分析で、企業と投資家を繋げたい。それが私の根本的な考えでした。

待ち受けていた現実と偉大な先輩の助言

ところが、いざ事業を始めてみると、現実を突き付けられることになります。私はあくまで企業の「価値」に基づいてアドバイスをしていますが、お客様が気にすることは「価格」の話ばかり。いくら企業のことを説明しても、株価が上がらなければ説得力がありません。私もその声に流されるように、「目の前の株価が上がる企業を見つけるにはどうしたら良いか?」ということまで考えたりしました。

そんなときに私を応援してくださったのが、私と同じタイミングでFIWA®の正会員になられた森和夫さんです。森さんは個人投資家として長期投資を実践し、実績を積み上げてきていました。森さんとはSNSで知り合い、投資に対する考え方がかなり似通っていることから意気投合して、当社のパートナーにもなっていただきました。

「株価を気にする必要はない。重要なのは価値だ。成長し続ける企業の株価は、放っておいてもいつか上がる。」経験をもとにしたこのアドバイスは私に自信をくださり、お客様に対しても堂々と自分の考えを言えるようになってきました。

森さんたち先輩方に仲間になっていただいて、一歩下がってお客様の様子を観察すると、彼らの大部分は明確な「投資の目的」を持っていないことに気付きました。目的がないから、投資をすると言っても、目先の株価を見るしかない。一方で、目的を「10年後、20年後」に置くことで、目先の株価を気にせずに投資を行うことができる。したがって、アドバイザーとしてあるべき姿は、お客様の目的を明らかにすることであると確信したのです。

お客様のニーズと自分のあり方

そうやってお客様と向かい合うと、実は彼らの目的はもっと漠然としたものであることに気付かされます。「何となく将来が不安だから」「投資をやらないといけないと思っているから」「余裕資金を遊ばせておくのはもったいないから」。こういったニーズがほとんどであることを考えると、多くの方にとって私たちがアドバイスするべきなのは、急騰する株を見つけることではなく、安心できる投資とは何かを伝えることであると、私はようやく気付いたのです。

もともと、私の個別株のアドバイスは、どちらかと言えば山っ気の強いものになっていました。今ではその重心を「安心」に置いたアドバイスを心掛けるようにしています。

「多くの一般の方のニーズ」ということを考えていると、著書を拝読させていただいていた岡本先生のコラムが私の心に強烈に刺さりました。そのコラムでは、個人投資家のタイプを「①富裕層」「②まとまった資金が入った人」「③自分なりに投資を楽しむタイプ」「④投資に無縁なサラリーマン」に分類し、最後のタイプが最も多いと言います。

このコラムを読んで私が気付いたのが「自分の仕事は④の人たちを③に引き上げることだ」ということです。当然、すべての人が「投資好き」になる必要はないと思いますが、世の中に投資好きで、しかもまともなやり方を分かっている人が少しでも多くなれば、やがて投資リテラシーも上がるはずだと考えました。

私は岡本先生とつながりはなかったのですが、森さんにそのことを話すと、すぐに直接お会いできることになりました。そしてFIWA®に入会することとなり、今に至ります。乱文となってしまいました。まだまだ未熟な私ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。