【Vol.244】知って得する、ちょっと差がつく トリビア・コーナー

トリビア研究家 末崎 孝幸

末崎 孝幸氏

1945年生まれ。1968年一橋大学商学部卒業、同年日興證券入社。調査部門、資産運用部門などを経て、日興アセットマネジメント執行役員(調査本部長)を務める。2004年に退職。Facebook上での氏のトリビア投稿は好評を博している。

桃源郷

桃源郷

帰去来辞(帰りなんいざ、田園 将にあれなんとす・・・)で有名な陶淵明の詩に「桃花源記」というのがある。
ある漁師が、どこまでも続く渓谷を船で奥へ奥へと遡った。どこまで来たのか分からなくなった頃、突然桃の花が一面に咲き乱れる林が両岸に広がった。
その美しさ、花びらの舞い落ちる様に心魅かれた男は、その源を探ろうと桃の花の中をさらに遡り、ついに桃林の奥に、秦の時代からの戦乱を逃れ、数百年もの間世界から隔絶された『桃源郷』を発見した。

そこはどこにでもあるような農村の風景でありながら清楚で美しく、人はみな微笑みを絶やさず働き、見るものすべてが和らいでいた。彼はそこで手厚いもてなしを受けた後、帰って行った。しかしその後、漁師も、他の誰も、二度とその場所を見つけることは出来なかったという。

ここから「桃源郷」という言葉が生まれたのだが、トマス・モアの「ユートピア」思想と同様、理想郷を求める人間の姿は洋の東西、かわらないのかもしれない。

・写真は4月上・中旬に桃の花が満開になる甲州盆地

ミーハー(の語源)

 世の中の流行に流されやすい人や芸能人の動静などを知ったかぶりする人のことを「ミーハー」という。低俗な趣味や流行に夢中になる教養の低い人に対する蔑称のような意味があるためか、最近はあまり聞かれなくなっている。

 実はこの言葉、昭和2年に公開された松竹映画「稚児の剣法」(サイレント映画)で林長二郎(のちの長谷川一夫)のファンのために作られた言葉である。美貌の俳優・林長二郎は若い女性に大人気となり、彼女たちが好きな「みつまめ」と「はやし長二郎大好き人間」の「み」と「は」を繋げてできたのが「ミーハー」というキャッチコピーだったのである。

「かつて」or「かって」

 「以前・昔」などの意味で使われる「かつて」。小文字の「っ」が入る「かって」という人がたまにいるが、これは誤り。

 戦前の日本語では、つまる音を小文字の「っ」と書く習慣があまりなかった。たとえば、「行つて」「買つて」と「つ」を大きく書いて「いって」「かって」と読むのがふつうだった。

  このため、本来は「かつて」と書いてそのまま「かつて」と読むのが正しいにもかかわらず、間違って「かって」と読む人が出てきた。 戦後、大きい「つ」と小さい「っ」とをきちんと書き分けるようになったものの、「かって」と言ういい方は後々まで生き残ったのである。

 (追記)カムチャッカ半島ではなくカムチャツカ半島、また、ウオッカではなくてウオツカが正しい表記(ツは大文字)

お開き(の語源)

 宴会が終わるときなどに「ここで『お開き』にします」などというが、「終わり」「散会にする」時に「お開き」とは違和感のある言葉のように感じる。

 「お開き」は本来、武士が「退陣する」意で使っていた忌み言葉。「退く」「逃げる」などの言葉を嫌った武士が「ここを明け渡してやる」という意味で「お開き」を使ったのが始まりで、次第に「去る」「帰る」などの意味に転じ、明治時代以降「終わる」「閉じる」の意味で使われるようになったのである。

破天荒

藤井聡太

中国には随の時代に始まり清まで続いた「科挙」という官吏登用試験があった。その試験に100年以上経た後も、荊州(現在の湖北省)からは合格者が一人も出ず、世間の人はこの状況を「天荒」と称した。

天荒とは本来「未開の地」もしくは「凶作などで雑草の生い茂る様」を言う。やがて劉蛻(りゅうぜい)という若者が荊州から初めて科挙に合格した。人々は「天荒を破った」と言った。ここから今まで誰も成しえなかった偉業を成し遂げることを「破天荒」といようになったのである。

将棋の藤井聡太竜王は3月19日に渡辺名人・棋王から棋王戦に勝利し、史上最年少の20歳8か月で六冠を獲得した。まさに「破天荒」な偉業を成し遂げたといえよう。