【Vol.276】エクスパート・オピニオン 

鎌田泰幸氏に聞く:鎌倉投資の経営哲学と母の教え

FIWA代表理事 会長
岡本 和久CFA


鎌田さんとの出会いは私が年金運用会社の社長をしていた時でした。熾烈な年金受託競争のなかである信託銀行に所属していた鎌田さんは最強のライバルでした。その後、鎌田さんと交流するに連れ彼の思想に共感するとことが多く「三顧の礼」をもって転職をしてもらったのです。その後、彼も鎌倉投信を立ち上げ「ブレない経営・運用」を続けてくれていることをうれしく思っています。久しぶりにお会いしてうれしいひと時を過ごしました。


岡本:マーケットの状況もあると思いますが、投資でも投信でも「パフォーマンス」、「パフォーマンス」って、「何が儲かるんだ」ということばかりみんな気にしているようです。国ごとの選択にしても、あるいは個別の投資選択にしても、パフォーマンスの数字ばかり注目されていますが、投資信託で本当に大事なのは、投資理念というか、投資方針、投資哲学、そういう不変のものを続けていくことで本当の価値が生まれてくるのではないかと思うんですね。

そういう意味で鎌倉投信が運用する公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」は、投資家がいて社会と未来を結んでいくっていうのはやっぱり素晴らしくよいコンセプトだなといつも思っています。逆に言うと、数字、数字で投信を見ている人が多いだけに、経営をしていく上でもなかなか大変な部分もあるだろうと思います。もちろん鎌田さんのことだから、そこで妥協するということはないと思いますが、その辺のお話を少し聞かせてもらえたらいいかなと思っているんです。

志、そして資産運用

鎌田:ありがとうございます。会社を設立したのは2008年11月でした。2010年3月から事業(「結い 2101」の運用・販売)をスタートしましたので、現在、15年半が経過しました。

岡本:どうですか、投資家の反応の方は

鎌田:そうですね。「あんまり変わってないかな」って思いますね。私たちの投資哲学とか運用方針とか、投資先を見る視点みたいなところは創業当時から全く変わっていませんし、あと、お客様との対話の姿勢っていうのが、ずっと一貫して丁寧に、運用成果とともに投資先の情報もきちっと伝えていくという信頼をベースにやってきています。

Kamata

一般的には単にお金を増やすだけを目的とする投資家が一定数いらっしゃるのは間違いないと思うんです。ただ、お客様と私たちとの関係性というのは、単に運用成果で離れていくようなことは見られないかと思います。反対にお客様が急に10万人増えるみたいなそんな勢いも全くない訳です(笑)

逆に私たちのような姿勢でやっている投資信託はそれほどたくさんはないわけで、そういう数字の競争に巻き込まれないで淡々とするべきことをしていく。そういうスタイルが好きというお客様もいるんだろうと思います。

岡本:投資家数は増えていますか?

鎌田:増えていなくてそこが課題です。特に若い層になかなかメッセージが届きにくいですね。新NISA制度が始まって、これが一金融機関・一販売会社丸取りの制度なので、鎌倉投信のように直販ベースで一つしか金融商品を持っていないと制度的には超アゲンストなんですよね。

やっぱり1,800万円の生涯非課税枠を一本の投資信託でというのはなかなか難しいところがあって、やはり新NISAが始まってからの伸びというのは、明らかに鈍化してるというか、逆風ですね。

それと合わせて岡本さんが冒頭におっしゃった通りで、市場環境が完全に偏った相場に変わっていますので、パフォーマンスに着目するという観点からいっても、苦しい面があります。もちろん短期的パフォーマンスだけで売っているわけではないんですけども、そこでの露出も当然下がっていきますし制度的にもなかなか苦しい。

そういう環境で、僕らがいかにブレずに一貫した投資姿勢を貫くかっていうのが大事かなと思っています。一つの現象で言うと、去年の「個人投資家が選ぶ!ファンド・オブ・ザ・イヤー」の中で、運用パフォーマンスだけを見ると相対的に劣後してるんですが、アクティブの部門では一番の評価をいただいたんですよね。なので、やっぱりパフォーマンスを重視するっていう側面だけではなくて、やはり何か世の中を良くするきちんとした哲学を持っている運用会社に一定の魅力を感じてポートフォリオの一部にこういうファンドを持っていた方がいいよね、応援したいよねっていう声は変わらずにあるなという感覚を持っています。

岡本:なるほどね。

鎌田:投資に一歩踏み出すときにはオルカンみたいな話にすぐなってしまう。それは悪いことではないんだけど。

岡本:そうですね。最初の一歩としては悪くないけど、ちょっとあまりにワンパターンになりすぎてるなという気もしますね。本来の魅力ある投資というのはまた違う面もあるんですよっていう、違う意味でのね。

投資によって投資家の社会と未来を結ぶという話もあったけど、私がよくお話している「みんなよし、未来よし、地球よし」と似たようなものですね。生活者レベルでの投資というものに、少しずつでもそういう側面に目覚めていってくれることが、社会を良くしていく上でもすごく大きな意味があるんじゃないかなと思いますよね。

鎌田:岡本さんがおっしゃった通りで、かつて外資系の年金運用会社で一緒に働いていた時も、インデックスの良さは散々知った上でお客様に提供していた立場から言うと、優れた商品だというのは間違いなくて、そこを入り口にして自分らしい投資って何なんだろうかと考えるきっかけになって、鎌倉投信のような特徴のあるファンド、社会的目線を持っているファンド、こういうものを組み合わせていくっていうのも今後増えていくのではないかと思っています。

単にお金を増やすことだけを目的とした金融経済の先に明るい未来、明るい社会をなかなか描きにくいという事実に気づいた時に、これだけじゃダメだよねっていうところを僕らがブレずにちゃんと伝え続けておきたいわけです。そのタイミングが来るまで伝え続けておくっていうのは大事かなと思っています。

結局、今、世界中で紛争が起きたりとか、物の奪い合いみたいなのもある中で、世界中80億人の人がどこでお金を使うか、投資をするかによって社会の在り方が変わってきますので、やっぱり自分の投資の中にも、単なる経済性を超えた、未来志向、社会志向みたいな要素が混ざってくると、多分、一気に流れが変わることはないと思いますが、そういう思考性を多くの人が持ったり触れたりするっていうこと自体がすごくインパクトがあると思っています。そういう起点になればいいなと思っています。

岡本:つみたてNISAだって別に悪い制度だとは思わないけれども、やっぱり非課税だから得だ、オルカンは儲かるみたいな、そのレベルで捉えてしまう人がかなり多いんでね。第一歩としては、それもしょうがないかなとは思うけれども、やっぱりそこから本当の意味での投資はね、ちょっと違う。投資っていうのは「志を投げる」、「投志」っていう字でも投資ですからね。やっぱり未来に、そして世の中に志を投げていくという、そういう位置づけの投資信託であってほしいですよね。

鎌田:本当におっしゃる通りで市場全体の流れに乗る、いわゆるフリーライドの投資ではなくて、未来を自ら作るような投資って何なんだろうかっていう、そういう思考にシフトチェンジしていくと面白いかなと思うんです。

岡本:今でもよく覚えているんだけど、鎌田さんのお母様はお菓子屋さんか小間物屋さんか何かやってらっしゃって、鎌田さんもお母さまの営業姿勢に強い影響を受けたと伺いましたが非常に印象的だったんですよ。そのお話をちょっとしてくれますか。

鎌田:私の、投資を通じて世の中を良くしたいという思いの原点は、やっぱり田舎育ちだったことと家庭環境がすごく影響を与えていると思ってます。母親が切り盛りしていたんですけど、小さな食料品店というんですかね。雑貨屋も兼業していました。ラケットやピンポン玉なんかも売っていた。何でも売ってる雑貨屋だったんですけれども、一軒しかない商売をやっていて、家計の収入は低く苦しかったですね。私も高校、大学は奨学金で行ったんです。今でいうと相対的貧困層に分類されると思うんですけども、全くひもじさとか貧しさとかは感じなかったんですね。

そこには2つ、今振り返るとポイントがあって、ひとつは地域の中で豊かな関係性があったということですね。お互い助け合う。例えば、誰かがお亡くなりになったときは、葬儀場で葬式をするのではなくて、みんなで近所の人が持ち回りで葬式を当番でしてあげるとか、田植えなんかも順番で手伝いながらやるとか、いわゆる市場経済だけではない共助経済というのが一定程度、機能していて、だからそんなにお金がなくても社会が回るという人間関係もあったっていうのが一つ。

もう一つは、やっぱり自然環境が豊かだったので、自然に触れたりとか遊んだりとか、そういう精神的な豊かさみたいなのが醸成されたっていうのは社会全体としてありました。その中で特に母親から学んだことで言うと、商売の原点みたいなところなんです。食料品屋をやっていて364日、元日以外は全部店を開けるみたいな商売をやっていたのですが、私が中学生ぐらいになると近くに車で10分行くとスーパーがあるような環境に変わってきたのです。お客さんもだんだん遠のいていったのです。

そこで私が母に、毎日店を開けなくても休めばいいじゃないかという話をしたら、母は近所の子供がアイスクリームを買いに来て、店が閉まってたらかわいそうじゃないかって言うんですよね。「そのために店開けんの?」って聞いたら「そうだよ。何か悪い?」みたいなことを言われた。つまり、商売としては下手くそなんですけれども、誰かに必要とされる存在であるということが商いの原点だよと諭された。その時に今にして思えば商いの基本を学んだ。

お客さんとのやりとりも全て帳面でやっていたので、いわゆるツケですよね。通い帳っていう月払いでやっていたんですけども、信用の中でその場限りの現金決済じゃなくて、今でいうツケみたいなことが当たり前にやられていて、そういう関係があるので、お客様のところにお酒とか届けに行くときも必ずその方が喜ぶものを一つ添えて持っていくっていうことをしていた。

例えば子供がいれば小さなチョコレートを子供の数だけ持って行くとか、ご老人夫婦のご家庭であれば魚を下ろしたアラを持って行ってこれ味噌汁にして飲んでくれとかですね。何かおまけみたいなものを持っていくんですよ。これもなんかもったいないから、何の得にもならないんだからやめたら?って言ったら、だって喜ばれるといいじゃないって言う。そこでやっぱり信頼関係ができるんですよね。

ちょっとした日常的な母との対話なんですけども、それによってやっぱり社会の関係性、お金の裏には信頼信用があるっていうのはそういう親の姿勢から学んだなって思いますね。

岡本:それはあらゆるビジネスに共通して言えることですね。

鎌田:全く言えると思いますね。ネットでビジネスをするのは別に悪いわけじゃないけれども、利便性で言えばそれは確かにいいんだけれども、やっぱりそういう「ホッ」とするようなビジネスがちゃんと存続してるっていうのもまたすごく大事なことですよね。

岡本:そう思います。特に金融商品は全部数字で表現されるので、上がった下がった、増えた減ったみたいな、全部数字で商品が表現されてしまうので、その裏にある人や企業の営みみたいなのって実感がないんですよね。株価も自然現象で上がるわけではないですから、もちろん需給からマクロ要因まで関係しているんですけども、根本はやっぱり、投資先会社の社員さんなり、経営者さんなりが一生懸命知恵を絞って頑張って働くから業績が上がって株価も上がるのであって、そこを知るのはすごく大切ですね。

鎌田:株価に投資をするのではなくて価値に投資をするという、そういう手触り感を持つためにはやっぱりお金と投資の先にあるものを感じる感性がすごく大事だと思っていて、その辺はさっきの母親の姿勢にも通ずるかなとは思っていました。

岡本:本当ですね。近くに大きなスーパーができてというのは、要するに、グローバル・インデックス・ファンドみたいなでっかいのが出てきて、これさえやってりゃいいんですよっていう、それはそれでいいのですが小さな食料品店なんて言ったら失礼かもしれないけど、でも食料品店でよく知ってる人がお店にいてね、いろいろ話もできれば雑談もできればおまけももらえるみたいな、そういうホッとする部分っていうのはね、やっぱりみんな求めてる面もあると思うんですよね。

鎌田:そうですね。やっぱりそういうものに目を向けさせるきっかけに鎌倉投信がなれるといいなと思います。

岡本:今日は忙しいところ投資というものの核心に迫るお話と心温まるエピソードをありがとうございます。岡本:マーケットの状況もあると思いますが、投資でも投信でもパフォーマンス、パフォーマンスって、何が儲かるんだということばかりみんな気にしているようです。国ごとの選択にしても、あるいは個別の投資選択にしても、パフォーマンスの数字ばかり注目されていますが、投資信託で本当に大事なのは、投資理念というか、投資方針、投資哲学、そういう不変のものを続けていくことで本当の価値が生まれてくるのではないかと思うんですね。

そういう意味で鎌倉投信が運用する公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」は、投資家がいて社会と未来を結んでいくっていうのはやっぱり素晴らしくよいコンセプトだなといつも思っています。逆に言うと、数字、数字で投信を見ている人が多いだけに、経営をしていく上でもなかなか大変な部分もあるだろうと思います。もちろん鎌田さんのことだから、そこで妥協するということはないと思いますが、その辺のお話を少し聞かせてもらえたらいいかなと思っているんです。

鎌田:ありがとうございます。会社を設立したのは2008年11月でした。2010年3月から事業(「結い 2101」の運用・販売)をスタートしましたので、現在、15年半が経過しました。

岡本:どうですか、投資家の反応の方は

鎌田:そうですね。あんまり変わってないかなって思いますね。私たちの投資哲学とか運用方針とか、投資先を見る視点みたいなところは創業当時から全く変わっていませんし、あと、お客様との対話の姿勢っていうのが、ずっと一貫して丁寧に、運用成果とともに投資先の情報もきちっと伝えていくという信頼をベースにやってきています。

一般的には単にお金を増やすだけを目的とする投資家が一定数いらっしゃるのは間違いないと思うんです。ただ、お客様と私たちとの関係性というのは、単に運用成果で離れていくようなことは見られないかとは思います。反対にお客様が急に10万人増えるみたいなそんな勢いも全くない訳です(笑)

逆に私たちのような姿勢でやっている投資信託はそれほどたくさんはないわけで、そういう数字の競争に巻き込まれないで淡々とするべきことをしていく。そういうスタイルが好きというお客様もいるんだろうと思います。

岡本:投資家数は増えていますか?

鎌田:増えていなくてそこが課題です。特に若い層になかなかメッセージが届きにくくいですね。新NISA制度が始まって、これが一金融機関・一販売会社丸取りの制度なので、鎌倉投資のように直販ベースで一つしか金融商品を持っていないと制度的には超アゲンストなんですよね。

やっぱり1,800万円の生涯非課税枠を一本の投資信託でというのはなかなか難しいところがあって、やはり新NISAが始まってからの伸びというのは、明らかに鈍化してるというか、逆風ですね。

それと合わせて岡本さんが冒頭におっしゃった通りで、市場環境が完全に偏った相場に変わっていますので、パフォーマンスに着目するという観点からいっても、苦しい面があります。もちろん短期的パフォーマンスだけで売っているわけではないんですけども、そこでの露出も当然下がっていきますし制度的にもなかなか苦しい。

そういう環境で、僕らがいかにブレずに一貫した投資姿勢を貫くかっていうのが大事かなと思っています。一つの現象で言うと、去年の「個人投資家が選ぶ!ファンド・オブ・ザ・イヤー」の中で、運用パフォーマンスだけを見ると相対的に劣後してるんですが、アクティブの部門では一番の評価をいただいたんですよね。なので、やっぱりパフォーマンスを重視するっていう側面だけではなくて、やはり何か世の中を良くするきちんとした哲学を持っている運用会社に一定の魅力を感じてポートフォリオの一部にこういうファンドを持っていた方がいいよね、応援したいよねっていう声は変わらずにあるなという感覚を持っています。

岡本:なるほどね。

鎌田:投資に一歩踏み出すときにはオルカンみたいな話にすぐなってしまう。それは悪いことではないんだけど。

岡本:そうですね。最初の一歩としては悪くないけど、ちょっとあまりにワンパターンになりすぎてるなという気もしますね。本来の魅力ある投資というのはまた違うものもあるんですよっていう、違う意味でのね。

投資によって投資家の社会と未来を結ぶという話もあったけど、私がよくお話している「みんなよし、未来よし、地球よし」と似たようなものですね。生活者レベルでの投資というものに、少しずつでもそういう側面に目覚めていってくれることが、社会を良くしていく上でもすごく大きな意味があるんじゃないかなと思いますよね。

鎌田:岡本さんがおっしゃった通りで、かつて外資系の年金運用会社で一緒に働いていた時も、インデックスの良さは散々知った上でお客様に提供していた立場から言うと、優れた商品だというのは間違いなくて、そこを入り口にして自分らしい投資って何なんだろうかと考えるきっかけになって、鎌倉投信のような特徴のあるファンド、社会的目線を持っているファンド、こういうものを組み合わせていくっていうのも今後増えていくのではないかと思っています。

単にお金を増やすことだけを目的とした金融経済の先に明るい未来、明るい社会をなかなか描きにくいという事実に気づいた時に、これだけじゃダメだよねっていうところを僕らがブレずにちゃんと伝え続けておきたいわけです。そのタイミングが来るまで伝え続けておくっていうのは大事かなと思っています。

結局、今、世界中で紛争が起きたりとか、物の奪い合いみたいなのもある中で、世界中80億人の人がどこでお金を使うか、投資をするかによって社会の在り方が変わってきますので、やっぱり自分の投資の中にも、単なる経済性を超えた、未来志向、社会志向みたいな要素が混ざってくると、多分、一気に流れが変わることはないと思いますが、そういう思考性を多くの人が持ったり触れたりするっていうこと自体がすごくインパクトがあると思っています。そういう起点になればいいなと思っています。

岡本:つみたてNISAだって別に悪い制度だとは思わないけれども、やっぱり非課税だから得だ、オルカンは儲かるみたいな、そのレベルで捉えてしまう人がかなり多いんでね。第一歩としては、それもしょうがないかなとは思うけれども、やっぱりそこから本当の意味での投資はね、ちょっと違う。投資っていうのは「志を投げる」、「投志」っていう字でも投資ですからね。やっぱり未来に、そして世の中に志を投げていくという、そういう位置づけの投資信託であってほしいですよね。

鎌田:本当におっしゃる通りで市場全体の流れに乗る、いわゆるフリーライドの投資ではなくて、未来を自ら作るような投資って何なんだろうかっていう、そういう思考にシフトチェンジしていくと面白いかなと思うんです。

企業経営の基本にある「母の教え」

岡本:今でもよく覚えているんだけど、鎌田さんのお母様はお菓子屋さんか小間物屋さんか何かやってらっしゃって、鎌田さんもお母さまの営業姿勢に強い影響を受けたと伺いましたが非常に印象的だったんですよ。そのお話をちょっとしてくれますか。

鎌田:私の投資を通じて世の中を良くしたいという思いの原点は、やっぱり田舎育ちだったことと家庭環境がすごく影響を与えていると思ってます。母親が切り盛りしていたんですけど、小さな食料品店というんですかね。雑貨屋も兼業していました。ラケットやピンポン玉なんかも売っていた。何でも売ってる雑貨屋だったんですけれども、村に一軒しかない商売をやっていて、家計の収入は低く苦しかったですね。私も高校、大学は奨学金で行ったんです。今でいうと相対的貧困層に分類されると思うんですけども、全くひもじさとか貧しさとかは感じなかったんですね。

そこには2つ、今振り返るとポイントがあって、ひとつは地域の中で豊かな関係性があったということですね。お互い助け合う。例えば、誰かがお亡くなりになったときは、葬儀場で葬式をするのではなくて、みんなで近所の人が持ち回りで葬式を当番でしてあげるとか、田植えなんかも順番で手伝いながらやるとか、いわゆる市場経済だけではない共助経済というのが一定程度、機能していて、だからそんなにお金がなくても社会が回るという人間関係もあったっていうのが一つ。

もう一つは、やっぱり自然環境が豊かだったので、自然に触れたりとか遊んだりとか、そういう精神的な豊かさみたいなのが醸成されたっていうのは社会全体としてありました。その中で特に母親から学んだことで言うと、「商売の原点」みたいなところなんです。食料品屋をやっていて364日、元日以外は全部店を開けるみたいな商売をやっていたのですが、私が中学生ぐらいになると近くに車で10分行くとスーパーがあるような環境に変わってきたのです。お客さんもだんだん遠のいていったのです。

そこで私が母に、毎日店を開けなくても休めばいいじゃないかという話をしたら、母は近所の子供がアイスクリームを買いに来て、「店が閉まってたらかわいそうじゃないか」って言うんですよね。「そのために店開けんの?」って聞いたら「そうだよ。何か悪い?」みたいなことを言われた。つまり、商売としては下手くそなんですけれども、誰かに必要とされる存在であるということが商いの原点だよと諭された。その時に今にして思えば商いの基本を学んだ。

お客さんとのやりとりも全て帳面でやっていたので、いわゆるツケですよね。通い帳っていう月払いでやっていたんですけども、信用の中でその場限りの現金決済じゃなくて、今でいうツケみたいなことが当たり前にやられていて、そういう関係があるので、お客様のところにお酒とか届けに行くときも必ずその方が喜ぶものを一つ添えて持っていくっていうことをしていた。

例えば子供がいれば小さなチョコレートを子供の数だけ持って行くとか、ご老人夫婦のご家庭であれば魚を下ろしたアラを持って行って「これ味噌汁にして飲んでください」とかですね。何かおまけみたいなものを持っていくんですよ。これも「もったいないから、何の得にもならないんだからやめたら?」って言ったら、「だって喜ばれるといいじゃない」って言う。そこでやっぱり信頼関係ができるんですよね。

ちょっとした日常的な母との対話なんですけども、それによってやっぱり社会の関係性、お金の裏には信頼信用があるっていうのはそういう親の姿勢から学んだなって思いますね。

岡本:それはあらゆるビジネスに共通して言えることですね。

鎌田:全く言えると思いますね。ネットでビジネスをするのは別に悪いわけじゃないけれども、利便性で言えばそれは確かにいいんだけれども、やっぱりそういう「ホッ」とするようなビジネスがちゃんと存続してるっていうのもまたすごく大事なことですよね。

岡本:そう思います。特に金融商品は数字で表現される部分が多いので、上がった下がった、増えた減ったみたいな、全部数字で商品が表現されてしまうことが多いので、その裏にある人や企業の営みの実感が少ないんですよね。株価も自然現象で上がるわけではないですから、もちろん需給からマクロ要因まで関係しているんですけども、根本はやっぱり、投資先会社の社員さんなり、経営者さんなりが一生懸命知恵を絞って頑張って働くから業績が上がって株価も上がるのであって、そこを知るのはすごく大切ですね。

鎌田:株価に投資をするのではなくて価値に投資をするという、そういう手触り感を持つためにはやっぱりお金と投資の先にあるものを感じる感性がすごく大事だと思っていて、その辺はさっきの母親の姿勢にも通ずるかなとは思っていました。

岡本:本当ですね。近くに大きなスーパーができてというのは、要するに、グローバル・インデックス・ファンドみたいなでっかいのが出てきて、これさえやってりゃいいんですよっていう、それはそれでいいのですが小さな食料品店なんて言ったら失礼かもしれないけど、でも食料品店でよく知ってる人がお店にいてね、いろいろ話もできれば雑談もできれば、おまけももらえるみたいな、そういうホッとする部分っていうのはね、やっぱりみんな求めてる面もあると思うんですよね。

鎌田:そうですね。やっぱりそういうものに目を向けさせるきっかけに鎌倉投信がなれるといいなと思います。

岡本:今日は忙しいところ投資というものの核心に迫るお話と心温まるエピソードをありがとうございます。