【Vol.236】市岡 繁雄氏講演

次はこうなる~古今東西のデータから読み解く相場の過去、現在、未来

講演:市岡 繁雄氏
レポーター:赤堀 薫里

市岡繁男(いちおか・しげお)氏 相場研究家 プロフィール
1958年、北海道生まれ。81年一橋大学経済学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。支店や調査部を経て、87年から資産運用部門で勤務。1996年に同社を退職後は、ロスチャイルド投資顧問や富国生命保険、中前国際経済研究所などで資産運用や調査研究業務を務めた。 2018年に独立し、現在は財団や金融機関の投資アドバイザーを務める。18年秋から週刊エコノミスト誌にコラム「グラフの声を聞く」を連載し、現在も続いている。著書に同コラムをまとめた『次はこうなる』(ICI出版)がある。

市岡L

聖書は預言であり、黙示録は各国の為政者が意識している文章です。また、元気象庁長官、高橋浩一郎氏の遺著や、ラビ・バトラ教授の予言。わたしはこれらの内容を過去のデータから検証し、さらに未来の経済の先行きの予測をします。

わたしは、できるだけ長いデータをもとに相場のヒントを探るやり方をしています。基本的に相場の先行きはよろしくないと思っていますが、目先はかなり下がりました。先週の各国の相場や商品相場を見てみると、1週間でビットコインは3割下がり、今までずっと上がっていた石油株が2割近く下がった。あるいはアルミやニッケル、これまでの商品相場も軒並み下がった。

ところが、ロシア株だけは上がった。ルーブルと株価ですね。ロシアがウクライナに侵攻した後に、これはロシアがひどいことになると誰もが思っていました。実際は相場を見る限り、ロシアはむしろ強くなってしまった。西側諸国の株価は軒並み下がっています。マーケットはロシアが勝って西側諸国が負けた、そういう判断をしています。私はこのような時は、経験を視野に入れて考えます。

数日前に、フランスの大統領がドイツのショルツ首相とキエフに行き、ゼレンスキー大統領と会いました。これは日本の報道とは異なり、停戦を促しに行ったのではないのかと、海外でも言われています。キッシンジャーさんが『ロシアの東側をむしろ渡すべきだ』と大胆な発言をしましたが、そうでもしないことには、西側諸国は金利が上がり、株価も下がるということで、大変なことになると見たからでしょう。ですから、今週来週とかけて停戦ということが視野に広がってくるのではないのかと思います。そうなると株価は総じて一端戻るのではないのかと思います。

聖書は預言だということで、結構注目しています。黙示録といえば、各国の為政者が必ず意識している文章です。その中で「わたしは金持ちだ。満ち足りている。何一つ必要なものはない」と言っていますが、自分が惨めな者、哀れな者、貧しい者、目の見えない者、裸の者であることがわかっていない。「そこであなたに勧める。裕福になるように、火で精錬された金をわたしから買うがよい」というフレーズがあります。

2000年前に書かれたものです。前半の部分は、「例えば私が10億円もっている。それが引き出せなくなることがあるのではないか、もしくはお金の価値がなくなることがあるのではないのか」ということをいっているように思います。例えばハイパーインフレになる場合はそういうことがある。「そこであなたに勧める火で精錬された金とは、ペーパーゴールドではなくて、金現物を持ちなさい」ということを聖書は言っています。

2番目高橋浩一郎さん、元気象庁長官です。主に1970年代に活躍された方です。この方の昔の文献を読むと、「80年ぐらいのサイクルで日本の社会は変動しています 」ということが書いてあります。例えば1940年代は第一次世界大戦、さらにその80年前の1780年代は寛政の改革、その80年前の1700年代は享保の改革、さらにその80年前は江戸幕府が確立した時代でした。それではその次の80年後つまり1940年代の80年後は2020年です。2020年に何があるのかなと、ずっと考えてきた次第です。

3番目のラビ・バトラ教授の予言。ラビ・バトラさんはインド系のアメリカ人です。1990年代に日本でもたくさん本が出ました。以後、おどろおどろしい対応で、際物扱いされました。これも20年位前に本を買いました。当時はパソコンが発達していなかったので、データがとれませんでした。そこに書いてあることを自分でデータを調べてみると、ことごとく当たっています。言っていることが全部正しかった。

その中で、「独占企業の台頭で、賃金の伸びが生産性に遅れをとると、需給バランスは、借入金増加という人工的な手段でしか維持できなくなる」。つまり生産性はすごく上がるけれど、賃金が全く70年代から増えていません。ほとんど増えていないのに生産性が上がるから企業収益は上がる。だけど消費はしたい。給料は上がらないのでその消費は借入金を増やすという形で増えていきました。そして賃金は生産性より低いため企業収益は急増。株価も急騰します。

需給ギャップが表面化したとき、株価は下落し、景気後退は不可避となる。これが2008年のリーマンショックで起きたことです。1999年に出た本ですが、リーマンショックをある意味予言していました。この時点で国々は赤字財政、通貨供給拡大といった手段で問題を先送りし、抜本的な改革を打ち出そうとはしない。そこで結局、もっと大きな問題が起きてくる。これが今起きてきたことです。

海外から大量の借入をした国は、通貨が暴落し、インフレが続く、ということで閉めています。「海外から大量の借入れをした国とはどこなのか?」1つはこの間デフォルトしたスリランカ。こういった途上国です。もう一つは中国です、極めつけは米国です。それがこれから起きてくるのではないのか。今はともかく、2~3年後には、通貨が世界的に暴落してお金よりモノだという時代がくるのではないのか。それはすなわちインフレということです。

ですから私は、株価は向こう1~2年はぱっとせずダメだと思います。しかしその後は、インフレということでものすごく株価が上がるのではないのかと予測します。極端なことをいえば、日経平均が3万円どころか10万円になってもおかしくない。そんなようなことが、2024年くらいからくるのではないのかと考えています。

講演では、過去の統計データをもとに、アメリカの長期金利の60年サイクルについて、また、量的緩和が株価に及ぼす影響について説明。さらに山火事によって植生が変わるがごとく、平均株価の暴落によって相場もテーマも変わること。中国の現状と今後の懸念材料について解説。最後に実物資産優位の時代が訪れるのではないのかと言及されました。

(文責 FIWA®

フリー・ディスカッション

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参加者|日米の中央銀行の今後の対策をお聞きしたいです。黒田さんはずっと緩和を続ける。イールドカーブコントロールをずっとやっていて、0.25を目標に買い続けると言いました。でも最近2か月くらいですかね?0.25%以上に長期金利がなりました。今後、世界的にインフレで長期に金利上昇する中、日銀の対策が上手くいくのか?ということ。また、アメリカのパウエルさんが、『インフレ抑制に失敗することが、FRBの最大の過ちである』と言っています。日米の金融政策は今後うまくいくのか。最近市場では『FRBは失敗しているのではないのか?』と言われていますが、どのようにすれば日米の中央銀行のあり方がうまくいくのか、どのようにお考えなのか教えてください。

市岡|私はイールドコントロールなるものは、ものすごく難しいと思います。全世界で今、引き締めをしていないのは中国と日本だけです。中国はああいう国ですから、そういうこともあるのかなと思いますが、日本の場合、資本の出し入れが自由ですから、海外から売り崩しが始まればどうしようもないと思います。すでに債券先物市場ではものすごく下がりました。2年はストップ安に近いところまで近づいた。それを力づくで、日銀が買い戻したりしている。

言葉は悪いですけど、21世紀のインパール作戦のような気がします。もう一つ別の考え方では、株価が下がることで時価総額は自動的に下がります。でも金利が0.5、0.25%で維持されている間は、まあそんなに株価は下がらない。実際に日本の株は諸外国に比べるとまだましです。だから株価を維持するということを考えるのであれば、インフレで庶民が多少苦しいといっても、株価が時価総額で目減りするよりましではないのか。こんなふうに思っているのではないのかな?と思っています。

もう一つ多分これが本音だと思っていますが、金利が上がれば、今でさえ国債費、国債の利払い費が予算の1割くらいになっている。それが、0.25%が0.5%になれば10兆円が20兆円になる、というようなことで収拾がつかなくなってくることを恐れているのではないのかと思っています。そうだとしたら、このまま日本は終わってしまうのではないのかと恐ろしく思うことがあります。

一つ解決策があるとしたならば、アメリカの景気がいきすぎているところがあるので、インフレが止まらない。だから株価が暴落したら金利も収まるだろうと、逆説的な考え方です。パウエルさんは「金利を上げることによって早く株価が調整してくれないのかな」とそんなふうに思っているのではないのかなという気もします。

ただ、それでも一時的に終わってしまうのではないのか。なぜならば、ロシアに対して皆で、制裁を加えたことで東西冷戦が復活してしまった。冷戦が復活したことによって、ロシアの資源が回りまわって世界の物価を下げていたのに、それが入ってこないということになれば、世界的に1990年以前に戻ってしまう。ということは、いろいろなものがまた上がってしまう。つまり、物価上昇が避けられないのではないのかということで惜しいなと思っています。

参加者|ニッケルは電気自動車にたくさん使われている資源ですが、だいぶ上がってきました。コバルトやニッケル、電気自動車にたくさん使われるような資源の今後の動向は、どのようになっていくのか。すごく値上がりをしていますが、このまま高止まりになっていくものなのか、その辺についてコメントをお願いします。

市岡|コバルトやニッケルは電気自動車にとって要となる非鉄ですから、これが上がっていくことが、今までのシナリオでした。しかし、本当に電気自動車は大丈夫なのか?ということが、この1年で分かってくると思います。例えば今、日産のリーフという車があります。前の車は電池が劣化したということで、中古車の値段の相場があると思いますが、それよりも大きく下がっています。その問題が解決しない限りは、電気自動車の夢がぱっと覚めてしまう気がします。そうはいっても環境に優しいということをずっと言っています。しかし、実際にはガセで終わるのかなという気がしています。

もう一つ、中国の景気は、ニッケルの消費が過半を占めています。これからどうなるのか。中国の景気が悪化すると落ちてくるでしょう。実際に、この1~2週間でニッケルの値段はかなり下がりましたが、それは中国景気が、所定のGDPの利回りの目標を達成できないのではないのか、ということで下がっているわけです。こちらも、トレンドとしては上向きだけど、一回お休みするところではないのかという気がしています。

参加者|そうしますと、電気自動車は、中国の動向にもすごく影響を受けるわけです。つまりカーボンニュートラルの必要性がだんだん不確かになってきて、欧州の政策にも影響を与えると思いますが、そうした大きな流れでいきますと、カーボンニュートラルCO2提言のこれからのトレンドというのは、今よりは静まると思っていいのでしょうか。

市岡|はい。私はそう思っています。カーボンニュートラルは脱炭素化、電気自動車という流れはダボス会議の主催者の方が言い出してきていることで、大きな流れになってきています。物価が上がっている今、どこまでできるのか、正念場になってきているのではないのかと思っています。ただ、大きな流れの中では、やはり実物資産ということですから、非鉄とか、そういったものがジワジワ上がってきているのではないのかと思います。電気自動車のみならず、軍事的な需要があります。そういった面でも非鉄はまだいけるのではないのかという気がします。

もう一つは、ウォーレン・バフェットさんが2年前か3年前かと思いましたが、日本の5大商社株を全部買いました。その含み益が3割くらいになっていると思いますが、バフェットさんは2倍とか3倍にならないと売らないので、まだ持っているはずです。非常に目の付け所がいいなと思います。バフェットさんが買ったのは、インフレ対策ということで、これから資源が上がるので非鉄をたくさん買ったそうです。実際にそういう流れになっています。ですからバフェットさんが売らない限りは、非鉄はまだまだ続くと思った方がよろしいのではないでしょうか。

岩城|ロシア株ですが、ウクライナ侵攻があった時に、アメリカ、ヨーロッパが経済制裁をするということで、一時、株もルーブルも下がったと思います。結局振り戻しで上がっているということは、経済制裁が効いていないのであろうなと思いますが、結局こんな感じが続くんですかね?

市岡|ロシアは、金1gを5000ルーブルで中央銀行が買い取ると発表しました。これは事実上の金本位制の始まりではないのかということです。片方でプーチンが、穀物やあらゆるものをルーブル建てで売りますということになり、すべてが金とリンクした形になりました。その結果、1ルーブル120ドルだったのが、すぐに戻った。今はユーロに対して更に強くなっている。ルーブルが強くなってきているということで相場だけみるとこれはロシアの勝ちではないのかと思っています。

これは回りまわれば、ドルに対する挑戦状みたいなことで、片方だけは金に対してルーブルがリンクしている。ところがドルはお金を刷るだけでいくらでもできてしまう。どちらがいいですか?ということで、新興国を中心にロシアになびくということがこれからあるのではないのかということ。非常に大きな賭けを西側諸国はやったのではないのか。2~3年たったら、後世の歴史家が、あれは西側諸国の失敗なのではないのか、ということになるのではないかと思います。

岡本|今日も中身の多い議論をさせていただき本当によかったと思います。皆さんありがとうございました。

(文責 FIWA®