【Vol.235】しあわせ持ちへのロードマップ PART5:DIY資産運用~ライフプランから投資方針書へ

講演 岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久

今回は投資方針書の書き方についてのお話しでした。投資方針書の項目の一例として、資産形成の目的、運用目標、期待平均収益率、投資環境の前提について具体的に解説いただきました。

最初に資産運用の目的をきちんとすることです。大切なのはいつもお話しいただいている「6つの富」です。健康、愛する存在(家族など)、交友関係、趣味、社会貢献、金融資産の6つの富のバランスがとれていること。その中の一つの要素として、お金の問題を位置付けて、品格のある資産家として、ゆたかでしあわせな人生を送ることができるための資産形成することを目的とする。これが投資目的の一例と言えるでしょう。

そのために人生を通じての資産運用を〇年〇月から実行する。これを宣言します。資産運用は人生を通じて金融資産全体の価値ができるだけ安定的に物価上昇を上回る率で増加するように管理していくプロセスとして定義付ける。このような目的をきちんと定める。

これはすごく重要なことだと思います。なんのために投資をしているのか。ただ単に短期的に博打で儲けるということではない、ということを自分の中で確認する。投機と投資を間違えているケースがしばしばあります。投資も投機も有価証券に資金を投げ入れるわけですが、短期投資というのは価格の変動に賭ける。長期投資というのは、企業の成長に資金を投ずるわけです。

もうひとつ、専門家でも、投資と資産運用の違いを誤解している人が非常に多いということです。投資というのはあくまで個別の銘柄や投資信託に着目したものです。価値のあるものを妥当な価格で買い、価値の増加を期待する。あるいは割安性が修正される。それによって儲かる。それが投資です。

一方で資産運用にとって個別の銘柄の値上がり、値下がりは、二義的な問題です。重要なのは資産全体の価値が安定的にどのように増えていくのか、これが目的です。資産運用のなかで資産形成は、就業中の人が給料の一部を投資に回していく。そして自分の退職後のために積み立てていく。資産活用は、すでにある資産をできるだけ賢く運用しながら使っていく。滞空飛行期間をできるだけ延ばして使っていくということになります。

投資の目的に関連して、投資方針書の主な項目をここに挙げます。

目的:どれくらいの運用リターンを考えるのか

投資環境:景気、インフレ、金利などはどんな状態なのか

投資戦略:口座の開設から始まり、コア銘柄の選択と積み立ての手続き。必要があればサテライト・ポートフォリオをどうするのか。

これらの一連の作業を確認しながら書面にしていく。全体としてアセットアロケーションの考え方、売買の執行、モニタリング、リバランス。投資方針の変更なども文章にしておくと自分の行おうとしていることが明確になります。

このプロセスを行う上でアドバイザーの利用も有益です。その場合、金融商品を販売する販売員は相談相手としては不向きです。純粋にアドバイス業務を専業とするFIWA®認定のアドバイザーを採用することが良いと思います。

このような一連の流れがあります。これに沿ってやっていくということですね。

上記と関連して資産運用の前提になる部分があります。まず年間の平均収益率をどれくらいに想定するのか。何パーセントとはっきり言うことはできませんが、保有金融資産の購買力を維持することは絶対的な条件です。物価の上昇並みには資産を増やしていきたい。ただそれだけでは不十分です。そのうえでプラスアルファのリターンを狙う。長期的な投資リターンの目標は「購買力の維持+アルファ」ということになります。

投資期間は例えば30歳から始めれば65歳まで36年あります。30歳の時、積立てたお金は66歳の時に使います。31歳の時の積み立て資金は67歳の時に使います。原則、常に36年運用した資金を使っていけばよいのです。想定する実質リターンは一応前提として長期的な世界の実質経済成長率として予想される3.6%くらい。投資期間も約36年と考えます。3.6%で36年間運用すると、資産の額が3.6倍になります。これを岡本さんは「サブロクのルール」と名付けています。

それぐらいを前提として考える。中長期的な投資環境も一つの前提として考えておく必要はあるだろうと思います。細かいことは要りません。世界経済全体は基本的になだらかな成長を遂げていく。これからどんどん経済が悪くなって滅亡に向かっていくということはないでしょう。世界人口のなだらかな増加に加えて、全人類がより安全で豊かで幸せな人生への希求が成長の原動力になると思います。第4次産業革命による新産業の成長も期待できる。

世界経済の成長をけん引するのは、国や政府ではなくて世界の民間企業です。民間企業が生み出す付加価値が、長期的な投資のリターンの源泉になります。結論としては、世界の名目成長率並みに、株式の名目リターンが得られると予測します。現実にやってみると年によってかなり違いが出ますが、名目GDP額と世界全体の株式時価総額を並べてみると、大体同じような長期トレンドになります。名目成長率は、物価上昇率(デフレーター)と経済の数量成長率の合計で構成されています。つまり全世界の株式インデックスに投資をすることで、購買力を維持しつつ、経済の数量成長(実質成長)を享受することができるのです。

今回の講演はDIY資産運用全体の復習も兼ねてのお話でした。まずはライフプランがあり、それに基づきマネープランがあって投資方針書がある。最後は、遺言に至るまでの一連の流のお話を分かりやすく解説いただきました。次回は『お金とこころ』というテーマでこのシリーズはいったん終了するということです。次回の最終章が楽しみです。