【Vol.235】最近の投資信託事情~果たして投信業界に『顧客本位』は定着したか

講演:イボットソン・アソシエイツ・ジャパン㈱
月刊「投資信託事情」発行人 島田 知保氏
レポーター:赤堀 薫里

今回は投資信託を長年、観察し、研究してこられた島田 知保さんにお話しを伺いました。投資信託の歴史と現状について、またずっと議題となっていた顧客本位の業務運営が投信業界に定着したのか、歯切れよく切り込んでくださいました。

投資信託を歴史的に見た場合、現在の状況はどうなのか。顧客本位が本当に定着しているのかどうかという点につきお話をします。日本の投資信託はドラえもんのポケットと私はよく言いますが、何か困ったときに、『投資信託で買ってもらおう』というスタイルで作られてきています。代表的な事例を紹介しましょう。

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  • 終戦後に財閥解体で株式が大量に市場に出回らなくてはならないときに、誰に買ってもらうのか。それでは国民に買ってもらおうと、投資信託を作る。
  • 国債の大暴落がありました。メインの受け手の銀行が『これ以上引き受けられない。』となったときに、国民に国債を買ってもらう動きとなり、中期国債ファンドができました。
  • 銀行の都合ですが、株式の持ち合いを解消するために、持っているグローバル企業の株式の時価評価をしようと、株式を市場に出回らせて上場投資信託ETFを作った。
  • 不動産のバブルの大崩壊で、デベロッパーが自分たちのお金を投入することが苦しくなってきたので、不動産を流動化するために、一般の人たちに投資信託で買ってもらおうと、リートを作った。
  • 東日本大震災の後、代替エネルギ―を作るとなったときに、新しい市場を作ろうと、太陽光発電、インフラ事業にファンドで投資をしてもらおうとした。

今、議論されているのは、個人投資家にもプライベート・エクイティー。今までは機関投資家しかほとんど投資できなかったものを「投資信託に入れてもいいんじゃないの?」という議論が始まっているというように、みなさんに買ってもらいたいものがあるときは、投資信託を作っている。

『みなさんの資産が長期で大きくなるように』という目的ではなかったということが窺えると思います。そのドラえもんのポケットとして投資信託がポンと出てきた。投資信託を買わせられるのが個人投資家です。投資信託は顧客ニーズで作られたかというと、そうではなかった。今の投資信託は追加型がメインですが、ごく初期の時は、設定された時だけお金を集めて、あとは自由に売買できない単位型でした。そして3年や5年という期間が決まっている。その中で分配金を出していくという形の投信が中心でした。これは、株式を持ったことがない人たちに株を持ってもらうためです。「投資信託にして、定期預金のように持ってもらえばいいよね」と、定期預金とあえて似たような構造にしました。つまり誤解させるような構造で作り上げたものが投資信託であり、投資信託の分配金であったということになります。

現状はどうであろうか。ネット証券が台頭してきたり、積立がじわじわと増えてきたり、インデックスが着実に売れてきていることに関しては、まさに顧客本位。顧客のほうがお利口になって変わってきている部分と、それに見合うサービスが提供されるようになってきている、ということが言えます。そうではない部分。回転売買とまでは言いませんが、特定のテーマのものや、トピックスのものを一生懸命売るという体質に関してはあまり変わってはいないし、新しいものとしては、ラップ口座の営業を激しくやられている。この部分については顧客本位ではない状態がまだ続いていると言えるでしょう。

そうはいっても、資産運用に投資信託はなくてはならないツールであるということでインターネット証券の利便性がさらに向上され、お年寄りの方たちにももっと使いやすいものになってもらいたいということや、つみたてNISAやDC、iDeCoの活用がもう少し幅広くできるようになってほしいものです。

また、手数料の安いパッシブファンドについては、ほとんど出そろっていると思います。メインの資産クラスについては、業界がなかなか宣伝をしません。もう少し普通の人でもアクセスできるように、ここだけ見ればこのファンドから選べばいいということが、つみたてNISAのラインナップからできるようになればいいのかなと思います。

魅力的なアクティブファンドは、本当に運用方針やコンセプトがはっきりしていて、投資家ときちんと意思疎通ができている、投資家と共通の信念をもっているファンドしょう。そのようなアクティブファンドが、10本、20本、30本と世の中に生まれてきてほしいなというのが私の望みであります。

それによって不毛な投資信託の販売戦略をなくしていく。情報提供についても、それをしっかりウォッチしていくことによって、投資家が世の中を考える助けになるといった効用があります。それが世の中の考え方を反映しているということが確認できる、情報提供してくれるアクティブファンドが増えてくるといいでしょう。

そして良質な情報、データ提供がしやすくなる環境を作ることは、投資信託協会の使命だと思います。都合の悪い情報はぶつ切りにして出す、ということが今でも非常によく行われています。典型的なものは販売会社ごとのファンドの残高を出してくれれば、どこの販売会社がとんでもない売り方をしているのか一目瞭然でよくわかります。これが出てこないので良識な情報提供が出てくるといいなと思います。

また少額でも積立で投資する習慣を学生さんのうちから、もっと啓蒙して拡大していくことが重要なポイントだと思います。やはり投資家が常識のある投資家になること。そして普通の消費者が常識のある投資家になれるように、ごく当たり前の情報が提供されていき、知ることの機会が与えられていくということが非常に大事ではないのかと思います。

講演では現状の投資信託の動向と、投資信託の歴史と現在、そして課題について、詳細なデータをもとに大変興味深いお話をいただきました。(文責 FIWA ®

島田 知保氏プロフィール

イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社 月刊「投資信託事情」発行人・編集長 2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」、2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」、2016年より同「市場ワーキング・グループ」委員

国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移り現在に至る。プロ向け、一般向けを問わず、一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。投資信託における問題と課題が主にその販売体と運用会社の出自にあることを指摘し、運用業の自立と投資家に寄り添うことを提言し続けた。幸せ作りの道具として、お金や金融商品と「あんしん」して付き合うことを提案し、イボットソンのモットーである長期・分散投資にさらに若年層に向けて積み立てを提案してきた。近年は投信のコスト低下、インターネット販売の定着、つみたてNISAや確定拠出年金の拡大など、一定の成果が果たされたと感じている。個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ」共同幹事、「1億人の投信大賞」選考委員など、投資リテラシー向上のため、個人投資家に向けた任意の活動も行っている。

(文責 FIWA ®

フリー・ディスカッション

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竹中|僕は、ラップ口座を最初からバカにしていて、営業の話を聞いたことがないです。あれは、その人の属性をいろいろ聞いて、こういうメニューですよとアドバイザリー的なことはやるんですか?

島田|ラップとか一任口座が出きてきた当初は、富裕層のビジネスで、絨毯がふかふかのところでそういうことをやっていたみたいでした。日本の場合、信託銀行は別としてそういう人たちの人数が非常に少なく、それではビジネスが成り立たなかった。そこで起きてきたことがラップの大衆化です。そうすると松竹梅のメニューとなり、ファンドラップが最近はメインになっています。そうなると、最初の預け入れ金額も最初は1億、1億5千万と言っていたものが、100万とかね、そのようになってきています。そこで手数料が1.5%取られると投資家にとってメリットはほとんどないと考えた方がいいと思います。ロボアドの方がずっとましですね。

岡本|結局、業界としての図体が大きくなりすぎてしまっているので、なんとかそれを生かしておくために、あの手この手でいろいろ考えてやっているというのが本当のところじゃないですかね。

島田|そうですね。もう一つ当社(イボットソン)の山口が言っていたことですが、富裕層のあり方がアメリカとは全然違います。超富裕という人たちが日本ではほとんどいないので、アメリカと同じようなビジネスが成り立たないということを言っていましたね。どうしても大衆化していかなくてはいけないということですね。

岡本|大衆化するにしても、もう少し投資信託の中でも、どういう投資信託が本当にいい投信なのか、投信そのものが悪いわけではない。過去の歴史の中でいろいろなことがあったにせよ、投信そのものが悪いわけではありません。本当にいい投信をちゃんと売ればいいだけの話。ただその際に金融機関はかなり規模を縮小していかなくてはいけないでしょうね。それはしょうがないですよ。それをしないから無理なものが出てくるんですよ。

島田|まだ手数料ビジネスをしたい!というところが間違っていると思います。相続、高齢者に対するケアといったものに人員をもっと割いて、そういったところで、こまめに報酬をいただくということができれば。地銀なんかはやっていく方法はあると思います。しかしそういうまめなビジネスをしてこなかったから多分やる気がないんだと思います。

岡本|大量販売システムでやってきていますから。

島田|アドバイザーでいうと、アメリカで起きていることは、人間に背中を押してもらわないと最終的な決断ができない人が圧倒的に多いということなので、ロボットアドバイザー・プラス人間のナッジというんですか。肩を叩くみたいな、サイボーグアドバイザー、機械と人間が合体したような、そういう対象向けのサービスが非常に伸びていることがあるようです。

岡本|結局、販売会社、証券会社、銀行にしろ、販売をしないと今のサイズを維持できないということであれば、そこに集中していくというのは企業として当然のことですよね。ただ、そこで問題になっているのは、強化する一環として、IFAというわけのわからないものを作り出して、そこがいろいろ活動しているという問題があります。

でもアドバイザーと販売員は違う商売です。私がよく使う例として医者と薬剤師です。医者は患者を診察してその人にとって一番いい処方箋を書く。薬剤師はその処方箋に基づいて薬を販売する。いい薬剤師は非常に適切な説明をします。薬を売る時に、『ちょっとこれを飲むと眠くなるから車を運転しないほうがいいですよ』とか、『熱が出るかもしれないから、その時はお医者様に電話してください』とか、そういう役立つ情報を必ず入れます。それも薬剤師としてのサービスの一環です。

でもお医者さんはそういうことは言わない。この処方がベストなんだという判断をする。アドバイザーというのは医者に相当して、薬剤師は販売員に相当します。その販売員というのが銀行、証券会社の販売員であったり、IFAという販売員であったりします。IFAは早い話、昔ながらの社外の歩合セールスマンです。販売員は販売員としてそれぞれ自分の仕事をちゃんとやってほしい。アドバイザーでもない人がアドバイザーを名乗って、それをセールスの材料とすることはおかしい。その一点ですよね。

岩城|IFAは、独立系という名前がついているので、お客さんに『自分は証券会社で営業していたけど、どうも顧客本位の営業ができないので、辞めてわざわざ独立したんだ』ということをお話する方も多いようです。そういうことを面と向かって言われると信じてしまい、入り口のハードルは低くなる。でも最終的に、IFAであれば、今まで投資の基本について『長期・分散・コストも大事だよ』ということを一生懸命話していた人が、『それじゃあ私、投資をします!』と言うと、『このIFA口座で買ってください』と。そうすると今まで『ノーロードがいい』と言っていたのに、IFA口座で買うと手数料がいるのか、という話になります。そういうことをわりとやっています。

そういう話を聴いていると、顧客本位ではないんだろうと。自分の営業成績を上げるということが、その人たちの目的であって、アドバイスをすることが目的ではないんだなということが、相談業務を通じて私が日々感じていることです。

岡本|自称アドバイザーのアドバイスはセールストークですよね。だからアドバイスにお金を払わないというのは、生活者から見ると当たり前のことです。だけど本当に意味のあるアドバイスをするのであればお金は払いますよ。でもセールストークにお金を払わないというのは当然のことです。もっと金融庁が「アドバイザーという呼称をやめなさい!」と、はっきり言ったらいいんです。なぜ言わないのか知らないけど。

島田|「売る人がアドバイザーといってはいけない」と、金融庁が言ってくれればそれで終わるんですよ。

岡本|イギリスだってアメリカだってみんなそうです。それはなぜかといったら、その国にとって、退職後の人々の生活資金をどうするのかということが、非常に大きな政治課題だからです。それが重要な問題だと思うからシビアな政策をどんどんとっているわけです。そこに目をつぶって、なんとなくナアナアの中で生き延びているところにおかしさがあるわけです。結局、そのツケは生活者の将来のための資産からの流出になっている。やはり社会的な大きな問題だと思います。

岡本|最近は変わってきているけれど、投信会社というのが、販売会社というか大きい金融機関の子供みたいなかたちでいましたからね。親に売ってもらわないと生きていけないという中でずっと育ってきた業界であるということはありますね。

今日もありがとうございました。