【Vol.268】サムライズ勉強会講演より
資産運用におけるアクティブ投資の存在意義
なかのアセットマネジメント株式会社
最高投資責任者(CIO)
代表取締役社長 中野 晴啓 氏
中野 晴啓氏 プロフィール
1987年、明治大学商学部卒業。
セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを 中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信を設立。2007年4月から代表取締 役社長。2023年6月に退任後、同年9月なかのアセットマネジメント設立。公益社団法人 経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員 等を歴任。
資産運用業者が投資をするということは、資本市場を通じてお金を融通するということ。資本市場経由なので、国境もなく、世界中どこでも自由自在に最も適切なところを選んでお金をもっていくことができる。そしてその合理的な投資が成就することによって、お金が産業資本として入り、使われ、きちんと結果を出していけば、投資信託に返ってきます。株式投資のリターンの基本は配当金です。それと同時に企業がいい仕事をした結果、その企業は売り上げを伸ばし利益を成長させ、それは株価の上昇という形で企業価値となり上昇を反映させる。株価が上昇した分もリターンとして返ってくる。投資信託に返ったリターンは生活者に返っていく。この循環は同様に金融メカニズムです。
投信とあえていうのは、アメリカにおいては401Kが個人のお金の循環の主役です。イギリスにおいてもISA制度を通じて投資信託がど真ん中にある。日本でもNISA制度の拡充によって、NISA制度の金融機能の主役は投資信託です。間接金融一辺倒では、成熟している日本では十分な機能が働きません。僕ら自身が持っている1千兆円といわれている預貯金を、投信に回していくことによって、このサイクルが回るようになるでしょう。これを金融庁はインベストメントチェーンと呼んでいます。
資産運用立国化を推進していくうえでNISA制度は間違いなくそれを具現化するための重要な政策手段です。生活者が投資信託を保有することで世界に投資をして、そのリターンが生活者に還元される。 今、このサイクルが少しずつ回り始めています。そしてブームになっているのがオルカンとS&P500。今は、『もう日本なんかどうでもいい。オルカン一択だ。S&Pで十分だ』という論調の中で世界へお金が流れるというサイクルに入っています。オルカンもS&Pもメインはアメリカです。これが日本の長期投資文化のメインストリームとして定着したら、アメリカのために僕たちのお金が使われることになり、アメリカだけを喜ばせる。そして、日本の産業界をみんなが見捨てていることになります。
理想のインベストメントチェーンはもう少し別の次元にあります。我々のお金はリスクマネーとして国内の産業界を支える資金として回り、その資金を産業界はしっかり受け止め、産業界が課題解決をした結果としてのリターンをきちんと生活者に戻すというサイクルがきちんと回ることが理想のインベストメントチェーンです。国内にしっかりと真っ当な産業資本として国民生活者のお金が回るサイクルを作りたい!あるいは作らなくてはいけない!もう一度、日本の産業界が付加価値を生み出す力を取り戻すことで、ちゃんとリターンが返ってくるはずです。
これは鶏と卵の関係になりますけど、『もう一度産業界頑張れよ!強い会社はもっと強くなってくれよ』という意思を伝えることでこのサイクルが作られていくと思っています。日経平均、TOPIXというインデックスでもいいですが、日本の資本市場の脆弱性もあります。日経平均は圧倒的に弱い会社の数が多い。そういうところも全部ひっくるめて、僕らの大事なお金が非効率に回る。本来日本の産業界が本当に強くなるためには、これから日本の産業界の未来をリードできる強い会社、さらに付加価値を生める会社、もう一度産業界を強くしたいという強い覚悟とそれを実現しようという経営規律がある会社に効率よくお金が動いていくことが必要です。
これこそが本格的なアクティブ運用であるという意味です。日本株にお金が回ればいいというわけではなく、厳選された会社に産業資本が回っていく金融機能が何より必要です。これが、なかのアセットという会社で実現したい「ド」アクティブにこだわっている運用です。多くのみなさんは、これからマーケットがどう動くのか、どのセクターがいいのか、これから大型株がいいとか、小型株がいいとかそういうことを臨機応変にあてて、あるいはマーケットの流れをうまく捉えて、波乗りをするようなアクティブ運用が一番いいに決まっていると思い込んでいます。
しかしこれは大いなる誤解です。マーケットタイミングの運用は長期投資である必要性がなく、それと同時に産業資本にはなりません。本来の金融機能としての資産運用であれば忍耐強く、長期産業資本としていく役割を果たす運用であるべきです。特に日本株においてアクティブ運用で必要なプロフェッショナルは、高度に銘柄選択を厳選していく力だと思います。
投資は我々投資家が自分の固有の意志をそこに反映させることができます。つまり自分の固有の意志に合致する運用を探し出してそこに乗っていくということが投資信託の選択の仕方です。僕自身の目標としては生活者自身がお金を出し、生活者発の長期産業資本というもので国内の産業資本が復活していく。そこには明確な生活者の意志が込められた結果としての復活である。その意思が反映されればちゃんとリターンが返ってくる。これこそが高度な資産運用立国の姿であろうと思っています。長い旅ですが、そこに向けて自分たちが投資の役割を果たせる運用をしたいなと、非常に強い思いを持って立ち上がったということを見ていただけると嬉しく思います。
講演では日本の資産運用業界のあるべき姿や、資産運用立国化に資する運用会社について、またインフレというパラダイムチェンジの適応にふさわしい「ド」アクティブな運用会社として立ち上げた熱い思いを語ってくださいました。
(文責 FIWA)