【Vol.264】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)
求められる顧客本位のマネープランとアドバイスの価値について
岩城 みずほ
NPO法人 みんなのお金のアドバイザー協会~FIWAレポーター:赤堀 薫里
アドバイスの仕事は長期の運用によってお客様の資産が増えて、より良いリタイアメントを迎えられることでようやく感謝してもらえる仕事だと思っています。森長官が進められた資産運用の大改革から10年。日本の金融アドバイザー、顧客中心のアプローチへの転換が今ようやく起こり始めたと思います。日本にはアドバイザーという肩書の方が本当にたくさんいるので、顧客にとっては非常にわかりにくい状況です。例えばIFAは金融機関へは所属していませんが、証券外務員という位置づけですから、収入源は金融機関からのコミッションです。顧客との利益相反、そして情報格差が生じています。
一方、英国のIFAは、受け取れるのは顧客からのフィーのみで、それ以外のコミッションを受け取る場合はアドバイザーとは名乗ってはいけないということが法律で決まっています。この度、J-FLECがアドバイザーを認定することで日本でもようやくセールスとアドバイスが明確に分離されることになります。これによりアドバイスを求めるつもりが金融商品を購入してしまったというミスマッチを防げると思います。
アドバイザーの見える化というのは、アドバイスを求める相談者にとっては非常に良いことです。アドバイスというのがセールストークになってはいけないです。J-FLECの安藤理事長が個別の商品の推奨はあくまでも金融機関がするもので、認定アドバイザーはそうした判断をするためのリテラシーを高めていくと言っています。アドバイザーとセールスは、どちらが良い悪いではなくて全く違う職業です。共に顧客本位でプロフェッショナルであるべきです。アドバイザーには教育的な役割が期待されています。
J-FLECでは、国民の金融リテラシーを高めるための教育の提供を掲げています。生活者がこのリテラシーを高めるということは、価値がある助言が与えられるアドバイザーなのかどうか、選ばれる時代が来るということだと思います。セールスひいては金融機関が儲け主義に走っていないかどうかということが国民によってジャッジされるということにつながります。顧客本位でない金融事業者は生き残っていけなくなるでしょう。また、国民が金融リテラシーを高めることで、アドバイザーに自分の利益のために働いてもらうことができるようになります。これはアドバイザー側からすると、アドバイザーの効果的、生産的な関係の構築を求められるということだと思います。
そこでお金を頂いてアドバイスを提供する有償アドバイスの価値について考えてみたいと思います。アドバイスの価値を定量化するというのは非常に難しい。しかしこの金融価値のアドバイスを推計するということは各社で行われています。投資では資産配分を決めて、より良い投資先を探すことによって金融リターンと超過リターン、リスクプレミアム、2つのリターンが求められると考えられています。しかし、もう一つ生活者がファイナンシャルプランニングにおいて、より賢い意志決定を行うことで付加価値が得られると考えられています。三菱UFJアセットマネジメントさんから頂いた、金融アドバイスによってもたらされる価値として推計された表には、要素としてコスト削減が記されていません。やはり長期運用で重要なことはコスト削減することかと思います。私たちアドバイザーは顧客の資産からこのコストの流出をなるべく減らしてあげることが非常に重要な役目です。結果お客様はアドバイザーに相談することでコストの無駄を省いてゆっくりと資産を育てていくことができるようになります。
アドバイザーが行うコンサルテーションのゴールはお客様自身が自分の資産を運用管理できること。お客様が自立してしっかりと自分の資産を運用管理できることだと私は思っています。この表の中では各社の着眼点が異なるため一律に比較することはできません。しかし、投資リターンを大きく押し上げるものとして投資行動コーチングの数値が高いことが確認できます。8月5日に日経平均の大幅な下落ということがありました。そこで運用をやめてしまわないようにしっかりとメッセージを伝えることが大切だと思います。
理論上、株式投資は長い目で見れば、会社の価値が高まれば、それに連動して投資したお金が増える傾向にあるため、短期的な値動きを心配する必要はないのです。しかし価値が乱高下するとどうしても不安になってしまうという人が多いです。よく知られているプロペクスト理論も、利益が出た時よりも、一時的でもお金が目減りすることで心理的不安が大きいということを指摘しています。ですから不安を取り除いて長期投資の重要性をしっかりと重ねて何度も何度も伝えて資産運用を続けられるようにアドバイスをしてあげることがアドバイザーの役目だと思います。
アドバイザーの価値をまとめますと、相談者というのは混沌とした状態でいるので、相談者が抱える問題を解決する道筋をつけられるということ。FPは割と幅広い知識を持っていますので、これは可能かと思います。2つ目は、相談者が自ら選択を判断できるようにサポートすることが重要です。プロですから、相談者が気づいていない問題点についてもアドバイスすることができる。資産運用を合理的に進めるために何が大切かポイントをしっかり伝えられる。相談者に知識をつけてもらうために教育的なコンサルテーションができること。相談者が長期での資産形成を続けていくための支援、アドバイスをすることができる。こういったことが重要かと思います。
講演では、冒頭でプロフィールとFIWA®設立までの長い道のりについての紹介。また、大変具体的なコンサルテーションのポイントを解説。最後に良質なアドバイスの重要性とFIWA®として目指すアドバイザーの姿を熱く語っていただきました
フリー・ディスカッション
参加者|岩城さんにお願いです。アドバイザー協会としてでも個人としてでもいいですが、コストを払ってまでもアドバイザーを利用する意義をわかりやすくYouTubか新書、両方ともありだとは思いますが、資産形成をこれからしたい人向けに出していただく検討をお願いしたいと思います。やはりお金を払ってまでアドバイザーを求めたほうがそれこそお得ですよということを、無料のインターネット情報がある中で、どうリーチしていくのかは非常に大きな課題かなと。今週も会社の後輩、20~40代の人と飲みましたが、みんなお金のことは気になっていました。
岩城|アドバイスにお金を払うということが、まず今、文化としてないですよね。イギリスでは、アドバイザーという職業の人がしっかりとコンサルテーションをするという文化が出てきたときに、富裕層はアドバイザーに良いアドバイスをもらえてますます豊になっていくけど、アドバイザーを雇えない人は貧しくなっていくというアドバイスギャップが生じました。このようなことに対して、J―FLECは無料でこのアドバイス体験みたいなところをカバーしていこうという方向に走っています。J-FLECの実務研修を何度かしましたが、やはりアドバイザーの意味をみんなわかっていない。おそらく今FPの人たちがアドバイスと思っているものは本当の意味のアドバイスではないんですよ。ちょっとネットで調べたり、本を読んだりすることで解がみられる。そんなところにお金は払わないんですよね。
やはり何をアドバイスとするのか。どういうアドバイザーとしてのスキルを上げていくのかというところの方が大事です。まだそこまでいっていないですね。消費者の中で私のところに来てくださる方は、最初にお金を払ってでも正しいアドバイスを受けた方が得だと思ったからきました、という人が来たんですけど、それはいわゆる保険会社が外貨建て保険を売ったりして、お金を貯めましょうというセールス。あるいは巷にある保険代理店が無料でアドバイスをもらうのは保険を買わせるためのセールス。そういうセールスに結びついている。そうではなくてアドバイスを受けたいという発想です。私が次の段階で目指したいことは人生を豊かにするようなアドバイスができる集団になりたいんですよね。FIWA®は特に。だから実はそこまでもっていきたいです。アドバイスという定義もこれからアドバイザーになっていこうという人もはっきりわかっていないし、お客様についてもセールスを受けるのではなく、アドバイスが欲しいと漠然と考えている人はいるけれど、そのアドバイスによって、どのようなベネフィットが得られるのかというのは想像がまだついていない世界。そこはもう少し掘り下げていきたいなというのはすごく思っています。
岡本|弁護士で考えてもらったらわかると思います。法律の分かりやすい本を読めば、その面の弁護士はいらないか、といったらそんなことはなくて、やはりケースバイケースでものすごくいろいろなバリエーションというのがあるわけです。こういう風に考えたらいいとか、こういうやり方があるということがすごくあります。やはり本当にアドバイスはそこに入っていくことだと思います。本に書いてあることは別にアドバイスではないですからね。もちろん理解を深めるという意味では重要だと思うけれど、それとアドバイスとは違うと思う。個人の問題を投資であれその他のことであれどのように考えるのか。それに対する報酬だと思います。桑瀬さん、司法書士としてどう思う?
桑瀬|私は基本的には、相談は電話であろうとメールであろうと、フランス大使館からの紹介だろうと、まず『有料ですよ』と言います。でないと、そこらへんの会社法とかはあくまでも知識なんです。知識はどこにでも落ちています。あなたに必要なのは知恵ですよね。あなたにフィットできる相談の回答はじっくり聞かないといけないし、それには私の時間をとることだから。だって八百屋に行って「大根ください」と言って、そのまま持っていかないですよね。それは仕入れているわけだからという話をします。我々も民法とか会社法とかの知識を仕入れて加工してあなたに合うように出すからお金をいただきます、みたいな話はします。
私なんかはものすごい知識をもっているわけではないので、私と知り合うことがありがたい、楽しくやっていきたいと思ってお布施だと思ってくださいみたいな。結局、アドバイザーだから例えば年金を後にした方がいいよとか、こういう金融商品を買った方がいいよというよりも、例えばこの人と私が付き合っていきたいみたいなことに対してフィーを払ってもらえるということにならないと、人はなかなかお金を払ってくれないかなという気がします。うちのお客さんは、みんな相談したら『まずいくらですか?』と聞くみたいな。別に全然いらないようなお客さんもいますけど、いらいないと思えるようなお客さんほどちゃんとお金を払ってくれますよね。そこはどうしてなのかわからないけれどそうなっています。楽しくやっていればそうなるのかなという気がします。
岡本|結局アドバイザーというのは、何を売っているのかと言ったら、具体的に何をするかということよりも人間力を売っているんですよ。信頼される人間になる。そういう人を一人ぐらいあなたの人生に持っていてもいいのではないですか?お金を払ってもね。しかも知識もある。何かのときにすぐに相談ができる。それこそ有事が起こったときにどういう対応がいいんでしょうねといって、少なくともそれなりに知識に基づいてちゃんとした答えをしてくれる。逆にいうとハードルも高い。非常に高いレベルの人間性や知識、経験、倫理感というものが必要なのは間違いないです。
岩城|『FPは知識があるので、割と固定観念、凝り固まっている部分があるらしくて、「そんなのできません」「それは良くない。やめた方がいい」というような答えを出す人が多いんですよ。』という話を聞いていましたが、実務研修をしてもやっぱり本当にあるんだなと思いました。「それはふさわしくないのでやめましょう」とかね。いやいや、やめるか、やめないかは本人が考えることなので、そうではない代替案を出すとか、あるいはなぜそれが必要なのか?そういう希望を持っているのか?そこをまず聞くことが一番大事です。そこから信頼関係ができたりしていくわけですが、そこがどうもわかっていないというか、すっ飛ばしている人が多いなという印象ですね。そこがそもそもアドバイスと先生とはき違えているのではないのか。岡本さんがおっしゃっているような並列な関係であるはずなんだけれども、なんか資格持っているから先生になってしまっているケースがあるのかなというのは危惧しています。
岡本|以前そういう面で営業に携わったその時のパターンが出てきてしまうのがあるのかもしれないね。「いや、そっちよりもこっちの方がいいですよ。」みたいな話が出てくるかもしれないな。本当にアドバイザーというものがいろいろなレベルで必要です。とにかく今、本当の意味でアドバイザーが必要とされているのは一般生活者。別に投資のことはそれほど興味がないけれど、とにかく第1歩を踏み出したい。それは何も難しい知識が必要ではない。ただ確信を持たすということ。自分は本当にこれをすべきだということ。そして決めごとをきちんと決めて、何が起こってもずっと続けていくというサポートを続ける。もちろんそれだけの仕事であればそんなに高い相談料にはならないかもしれない。でも暴落が起こったときには「大丈夫ですよ」と、一言いってくれるだけでその人は安心して続けられる。やっぱりやめなくてよかったなと思うかしれない。やめておけばよかったかなと思うかもしれないけれど、続けていくようにしてあげることは、非常に大きな仕事だと思います。
最近発見したんですけど、戦後証券取引所がGHQのお許しを得て再開されたのは1949年の5月です。その日の日経平均が176円です。今75年たって、約4万円でしょう。ということは220倍になっています。これは日本が敗戦でボロボロになった時から復興しているから高い伸びになったと思っているかもしれませんが、アメリカのニューヨークダウが再開された日は176ドルです。ニューヨークダウは4万ドルくらいでしょ?75年で同じくらい上がっています。では今日から75年後は2099年。21世紀最後の日です。その時今4万円が同じ220倍になったりすると800万円とか900万円になります。少し低めにみても日経平均500万円ぐらいになっている可能性があります。同じ伸び率であれば800万円。そこまで行くかどうかそれは分からない。でもそのように考えれば、長期投資はすごく将来は明るいものだと思います。
同じように全世界で株式市場の果たす役割。あるいは企業の果たす役割というのは引き続きこれからも重要になっていくわけだし、みんなの生活を良くしていくのは企業以外何もないわけです。そういう意味で長期投資というものをきちんと理解してもらい、信念を持って、何が起こっても少々1000円下がったからどうとか2000円だからどうとか、そういうことにこだわらずに、とにかく続けていくということが成功の秘訣だと思います。今日は有益なお話を聞かせていただきよかったです。これからもFIWA®として一生懸命この活動を続けていきます。