【Vol.263】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

計量モデルの使い方~データが語る投資家へのメッセージ~

 小松原 宰明氏
レポーター:赤堀 薫里

小松原 宰明 氏
小松原 宰明 氏

小松原 宰明 氏 プロフィール

イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社
チーフ・インベストメント・オフィサー

日本長期信用銀行、長銀投資顧問、UBSアセットマネジメントを経て2000年イボットソン・アソシエイツ・ジャパンを共同設立。創業以来コンサルティング業務、資産運用業務に携わる。慶應義塾大学理工学部卒業。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。日本アクチュアリー会準会員。日本ファイナンス学会理事。MPTフォーラム幹事。


今日のテーマは、計量モデルの使い方です。計量モデルを使いながらさまざまなデータを使うことでどのように見せられるか、という事例をご案内します。

いかにデータを中立的、客観的にメッセージとして伝えていくかが目標になっています。

資産形成の実現、経済的束縛からの解放、それから合理的投資行動、これが一体どういうものか。それを実現するにはゴールベースアプローチとその伴走者が必要です。ポイントは、お客様である投資家の把握です。こちらからどんなに優れた良い知見を伝えても投資家が迷ったり理解ができなかったりすると仕方ない。

また、投資家自身のこともよく把握しないとしょうがないということもあります。know your customerということで、いかにその投資家を知るかということが一つ目の課題です。そしてもう一つは、短期的な売買、投資スペキュレーションからいかに長期的な保有というインベストメントの世界に移させていくか。そういう意識を持たせるかということが、投資においては非常に重要なことと思っています。

これについてデータをもって分かっていただく、腹落ちさせていくということが非常に重要です。そして投資対象である株、債券、外国株等いろいろありますが、この長期的なリスク、リターンの把握をもって初めて上記のことができるわけです。

ここのデータをもって紐解いていきたいと思います。それができればお客様に即したポートフォリオ提案ができます。あとはお客様に寄り添うアフターフォローということが重要なのかなと考えております。

投資の極意ということで私の好きな座右の銘ですが、運用の上では「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と思っています。敵というか、よく知らなくてはいけないのはマーケットのことです。ただマーケットのことだけではなくて、自分自身のことをしっかりと把握することも投資の世界では重要だと考えています。何のために運用するのかという目的、その必要性を確認することが投資家にとって非常に重要だと思います。

運用は何のためかということになりますので、そこを整理しておくことは重要です。また、投資対象が過去どのような動きをしてきたかといったことも非常に必要なことであり、これこそがデータで読み解く温故知新だと考えます。

そしてそのデータから読み取れることは、相場に下落がつきものということです。マーケットは上がるだけではなく、局面によっては下落ということがどうしても避けられない。ただ、下げたときに安く買えるチャンスという側面もあります。そこは焦らないでバーゲンセールだと思ってしっかり買うということも必要なのではないかなと思います。

そして、もう一つは自分を知るということです。短期的に許容できるリスクを知っておくということも、備えあれば憂いなしということで、心の準備ができます。将来的に非常に上がるということが分かっても、どうしてもマーケットが下がると慌ててしまい、怖くて売却してしまうということを人はしてしまいがちです。

こういう投資行動を避けるために、投資家にはアドバイザーが必要だと思っております。運用しているとどうしても焦燥感や欲望が出てしまい、合理的な意思決定がなかなかできないということがあります。上がるとさらに買いたくなる。下がると売りたくなるという気持ちがありますが、長期のデータを見ると、確かに短期的に上がることも下がることもあります。ただ長期的には、この足元20年間見てもみんなどの資産も上がっているという事実を認識するべきです。

これが慌てないでじっくり持つことによって最後は笑える、資産形成ができるというポイントになるかと思います。どうしてもいつ上がるか下がるかというタイミング投資に目が行きがちで、保有し続けるということが非常に難しい。しかしそれを実現していくということが重要かと思います

運用するにあたって豊かな人生を構築しよう、実現していこう、というのは誰しも考えますが、その前に人生を紐解くと、通常のサラリーマン、勤労所得者の世帯であれば資産形成期があって、その後、資産の活用期があります。その間にさまざまなリスクを抱えていると思います。例えば年金問題や低金利の問題を解決するためにはどうしても資産運用が必要になるでしょう。一方で枯渇リスクもあります。リタイア後の資産の寿命をいかに延ばしていくかということに関しても、年金だけでは足りない部分は資産運用を活用していくということも十分考えられると思います。豊かな人生にするために、いかに稼いで収支を計画するか。そして運用についてはリスクが伴うのでどうやって付き合うかが重要かと思います。

講演では、新NISAをデータから読み取るとどのようなことが見えるかについて説明がありました。資産運用の極意として、長期投資、分散投資によって何がもたらされるのかをデータを使用しどのように伝えていくのか解説くださいました。

フリー・ディスカッション 

岡本|資産配分とライフ・ステージについて解説をしていただけませんか。

小松原氏|資産配分を考える上で、その時のライフ・ステージを考えるべきだとよく言われています。何をもって若い人は株が多めだとか、年を取っているときの株が少なめなのかということを弊社の創業者のロジャー・G・イボットソンさんが人的資本というファクターを入れて考えたことを紹介したいと思います。

ここでいう人的資本は、将来の所得の現在価値と思っていただくといいでしょう。そういう意味では、若い人は人的資本が多く、年を取るに従って将来稼ぐお金は減るので減っていきます。一方で所得は若いうちは少なく、それを貯めこんでいる金融資産も少ない。ただ、人的資本を取り崩して実際の金融資産になっていくので、退職日に向けて拡大します。退職日以降は年金生活に入るので金融資産が減っていく。

この時に今までのアプローチは金融資産のみで、これをどうアロケーションしようかということを多くの人は考えていましたが、この人的資本も込みで金融資産と合わせて考えると、投資家にとって安定した運用ができるのではないかという話です。

具体的に言うと、25歳から75歳まで人的資本は減り、金融資産は増えます。これを合計したものが総資産になります。総資産のリスクリターンを、ある一定のその人のリスク許容度でキープします。人的資本というのは、収入の安定性によってリスク水準、価格変動性というのは大きくなります。

例えば、総資産として株式3割、債券7割でキープしようと考えます。実は25歳というのは、トータルしたときに人的資本がすごく大きいので、金融資産は100%株式でも、総資産に占める株式の割合が2~3割にしかいかない。それが35、45となっていくと次第に金融資産が増えていきますし、人的資本も減っていくという関係から、金融資産は若いうちは株式100でいいのですが、35歳くらいのときには75、45歳のときは50と、年を取っていくと株式の比率を抑えていこうという考え方があります。

つまり人的資本を考慮すると総資産のリスク・リターンを安定させるためには、金融資産の比率は若いときは株式でリスク多め。年を取るにおいてだんだん株式を小さくしていくと総資産のリスク・リターンが安定して保たれるという話です。巷でいうターゲット・デート・ファンドみたいなもののウエイトの考え方もよく説明できると思います。よく、年を取るともう少しリアロケーションして株式から債券にしましょうと言われていますが、その具体的な裏の根拠をちょっと示したものであります。

岩城|NISAで初めて投資をするような方はなかなか株式と債券を分散して持つ、リバランスをする、リアロケーションみたいなことは、ちょっとハードルが高いですね。私のお客様はそういった方が多いので、とりあえず全世界の株式、例えばオルカンみたいなものを持って、現役の時は積み立てていく。そしてリタイアメント期になったらそれを少しずつ取り崩す、ということをしていくことによって全体の資産のリスクを減らすというような考え方が一番簡単なのかなと思っております。ただ、人的資本というのを加味して金融資産と合わせて考えるというのは私も前々からすごく重要な視点だと思っていました。特に金融機関の方というのは、お客様がご相談にいらしたりすると、窓口に座ったらいきなり金融商品を提示するというような形で全く考慮されていない部分であったと思うので、非常にアドバイザーにも大事ですし、金融事業者セールスの方にも大事な考え方なのかなと思っています。

理論的なことはすごくわかりますが、これをいわゆるゴールベースアプローチみたいに伴走していくというのは、例えば、助言業を持っていて、残高フィーでいくらみたいなビジネスをしている方にはそぐうかもしれませんが、普通のFPは、お客様に必要な教育的なコンサルテーションを行って自立していただく。お客様自身に管理をしていただく、というふうに持っていきたいんですね。私なんかそうです。そういうところにアドバイスというか、方法論がないかな、というのをずっと模索しています。ざっくりした話で申し訳ありませんが、いかがでしょうか。

小松原氏|ありがとうございます。自立していただくのはもちろんいいのですが、どこまで自立を求めるのか、一方でお客様が何を求めているかということに相当よるのかなと思います。ゴールベースというアプローチの定義もさまざまあると思いますが、日本語に訳されている日経BPから出ている「ゴールベース資産管理入門」は比較的よくわかりやすく書かれている方だと思います。そこには一人一人の将来のゴールに向けて資産を管理していく方法だとざっくり書かれています。

ゴールというのは単純に、例の2000万円作りたいというような金額だけではなくて、その方の夢とか目的、幸せみたいなことをどのように実現するか。実はプラスの側面だけではなくて、例えば高度の障害を抱えたお子様がいるとか、将来どうしても自分が亡くなった後に蓄財を残してあげなくてはいけないみたいな課題、そういう悩みが多種多様あります。こういったものをトータルでどのようにしていくかということが、ある意味真のアドバイザーの仕事なのかなと考えています。

そういう意味では、お金さえあればいいという話ではなくて、ひっくるめて幸せを実現していくということだと思っております。そうするとやることはあまりにも多くて、フィナンシャルプランニングだけじゃなくてライフプランもやらなくてはいけないし、どれくらい稼げるかとか、どれくらい使うのかというステートメントも作らなくてはいけない。それごとに目標リスクリターンの設定やそれが実現できるかという定期的なレベルも必要になってくるので、やることが多くてすごく大変じゃないかなと考えています。ただ成功例でいうと、アメリカが昔コミッション型だったのが、リーマンショックやITバブルの崩壊などさまざまな経験をしていく中で、結局コミッション型よりもフィー型でお客様と寄り添うというところで成功しています。

お客様の資産金額の増加がお客様にとってもハッピーですし、アドバイザーとしても、それがフィーベースでやれば所得増加にもつながり、ウィンウィンができて、アメリカではFAビジネスが成功しているに至っていると私は把握しています。これが日本ではほとんど証券仲介でうまくできていない中、これをするためにはお客様の単純な自立だけじゃなくて、業界全体でお客様に寄り添っていくということを作っていかないとしょうがないのかなと思っております。

岩城|私も本を読んで非常にアドバイスの価値ということを考え始めました。本当に今悩んでいるところで私たちが目指したいのは、本当はそこなんです。非常に励まされました。ありがとうございます。

小松原氏|あの本が、結構いいところをついているのは、商品選びは二の次で、しっかりとベースラインのポートフォリオを作ってあげて、それをちゃんとコントロールしてあげましょうという、そこに尽きるのかなという気がします。あとは、マーケットがクラッシュしても逃げないこと、そして逃げたいお客様をしっかりとつなぎ止めるということは、まさしくアドバイザーの大切な、最後にお客様を喜ばせることなのかなと思っています。

岡本|私はゴールベースのアプローチを一つのポートフォリオで全部、完結させるというのは非常に難しいと思います。例えば、子どもが大学に行くための費用とか、車の買い替えが必要だとか、とにかく何か特定の日までに必要だということについては、別勘定でやっていき、あとは総合的な生活全体をカバーするものについて、ゴールベースの概念をある程度入れていくというのは良いことだと思いますが、一逆にリスクが高くなるのではないかと思います。年を取ってくるとバリアフリー化しなければならないのにそれもできないとか。そうではなくて、そこは分けて考えるべきだと思います。そこに、アドバイザーという人の役割が非常に大きくあると思います。

岩城|もちろんアドバイザーが一緒に話を聞いて、そして例えば投資方針みたいなことを策定していくということになりますが、お客様自身もしっかりとこういったゴールベースアプローチみたいな考え方を知って、自分で棚卸しして考えていくことが今の投資教育には抜けている部分だと思います。そういったところを丁寧にアドバイザーが構築していき、どういうことを伝えて、どういうことをお客様に考えていただいて、どういう結論を出すのかという過程をしっかり作っていくということが大事かなと思っています。

岡本|そこがアドバイザーの腕の見せ所ですよね。あと小松原さんが言っていた、人的資産と金融資産の問題でいうと、投資資産というのもある意味、人的資産ですよね。自分以外の人の働きを人的資産への投資としてお金を出しているということですから。企業経営者たちが期待に応えて仕事をしてくれるということで考えると、このように人的資産と金融資産を本当に分けていいのかなと。若いうちに人的資産がたくさんあり、年を取ってくるとそれが減る。

個人にとっての人的資産というのは、お金や稼ぐ能力だけじゃなくて、例えば友達、交友関係が非常に広まってくるとか、好きな趣味がある、ボランティア活動をやっているというようなものも人的資産的なものに考えて入れていくと、やはり、このように一本調子で下がっていくというのはちょっと寂しいなと。そういう豊かさという前提をお金だけと限定してしまうところに、私は少し限界があるのではないかという気がします。若いうちはお金を早く増やさなければいけない。これはとても大事だと思いますけどね。

小松原氏|本当に人的資本というか、今あるお金を考えるだけではなく、それを使って例えばキャリアアップを図るために勉強して給料自体を上げるみたいな。そういったことも含めて考える、またはアドバイスすることがすごく重要ですよね。

岡本|大事だと思いますね。今日もありがとうございました。