【Vol.261】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

2024年バークシャー株主総会に見るバフェットの投資哲学と人生哲学

 びとうファイナンシャルサービス株式会社
代表取締役 尾藤峰男氏
レポーター:赤堀 薫里

尾藤峰男氏 プロフィール

尾藤
尾藤峰男 氏

日興証券にて、21年間証券業務に携わった後、2000年7月びとうファイナンシャルサービス株式会社設立、現在に至る。

金融機関から完全に独立した資産運用アドバイザーとして、お客様から助言料をいただくだけ(フィー・オンリー)で、ライフプランニング、個人の金融資産や退職金の資産運用アドバイスを行っている。CFP認定者、1級FP技能士のほか、グローバル資格のCFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会認定証券アナリストの資格を持つ。米国株投資、グローバルな投資理論や国際分散投資に精通する。バフェット・ウォッチャーとしても知られる。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経マネー、東洋経済などへ執筆・コメント多数。テレビ東京、日経CNBCなどに数多く出演。著書に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」( 2010年刊)、「バフェットの非常識な株主総会」(2017年刊)。
公認投資助言者(RIA)、投資助言・代理業 関東財務局長(金商)905号。


今日は、2024年バークシャー株主総会に見るバフェットの投資哲学と人生哲学についてお話しをします。

毎日株価を見ている人は儲からない。バフェットは、株価を忘れている人が、長い間にお金を作っていると、教え諭しています。個人投資家が株式投資で高い利回りを確保するためには、株を持っているときのマインドセットが非常に大事だと。

インデックスファンドで資産形成というのは非常に大事なことです。しかし、バフェットは個別株投資で高い利回りを確保する。バフェットにしてみれば、会社の内容をよく知れば個別株投資をやるべきだということがまず前提になります。2000億ドルではなかなか買えませんが、100万ドル以下の投資であれば今でも年率50%の利回りで投資成果を上げられると言っています。

どうしたらそうできるのか?「2万ページのムーディーズ・マニュアルをめくって安い株を探すのか。あるいはマンガーのように良い会社を真っ当な株価で買うのか」という質問がバフェットに向けられました。今でも2万ページを1ページ1ページめくり、数千の会社を見ている中で、商社株を見つけたと言っています。そういう意味では、日本では会社四季報を出るたびに1ページ1ページめくることに相当すると思います。ぜひご参考にしてください。

次は人生哲学みたいなところです。良いヒーロー、良い友達を持つことの大切さ。バフェットは、自分にとってのヒーロー、模範とするべき人物は、その人が成し遂げたことを見てのヒーローではなく、自分がこうなりたいと願う人物を模範にするべきであると言います。

それはお金のことを言っているのではなく、良い人生を送るために大切だということです。バフェットにとってのヒーローは父であり、マンガーにとってのヒーローは米国独立の英雄ベンジャミン・フランクリンでした。バフェットにとっての良い友とは、自分より能力、人格が上の人で、こうなりたいと願う人物のことを良い友と言う。バフェットの一日は、自分の部屋で本を読み、電話で自分より優れた人と話す毎日です。非常に含蓄があります。

バフェットから私たちへのアドバイスは、できるだけ早く自分がやりたいことを見つけ、それを続けること。すぐ見つかることもあれば、見つからないこともある。ただ、見つけ続けようとすること、好きなことをやることの重要性を説いています。就職のために良い資格を取る、給料のためやキャリアパスのために職を変えるというのではなく、好きなことを見つけてやる。

バフェットは11歳の時に株式投資を始めてから93歳まで好きなことをやり続けています。82年間毎日がハッピーで充実しているので長生きできている。

また、マンガーの遺言を取り上げて「バフェットはどういう遺言を残すのか?」という質問が出ました。マンガーの遺族への遺言の最初の部分が紹介されました。「自分の長い人生は行うべき義務を果たし、良い人生だった。それが人間としてあるべき正しい姿勢とサービスだった。社会への奉仕だった。したがって、私は残された家族が、財産を優先しないで社会への奉仕を果たすことを優先するよう、ここに倫理的な遺言を残す。」倫理的な遺言。いかにもマンガーらしい遺言です。

この遺言が紹介された後、バフェットに尋ねた株主からの質問は、「あなたはどういう遺言を残しますか?」しばらくバフェットは考えてから答えました。「自分の人生であなたが幸運であったならば、他のたくさんの人が幸せになるように努めなさい。」これは20兆円の資産を作った人がいう言葉です。

「人間の複利効果はなかなか維持し続けられないが、あなたはどうやって維持しているのか?」これは非常に大事な質問です。バフェットは最大の複利効果を生涯にわたってプロとして発揮しました。「幸運が来たときにそれを逃さない。また失敗してもそれを乗り越え進み続けること。幸運を逃さないで掴むように」と言います。

バフェットは最も複利効果を発揮できる人生を送ってきました。好きなことをやり続けたバフェットの人生は、トラブルや摩擦を起こさないでお金を使わずに投資を続けたということです。バークシャーの株価は1965年から現在まで5万3600倍です。当初から持っていた人は、昨年末の時点で4万4千倍。それが5万6千倍と1万倍増えました。これが複利効果です。バフェットは「くっつきやすい雪を見つけ、できるだけ長い坂を転がすことがいいのです。」と言います。何十年もそうすることによって複利効果がますますパワーを増幅させるわけです。雪だるまですね。

「人生をもう一度できるとしたらどうしたいか。」バフェットは過去を振り返ってこうしたらよかったと考えることはない。過去は過去で、これからどう生きるかが肝心だと。自分にとって大事なこと、得意なこと、好きなことをやり続けることだと。信用してくれる人のために仕事をするのは楽しいということ。信頼を得るということ。これはやはり仕事をしているうえで最も優先するべきことであり、人生を送るうえで大変大事なことです。そして誰でもできることで心掛けるべきことです。

講演の冒頭のプロフィールのご紹介では、アドバイザーとして、核となる倫理観、哲学をお話しいただき大変感銘を受けました。また、毎年参加されているバークシャー・ハサウェイの株主総会の様子と、今年は不在であった、熱い友情で結ばれたパートナーのマンガーについての思い、最後にバフェットが紹介した心温まるエピソードについてご紹介いただきました。

(文責FIWA®

Free Discussion

尾藤|バフェットがよく言うのは、株価を買うのではない、ビジネスを買う。株価じゃない。要するに「その会社の一部を買うということはオーナーだ」ということです。そういうつもりでその会社の株を買う。これは非常に大事なことです。株価を見て買うのではないということです。

参加者|その中である意味、自分の意思を伝えようと思うと、支配って悪い言葉ではなくて自分の意思を伝えようとしたら、自分がちゃんと支配権を持っているオーナーになる必要があると思います。しかしそこをあえてせずに一部分で、影響をもしかしたら与えられないぐらいの程度のところでされているのは、どういう理念なのか?あくまで主体性を持たせてあげるのか。

尾藤|そこは、バフェットの市場株式投資にあたっての特徴です。良いか悪いかは別にして、サイレント株主です。絶対アクティビストじゃない。物を言わない。その会社と仲良くするというスタンスです。要は、いいと思うからその会社を買う。

参加者|理念が最初の段階で一致しているから、言わなくても勝手にやってくれるでしょという。

尾藤|そういう会社をもともと選んでいます。確かにそういうことだから、会社の方はバフェットが買ってくれたと言って非常に喜ぶし、バフェットが買ってくれたからしっかり仕事をやらなくちゃ、と思う。バフェットはぜひ一生懸命やってくださいね、と支える側でいくわけですよね。

岡本|要するに、自己資本という独善的なものじゃなくて、シェアホルダーズエクイティで、この場合には、バフェットさんならバフェットさんという人が気に入るようなことをやっている会社を株主が選んで買っているという感じがする。

尾藤|数千の会社を見ていると思うんですけど、その中で自分がいいと思った会社を買う。だからそれで配当とか、「これではダメだ!」と、なんか物を言う、そういうコンフロンテーショナルな投資じゃないんですよ。フレンドリーな投資。

参加者|さっき言ったような、自分より賢い人と付き合っているから自分より賢い会社の株を買うのかな(笑)

尾藤|無理やり直せと言うのではない。育てるみたいなね。温かい目で見ている。

岡本|アクティビストという人たちも、本来はそういうものなんでしょうね。アクティブに関わってその会社を良くしていく。同じ思いです。だけど、最初から聞く耳を持たない、「冗談じゃないよと、あんたにとやかく言われる筋合いじゃない!」なんて言われる会社だったら持ってもしょうがない。それは非常に基本的なことですよ。本質ですよ。

もちろん市場で取引された銘柄であることもあればそうじゃない銘柄もあるけれども、とにかく彼の意識の中ではそのビジネスを買っているということですよね。だからちょっと面白いなと思ったのは、彼が商社株に興味を持ったというのは、昔からの日本の商社の形態と彼自身のビジネスの仕方にかなり似た部分というのはあるんじゃないですかね。

尾藤|やはりバフェットもそのインタビューに答えています。バークシャー・ハサウェイとかなり似た部分があり、いろんな事業をやっているので、そういう意味では日本の商社株に投資したと。バークシャーの傘下の会社とこれからいろんな協業の機会があると思い、楽しみにしているということを言っています。株主であるということは、経営に参加しているという意識がある。本来の株式投資というのはそういうものなのかもしれないですね。株価を売った、買ったという世界ではなくて。

参加者|バークシャー自体が上場しているのはどうしてですか?バフェットさん自身がお金を持っているわけじゃないですか?わざわざそこに資本を集める必要はない。自分で投資してやっていけばいいだけなのに。そこを上場させる意図は?非上場でいいなと思うんですけど。

尾藤|もともと上場していたんですよ。そこを買収したわけです。

参加者|バークシャーという会社を?

参加者|そうそう元繊維会社。

岡本|そういう意味ではバフェットさんの持っている投資哲学みたいなものを、他の人たちにもシェアしてあげているという、そういう感じがあるのかもしれないですよね。バフェットさんが自分の理念を非常に明確に出しているからそれが成り立っている。これがくるくる変わるようじゃしょうがないです。

尾藤|そういうことですよね。

岡本|ちゃんとしたやり方をやっているから他の人も安心してついてきているし、お任せしているということがあるんですよね。

尾藤|だから、株価は見ない。そのまま置いているぐらいで、そしたらどんどんどんどん上がっちゃったっていうね。

参加者|尾藤さんへの質問です。実際にバークシャーへの総会に行かれて、今年からマンガーさんはいらっしゃらないですが、バフェットさん以外、アベルさんとか他の方。バフェットさんとバフェットさん以外の方で発言をされるときの会場の雰囲気はどんな差がありますか?正直、今の形態でできるのは現実的にはもうあと何年だと思います。今の形でバフェットさんがいなくなったときのバークシャーの総会は、どのようになるのかお聞きしたいです。

尾藤|今現在、質問の投げ掛け先はバフェットが多いということは確かです。直接その事業に関わる部分のところに対する答えは、グレイグ・アベル、あるいはアジット・ジェインが答える、という形になっています。そういう中で、実際のところバフェット亡きあと、株主総会がどうなるのかは、本音のところでは、想像をしたくないと思いますが、そうならざるを得ない時はいつか来るでしょうね。そのために今からグレイグ・アベルを後継に指名して、いなくなった後のレールを敷いているというところです。そういう意味では現在もバフェットはメインということは言わざるを得ないですね。

参加者|ありがとうございます。もう一点、バークシャー以外の普通のアメリカの会社の株主総会について、尾藤さんの分かる範囲でお伺いできればと思います。というのは、バークシャーはかなり特殊な総会だと僕が読んだ記事では認識しています。他の会社の規模にもよると思いますが、どういう形態で、日本の株主総会と比較対照してどんな感じなのでしょうか。

尾藤|そこは大変良いご質問です。私はいろいろアメリカの上場会社の情報を取っていますが、バークシャーの株主総会は特別です。あれはウッドストック・オブ・キャピタリスト、資本家のウッドストック。歌のフェスティバルが1970年代にあったわけですが、そういう形でみんながバークシャーの総会に集まってくる。バフェット自身がウッドストック・オブ・キャピタリストと誇らしげに言うわけです。

バフェットが自ら行っているものが株主総会であり、株主への手紙です。そういう意味で私がアメリカの上場企業、例えばJPモルガンや、アップルとかの株主総会について興味がありますが、どういうものなのか伝わってきません。逆に、株主総会ではなくてジェームズ・ダイモン、あるいはアマゾンのジェフ・ベゾスの株主への手紙はどういうものを書いているのかは取り上げられています。そういう意味ではバークシャーの株主総会とはかなり違うもので、ある面でいうと、手続き的な株主総会の面が強いのかな、と思います。

岡本|ウッドストック・オブ・キャピタリストですか。

尾藤|キャピタリスト、資本家。

岡本|それはみんな集まっている一人一人の人が、どんなに小さくてもやっぱりキャピタリストである。それは非常に重要なコンセプトですよね。はい、今日もありがとうございました。

(文責FIWA®