【Vol.255】FIWA理事 投稿コーナー

中野 晴啓氏 新会社にかける夢を語る

なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 中野 晴啓氏
(聞き手)みんなのお金のアドバイザー協会~FIWA® 理事長 岡本 和久


中野 晴啓(なかの はるひろ)氏 プロフィール

中野 晴啓氏

1987年、明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任。2023年6月に退任後、同年9月なかのアセットマネジメントを設立。
全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。著書に『1冊でまるわかり 50歳からの新NISA活用法』(PHPビジネス新書)他多数


(岡本)さっそくですが、まず、お伺いしたいのは、おそらく皆さん一番興味があるのは現状どうなっているのかということでしょう。Facebookなどでも読みましたけれど、その辺からお話いただけますか。

(中野)わかりました。おかげさまで、金融庁の登録については、2月7日に正式に完了いたしまして、それで実は僕自身も登録が終わればファンドをすぐに立ち上げられるのかなと思っていたんですけど、そうは「問屋は卸さない」で、結局、登録が完了してから投信協会への入会申請をしてくださいということです。
そこから投信協会への申請が始まりました。つい先週くらいですかね。面接なるものを私も受けてきました。改めて入会動機、どういう業界を作りたいかとかいろいろ聞かれましたけど、それでまあ落ちることはないと思っていたけど、それも、3月の理事会の承認まで待たなくてはならず、結局それまで何も具体的に進められないまま時間が経っています。承認を受けないと、ほふり機構への登録ができないのです。

(岡本)その面接というのはどんなことを聞かれるんですか?

(中野)僕の場合は極めて特殊だったと思います。投信協の事務局長とも自分が投信協副会長の時代にお世話になっていた方なので、逆に「今更、中野さんに聞くことはないんですけど」って言いながら、どういう形で業界に貢献したいかとか。事務的に言えば、ガバナンス体制、それからコンプライアンスの状況とか、リスク管理はどうするのか、そういうことを聞かれました。基本的にはこの会社がどういう形で業界を変えていく役割を果たしていくのかということを考えているかを聞かれ、それは非常に前向きでウェルカムな感じでした。
金融庁の流れは、ご存じのように新興の運用会社を仕組み的にもサポートして、どんどんそれらが生み出されて実績を上げていく環境を作らなければいけないと考えている。その先鞭をつける会社としての役割とか、期待が明確にあるみたいですね。

(岡本)正式な会社名は「なかのアセットマネジメント株式会社」ということですね。今の協会での質問にも絡むのですが、基本的に新会社の投資哲学とか、ミッション、ビジョンなど、その辺のお話をちょっと聞かせていただけますか。

(中野)岡本さんにはずっと見ていていただいたので、今更にもなるんですけれども、まず、最初、何といっても自分の昨年の経験といいますか、反省というのは独立した経営権を持てなかったということにあります。今回、新しい会社を最初からやり直すときに一番こだわったのは、本当の意味で独立したガバナンスの効いた独立系の運用会社作りということです。テクニカルには中野個人が議決権の過半を確保する形での資本調達という点につき、結果的に各大手の企業にご理解をいただきました。
株主としては第一生命、スパークス・グループ、それからこの間発表されたのはソニーフィナンシャルグループです。この3社から3億円ずつ普通株での出資をいただき、これがメインのリード株主になるのですが、議決権の部分では中野が50%超を確保する形にしていただきました。独立したガバナンスは経営執行権が独立しているからこそ、株主の意向ではなく、投資家、顧客の幸せのためにのみ仕事ができる会社が成り立つということになります。この点の所謂の受託者責任を明確に果たす企業構造作りという点については一番こだわりました。

(岡本)その3社の出資者は、無議決権株を持つということなのですか?

(中野)議決権はありますが、僕の株を特殊な形にして25倍の議決権を持つという組織にしましたので、合計すると50%を超えるようになりました。

(岡本)株主はもうこれで打ち止めというか、とりあえずこれで停止していこうということですか。

(中野)基本的には、これで十分にやっていけます。11億近くの資本調達ができました。まず、独立した経営ガバナンスが実態としてある。イコール受託者責任を全うする裏付けとなるということがこの会社の一番こだわった強いフィロソフィーになると思うのです。
その中でもう一つ、今、現在の業界全体における環境みたいなことを踏まえて、16年前は、インデックス運用を用いてパッシブのファンドを最初に立ち上げて、それが一定の支持を得られた。こういった運用が今、17年経ってみると、言葉が適切かどうかわからないのですけど、完全に賞味期限切れになっています。ご存じのようにオルカン一択が今、世間の人気という流れでお金が偏って流れています。そこで、改めて日本の資産運用業界が正しい形で発展、成長していくためには、必要なことは、本格的なアクティブ運用がきちんと実践できる会社が必要で、なかのアセットは、今般は本当に本格的なアクティブハウスを標榜してチーム作りを行っています。

(岡本)そこのところがやっぱり鍵ですね。なんと言っても中野さんが前の会社の時はグローバルバランスというのが一つの代表商品でしたね。今度、新しい会社になって突如としてアクティブというと、「じゃあ、投資哲学が変わったんですか」とか思う人もいるかもしれない。あるいは、人材を集める際も「全然違った人材が集まってうまくいくんだろうか」とか、そういう心配もあるのではないかと思うんですよね。その辺はどうなのでしょうね。

(中野)やっぱり世の中への社会的な一般需要というのが、僕は一番大事だと思っています。自分がまだセゾン投信にいるならば、また別の対応の仕方はもちろんあるのでしょうけれども、今、ゼロリセットで始めたこの会社で、この資産運用業界の先々の将来を見据えた上で日本の業界の発展、成長に何ができるかと言ったら、真面目に本格的に産業資本を供給するという立場を全うすることだと考えました。
今の日本では本来のアクティブ運用というものが欠落しているという問題意識がずっとありました。大手の運用会社がどんどんインデックスファンドを提供しているので、それで十分であろうという意味も含めて、僕自身が資産運用のプロフェッショナルとして、世の中に必要とされている運用を提供する会社という観点で、今度作るなら本格的なアクティブファンドというのは、早い時期に心に決めていました。

(岡本)おっしゃる通り健全なアクティブの運用者がたくさんいてこそ、初めてインデックスというのも成り立つのです。インデックスの方が売れるから、みんながインデックス運用にするというのはこれは本末転倒の話でね。やっぱり、そこにきちんとした哲学が必要です。アクティブマネージャーは、本当にこれから必要になってくるだろうと思うんですね。しかも、親会社の都合ではなく、きちんとした自分の投資哲学を持ってするのが本来のあるべき姿です。
アクティブって言ってもいろいろあります。国内か海外、それから大型株か小型株か、成長株か、資産株かとかいろいろ分類はあると思うのですけど、どの分野という点で何かこだわりみたいなものはありますか?

(中野)これもチーム編成がしっかりとできた状況下において明確に得意分野も特定できました。俗に業界的な専門用語になっちゃうんですけど、「クオリティ・グロース」という考え方ですね。バリューかグロースかといえば、徹底してグロースのアクティブ分野になるのですが、もう一つは、長い時間しっかりと付加価値を提供し続けるポテンシャルや、経営力のある企業をしっかりと厳選していくという考え方です。それは結果的にクオリティ・グロース銘柄を厳選することになりますので、何百社も選択するのではなくて、本当に絞り込んだ数十社に対して産業資本を提供していく立場を貫く。それからもう一つは、厳選するからこそ、一社一社それぞれに本気で対応して、より良い会社にするためのエンゲージメントを、高度なプロフェッショナルを重視しつつ、自分たちも一生懸命グレードアップを続けながらやっていく会社にしたいと思っています。

(岡本)投資対象は国内中心で考えられているのですか?海外も入れていくということですか?

(中野)個人の資産形成という意味で、僕自身がずっと世界の経済成長をしっかりと取り組むことが最適と位置づけてきたので、これはやはり今もって重要な軸だと思います。グローバルの株式ファンドは一つ作るのですけれど、今、この日本の運用業界に必要なのはやはり自国の産業界をきちんと支える資産運用だと思いますので、僕自身の本音の部分で今回、力を入れたいのは国内株式のファンドなのです。多くの生活者が共感軸で自分のお金をもっと日本の産業界を良くする方法で使えるということを求める時期が来ると思っていますので

(岡本)そういう意味では、今までは日本株だけでやっているところはハンディキャップを負っていたようなところがあったのだけど、よく考えてみると、そういうふうに低迷期が長く続いたということは、非常に価値のあるところは低水準で放置されているっていうことでもあるわけですね。私は明治維新、それから戦後に続き、2012年ぐらいに日本も長期的に新しいステージに入っているのではないかと思うんですけれども、そう考えると宝の山みたいなところはありますよね。

(中野)本当に全体でいうと、会社の数が多すぎて宝が見えなくなっているんです。今の全体の値上がりは決して僕は健全だと思ってないですし、やっぱりもっともっと将来の日本の経済を牽引する会社が「見える化」されなければいけないと思う。それらを「見える化」していく役割も運用会社にあるはずです。
いろんなアクティブがあると思うのですけど、やはり、俗に言う本質的に企業の持つ成長力、キャッシュフロー創出力というものこそが本源的価値ですから、ここにこだわった企業選択をする。そして、いわゆるGARP運用になりますよね。できるだけそれを適正な価格できちんと仕入れて、あとは長い時間保有し続けると、保有し続けている間、しっかりとエンゲージメントをして自分たちの力でより良い会社にしていくということが実現すれば、これが資本市場側からの大変重要な成果につながるだろうと思っています。

(岡本)そうですね。人材を採用して今何人くらいになっているんですか?

(中野)4月の段階では18、9名くらいになると思います。とりわけ運用部門が大事で、今、6人でチームを組みました。

(岡本)現場だけでですね。なるほど。採用に際してどんなところに焦点を当てて人材を確保していったのですか?

(中野)基本的に国内株式の方は、前の会社で一緒にやっていた運用部長がそのまま来てくれました。目線が合っていますからもう一度やり直しができる。運用部門は当然こだわりましたし、僕が直接面談し、慎重に選択をしたのですけど、おかげさまでFacebookで募集しただけでたくさん応募があったので、その中から本当にプロ人材を選択することができました。

(岡本)それは良かったですね。そこがかなり鍵ですよね

(中野)はい。もう一つは僕自身も還暦になりましたので、スタートアップであるけれども、育成がミッションの会社でもあるので、新卒が2人入っているんですね。

(岡本)なるほどね。

(中野)これ全部、実は6人中2人が新卒になるのです。

(岡本)それはいいですね。

(中野)この2人が次のこの会社のベースになる人材という形で育てていかなければならない。

(岡本)運用の方ともう一本の柱は当然、営業、販売ということになります。販売の方はどういうふうに考えてらっしゃるのですか?

(中野)本来は直販をやりたいのです。でも、NISA制度の仕組みで、もう1月、2月と経過して本当にはっきりしたことですが、ブティックが直販をやるにはあまりにも厳しすぎる。

(岡本)要するに一口座という問題ですね。

(中野)なので、今回は本当に販売のベースキャンプをネット証券に明確に絞り込んでやっていきます。ネット証券もやはりもちろん一番の機能はインフラではあるのですけれども、インフラではあっても、やはり共感軸というのは大変重要でありまして、ネット証券ならどこでも何でも一緒だろうというわけでもないのです。やはりここは共感をしてくれる販売会社との付き合いということが重要な軸になってくると思います。
それと、運用会社は営業しないというのは僕の考え方でもあるし、営業という言葉は社内でも使ってはいないのですけど、実体的な営業、販売促進とかニューマーケティングと言いますか、直販的価値をどうやってこの仕組みで作っていくかが、このなかのアセットマネジメントの大変重要な付加価値になると思います。今までもやってきたセミナーなどを引き続き励行していきながら、投資家とどうやって直接対話をしてメッセージを伝えて、信頼関係を維持できるか、これが長期投資家を育てることになりますので、ここについてやはり最大限の努力をしていきたいです

(岡本)そうですね。キャピタルなんか販社を使っているけど、あれは要するに、キャピタルが選んだ販売会社なんですよね。日本の場合は、販売会社が投資会社を選んでいるわけですよ。これからは、運用会社が自分たちの運用をお客様にきちんと届けてくれるような販売会社を選ぶように変わっていかないといけないと思うのですよね。そういう意味で販売というのは非常に重要です。今まで関係が逆転していたというのが、すごく大きな問題の根源だったように思いますよね。

(中野)そうですね。お客さんを選ぶということも、ある意味、運用会社に必要なことですよね。

(岡本)要するに、運用の哲学がはっきりと示されていれば、お客様はそれを見て「いや、これは私に合わない」とか、「これ面白そうだね」とか、そういう判断もできるわけですよね。「とにかく儲かりますから」っていうだけじゃ、魅力は感じないですね。

(中野)全くそうですね。それを第一にするということは、短期的な運用成績というものをアピールしないということにもつながってくると思います。これは短期的に良くても悪くても、特に良いときにそれを抑制的にすることがとても大事だと思います。

(岡本)とにかく短期的にパフォーマンスがさえないときにきちんとどういうふうに説明して投資家をつなぎ止めてっていうのは変なのです。同じ信念を共有しながらそういう時期を過ごしていくっていうのが大事なことですよね。いろいろお話を伺いましたけど、最後に夢みたいなものをちょっと一言語ってください。

中野)そうですね。せっかくこの年でそれなりの経験値を持って再び起業するわけですから、今度の新しい会社は若い人の立ち上げる「一旗上げてやるぞ」という夢を大切にしてあげたい。意識の枠をもっと自分自身も超えて考えたい。やっぱりずっと長年、自分の中で問題意識であったのが、日本の資産運用業界は確かにアメリカ、ヨーロッパに相当劣後している。それは業界全体の意識が内向きであって、今、岡本さんがおっしゃったようにいろんな業界慣習、販売会社主導といったレガシーが残っている。要するに、企業の所有が大手の金融コングルマリットにもっぱら偏っていたという構造自体に起因するので、そういうところから変えていかなきゃいけないんです。
少なくともまずこの会社は何の負のレガシーもないところでスタートできるので、理想的な運用会社、理想的なアセットマネジメントというものはこういう姿であり、小さくてもそういう会社はどういう顧客とのつながりを持って、どういうメッセージを発信して、どういう運用を世の中に見せていくか、それをしっかりと体現していくことを目指していて、ちょっと僭越ですけれども、規模の大小ではなく、そういった存在自体が業界の意識改革を醸成していく変化を与えていく。そういった役割を果たす会社にしたいと思っています。ですから当然、目線は、本当にこれは結果的には国益だと思っていまして、この会社は資産運用立国という新たな国益にどれだけ貢献できるか、それを実感できる会社にしたいと思います。

(岡本)なるほどね。大変壮大な夢で嬉しいです。還暦ってまだ相当若いですからね。だから青春に戻ったつもりで頑張ってやってください。

(中野)今は昔の20歳の感覚より若返っていますから、僕もまだ40代ぐらい、岡本さんもまだ50代ということなんですよね。そんな気持ちでこれからもご一緒させていただければと思います。4月から運用開始の予定にしていますので、またお会いしましょう。

(岡本)どうもありがとうございました。


(文責 FIWA)