【Vol.255】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

名著読み解きシリーズ「キャピタル」を読み解く

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

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アメリカの非常に古い運用会社であるキャピタルグループは、宣伝をほとんどやっていません。日本での知名度もそれほど高くはありません。本当に質の高い、良いアクティブ運用会社とはどういうものか皆さんに知っていただききたいと思います。今回はチャールズ・エリスの著書で「キャピタル」という本を取り上げてお話します。

この本の前書きは、バートン・マルキールが書いています。インデックス運用の信奉者であるマルキールと著者のエリスの2人がアクティブ運用で有名なキャピタルについて書くということは非常に面白いと思います。マルキールは2つのポイントがあるといいます。1つは、効率的市場仮説が持っている本質的な逆説、つまりパッシブ運用は良いアクティブ運用者がたくさんいて、市場の効率性を保ってくれているという前提があって成り立っているという点。もう1つは、キャピタルの非常に長期的な運用の成績。それがどのような理由から実現されているかです。

第1のポイントです。「アクティブあってのインデックス」とは、本当に重要なことだと思います。なかなか本格的な良質のアクティブ運用が成熟していない日本で、インデックスばかりが横行する。そこに疑問を感じます。インデックス運用が増えすぎることは、市場の活力を削いでいると言う人もいますが、真実の問題点はアクティブ運用が本当に質の高い運用をできていず安易な逃避行としてインデックスを使っているに過ぎないという点があるのではないかと思います。

次に顧客サービスと販売に関してです。いかに商品を売るかは、全ての運用機関にとって非常に大きな課題です。キャピタルの場合も投信を売るのは、歩合で働く証券会社のセールスマンです。いかに優秀なセールスマンを確保するか、それこそが資産運用のフランチャイズの中核であり、そこに信頼の形成が必要とされる。

この点は日本とは逆です。日本は販売する方が運用に口を出す傾向が強い。キャピタルは運用する方が販売をする人に口を出す。その販売する証券会社との関係を強化して、そして正しい営業をしてもらえるようにということで、少人数のグループに分けて勉強会を何百回も開いています。セールスマン一人の小型オフィスの全国展開をしているエドワード・ジョーンズという会社の販売支援を行い、関係を強化しています。なぜなら、エドワード・ジョーンズの売った投信は、解約が非常に少ないのです。解約率が業界平均の20%に対して、この会社は6%です。そういうところを徹底的にサポートして自分たちのファンドを売ってもらう。日本の場合、「売ってあげるからこういうものを作れ」となっています。

投信会社という業界における位置づけ、重要性に対して大きな違いがあります。目的はあくまで長期保有を行う客層を抱える証券会社と良い関係を結ぶことにある。安定した顧客を確保するには、上げ相場でも下げ相場でも持ち続けてもらえるようなファンドを長期にわたって供給する。一度買われた投信は、永久に保有されて配当と追加資金で買い増してもらうことが戦略目標である。やはり最も頼りになるセールスマンは、長期的な視野を持つ人たちであると言っています。「上げ相場では、自分たちのシェアを下げる、下げ相場でシェアを上げる」というのが基本的なスタンスです。

運用能力については要するに経済見通し、産業見通し、個別企業の収益予想というアプローチが普通だけれども、キャピタルはあまりそれはやらない。あくまで徹底したボトムアップ方式の銘柄選択を行い、体系的な投資哲学や運用プロセスには全く縛られない。要するに経済がいいとか、この産業がいいとか、トップダウンのアプローチではなく、あくまでボトムアップ。この会社は良い会社だから買う。成長株を含めた全ての株式の中で、数年先に現在の価値よりもはるかに高い評価を受けると予測されるものを割安株と考える。はっきりと自分たちのやり方が決まっています。

長期的な投資価値を求めて世界中を探す。その結果として選んだ投資対象は長期的に価値を認められていくものであり、利益の出る株式でなければならない。要するに、投資先企業の優秀な人材が結果を出してくれる企業に投資を行う。今の価格で全株式を取得する気がないなら100株でも買うべきではないということも言っています。

自分は絶対にミスを犯さないと思っている人種もいるが、そうした人は運用には向いていない。だから、常に不安を持っている人の方が安心できるということです。ミスを犯してはいけないと思うような人が、この仕事をすれば命を縮めるだけだとしています。投資に失敗は避けられない。しかも運用会社であればその失敗は常に誰の目にも明らかになってしまう。だから、それを乗り越えるだけの気持ちの強さが絶対に必要だという考え方です。これは良い言葉ですね。創業者であるラブレスは、長期運用における複利の効果と、その効果が出てくるまでの間に損を出さないことを最も重視していました。

講演ではキャピタル創業の経緯から経営姿勢、チャールズ・エリスが「知識労働者の組織として最高傑作」であると絶賛した人事政策について、また複数ファンドマネージャーシステムについての説明。第一級の顧客サービス、徹底したコスト削減努力、業界標準となる経費率、長期的な戦略を常に持つキャピタルについてご紹介いただきました。