【Vol.255】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

今後の世界経済・市場展望~半年以上遅れやってくる米国の景気後退 長期的には世界経済拡大に伴う株高を予想

ブーケ・ド・フルーレット代表
馬渕 治好氏
レポーター:赤堀 薫里

馬渕治好氏

馬渕治好(まぶちはるよし)氏 プロフィール
(1958年 東京都生まれ)
現職:
ブーケ・ド・フルーレット代表
CFA協会認定証券アナリスト(Chartered Financial Analyst)
主な学歴:
1981年 東京大学理学部数学科卒業
1988年 米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了
主な職歴:
1981年に(旧)日興証券入社。ほとんどの期間、日興グループ各社の調査関連諸部門を歴任。2009年1月より、独立して経済・市場分析業務を営む。
種々の活動:
テレビ・ラジオ出演や、雑誌・電子ニュース等への寄稿も数多い。講演活動も活発に行なっている。
最近のマスコミへの登場例(順不同、一部のみ):ストックボイス、日経CNBC、BSテレビ東京、ラジオNIKKEI、日本経済新聞、東洋経済オンライン、時事通信
書籍執筆は、「時事問題とマーケットの深い関係」(2015年、金融財政事情研究会)、「勝率9割の投資セオリーは存在するか」(2016年、東洋経済新報社)、「投資の鉄人」(共著)(2017年、日本経済新聞出版)、「投資のプロはこうして先を読む」(2018年、日本経済新聞出版)、「コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法」(2020年、金融財政事情研究会)など。


今日のメインテーマは今後の世界経済、市場をどう見るかということですが、サブタイトルでは、半年以上遅れやってくる米国の景気後退とあります。半年以上遅れるというのは、私が最初にみていた見通しから半年遅れるということです(笑)。実は2023年の始めは、私もそうでしたが、多くのエコノミストやマーケットアナリストが、アメリカは2023年中に景気後退に陥るという声が結構ありました。結果としては、未だにアメリカは景気後退に陥っていません。そんなに深刻なものになるとは思いませんが今年は景気後退に陥るリスクが高いと思っています。

まず日本の経済ファンタメンタルズについては、相対的にみると外需が悪くて内需が優位だと思います。インバウンド消費は厳密に言うと、GDP統計などでは、海外の人が日本のモノやサービスを買ってくれるので、経済統計上では外需に分類されます。しかし、恩恵を受けるのは内需系の産業である小売り、外食、宿泊、交通など旅行関連です。そのため内需ということでインバウンド消費を含めています。外需劣位、内需優位というかたちは今後も暫くは変わらないと思っています。

外需は中国経済が悪い上に、アメリカが、見込んでいるような軽度な景気後退に陥ると、その部分が圧迫になる。米ドル安・円高もあると思います。内需が回復する。内需が下に折れ曲がるとか、日本景気が後退に陥るとは思っていません。賃金と物価の好循環が唱えられています。これも成立する可能性は結構あるとは思いますが、手放しで賃金と物価の好循環が起こると安心するのはちょっと危険であり、手放しでは賛同をためらう。100%それでいけるとは思っていません。

日本の株式株価については、PERなどで見ると、企業収益も改善はしているため、それと比べて割高さは全くありません。ただ、これまでのアナリストは、実際、見通しを上方修正し続けています。その中に円安要因がかなり多いと言われていますので、円高にふれ戻ったときに情報修正のペースが鈍化してしまうとか、小幅ながら下方修正に転ずるということが起こるリスクはあると思います。また企業経営が改革されていくこともあると思います。

日本がマクロ経済で見てコストプッシュインフレではなくて、健全で持続的なインフレに移行していくかどうか、そのためには企業が自分の製品やサービスは良いもので付加価値があるものだからそれに見合った値段を付ける。良いものを安くではなく、良いものを適切な値段でという、そういう企業の値付けの政策の変化や、それを受け入れる需要側の変化も必要だと思います。それは進むと思いますが、これは構造的、長期的な変化なので時間がかかると思っています。ただ、昨年の6月の終わり、7月の初めぐらいにかけての株式上昇、また今年に入っても結構、上振れをしていますが、それは海外投資家の買いで持ち上がったというところがとても大きい。私が取材をしていても、マスコミの報道を見ていても、いわゆる「ツーリスト投資家」、日本株の経験が少ない、日本株のこともあまりよく知らないという旅行者がふらっと日本に来たような感じですね。そういう投資家は構造改革が一気に進むと誤解してしまった部分があるのではないかと思っています。

最近、ツーリスト投資家の声として、「日本企業の改革のスピードは遅すぎる」とブーブー言っていますが、「もともと時間がかかるよね」と、考えるのが妥当であり、一気に進むと思って買っているのだとすると、誤解した海外投資家が今度勝手に間違って失望して売ってくるリスクがあり、一回仕切り直しが必要かなと考えています。

アメリカの株価は明確に買われすぎだと思っています。口実としては、マーケット参加者たちが、景気は鈍化する→鈍化するけど、大幅な鈍化はしない→景気や企業収益は心配する必要はない→でも鈍化するのだから金利はめちゃくちゃ下がる、という、景気は概ね大丈夫で、金利は下がりまくるという非常に都合がいいシナリオで走っている感はあります。

物色が歪んでいるとも言われていますが、それは明らかにPERの高すぎる状況に現れています。アメリカの企業収益見通しは下方修正がずっと続いています。ただ、こういった景気後退といっても、金融システムの揺らぎを巻き込むような、「なんとか危機」とか、「なんとかショック」と言われるような事態には陥らないと思っています。中長期的に世界経済も拡大していくと思います。また、日本では長い目で見ると改革は進んでいくと思うので、長期的には株高外貨高基調になると考えています。

講演では、投資家への提言を含めた主要市場の見通しの説明。また、アメリカについて2023年と見込んでいた景気後退が実現せず、それが2024年に先送りされる情勢について、個人消費と設備投資を中心に数値を踏まえてわかりやすく解説くださいました。

(文責 FIWA®)

Free Discussion

参加者|トランプが当選してしまいそうなリスクが、かなり現実的になってきています。それがアメリカの社会や国際政治情勢に与える影響についていろいろ議論されていますが、経済、金融に与える影響が、私自身わからないし、あまり目立った議論が出てきていません。その辺、馬渕さんご自身、あるいは馬渕さんとコミュニケーションのある米国人が、どのように考えているのか、もし情報があれば教えてください。

馬渕|トランプ政権になった場合、どうなるかという議論では外交がやはり中心です。ヨーロッパとの間に隙間風が広がるとか、NATOを脱退するのではないか、いろんな国際的な取り組みから脱退するということがあります。また、中国やロシアとはどうするか。トランプさんは中国、ロシアとは心情的には親近感を持っていると思います。特に習近平やプーチンのことをトランプさん自身は好きだと思います。だから今のような米中関係、経済関係や安全保障面でいろいろ制約をかけるとかいうことではなく、やっぱりディールという発想だと思います。

だからアメリカは中国に対してこれをしてやるから、中国は何をしてくれるのかということになるので、半導体の生産にしろ、お金にしろ、いろいろなものの生産にしろ、トランプ政権の支持層が製造業の労働者であるということで、生産を国内に持ってきて、自分たちの支持者にうけるために、製造業を復権させようということはあります。

バイデンさんはどちらかというと、安全保障面でサプライチェーンを国内に持ってこようという点で、いろいろな法律を立てて設備投資を増加させるということにつながっています。しかしトランプさんは純粋に製造業を持ち上げたいということで、バイデンの政権をちょっと変えて、自分の手柄みたいにしながらも継続はして、製造業支持策を取る気はしますね。

それと通商問題という点では、アメリカからの輸出を増やしたいので、それが為替でドル安政策を招くのではないかというリスクを指摘する方が結構います。ドル安を外貨弱にする場合に、前のトランプ政権の時は日本に対して「円高、ドル安にしろ」という話は表面的に出なかったわけです。しかしあれは安倍さんがいたからです。安倍さんがトランプさんと非常に個人的に良い関係を保っていたので、そんなにあからさまに円高にしろとは言わなかった。しかし、もう安倍さんがいないので、もしかするとあからさまにドル安で輸出を増やしたいから「ドル安、円高にしろ」というプレッシャーがかかるリスクはあるのではないのかという議論は聞きます。

参加者|そうすると、株価への影響は、今のお話の中ではあまり直接的に出てきそうなものはなかったですよね。

馬渕|そうですね。

参加者|2016年の11月の時には、みんなトランプ勝利というシナリオはほとんど考えられていなかった。ただ大減税は掲げていたので、トランプ大減税が出現するんだと。それで金利高、ドル高、株高になったじゃないですか。その時は、私も非常に分かりやすいなと思いましたが、あまりそういう分かりやすい株の反応がないかもしれない。

馬渕|そうですね。ポジティブとネガティブがちょっと分かりにくいかもしれないですね。トランプ大統領は、株価が自分の人気のバロメーターだと思っているから株価を下げる制度は一切取らないと言っている専門家がいますが、それは実際に嘘だったわけです。2018年の終わりにかけて株価が下がりましたけど、あれは対中報復関税で下がったわけで、株価が第一優先だったらあんなことにならなかったでしょう。株価第一主義で株価を上げてあげて、上げまくるという策は取らないと思います。減税するかどうか、トランプさんを支持している共和党の保守派自体がベクトルは小さな政府なので、歳出削減と減税ということは実現の可能性があると思いますが、大減税は難しいと思います。財政がパンパンですから。コロナ対策だからしょうがないところもありますけど、あまり株価を大きく上に持ち上げて下落を大きくすることはないと思いますね。

参加者|馬渕さん、米国株がちょっと下がるとしたら何か対処法はあるのか。例えば米国債、金利が高いので金利が下がるとしたら米国債のファンドを持っておくと、金利低下で価格が上がっていいのか。でも円高が進むなら意味ないのか。あんまりジタバタしない方がいいのか、あまり個別なこと聞いちゃいけないですが(笑)

馬渕|対処法は何もしないのが一番いいと思います。オーソドックスには米株安で米ドル安でしょうけど、債券価格はドルベースでは上がると見込まれます。アメリカにお金を置いておくとすればですが。円高になるのであれば、円債ということになります。ただ日銀がそんなに大幅に上げないと思いますけど、金利を上げるので、円債はキャピタルでロスが若干出る可能性はあります。ここから3年間ずっと米株が下がるのであれば対処法を考えた方がいいと思いますけどね。スクリーンを見ないで寝ているのが一番いいのかなと思うのですがだめですか?

参加者|馬渕さんに質問です。今更ながらですが、なぜアメリカ経済の行方が世界経済に大きな影響を及ぼすのでしょうか。FRBの政策が投資マネーや各国いろんなところに影響しますが、アメリカ経済が各国の景気に比較的影響を与えると言われる国々や地域を、ぜひ地球儀を眺めるような感じで教えていただければと思っています。

馬渕|やはり一番は、アメリカ経済の規模が世界で一番大きいということですね。ですから、アメリカ経済がどうなるかが、世界経済全体に対してどうなるかのインパクトが大きい。それとアメリカは、ずっと貿易赤字なんですね。つまり外からいっぱい物を買ってくれている。世界の需要をかなり支えているので、アメリカの景気が悪くなり、アメリカ人、企業や家計が物が買えなくなると、世界でいろんな国がアメリカに向けて輸出する物が減ってしまい、それがいろいろとインパクトを与えてしまいます。したがって、どうしても日本株だけとか、ヨーロッパ株だけを見るとしても、アメリカがどうなるかは外せない、というのがマクロ経済面であります。

もう一つは証券、金融のマーケットとして、アメリカは巨大なので、特に債券はすごく大きいのですが、アメリカの株式がどうなるか、債券がどうなるか、アメリカ以外の投資家にとってはドル相場がどうなるか、というのが、あちこちの運用者の損益に大きな影響を与えます。もちろんアメリカを持っていなければいいのですが、全体合計するとアメリカに投資をしている投資家はとても大きい。そうなると、やはりアメリカの経済ではなくて、金融市場、証券市場の動向が他の国の金融市場、証券市場に多大な影響を与えることになる。なかなかアメリカを論じないで日本株だけ論じるというのはもちろん、世界で何が起ころうと日本はどんどん景気が上がって株価が上がりまくるということはないので、どうしてもそこは考えざるを得ないということになります。

岡本|経済とは直接関係ないわけではないけれど、やはり軍事力と情報力。アメリカにはその辺の圧倒的強さはあると思います。やはり追いついてくるところもあるから難しいところですけどね。

馬渕|アメリカの人たちと、アメリカの経済や株価の強さの長期的な現象について話したときに、アメリカは非常に先進国的である。バイオやITとか、そのような技術で世界の先端を走っている。ソフトウェアもそうである。それでいて、新興国的なところもある。アメリカの南部の賃金は上海の賃金と比べてそんなに乖離がないというところもあります。また、小麦や大豆、トウモロコシなど食べ物が取れる。だから食える、食えるということは強い。それでいて、喧嘩も強い、防衛力がある。戦争して負けたこともいっぱいありますけど、なかなかアメリカに取って代わるような軍事大国もない。あと、もう一つ大きいのは先進国なのに人口が増えているということです。移民もありますが、アメリカの方は、結構出生率も高くて私の知り合いなんかの結構ハイランクの方たちでも、子供が3人、4人いるけど、さらに養子をもらうかなり富裕層の方で社会貢献的な考えもあるので、難民の子を自分の子にして養子にしている方もいます。やはり人口が増えることは強いですよね。住宅ストックも必要ですし、マーケットも広がっていくわけですから。そういう点で、やはりアメリカはいろいろな意味でマクロ的、長期的に強いのではないのかなというのは、さっきの話とはまた別に感じますね。

岡本|ありがとうございました。

(文責 FIWA)