【Vol.250】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

「ウォール街のランダムウォーカー」を読み解く(1)

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA®
レポーター 赤堀 薫里

【Vol.250】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)今月からバートン・マルキールの『ウォール街のランダムウォーカー』を読み解いていきます。この本が出て50周年です。全部で4部の構成ですが、今回から5回にわたって、1回につき1部ずつお話をしていきたいと思っています(最後の一回はまとめ)。

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基本的に彼は、効率的市場仮説の信奉者だと言ってよいと思います。私は完全に効率的市場仮説が絶対的に正しいとも思わないのですが、全体的にみると私が思っていることと似ています。

投資というのはゆっくりと、しかしできるだけ確実に金持ちになる方法です。どのような期間で投資リターンを考えるのか、はっきり意識されています。リターンを合理的に予測できることが投資だとマルキールは主張しています。

マーケットのリターンの総額のうち、仮に半分くらいがインデックス運用だったとすると、インデックス運用のリターンは市場リターンとほとんど一緒です。残りの部分はアクティブの運用リターン。この残りの部分も全部合体すれば市場リターンです。結局そこでフィーの差がでてきます。

アクティブもフィーを考慮しなければ市場リターンですが、フィーが掛かる。つまり、アクティブを全部合体すると市場には必ず負ける。アクティブよりもずっとフィーの低いインデックスにも負けるということがとはっきりわかり、その部分を彼は説明しています。これは重要な部分です。アクティブ運用はマイナスサムのゲームだということです。インデックスもフィーが掛からないわけではないけれど、それは非常に小さい。

ランダムウォークとは、物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能であるということです。学者がいろいろな説を出しています。あるいは、専門家がいろいろな運用の方法を考え出している。

プロの投資家であれ、学問的、理論的なものであれ、結局、過去の動きから将来の予測をすることはできないということがランダムウォーク。ランダムウォークとは、酔っぱらいの歩みのようなことで「酔歩理論」とも言われています。

資産運用の目的は、最低限購買力を維持できるようなリターン。つまり物価と同じくらいの上昇率を上げるということがベースです。ボギ-・ベースのリターンをできるだけ小さい変動幅で実現するというのが資産運用の目的です。これはマルキールさんも同じようなことを言っています。私は実際、ボギー・ベースのリターン+αをとっていかないと、相当高い金額を積み立てていかないと難しいのではないのかなと思っています。

購買力を維持する株式投資の二大流派は、分析派と砂上の楼閣派です。分析派は学問的にアプローチをして、証券の価値を見いだそうというもの。この流派にはひとつはジョン・バー・ウィリアムズの『投資価値理論』があります。現在価値に引き直して、それが現在の証券価値となる。もう一つは現在の企業の価値。ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドが共著で書いた「証券分析」が名著だと言われています。要するにバリュー派とグロース派とも言えるでしょう。分析によって方向性を見いだすことができるという考え方です。

砂上の楼閣派は、そういうものは何もない。わからないであっちこっち、酔っぱらいが歩いているようなものです。ケインズの美人投票の理論が有名です。株式市場というのは誰が一番美しいかということではなくて、みんなが一番美しいと思う人を当てることだ。美人投票で誰が一番得票するのか?ということです。

「より馬鹿理論」というのもあります。これはある人がある銘柄を買うということは、自分よりもっと馬鹿なやつがいて、もっと高値でこれを買ってくれるという前提に基づいている。そういう延長線上の中で人間の心理面、あるいは行動面に非常に大きな影響を持っているということで行動ファイナンス的なアプローチも出てきているわけです。

最初に今回のテーマとしてバブルの歴史の話がありました。砂上の楼閣的に出来上がっていき潰れていく。チューリップバブル、サウスシーバブル。南海泡沫会社。ジョン・ローのミシシッピ会社。ポンジ・スキーム。さまざまなバブルがありました。

投資リターンの源泉は企業が創造する付加価値です。流動性が増えて来たとき、その資金が設備投資に向かい、そこで証券価値の向上へ向かっていけばいいけれど、逆に証券投資の方ばかりに向かっていくと、証券価格や不動産価格が上がっていくだけです。特に大幅な金融緩和がどんどん起こっていく。そうすると、資金は証券投資へと流れていく。価値よりも価格の方がはるかに高くなってしまい、その結果、次の金融危機が発生するというメカニズムがあります。

2000年ぐらいから毎年のように、なんとかバブルが発生してそれが崩壊していきます。発生して崩壊すると、グローバルな信用リスクを回避するため金融が緩和されます。金融が緩和されると次のバブルが生まれます。そしてまたそれが崩壊する。その繰り返しです。

金融の緩和を続けていくことによって、公的債務が巨大化していきます。国の信用度が低下していく。お金の量が増える。証券の価値が薄まっていくと同時にお金の価値が薄まっていきます。すると緊縮財政、社会保障削減、増税。超金融緩和。どんどん輸出に向かっていかなくてはならなくなる。そうすると低成長、失業、格差拡大、インフレ、通貨安要因。このようなことから民衆の反乱が起こります。

このグローバル化の時代、情報化の時代は、民衆化の反乱が相乗効果をもちます。それぞれのいろいろな国からの影響を受けながら、過激なものになっていく。そういうようなものが起こりつつあるのかなと思っています。

講演では古典的バブルの説明から始まり、バブルの発生と崩壊のメカニズムの解説をしてくださいました。