【Vol.240】FIWAマンスリー・セミナー講演より

東インド会社に学ぶ株式会社の原点

講演 岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久20220623

最近はESGやSDGsという言葉を非常によく聞きます。その源流となる株式会社はどういうものなのか。株式会社は非常に長い変遷を経て今日の姿になってきています。ESGに到達するまでのお話をします。

17世紀の初めにオランダやイギリスで東インド会社が生成され、大きく成長して、消滅していく過程の中で株式会社という制度がだんだん固められていきます。そして今や、株式会社なしに資本主義経済は成り立たないほどになっています。しかも、株式会社はますます生活者全体が保有するという側面が強くなっています。

ピーター・ドラッカーが1976年に書いた「見えざる革命~年金が経済を支配する」(P.F.ドラッカー、上田惇生訳 ダイヤモンド社、原著初版1976年)では、『社会主義を労働者による生産手段の所有と定義するならば、アメリカこそ史上初の真の社会主義国である。年金はその株式保有をさらに伸ばして、1985年(あるいはそれ以前)において全産業の株式資本の6割、少なくとも5割を保有することになる。アメリカの被雇用者こそ、生産手段の真の所有者である。アメリカの被雇用者は、年金を通じてアメリカ経済全体の『資本フォンド』(企業全体のファンドを保有し)を支配し、動かす真の資本家である』と言っています。これはよく考えてみるとその通りです。

東インド会社は、富裕層がお金を出して、出資者になります。そして船をチャーターして、普通の生活者から船長や船員を雇い、働いてもらいます。買い出しに行ってもらい、それを持ち帰り、ヨーロッパで売るわけです。普通の人たちがたくさん買えるようなものではないので、当然それを富裕層が買います。出資者と顧客(商品の買手)は両方とも富裕層。同じメンバーの中で資金のやり取りがあります。船員はその外にいる労働者です。

現在の株式会社を見ると、資本の究極的な出し手は生活者です。どんな企業でも株主がいます。株式会社であれ、それ以外の組織であれ、企業や組織が活動していくためには、お金も必要です。そして、それを経営していく、そこで働く人たち。また、最後に顧客が必要です。そうすると、資本の出し手は生活者。企業は銀行からお金を借りています。銀行の原資は企業の預金もあるかもしれないけど、個人の預金。さらに言えば、企業は最終的には個人によって保有されています。全て行き着く先は、最後は個人。生活者が持っているお金は、いろいろな形で企業のもとに資本として移って、そこで事業ができるようになり、利益を上げることができる。

従業員や経営者も生活者です。オーナー社長は資本の出し手であり、仕事をしているわけだから従業員でもあります。社長が『これは俺の会社だ』と思っていても、実は最終的には生活者が全部持っているもの。経営者もそこで働いて経営という仕事もして労働者です。あるいは事務という仕事や生産という仕事もして、彼らはそこで生活をしています。そこで作られた生産物が消費者のもとに届く。全部合わせればそれは生活者のためです。

今の株式会社は、全部生活者が保有して生活者のためにある。生活者がお金を出して、生活者がそこで働いて、生活者がお客になっている。東インド会社は大きな展開を経て、現在のような姿になってきたのです。現代の企業は、ある意味バーチャルな存在で生活者によって成り立っています。生活者は、消費者(consumer)であり、従業員(employee)であり、資本のオーナー(owner)、だから生活者はCEOだと私は言っています。

総体としての生活者は、それを組織にして『自分たちが求めるようないい社会を作っていきたい』という思いで集まってやっているわけです。そこで世の中のためになることをする。でも儲けるためには、世の中のためにとって、良いことをやっていかなくては長くは続けられない。そうするとみんなで力を合わせていろいろな立場で組織というものを作り、組織を通した活動によっていい世の中を作っていく。これが今の株式会社の本来の姿です。

それではどんな社会がいい社会なのか。近江商人の三方よしは、売り手よし、買手よし、世間よしです。私の提唱する『新』三方よしは「いのちよし、地球よし、未来よし」です。まず、『いのちよし』、全ての生命を与えられたものが、生命の意義を全うできるようなことが一番大事。次に『地球よし』、我々が住まわせてもらっているその場所を大切にしなくてはいけない。最後に『未来よし』、今がいいだけではなくて、ずっといい状態が続くだけではなくて、もっともっとよくなっていく状態。これがいい世の中です。

こういうものに向けて企業が、生活者によって組成されているというのが私の考えです。空間軸、時間軸両方で、短期的な利益志向ではなくて世の中のためになる真っ当な利益、そして長く人々のためになる事業。それが質の高い利益です。生活者が、願いを込めて、資本の出し手として、従業員として、そして消費者として求めている社会に向かって進んでいけるような活動によって得ている利益なのかどうか。そしてそれがずっと続いていくものなのか。

今、本当に長期的な人々のためになる事業の結果として利益が得られているのか。それを分析するのが本来の証券分析です。SDGsやESGという言葉が飛び交っていますが、実のあるものでなくてはいけない。それは『利益の質』です。長期投資というものは一生では短すぎる。いい社会をつくる企業。何世代も続く永代投資。生活者として、資金をもって志を投げる。これが投『志』というものの本質だと私は思います。 講演では、時代背景を踏まえて、東インド会社の成り立ちから、長い時を経て作られてきた株式会社の変遷と今後の可能性について解説くださいました。