【Vol.239】FIWAマンスリー・セミナー講演より

株価指数研究所の研究成果 
日本の戦前期株式市場における株価指数およびデータベースの構築

講演
明治大学 商学研究科 博士後期課程1年
I-Oウェルス・アドバイザーズ株式会社
調査・営業部長 太田 達也氏
レポーター 赤堀 薫里

太田

岡本さん主導によって、創立された明治大学株価指数研究所の研究成果。日本の戦前株式市場における株価指数およびデータベースの構築についての報告です。

株価指数というと、皆さんがご存知の日経平均やTOPIXがあると思います。日経平均は1950年9月より算出され、TOPIXは1968年1月より算出されています。それぞれ1949年5月、つまり東京証券取引所が戦後再開されるまで遡及計算がされているわけです。日本の株式市場の歴史は、1878年、東京株式取引所が創立されて以来、現在に至るまで140年以上を有しているにもかかわらず戦前期から現在に至るまでの一気通貫した株価指数が算出されていなかったというのが現状でした。

株価指数の役割は、従来は株式市場の趨勢を観察して景気状況を判断するための先行指数として、あるいはパッシブファンドの投資近似目標、または、デリバディブとしての投資対象としての役割がありましたが、近年では、株式投資成果を評価するためのベンチマークとしての役割が存在しています。投資成果を評価するのであれば、株式売買で発生するキャピタルゲインや、キャピタルロスでだけではなく、中長期的な株式投資に伴うインカムゲイン、配当による収益も考慮に入れる必要性が生じてきます。

近年では、配当込みTOPIXや、配当込みの日経平均も株価指数が算出されています。戦前期を対象とした株価指数が存在していなかったと言いますが実際は存在していました。戦前期を対象として作成された主たる株価指数は、様々な算出スタイルや対象指数、対象期間で算出を試みていました。しかし、算出されている株価指数のほとんどは、配当の再投資効果を反映していない指数でした。唯一反映しているのが平山氏によって算出されたEQPIという指数のみというのが現状です。しかし、これとても戦後からの指数にリンクしたものではなかった。

今回の株価指数算出の意義ですが、まず戦前期を対象とした株価指数の問題点は、大きく2つあります。一点目が配当の再投資効果が未反映であるということです。実際に戦前期に株式売買を行う主要参加者の多くは、個人投資家がおよそ6割程度でした。その取引形態は投機的であったため、中長期的な株式保有に伴う配当の再投資効果を反映する意味が薄かったという理由で、配当込みの株価指数が算出されてこなかった。ただ一方で、生保のような中長期的に株式保有をする主体もありました。

もう一つの問題点は、戦前期に特有な金融制度が未反映であったということです。戦前期の株式市場には、株式分割払込制度や株主割当額面発行増資といった、当時に特有な金融制度が存在していました。これらは、株価の変動に大きな影響を及ぼすファクターでしたが、実際に株価指数に反映されていません。

これらの問題を克服することで、中長期的な視座のもと戦前期の投資家のパフォーマンスを明らかにすることができます。もう一点が株式投資のトータルリターンを明らかにすることで、日本における長期的株式リスクプレミアムの算出に必要となる基礎的なデータを提供することができるとともに、ファイナンス研究における長期資産配分決定に多くのインプリケーションを与えることができるのではないのかというのが意義となります。

続いて戦前期の株式市場はどのようなものだったのか、戦前期の株式取引所の数と取引所の収入を見てみます。1878年から1936年までの間、現代と比べてかなりの数の取引所数がありました。1878年大阪、東京株式取引所に始まり、日清戦争後大きく増加します。これは、日清戦争のブームによって取引所の認可基準が低くなり、大きく取引所の数が増えましたが、後々、取引所としての機能が果たせていないということで減っていきます。

一方取引所の収入シェアを見ると、大阪株式取引所の収入シェアは、全体の2割から3割程度。一方、東京株式取引所の収入シェアは大体5割程度で推移しています。数ある取引所の中で、東京取引所に取引が集まっていました。今回算出した株価指数は、東京株式取引所において上場されていた銘柄について株価指数を算出してきました。

戦前期の株式市場は、現代のそれとは大きく異なる様相を呈していました。戦前期に特有の金融制度や、配当の再投資効果を勘案すると、戦前期を対象とした従来の株価指数では測りえない収益性が日本の株式市場に存在していました。

日本の株式取引所創立以来から現在に至るまでの趨勢を見ると、リターンリスク水準において、日本の株式市場は米国のそれを大きく上回っていたということが明らかになりました。

講演では、戦前期における株式市場の概観、また、株価指数の算出プロセスとその方法について。また、算出した株価指数、データベースの概要や日米の比較、リターンリスク水準などの解説。最後に今後の課題をお話いただきました。(文責:FIWA)