【Vol.237】FIWA®理事リレー

「年金手帳」廃止とマイナンバーカード

寄稿:FIWA®協会理事 石津 史子

石津

 ちょうど社会保険労務士事務所の開業と公的年金制度に基礎年金が導入された時期が重なったため、「自分年金作り」を強く意識しながら今日まで歩いてきたように思います。この間、5年ごとに年金財政再計算や再評価に伴う数々の年金制度の改正が行われてきました。時には落胆し、新たに誕生する経過措置にはうんざりしながら、「年金は国民生活の拠り所なんやから、あまり複雑にしないでよ!」と心の中で叫んでいました。

 年金と関わって仕事をしてきたので、たくさんの相談も受けてきました。「老後の拠り所」となる年金の受給権を得るには、平成29年8月1日に加入期間が10年に短縮されるまで25年必要でしたから、加入期間探しのために、過去の勤務先を調べたり、結婚歴を尋ねたりしたことが懐かしく思い出されます。

そうそう、「年金の受給権」といえば、当インベストライフにも寄稿(2004年9月号)しましたが、年金相談の窓口に年金手帳を5冊持ってきて、得意げに13回の転職経験を話してくれた大阪のおっちゃんのことが真っ先に頭に浮かんできます(笑)。彼の年金手帳にはそれぞれ異なる年金記号番号の記載がありましたので、年金記録は1本に繋がっていませんでした。

そのため、1冊持って訪れた先の役所では「年金はもらえない」と言われたのだそうです。その際、係の人から、もし他に年金手帳があれば全部揃えて持って来てくださいと告げられ、今回の年金相談に至ったとのことでした。「あかんか・・・」一時は諦めかけた年金だったそうですが、彼の5つの厚生年金の加入期間は基礎年金番号に集約されて1本に繋がったおかげで、「年金の受給権」ができて、老齢厚生年金と老齢基礎年金を受け取れるようになりました。「そうか、ほんまよかったわ」、大阪のおっちゃんは満面の笑みでした。
              
ところで、年金の大切な情報が紐づけされている基礎年金番号を記載した「手帳」が廃止されたこと、ご存知でしたか?年金手帳の廃止は、2020(令和2)年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」に「国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え」が盛り込まれて決まりました。

その1つの理由が「被保険者情報が既にシステムで管理がなされていること及び個人番号の導入によって、手帳という形式で果たす必要性がなくなっている」こと。つまり、マイナンバーカードと「ねんきんネット」の連携により業務の簡素化や効率化が可能となり、年金情報の管理を「手帳」でしなくてよくなったということでしょう。令和4年4月以降に年金制度に加入した人には、「手帳」ではなく「基礎年金番号通知書」が交付されています。「基礎年金番号通知書は、黄色い紙で、クレジットカードなどと同じサイズ(54mm×85mmの長方形)です。

新しい基礎年金番号通知書
日本年金機構「基礎年金番号、年金手帳について」より

基礎年金番号通知著

ただマイナンバーカードといえば、その交付率は全国的にはまだ半数にも届いていません。(総務省の「マイナンバーカード交付状況について(令和4年7月末)」によると、全国で45.9%)個人情報漏洩の報道を見聞きする度に、マイナンバーカードを持つことへの不安は払しょくできないなぁと思うのですが、マイナンバーカードはデジタル社会構築のインフラとして欠かせない存在です。特に私の場合は、過去に役所相手の煩わしい手続き業務に多くの時間を費やしてきた苦い経験があるので、無駄な時間やコストを削減できる行政のワンストップサービスを享受できることは、とてもありがたいことなのです(笑)。

自分の年金情報をマイナンバーカード経由で得るためには、まず、マイナポータルのアプリをダウンロードして、「ねんきんネット」に繋げる作業が必要です。

マイポータル

日本年金機構の「年金Q&A」の「マイナポータルからの申込み」を参照しながらマイナポータルと「ねんきんネット」は、意外とスムーズに繋ぐことができました。

利用時のIDやパスワードの入力が面倒で使いにくい印象のあった従来の「ねんきんネット」ですが、マイナポータル経由で1度繋げることができると、2回目からはもっと簡単に自分の年金情報(例:年金記録の確認、年金見込額の確認、年金見込額の試算など)が確認できることもわかり、ニッコリです。
年金以外にもマイナポータルと外部ウェブとつなげて、様々な情報が居ながらにしてとれるし、手続きもできそうです。じっくり時間をかけて付き合っていこうと思います。

デジタル庁

「年金手帳」中心に悲喜こもごもの年金相談を受けてきただけに、それが廃止になったというのには隔世の感があります。不便・不自由を感じてきたことが、便利で利用しやすくなることは大歓迎。これからも楽しみです。