【Vol.231】2022年どうなる世界の経済、金融市場~熊が団体でやってくる

ブーケ・ド・フルーレット 代表 馬渕 治好氏

馬渕治好

今年の前半は、株価が下がったり、外貨安・円高になったりするでしょう。弱気、つまり株価が下がるだろうということを、熊、bear、bearishといいます。そういった株が下がる要因が一つだけでなく団体でやってくるのかなというのが結論です。

いつも個人投資家さん向けには、『今年の前半、株が下がると思いますが、そこでうろたえないでください。長期投資はずっと続けてください。下がったからといってそこで慌てて売ることはやめてくださいね。』と、お話をします。

今年の前半にたぶん株価が下振れするということを見込んでいます。熊を6頭挙げています。ただ大きな熊さんと小さな熊さんが混ざっています。アメリカのテーパリングの影響がアメリカのマーケットなどに与える影響は、1番目の大きな熊さんです。その余波が中ぐらいの2番目の熊さんというかたちで新興国に波乱を起こすと考えています。もう一つ大きな熊さんは、3番目の中国リスク。これは中国経済の成長鈍化、中国政府による産業規制や米中関係の一段の悪化、巨額の債務の後始末等に関する大きなリスクを指しています。

1と3が大きな熊で、2がそれから派生する中くらいの熊です。4番目は、日米欧など主要国の経済や企業収益の基調は崩れないと私は思っていますが、勢いが落ちていること。5番目は、供給側のインフレの問題。6番目はヨーロッパの政治面、それと絡んでロシアの動きです。4、5、6の熊一匹だけが冬眠から覚めました。

1、2、3は表に出てきませんでした。という時に、4や5、6だけで世界の株価が大きく下がることはないと思います。ただ、1か3が大きく市場を揺らす中に 4、5、6が乗っかってくると一段と株安が明確なものになるのかなという意味合いで並べています。年前半は、そういう形で株安、外貨安を見込んでいますが、こういった悪材料が前半のうちにテーブルに並んで、それに対して十分なマーケットの反応、株価の下落があれば、その後、世界の景気や金融収益の回復基調が覆るほどのものにはならないと思っていますので、年の後半は長期的な株価上昇基調に戻ると思っています。

今年、不幸にも予想通り株が下がった場合、そこはリスク資産を売却するところではない。現金があればリスク資産に加える。投資家の中では毎月積立型のインデックスファンドへの投資を行っている人も多いと思いますが、手元の現金に余裕があれば少し年央に加えてみてもいいと思います。個別資産で運用している人であれば、今年の終わりの方が株価は高い可能性があると思うので、下がっても手放さず、ずっと忘れて昼寝をしていればいいのではないのかとも思います。

また、個人投資家の皆さんは、年央に下がった後、年の後半に上がると信じていたとしても、(実現損にならなくても)評価損が出るだけで夜も眠れなくなるという人もいらっしゃるので、そういう人は今のうちに売却しておいて、リスク資産を少し減らしておいて、年央で買うということでいいのではないでしょうか。『どれが正解なのか?』と質問をいただくこともありますが、人によって投資の目的、リスク許容度といろいろなものが違うしライフプランも違うので、自分の好きなようになさったらいいのではないでしょうか。

もう一つ質問が多いのは、『年の前半下がっても、年の後半上がるには、何か転機になる出来事、方向を覆すような出来事がありますか?』です。そういうことがなくても底を打って戻ると思っています。一つきっかけとして想定されるのは、アメリカの連銀の金融政策が修正されることなのかなと思います。連銀は株価を上げるために仕事をしているわけではないので、株価が下がっただけで金融政策を修正することはあり得ないと思っています。

しかし、株価の下落が急速で大きなものになって、その結果としてそれが経済や金融システムに影響を与える懸念があれば、テーパリングを止める、利上げを止める。再緩和まではいかないと思いますが、金融政策の修正はすると思いますので、それはきっかけの一つとしてあり得るのかなと思います。

『日本株はアメリカ株等に対して劣後していますか?』という質問をよくもらいます。上がってもそれほど上がらないということが起こっています。劣後を引き起こしている背景要因はとても数が多い。しかもその要因の多くが、長期的で構造的なものだと考えています。世の中では何か一つだけ悪いのだと、例えば、岸田政権さえ政策を変えれば日本株は世界をリードするとか、あるいはいろいろな政策、消費税を減税さえすれば日本株は上昇するとか、何か一つよくすれば日本株は大きく挽回すると言っている人がいますが、それはあまりにも安易すぎる考え方だと思います。

多くの構造的な要因を改善しないと日本株は長期的に世界の株に負けると思っています。それには時間も手間もかかるでしょう。ただ短期的に今年の後半株価がリバウンドする局面だけに限れば、日本株が他の国の株より上昇率が高いということはあり得ると思います。一番大切な点は、大儲けをしようとすることではなく、できるだけ損失を限定して退場しないということ。『もう金融資産が0に近くなってしまって、私は一生投資ができません』という事態を避けるということが今年一番大事なことだよということを、短期志向の方には伝えています。そういう観点でお話をしています。

講演では、主要市場の見通しや、主要国の株価を大きく下振れさせるであろう6つの下落要因となる熊さんを、背景や関連性も踏まえ順次わかりやすくご説明ただきました。

フリー・ディスカッション Q&A

馬淵 岡本

原田|中国の大手IT企業たたきが、これからもずっと続くのかどうかという点です。これは米中の覇権争いということもありますので、中国の先端技術が遅れてしまうことになる懸念もあると思います。今は非常に強いですけどね。この点についてご意見をお伺いします。

馬渕|中国のIT産業自体をくじきたいとは中国は思っていないと思います。やはり産業としては重要ですし、特に軍事絡みを考えるとITの技術の遅れはITを活用した兵器開発とか軍事展開で他国に遅れることになるので、IT分野自体の進展を妨げようという考えは中国政府にないと思います。ただITの社長がジャック・マーみたいに有名になって、それで金を稼いで庶民から不公平だという不満が高まるとか、有名人になったITの経営者が中国政府や共産党に対する批判をすること自体をとても恐れていると思います。

当時ジャック・マーが一時、雲隠れしたようにプレッシャーを掛けて、生命の危険を感じるようなところまですると思いますね。そこら辺は分けて考える。だから例えばIT企業が上場して成長していくのであればアメリカに上場することはけしからんということになる。香港であるとか、今度は北京に株式市場を作りましたけれど、うちの国の中でやれという形にしているのだと思います。アメリカに上場することで株価が暴騰して株の保有者が大儲けし、濡れ手に粟で儲けるという批判を庶民からもらうことはけしからんと。

産業自体は発展して、それが軍事も含めて中国や共産党の発展につながることをくじきたくはないが、ITの経営者が個人的に成功することはけしからんということですね。ただ、その個人を抑え込むことと、産業を育成することというほぼ矛盾するかもしれないことを同時にできるのか。中国政府はできると思っています。

これはこの問題だけではなくて、不動産業をたたき、教育産業をたたき、IT産業をたたくけれど中国の経済を発展させることはできる。それはマクロ的な緩和や財政政策でできると思っています。『今までできたからできるよね?』と中国は多分思っていると思いますので、中国政府自身が「いろいろな規制を出しても、うちはうまくやっていけるよ」と思っているところが、一番危ないかもしれないと思っています。もしかすると自分たちは大丈夫だと思っているIT産業の規制が、思わぬところでブーメランとして返ってくるかもしれないというリスクはあるのではないのかと思います。

参加者|今すごく気になっているのは、アメリカのハイテクのGAFAなどが今後も独禁法等でたたかれるのか、それとも牽引車でこのままいくことになるのか?そのあたりを聞きたいです。

また、中国共産党の不動産とアメリカのGAFAは似たようなところがありまして、あんまりやり過ぎると一般の人たちから反感を買うから適当にたたいておきたいけど、本当に潰してしまったら儲ける要素がなくなるので、ほどほどに死なない程度に生かすというところがあります。中国の恒大をたたいたような市中引き回しの刑にするというようなところは、アメリカはないと思います。とは言いながら、あの辺の元気がなくなってくると、しんどいなという感じがしますのでその辺のご意見をお聞かせください。

馬渕|方向性として、おっしゃる点でアメリカと中国が似ているところはあると思いますが、アメリカは何だかんだいっても資本主義国ですし市場主義国です。民主党の左派を中心に『あいつらけしからんやつだよね』ということはありますが、多分ほぼかたちづくりに終わると思います。

中間選挙もありますので。民主党の左派は「我々は中間層、貧困層の味方です!」ということを打ち出すけど、茶番劇だと思います。上院の公聴会に呼び出していろいろと突っ込んで、『私が突っ込みました!』という実績が議員さんは欲しいでしょうけど、それで終わってしまう。GAFAも、独占的であるという批判をくらっているのは別に今年とか去年の話だけではないので、程度の差はあれ、前から議会に呼び出しをくらっています。それは独禁法上の問題もありますし、「情報管理ができていなくて情報漏洩しているのじゃないですか?」とザッカーバーグがしょっちゅう呼ばれたりしています。

GAFA側も、議会とか政府をどうのようにあしらうのか慣れていると思います。『そうおっしゃるのなら、うちの子会社を切り離します』みたいな、人身御供をポンと出して、「これでいですよね」と、お互いシャンシャンシャンと手打ちをするということでしょう。だから、GAFAが政治的な要因で委縮して、それが傾いてIT産業に陰りが出ることはあまりないだろうと思います。

ただそれとは別の話で、アメリカは新陳代謝がすごいので、GAFAが10年後も今と同じように大企業であるかというと、それはもしかして疑問、わからないのかもしれませんよね。もしかして、今、全然名前も何も聞いたことがないようなベンチャー企業がGAFAに取って代わっているということはあるだろう。そこはまたアメリカの強さでもあります。「GAFAの株を持っていると10年後はウハウハですか?」というと、そこは違うかな?と思います。アメリカのIT産業が優勢を保つのかというと、僕は保つような気がします。

岡本|二つ思い出すのは、20世紀初め頃の自動車産業みたいに、何十社とあって、それがだんだん絞り込まれて最終的にビック3になったという話がありそれと似たような状況なのかな。いろいろな産業でそれも情報化というメガトレンドがある一方で、70年代初めのニフティ・フィフティの相場の時。あの時も似たような買われ方をして、結局オイルショックでバブルは潰れてしまいました。今を見ているとそのどっちになるのかなと、非常に興味があるところですよね。

今GAFAが興隆を極めているのは、一つの時代の大きな流れだろうと思います。今活躍している会社が本当にリーダーになるのかどうかわからないけれど、これから何年かかけて数社に絞られてマーケットをリードしていくというようなことになるのかもしれません。当てるのは難しいのかもしれませんけどね。

馬渕|アップルの時価総額が3兆円を超えて、日本の株式市場の時価総額の半分くらいがアップル1社と匹敵しているという話があり、『どう思いますか?』というお問い合わせもいただきました。ひとつはIT産業自体の隆盛があるので。アップルも順風満帆ではなくて、結構大変な時もあり、それを乗り越えながらやってきた。大昔のアップルと今のアップルは違う会社みたいに変わっているところもあるのかなとは思います。

その新生アップルが良い会社であり、産業も良いから株が買われている、というところがあるものの、GAFAさえ買っていれば安心だよね、とお金が集まり過ぎてしまい、PERがいくら高くても買われ続けるというその相場は一度転機が来る。それも含めて、今年の前半に大きな調整相場が来るのかなと思っています。

参加者 話題は変わりますが、岡本さんのライフプランを聞いて、アドバイザーがカバーする分野が非常に大きく広いものであることを気づかせてもらいました。

岡本|私が言いたかったことは、マネープランはすごく重要ですけど、その大前提となる自分がどういう人生を送りたいのかということを考えることが、すごく重要だということです。そしてそれは、アドバイザーの人に本当に高度な指導力、人間性が要求されるようになり、大変なことだと思います。課題は非常に大きいし、ハードルは高い。でもそれは乗り越えていかなくてはいけないと思います。今日はありがとうございました。