【Vol.273】エクスパート・オピニオン
Expert’s View:
トランプ関税でどうなる、アメリカ、日本、世界
(この対談は2025年8月19日に行われたものです)
岡本:インベストライフで毎回、Expert’s Viewという有識者のコメントを紹介しています。今は当然、「トランプさん旋風で世界、アメリカ、日本、政治、経済はどうなるの」というのは非常に、多くの人が興味あるところです。そこで、馬渕さんの意見を聞かせてもらいたいと思ったわけです。今回は一番、大きな話題になっている関税の問題についてお話を伺います。
関税の問題とか、それから国際関係の問題とかあるんだけれども、その辺の質問も多いと思います。皆さんにはどんな話をしているのですか。
馬渕:そうですね。関税だけで言えば一時懸念されたほどではないにしても、就任前よりは上がるわけですね。全世界に無差別に10%かけるという形であったり、品目別にも鉄鋼、アルミなどに50%かけたり、今度、半導体だの、医薬品だの、銅だの、木材だのを加える意向だと言っています。半導体はおそらく8月中に大きな方針が出るのではないかと言われています。そうするとやはりアメリカにとってはコストが高くなり、その分だけ経済が圧迫され、景気が悪化する方向と、値段が上がる方向という両面で警戒する必要があると思うんですね。
岡本:日本がアメリカ政府に直接関税を払うことはないですよね。そうすると日本からの輸出に関税をかけるというのはどのようなメカニズムですか。
馬渕:つまり、日本などの輸出元が価格を変更せず、関税を支払うアメリカの輸入業者が関税の分を含めてアメリカで売れば値上がりします。最終製品だけではなく、原材料とか、それから部品も海外で作ってアメリカに輸入している分もあります。これらにも輸入関税がかかります。それがアメリカでの物価上昇になります。
岡本:要するに、輸入価格に変動がなければ輸入販売業者の手取りが減ってしまうということですね。
馬渕:そうです。アメリカの輸入業者が関税を価格に転嫁せず、アメリカ国内での販売価格を変えなければ、その分、業者の手取りが減ります。あるいは、輸入業者が関税分を国内での販売価格に転嫁すれば、購入者である企業や家計にとっては、実質的に手取りが減る(価格上昇による実質所得減価)という形になります。
岡本:そうすると日本の輸出業者に日本からの輸出価格を下げろという圧力はかかってきますよね。
馬渕:それはかかってきます。圧力がかからなくても、価格が上昇することによって数量ベースで売り上げが落ちることが懸念されます。もしくは米国企業にシェアを奪われてしまうことを懸念して、自主的に日本に限らず、輸出元が価格を下げるということもあると思います。米国企業からの値下げ圧力が高まりますから。そうなれば、今度は輸出元の国の方が景気、企業収益が圧迫されることになります。結局、世界的にやはり景気を下げるようになると思います。
今のところ、株式市場はあまりそれを気にしていない感じがしますが、その一番の要因は、例えば、現時点でアメリカの経済統計とか物価統計を見ると、若干、経済指標が弱くなったり、もしくは物価指標がじわっと上がったりはしてるのですが、それほど深刻な影響が出ていない。だから、これからも深刻な影響は出ないのであろうという楽観論が強いように思いますね。
ただ、なぜ現時点でそれほど深刻な影響が出ていないかというと、関税が上がるということは以前から分かっていたので、関税が上がる前に十分に輸入して在庫に積んでしまおうというような動きがありました。また、需要面では、特に自動車などについては3月に販売台数がとても増えて、その後、落ち込んでいるのです。要するに、値上がりする前に買ってしまおうという動きが出たわけですね。
かけ込み輸入の分だけ今、安い在庫品を売っていれば物価上昇につながりにくいというのもありますが、だんだん在庫の底はついてきている。そうすると、新しく輸入した高い輸入品を売らなければいけなくなるので、物価にはこれから影響が出ます。実は先週、生産者物価指数が発表になりました。この川上物価の方は3%を超える前年比での上昇です。こういう上昇になっても川下の消費者物価指数の方は3%をやや下回り、それほどブレていないのです。ただ川上から川下に物価上昇が伝播してくると、これから厳しいことになるのではないかなと思います。
それと、例えばアトランタ連銀が企業にアンケート調査をしています。今までどのくらいコスト上昇を価格転嫁したかではなく、「2025年中にどのくらい価格転嫁する予定ですか」というアンケート調査をしたのです。それによると年内、価格転嫁するうちの何パーセントが関税によるコスト上昇分の価格転嫁かという数字を全部平均すると58%。つまり、58%を最終的に今年中に売価に転嫁するということを言っています。
岡本:要するに、それはアメリカ企業が負担する関税上昇分の58%、それを価格に転嫁していくということですね。
馬渕:それはアトランタ連銀の調査なのです。アトランタ連銀の管轄地区は、アメリカの東南部、フロリダなどの地域です。その地域の企業だけに行ったアンケート調査ではあるのですが、ただ、それと全米の意向が全く異なるということはないと思います。
それから先週報じられたゴールドマン・サックスのレポートでは、同じように関税引上げによるコスト上昇のうち、現時点で何%を最終事業者に転嫁しているかという調査によると、6月時点での転嫁率は22%です。しかし、これが年内に67%になるという。そのような独自の調査レポートを書いたのですね。この67%という数字と、さっき申し上げたアトランタ連銀の58%と数字は大きな違いはないので、大体そんな感じになるだろうとは思いますね。
岡本:私が制度的によく分からないところがあるのは、例えば日本からの輸出価格が100だとしましょう。それをアメリカに輸出すると、関税率が15ならアメリカの輸入業者は当然、関税の15の部分は政府に納めなければならない。全部ではないにしろ関税分は値上げ圧力となるでしょう。そうするとそれはアメリカでの輸入物価の上昇になりますよね。
馬渕:それをそのまま115で売るのであれば特に負担は輸入業者にとってはないんですけど、それを115で買わなければいけない企業や家計にとっては負担になりますね。
岡本:そうすると値段が上がると。
馬渕:値上げと同じになります。値上げを避けるとすれば、アメリカの輸入業者は15余計に払っているのだから自分の利益で負担します。そうすると15乗せないで売るかもしれませんし、もしくは例えばトヨタが自動車を直接アメリカに輸出しているということなら、アメリカでの価格が関税込みで値上がりする。値上がりによる数量ベースの売上の落ち込みを避けるために輸出価格を98とか95にすることになれば、その分だけ値上がりは抑えられますね。
岡本:日本の輸出業者は87(=100÷1.15)で売ったとしましょう。そうすると、アメリカの輸入業者は関税を政府に払うために税込価格を販売価格にするわけですよね。そうするとアメリカ国民にとってみると、前から100で買ってた物は引き続き100(=87×1.15)で買えるってことにならないですか。そうすると損するのは日本の企業が関税分を負担していることになり、輸入企業の採算はニュートラルということになるのでは?
馬渕:それは関税のコストを輸入業者がかぶるか、もしくはトヨタがかぶるのかということでしょう。日本の業者が全部関税分をかぶればアメリカ最終事業者にとっては、値上がりはなくなります。
岡本:要するに政府は関税分だけ税収が増える。その負担を日本の輸出企業が負担するか、アメリカの輸入業者が負担するということですね。または全部あるいは一部をアメリカの消費者や最終購入者の企業が負担する。そうですよね。
日本からの輸出企業がコストを下げ輸入企業が支払う関税分を値下げするか、あるいは日本企業は値下げせずアメリカの企業や家計が関税分をすべて負担するか、そういう両極端があり、結局、両者の力関係で落ち着くところに落ち着くということですね。
馬渕:そうですね。今の段階では分からないのですが、日本に限らず、輸出元の方がいくらかかぶるという話はきてますね。
岡本:なんとなく、そんな感じはしますよね。やっぱり生産側は稼働率を保つというのは事業としてすごく重要だと思うし・・・
馬渕:そうしていくばくかを輸出元の日本企業などがかぶる。トランプさんはそこを強調して「全て他の国がかぶるのである」という言い方をしています。「だからアメリカの負担は全くなしである」ということを言っていますが、それもまたちょっと極端で、やはり全部はかぶれないでしょう。
最終的なアメリカでの売値が上がって、それで「売れ行きが少し悪くなってもしょうがないよね」と、それは売っている製品の非価格競争力がどのくらいあるかというところによるでしょう。今のところは全部じゃないですけど、一番最初の売り元、海外のメーカーなどがかぶるのもあるのではないかと思います。
岡本:ありがとうございました。次回はやはりトランプさんの金融面の考え方のお話を聞かせてください。




