【Vol.271】生活者のためのエクスパート・オピニオン
生活者のための賢い投資信託の使い方
島田 知保氏
竹川 美奈子氏
投資信託や個人の資産運用に長くかかわってこられたお二人に生活者投資家への助言を語っていただきました。単なる投資「知識」ではなく投資の「知恵」を感じていただけると思います。(岡本)
島田 知保 氏
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て2008年イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社(現モーニングスター・ジャパン株式会社)に入社。2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」、2016年同「市場ワーキング・グループ」委員。2017年「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」メンバー、2022年「顧客本位タスクフォース」メンバー。1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長を務めた。
投資家に投資信託を伝えるときに大切なことは、とにかく短期の目線で見ないこと。これが第一です。次に人に勧められてとか、ほかの人もやっているから、ということではなく、自分で納得して始めること。長く保有して価値が育つ資産に投資をするのだ、それが、より良い結果につながるのだということを、得心して始めることが大切です。気を付けたいのは、特に中高年になってから始める方にはあまり大きな金額で始めないでほしいということです。退職金で初めて投資する方たちは、大きな金額でいきなり、金融機関の勧めや周囲の雰囲気に流されて始めてしまうことがよくあります。
初めて投資をする方は、投資をしてみればよく分かると思いますが、最初は投資した金融商品の値動きが気になるものです。価格がどう動くかによって、自分の気持ちが浮いたり沈んだり、不安になったり。市場の変動によって、「自分の心がどう動くか」を観察するためにも、少しの間はお試し期間のつもりで、半分になっても困らない、ショックを受けない資金で投資をしてみるとよいと思います。
ある程度、自分の心理を観察できるようになってから、少しずつお金と投資タイミングを分けながら始めていくといいと思っています。もちろん、投資の合理性から言えば、自分が決めたポートフォリオで少しでも早く全額保有した方がより長く投資できますが、たとえば退職金でそのような投資をした数か月後に市場が暴落したら、たとえ「20%の下落に耐えられる」と決めたポートフォリオだとしても、多くの方は心理的にショックを受けるのではないでしょうか。
投資が怖くなって、下落したときに積み立てをやめたり、最悪のケースでは損を承知で解約したりしてしまう方もいます。投資に悪い印象だけを残して、二度と投資をしなくなっては、お金を育てる大切なチャンスを逃すことになりかねません。そうした機会損失を被らないためにも、自分の耐久力を知っておくことが大切です。
若い方はいつ始めたらいいかとか、どこで、どうやって始めたらいいかなど、細かいことをあまり深く考えすぎると、縄跳びにいつまでたっても入れなくなってしまうようなことになるので、自分が使いやすい金融機関に口座を作ってとりあえず始める、積み立てをやってみるっていうのが大事じゃないかなと思います。自転車に乗れるようになるまでに何度か転ぶように、最初から「究極の正解」を求めるよりも、少額の資金で下落や上昇を味わい、市場の変動に慣れながら続けることが大切です。やがて、投資に関心があるならばより自分に合った金融商品をじっくり探していくのもよいし、あまり投資のことに煩わされたくないならば幅広く分散された市場指数に連動するインデックスファンドに投資をするのでも、リスクを抑えたいならバランス型のファンドを選んでもよいと思います。
とにかく始めるという観点からは、NISA制度でつみたて投資が広がってきたのはすごくよかったと思います。商品で何を買ったらいいかと迷う方は、たとえNISA口座での投資でなくても、たいていの方にとってはNISAの積み立て投資枠対象の投信の中から選ぶことで(それでも商品数は多すぎるくらいですから)、ほとんど十分だと思います。
資産形成は時間とともに価値が増大する資産を買って保有すること、時間をかけて保有する量を増やしていくことが一番大事です。投信であれば、自分が信頼する投信に投資を続けて、とにかく口数を増やしていく。そのためには、「今はこれ、次はあれ」という風に、短期で売買をするというのは効率的ではないと思いまね。特に売却を考えるとどうしてもタイミングを見るようになるし、タイミングを見るとマーケットの「値段」だけを見るようになります。マーケットの「値段」だけを見るということは、持っているものの「価値」を信じていないことになってしまう。価値があるものを保有するということから離れてしまうと思います。
竹川 美奈子 氏
出版社、新聞社勤務を経て、2000年にFP資格取得。取材・執筆活動のほか、投資信託やiDeCo(個人型確定拠出年金)、マネープランセミナー、企業型確定拠出年金の継続研修の講師などを務める。個人投資家の草の根交流会の幹事を務めるなど、資産形成・投資のすそ野を広げる活動にも長年取り組んでいる。会社員向け、個人事業主向けなど対象者に合わせた資産形成、リタイアメントプランなどを得意とする。金融庁 金融審議会「市場ワーキング・グループ」委員(2016年7月~2020年8月)、同「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」委員(2017年2~3月)、企業年金連合会「継続教育実践ハンドブック」作成検討会委員(2015年1月)などを務める。
最近はあまりにもNISAが流行っているので、「NISA口座を作って何を買ったらいいですか」といきなり考えてしまう人も多いのですが、そうではなくて、人生を通して、長期的な視点で資産設計を行うことがすごく大事だと思っています。若い人もキャリアプランについてはしっかり考えているので、それと同じようにお金についても自分でマネジメントするという意識を持つことが大事だと思います。
若い方と話をしていても「不安」を口にする人も多いのです。例えば、老後の不安とか(笑)。不安になる原因は「分からない」「知らない」ことが大きいのかなと思います。お金に関する基本的な知識を身につけることは大事ですし、メディアやSNSでいわれる平均やモデルケースの数値を鵜呑みにしないこと。そうではなくて、自分の場合はどうなのか、我が家はどうなのかを、数値的に検証できる力が必要だと思っています。
そのためには「家計の見える化」や、「公的保障・企業内保障の見える化」が必要だと思っています。家計の見える化については個人もバランスシートを作ることをおすすめしています。毎年に1回でもいいので作ってみる。そして、リタイアに向けて毎年、金融資産がちゃんと増えているな、住宅ローンなどの負債が圧縮されているな、と定点観測する。若い人も最初は住宅ローンなどの負債がなくて、金融資産も少ないと思うんですよ。でも、毎年、毎年、積み立ての貯蓄や投資をすることで金融資産も積み上がっていく。リタイアするまでに負債ゼロで、金融資産が積み上がった健全なバランスシートを作っていけたらいいですね。
バランスシートの金融資産の部に「年金資産」を加えてもいいです。そうすると、今スグは使えなくても将来使える年金資産も積み上がっていっているのがわかる。そうすることで不安も和らぎ、逆に今必要なお金も楽しく使えるようになると思うんですよね。「見える化」は大事なので、しっかり考えてほしいです。
資産形成を行う際には自分の資産を三階建てのピラミッドで考えるといいのです。底辺が公的年金、二階が退職給付(退職一時金や企業年金)、そして三階が個人が行う資産形成です。ところが、一階や二階部分を理解していない人も多いのが現状です。例えば、企業型の確定拠出年金に入っていた人が会社を辞めた場合、転職先に企業型DCがあればそこに資産を移し、転職先に企業型DCがない場合には半年以内にiDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)などに資産を移す必要があるのですが、移さずに国民年金基金連合会に資金が移動してしまい、現金化され、手数料だけ取られてしまう人もいます。
そうした人は72万人以上いて、その結果、総額で2800億円以上も放置されているのです。2800億円です。残高がある人だけで72万人ですよ。ほんの少額で手数料を差し引かれてゼロになっている人も含めると、100万人以上いるのです。それだけ退職後のための資金が流出している。
だから、NISA口座を開設して投資をするのももちろん大事ですけれど、その前に勤務先の退職給付制度のことを知る、企業型確定拠出年金に入っているのなら、まずそこでちゃんと運用する、転職して企業型DCのない会社に入ったらiDeCoの口座を作って資産を移換する、というように、主体的に自分がマネジメントする意識を持つ必要があると思います。
自動移換されてしまうと、現金化されて運用もできないですし、手数料だけ差し引かれてしまうんです。確実に減っていく。自分でiDeCoの口座を作ったり、企業型の確定拠出年金に入ると名寄せをして移してもらえるのですが、本人がiDeCoの口座を作らないことには移しようがないので、そうすると放置されしまうわけですよね。だから、自分がどういう制度に入っているのかを押さえておくことは極めて大切だと思います。そして、転職が当たり前の世の中では、持ち運んでふやす・育てていくことが大事です。





