【Vol.229】FIWA®マンスリー・セミナー講演より 年金運用革命に学ぶDIY資産運用

講演:岡本 和久 レポーター:赤堀 薫里

大きな時代の流れとして、従来はエージェントとして投資顧問会社や投信会社が本人に代わって運用していましたが、だんだん個人が、生活者が運用するという大きな流れがあります。これを私はDIY(Do-It-Yourself)資産運用と呼んでいます。

そのためにはある程度の知識が必要です。と言っても、証券市場ではいろいろな局面が次から次に出現します。それに対応するすべての知識を個人の人が持っているわけではないので、純粋に中立な付加価値を提供できるプロのアドバイザーが必要だということになります。

私は1990年から2005年まで年金の運用に携わっていました。まずこの時期、米国では年金運用革命が進行していました。それまでは確定給付型年金が中心でした。一方、急速に確定拠出型年金が立ち上がり始めている時期でした。日本はちょうどバブルが崩壊した直後です。みんな、年金運用をどのようにやっていけばいいのか迷い始めている時代でした。

そういう意味で90年という年に米国の年金運用革命の旗頭という企業で働き始めたのはしあわせでした。その時に米国で進行している事が将来、日本を暗示するようで非常に参考になりました。米国の年金はオイルショックの時に大ダメージを受け、それがきっかけとなり年金革命が引き起こされました。その流れが日本にも伝わってきて、90年代中ごろから日本版のビッグバンや日本版401Kというものが始まりました。株式売買の手数料が自由化され、投信の革命的商品のETFが登場するなど、大きな変革の時期でした。

米国で起こった年金運用革命で始まった運用手法は、今日、世界の事実上の標準になってきています。もちろん、これは確定給付型年金から確定給付型年金への移行で起こったものです。しかし、この手法が個人の資産運用にも大きな影響を与えています。今日のETFの興隆がそのよい証拠でしょう。

確定給付型で起こった運用の変革が、生活者が自分で運用する確定拠出型が出てくることによって、これから日本の個人の資産運用にも大きな影響を与えることになるでしょう。

だいたい日本はアメリカの年金運用から15年間ぐらい遅れて、同じようなことが起こっています。アメリカは合理的な事を大胆にやっていますが、なぜ合理的な事が始まるのに日本では15年も遅れるのか。それは制度的フリクションが強いからです。固定観念、既存の利益を得ている人たちを守らなければいけない。そしてその分だけ合理化が進むことも遅れてしまっています。しかし、その分、将来の生活者の年金が犠牲になっているのです。

私が年金運用に携わる以前、日本の年金は全て給付型年金でした。運用の中心は貸付金、それが徐々に債券になっていきました。運用は信託銀行だけで、予定利率は、制度ができた時の公定歩合の水準だった5.5%と決っていました。株式市場も堅調で、毎年、目標を楽々クリアしたため、余ったお金で保養所等を作っていました。

運用機関の変更は非常に限定的であり、1990年まで投資顧問の参入は認められていませんでした。アセット・アロケーションは安全資産5割、株式3割、外貨建て3割、不動産2割と決まっていました。5・3・3・2ルールは基金全体と運用機関ごとの両方に課されていました。評価は全て簿価でした。

このようなことが一つずつ90年代後半にかけて変わっていきました。年金情報という情報誌が90年に発刊されます。この時始めて、他の基金がどれくらいのパフォーマンスなのか公に見られるようになりました。発刊には大変な抵抗があったと聞きます。そしてニューマネーとオールドマネーの区分も廃止となり、時価基準になりました。資産規制5・3・3・2も緩和され、時価会計が導入されました。

個人の資産運用でこのような大きな変革が進行し始めています。今まではセールスに勧められるままに投資信託や銘柄を買っていました。いろいろなものをたくさん持っているけれど、全部を合わせてみれば非常にコストの高い不正確なインデックス運用になっていました。それであれば、自分が司令塔となり、コアを世界株インデックスにして、投資方針を決定した方がいいのではないのか。そうして出来てきたのが、コアの株式インデックスに加えて戦術的資産配分、あるいは個別銘柄、アクティブ型の投資信託をトッピングとして持つ。これがサテライトです。そのような海外の運用革命で起こったことが日本の個人の投資行動に反映されるようになっています。

ただそれを自分1人でやるには難しいという人も多いでしょう。まず、口座開設などの手続きも煩雑なものがあります。それが大きなハードルになっているのも事実です。また、長期投資の長旅でバブルが発生したり暴落したりすることもあります。そんな時に適切なアドバイスをしてくれる、利益相反の全くないプロのアドバイザーが人生を通じての伴走者として付き添ってあげることが大切です。

営業マンはゆきずりのアドバイザーです。どうしても運用の考え方が短期です。できれば手数料も稼ぎたい。アドバイザーはアドバイスで収益を得ますからね。本当にお客さまの長期的目標に合ったアドバイスをしなければアドバイザーとしての生活が成り立たないのです。

運用責任が国、企業、機関投資家から個人へ移行する。いま必要なことはDIY資産運用に適した全世界株式のインデックスファンドがもっと出来てくるといいでしょうね。確定拠出年金、iDeCo、NISAなどの制度が複雑すぎる。もっと口座開設の手続きも簡素化したほうがいい。販売会社主導ではない本質的な金銭・投資知識の普及も必要です。販売会社のやる投資教育はセールストークの延長ですよね。『できるだけ売り買いしないほうがいいですよ!』とは言わないわけです。

やはり基本的な立ち位置の違いがある人たち、利益相反のある人たちが投資教育的なことをやっていることはおかしい。そういう人たちがなぜか投資教育、金融教育の専門家のように思われていた。今までそういうことが主流でしたが、今、世の中は変わってきています。そして販売に関わらない独立したプロのアドバイザー、FIWA®(Fiduciary independent  Financial Advisors )の人たちが本当にこれから活躍する時期になってきています。

講演では、20世紀初頭からの前史をお話いただき、企業年金の誕生から、年金運用のインデックス運用の登場と拡大、運用体制の変遷、年金から個人への運用革命が拡大していく中、DIYの資産運用の明確な答えを提示してくださいました。