【Vol.241】FIWA®理事リレー投稿

行く価値ある場所に近道などありませぬ

                           

FIWA®副理事長 岩城みずほ
CFP®️/FIWA®️/社会保険労務士

                                                   

岩城みずほ

2022年師走。積み残しの仕事を気にしつつ、このコラムを書いています。例年の如く、今年も目まぐるしく過ぎた1年でしたが、今年は、大きな波が次々と3つも起こりました。

■大波その1は乗り越え、ただいま小波の上

底冷えのする2月20日、ミーティングを重ねてきたプロジェクト「FIWA®クラウドファンディング」がスタートしました。誰でもできる「長期・分散投資」の有効性を、一人でも多くの方に実感いただくための本格版株価指数連動 定額積立投資シミュレーションソフトを作るために、その制作費用ご支援いただくこと。目標金額は420万円。

初めてのクラウドファンディングです。「必ず成功する!」という気持ちは強かったものの、FIWA®はまだまだ知名度も低いし、本当に達成できるのか不安でした。SNSやメールで支援のお願いをし……そう、あとは「何が何でもやり通すんだ!」という忍耐のみ…。

特定非営利団体(NPO法人)「みんなのお金のアドバイザー協会~FIWA®」は2019年9月24日に設立しました。人生が長く多様化し、多くの人が資産運用を必要とする時代です。専門家によるアドバイスが求められていますが、実際には、「相談者の幸福を自己の目的とすべき」と心得る本当の意味での顧客本位のアドバイザーは非常に少なく、顧客のライフプランに不適切な金融商品の販売にかかわり、コミッションを受け取っている自称アドバイザーも多くいます。不適切な推奨に基づく商品の購入や資産運用は、長期的には家計資産に大きな損失をもたらします。

私は、これまでの相談業務で、無駄の多いアセット・アロケーション、アセット・ロケーションをたくさん見てきました。リスク許容度を超えた投資対象を保有している例、長期投資に不適切な銘柄選択、リターンに対して高すぎる手数料、不必要な回転売買や銘柄入れ替え…。これを長らく続けた結果が、日本に投資がなかなか根付かない、多くの家計が資産運用をしていこうという気持ちになれないということになっているのだと思います。

こんなことがいつまで続くのだろう。

問題は、「誰が顧客本位のアドバイザーかわからないこと」だと思いました。鍵になるのは「顧客ファーストの質の高いアドバイザーを増やしていくこと」です。この状況を少しでも改善していきたいという志を持つ仲間と、FIWA®を設立しました。そんな思いを込めて創ったFIWA®の看板を背負って失敗するわけにはいきません。自らを奮い立たせる日々が続きました。

そして、私たちの思いを受け止めてくださったたくさんの方々のお陰で、4月20日完走。有終の美を飾ることができました。蓋を開けると、目標金額を大きく上回る460万円のご支援をいただき、また、半分以上の方が、このプロジェクトでFIWA®を知ったという方々でした。本当に多くの方から、FIWA®の理念への共感のお言葉をいただいたことを心強く思っています。ご協力いただいた皆様には改めて感謝申し上げます。

FIWA®つみたてインディくん」は、決済システムを追加し、11月から使用権の一般販売をしております。特徴は文末にご紹介しています。

■大波その2は突然に。波に向かって真っ直ぐに歩き続ける

 FIWA®設立以来、多くの時間をFIWA®の活動のために消費するようになりました。「私はすごく頑張っている。すごく忙しいけど、手を抜かずに必死でやっている」。いつしかそんな思いにとらわれるようになりました。そして聞きたくもないのになぜか耳に入ってくる批判と陰口。体調を崩しネガティブ思考になっていく中、不運は重なるもので家庭内にも深刻な問題が重なりました。

 そんな折、FIWA®の中にも解決すべき問題が生まれました。いずれも私たち理事の力不足、認識不足から生じた問題です。コロナ禍で行動が制限されていたことで、意思疎通が疎かになり、FIWA®のメンバーの気持ちを私たちが汲み取ることができなかったことが原因です。

もちろん、決してメンバーの皆さまを蔑ろにしていたわけではないのですが、しかし、招いてしまった結果は結果。自分はどうするべきだったのだろう。考え続ける日が続きました。

教えてくれる人、不満を言ってくれる人、注意してくれる人、叱ってくれる人、こうした人は年齢を重ねるにつれて少なくなっていくものです。でも、こういう人こそ、足もとに水をかけてくれて肥料をまいてくれて、育て、実を結ばせてくれる人なのだ。今、こんな風に思えます。

そして、「現場に宝もあり」を実感しています。FIWA®メンバーの方々のお話を聞かせていただき、各々が自身の信念に沿ってコツコツと地道に自分の仕事をやり続けていることを誇りに思いました。これこそがFIWA®の宝です。私たちは、世の中を良くしたいという一念でFIWA®を立ち上げました。そんな私たちに賛同し、同志となってくれた仲間です。組織を創っていくには時間がかかる。どうぞ、しつこく、気長に、お付き合いください。「一念、道を拓く」です。私から「お話ししましょう」とメールが届いたら、どうぞ1時間ばかり時間をください。お願いします。

■大波その3は岸田内閣「資産所得倍増プラン」

 金融庁から幾度も連絡があり、にわかに周辺が騒がしくなったのは、半年ほど前だったでしょうか。岸田首相は、「NISA拡充の実現のためには、顧客本位のアドバイザーを増やすこと、金融教育の強化することをセットにして行うべきだと考えている」ということを小耳に挟んではいたものの、どうやら本気で取り組むらしい…。

「顧客本位」の議論が俎上に上る?

俄には信じられない思いでした。そりゃそうでしょう。フィデュシャリー・デュティという言葉が認識されるようなったのは、2014年9月に公表された金融等の行政指針です。フィデュシャリー・デュティとは、顧客本位の業務運営のことを言います。2017年3月金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則(フィデュシャリー・デュティ)に関する原則」を公表し、文字通り顧客の立場に立った業務運営を徹底するよう、金融事業者向けに取り組みを促しました。

金融庁が想定していたのは金融事業者でしたが、私は、2017年6月3日、自らのHPに「FPとしてのフィデュシャリー・デュティ宣言」を掲載し、金融庁に届けました。ファイナンシャルプランナー(以下「FP」)も、同じ意識を持って「フィデュシャリー・デュティ宣言(以下FD)」を行い、「お客様のために」自らの業務を遂行することを公約する必要があると思ったからです。

しかし、期待したのも束の間、FDによって業界の状況が改善することはなく、その後、金融庁も様々な取り組みを行ってはいましたが、原則は形骸化していきました。

月日は流れ、森信親元金融庁長官の真っ当な、そして厳しいご発言も忘れ去られたように感じていました。

しかし、そうではなかったのです。

今年の6月7日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と「新しい資本主義」の実行計画が閣議決定され、その中で「資産所得倍増プラン」としてNISAやiDeCoの拡充などの検討が始まりました。それに合わせて、9月に金融庁金融審議会分科会顧客本位タスクフォースが立ち上がり、私は突然、委員を拝任することになりました。肩書きは、「NPO法人みんなのお金のアドバイザー協会副理事長」です。

正直驚きました。創立から3年ほどの小さな団体の私たちの存在が認められたのです。絶対にブレることなく、正論を主張していこう。それがFIWA®の仲間に対し、FIWA®を応援してくださる皆さまに対し、そしてFIWA®の掲げるミッションであり、存在意義でもある「すべての生活者のみなさま」のために、私がすべきことだと腹を括りました。年内5回の審議会が行われ、FIWA®を代表して出席しました。11月からは、同じくFIWA®副理事長として、厚生労働省社会保障審議会にも出席しています。

12月6日に「金融審議会 市場制度ワーキンググループ顧客本位タスクフォース中間報告」が公表されました。

金融庁に強く要望し、報告書のP5に、「中立的な」ではなく、「顧客の立場に立ったアドバイザー」と明記し、ライフプランに基づいたマネープランを年金制度も含めて考えていくこと、インベストメント・チェーンにおいて顧客と販売会社の間に入り、顧客の判断をサポートするアドバイザーの役割の重要性を記していただきました。

引き続き、金融経済教育推進機構(仮称)と顧客本位のアドバイザーの認定・育成について、議論は続きます。報告案に記されているように、金融経済教育を進めていく公的機関は、国が主体となり、もっぱらに、国民のライフプランに合わせたマネープラン実現のための自助努力への支援、金融リテラシー向上のための金融経済教育の実行を目的にしていただくよう、同時に、機構が、認定、養成するアドバイザーは、顧客の立場に立ち、もっぱら顧客の利益のみを考えて必要なアドバイスができる「顧客本位のアドバイザー」であるべきであることを提言し続けます。

何をもって「顧客本位」と定義するのか、認定基準をわかりやすく公表し、ゆくゆくは、誰が認定されたアドバイザーであるのか、認定者のリストの公表、そして、このアドバイザーがどんな人で何を相談できるのか、育成プログラムの公表も不可欠です。これらも引き続き要望していきます。

この報告書の方向性が、ブレることなく、「国民本位」で、きめ細かく、丁寧に進められていくことを、FIWA®を代表して、妥協なく、厳しく見守りたいと思います。

FIWA®の皆さん、私たちFIWA®が理念として掲げていること、みなさんの活動の一つ一つが育てる木が、やがて花を咲かせ、実を結びます。

「行く価値ある場所に近道などありませぬ」

 すべての人たちのために、将来の世代のために、力を合わせて、進んでいきましょう!

                                     

参考
1)「FIWA®つみたてインディくん」は、決済システムを追加し、11月から使用権の一般販売をしております。

特徴は、1)内外20種の株価指数等(末尾一覧参照)に連動した積立投資の長期にわたるリスクとリターン、その資産形成への高い有効性を実際の過去データに基づき、視覚的に提示できます。

2)どのような投資信託、あるいはその組み合わせを選べば良いか、有効な判断情報を提供できます。

3)現役世代には将来の資産形成のシミュレーション、並びにそれに基づいた支出可能な生活費の推計を提示します。

4)引退後の世代には、資産を運用しながら取り崩すことで、資産の寿命を延ばすシミュレーションを行い、リタイアメント・プランの選択肢を提供できます。

個人投資家の皆様、アドバイザーの方々に、とても便利に簡単に使っていただけます。公的年金と合わせて高齢期の所得確保のために自助努力として行うDC(確定拠出年金)や、つみたてNISAのアセット・アロケーション、必要貯蓄・投資額などを判断する等にもぜひ活用ください。

参考2)

【資産所得倍増プラン 第三の柱】

消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設

○そのため、中立的なアドバイザーの見える化を進めるとともに、そうしたアドバイザーにより顧客本位で良質なアドバイスが広く提供されるよう取り組んでいくことが重要である。そこで、令和6年中に新たに金融経済教育推進機構(仮称)を設置し、アドバイスの円滑な提供に向けた環境整備やアドバイザー養成のための事業として、中立的なアドバイザーの認定や、これらのアドバイザーが継続的に質の高いサービスを提供できるようにするための支援を行う。

○特に、こうした中立的なアドバイザーが行うアドバイスが投資初心者層へ広く提供されるよう、助言対象を絞った投資助言業(例えば、つみたてNISAやiDeCoにおける投資可能商品に限定)の登録要件の緩和を、必要な監督体制の整備と併せて検討する。