【Vol.236】FIWA®代表理事リレー

埋もれていたデータが発掘された!

寄稿:FIWA®協会理事長 岡本 和久

岡本和久

いつも不思議に思っていたのが「なぜ、日本には戦後の株価指数しかないのだろう」ということでした。日本で株式取引所が創設されたのは1878年(明治11年)なのに・・・。明治11年といえば西南戦争の翌年、まだ日銀も設立(1882年)されていません。大日本帝国憲法が制定されたのが1889年。それに先だって株式取引所ができた、「一体なぜそんなに早く?」そんな疑問がいつもありました。

確かに部分的には戦前の株価指数も少しは散在します。しかし、統一されたものは存在しない。「これっておかしくない?」そんな疑問を長年、尊敬する友人である明治大学商学部教授の三和裕美子さんにぶつけたのが2016年。私も長年、お世話になってきた証券市場への恩返しの気持を込めて寄付をさせていただき、明治大学に株価指数研究所を設立していただきました。

当初の完成目標は東京オリンピックが予定されていた2020年。しかし、指数をつくる作業は想像を絶するものでした。学生さんたちをアルバイトで総動員して図書館にこもり、黄ばんだ、破れそうになった新聞を丁寧にめくりながら旧漢字の会社名と漢字で書かれた株価を拾ってゆくのです。さらに上場企業の古い営業報告書で配当、増資、収益、発行済み株数などを拾っていきました。

三和さんの強力なリーダーシップと作業のリーダー役を務めてくれた太田達也君などの尽力で、2022年7月末に指数が完成、すでに存在している1951年以降のデータとドッキングしてついに144年にわたる株価指数が完成しました。そして8月2日にプレスリリース。まさにこれまで歴史の中に埋もれていた遺跡が発掘されたようで本当に感無量でした。

プレスリリース 

考えてみればこの指数、なかったことの方がおかしいのです。でも、みんな「なくて当然」というところで思考が止まっていた。私は長くアメリカで仕事をしてきたことからシラー教授やシーゲルさんの著作などの長期的な株価指数にはなじみがありました。そして、このような長期的な視野が人々の目に触れることで本当の意味での正しい株式投資や資産運用の考え方が広まったということも聞いていました。

今回の指数開発は、期間としてはアメリカに勝るとも劣らないものです。しかし、本当はこれからです。この指数を作成するために集めた多くのデータをさらに分析することで一段と研究を深めていくことができると思います。この大仕事を完成されてくださった三和さんはじめ皆さんに心から感謝します。

長期株価チャート

私はこの指数は三つの面で日本の証券関係だけでなく多くの人々の考え方に大きな影響を与えると思っています。

  1. このチャートを見ると時々、しかも、かなり長い年月、株価が低迷する時期もある。しかし長期的に見ると市場全体の株価は上昇する。それは総体としての企業の価値が増加し株価がそれを反映しているのであろう。
  2. チャートをよく観ると小さなギザギザが集まって大きなトレンドができている。小さな株価変動で売買をして儲けようとするのでなく長期保有することこそ大きな成功の秘訣である
  3. 今回、収集したデータにより株式のインフレを調整した実質株価の推移、長期的なリスク、リターン、リスクプレミアム、債券や外国株などとの相関関係の分析も可能となる

そして恐らくもっとも重要なのが

  • 戦前、戦後を通じた指標により、戦後だけに限定されがちな我々の意識の枠を広げる効果がある。戦前、戦後を連続した歴史として株式市場を見るのではなく我々の社会、生活、文化などを俯瞰するきっかけとなる。大幅安、大幅高をしているところを年表で何が起こったか調べてみるのも面白い

この指数が株式市場の有益性にとどまらず、我々の視野の広がりに役立つことを願っています。